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【完結】あやかしの隠れ家はおいしい裏庭つき  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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27/30

27・収穫

 私は小さな穴を掘る、種を植える、土をかける、等間隔を開けてまた小さな穴を掘る……という一連の流れをこつこつとくり返していく。


 そういえばワンちゃんと雑草抜きをしたときも、こんな感じで集中していた。


 ふと顔を上げて、私は畑を見回す。


 冬霧はすでに移動していて、別の列の仕上げに入っているようだった。


「冬霧、まさかもう終わり?」


「そうだね」


 冬霧は雑草抜きだけではなく、種まきの名人でもあるらしい。


 私がにやにやしていると、冬霧は空になった竹かごを持って私のところまで来た。


「うみ、面妖な表情してるけどどうかしたの?」


「今ね、ワンちゃんとチームを組んで種まきしていたら、また冬霧にあっさり負けるだろうなって思っていたんだ。だけどもし次に勝負するなら、なにかずるい技を使ってでも勝ちたいじゃない。でもずるい技ってなんだろうって必死に考えてたら、なんかくだらないことばかり浮かんでくるから笑えてきて……」


「俺を負かすようなずるい技を見せてもらえるなら、勝負するのも面白いかもね」


 私は頷くと、本当はまだワンちゃんを思い出すと苦しくなる気持ちをなだめながら、彼が消えて行った森を見る。


 ワンちゃんのことを思い出して、泣くことだってできる。


 だけど少しずつ、楽しい話もしていきたい。


「それで、うみのお願いってなんだったの?」








 裏庭の奥にある森はひんやりとした空気に満ちていた。


 冬霧を連れて倒木の場所までやってくると、私はその荒々しい幹の肌に群がるひとつのしいたけ、一番大ぶりのかさをしたその子に狙いを定めて手を伸ばす。


 傷めないように力を入れ過ぎずに採ると、しっとりとしたはりのある手触りを感じた。


 私のてのひらより少し大きい。


「見て、冬霧! この大きさ!」


 大きいのがとれて嬉しいというのは幼い気がしつつも、私はうきうきして振り返る。


 立派に育ったしいたけをかざすと、冬霧も感心したように何度も頷いてくれた。


「ほんとだ。いい時期に来たね」


「うん!」


 冬霧は枝豆の種が入っていた竹かごを差し出してくれたので、そこに採りたてのしいたけを丁重に置く。


 それからも私は、小さいものを次回の楽しみに取っておくため、できるだけ大きく育ったものを選んでいった。


「うみは大きいのが好きなのかな。他にも見てるといろんなのがあって面白いよ」


 冬霧の言う通り、しいたけたちはお店で売られているような美形な子もいれば、かさの厚みが薄い子や模様の強い子、柄の曲がりが極端な子もいる。


「でもきっと、どの子も美味しいんだろうなぁ」


「それは保証するよ」


 私と冬霧は竹かごにこんもりと収穫したしいたけを持って家に帰り、台所へ向かった。


「それでね冬霧、お願いなんだけど。私、しいたけを自分で焼いてみたくて。教えてもらえるかな」


「なんだ。お願いってそのことか」


「本当はひとりで作ってみたかったんだけど、ひとりで火を使うのはちょっと怖いし……」


「そうだよ。火は一瞬で燃え広がるってことを念頭に置いて、火の元はきちんと確認しないとダメだし。包丁も使わないときはしまわないと危険だからね。それと調理前は手をしっかり洗うこと」


「はーい」


 私は狐に火の元や刃物、衛生面の注意を説かれながら銀色の蛇口をひねって手を洗う。


 それから、使いこまれたステンレス製の調理台に置かれた竹かごの中身を改めて眺めた。


 大小さまざまな個性を放つしいたけが山になっている姿は迫力がある。


 冬霧はそこから無造作にひとつを取り上げると、濡れたふきんを使ってしいたけに付着した細かなものを落としはじめた。


 きれいにしてもらったしいたけたちが続々と、光沢のあるボールに入れられていく。


 その手の動きの速度に唖然とした。


 冬霧には名人の称号がいくつあるのだろう。


「せっかくだから、しいたけはおすすめのバター焼きにしよう」


「うん。それが作りたかったんだ」


 私が張り切ってコンロの前にフライパンを置いて立つと、冬霧は作業の手をとめる。


「火は危ないから俺がやるよ」


「そう? 私、やりたいな。危ないなら、冬霧が見張っていてくれればいいし」


「いや、まだ早いよ。やめておこう」


 冬霧は大真面目な顔で言っているけれど、これから高校生になる相手にその言い方は流石にこっちが恥ずかしい。


「冬霧、過保護なことばかり言ってたら、私は一生コンロを使えないままで、まともな自炊すらできない人生を送ることになるよ。冬霧は私がそんな風になってもいいの?」


 必死に訴えると、冬霧も私の未来をないがしろにはできなかったらしく、「危ないけど……」とまだ言いつつも、しぶしぶ承諾してくれた。


 でも結果は、コンロの操作部を押して回すという速度の感覚が私にとって思っていた以上に難しく、結局諦めることとなる。


 冬霧はムカつくほどほっとした様子で「無事で良かっ……いや、残念だったね。少しずつ練習すればいいよ」という慰めの言葉をかけてくれた。


 次は必ず、イメージトレーニングをしてから挑もうと心に誓う。


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