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第10話、処決

 会議室の小窓からのぞく空の色は移り、夕焼け色にやわらかい青い水がゆっくりと広がってゆく。

 一瞬だけ空が見せる美しい色になど頓着せず、例の眼鏡をかけた学者ふうの男と体格のいい短髪の男は、六日前三十七番の作業員に、見張っていたヒカルのアパートから逃げられたことについて議論していた。初めは互いの責任を追及し相手をなじってばかりいたが、やがてヒカルの頭脳のことに話は及んだ。

「ヒカルというのはどこまで知っているんだろうね」

 薄気味悪そうに眼鏡をかけたほうの男は身震いする。

「本来は何も教えられていないはずだろう。継父と継母に全く普通の子供として育てられたのだから。それが少しばかり作業員の話を聞いただけで、アパートの表から外へ出ることが危険だと察するまでになるんだからな」

「凄いものだ。あの高い知能を与える技術を考え出した我々よりも利口だというのだから面白くないね」

 一晩中、寒さの中いつまで経っても出てこない作業員を待ち続けたことを思い出して、眼鏡の男は苦笑した。

「今度は三十四番の作業員がまた脱走したらしいな。先生もお困りのご様子だ」

 折しも会議室の扉が開き初老の男が入ってきた。後ろに、おそらく極秘プロジェクトの一員なのだろう、初めて見る顔――歳は五十代前半、痩せぎすで神経質そうな顔立ちの男を従えている。議論していたふたりは立ち上がり会釈する。

 「34」再び脱走のトラブルに初老の男は、席に着くと左手で禿げ上がった額を支え長い溜め息をつく。

 そして苦虫を噛みつぶしたような顔のまま低く言葉を吐き出した。

「とうとう私が動かねばならぬ時が来たようだな」

 先程初老の男と共に会議室に入ってきた痩せた男が、細長い机の一番端、最も戸口に近い場所に立っている。

「――といいますのは?」

 彼は目の前にある椅子に腰掛けようとはせず、片手を机に置いたまま尋ねた。そして相手の返答を聞く前に、

「今すぐご出発なさるということですか」

 と重ねて問うた。

 初老の男は、

「そうだな」

 と自分自身に納得させるように小声で呟きはしたものの、それきりで立ち上がろうとはしない。

 その様子を見ていた眼鏡の男が口を開く。

「三十四番は、以前夕方の製品搬出の便で工場を抜け出したとき、翌朝には戻ってきました。そして三十七番も夕方の便で工場を抜け出して、その数時間後夜行の資材搬入の便で戻ってきました。それならば、『34』は今回も工場に戻ってくるという可能性もあり得ませんか」

 彼は自分の上司が作業員の始末ということに積極的ではないことを、何となく察しているようだ。一方短髪の男の方は上司の機嫌を取ろうと努力するわりには、その辺にあまり気付いていないらしい。

「その可能性が無いとは言えないがね、先生は一週間程前の三十四番が工場に戻ってきた日におしゃっていたではないか。次に『34』が工場を抜け出すようなことがあったならば手段は選ばないと」

 だが初老の男は大きくうなずいた。

「そうだ。私は確かにそう言った」

 小さな会議室に彼の声は凛と響いた。

 辺りの空気が一瞬のうちに色を変えたような響きがあった。

 そのとき、立っていた男が部屋の隅に行き、背広の胸ポケットから携帯電話を取り出した。二言三言、言葉を交わしたのち電話を切ると、その男は事務的な口調で言った。

「三十四番の向かった先が分かりました。三十七番も接触していたヒカルという研究員のアパートです」

 その男も含めて三人は、思わず初老の男の方へ視線を向け、その口から出される次の指示を待つ。

 彼は三人とは目を合わせず視線をぎろりと上へ向けた。

「やはりな……」

 気迫に満ちた低い声で呟いた唇の端に笑みが浮かぶ。

 立ち上がる。

「すぐに出発だ。用意してくれ」

『はい』

 男たちの声が重なった。

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