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【完結】あやかしの隠れ家はおいしい裏庭つき  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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21/30

21・特別

 冬霧にあしらわれて、食い意地の張ったワンちゃんは長い耳と赤い目をつり上げる。


「おい冬霧っ! なんだその態度は! ぼくの賞賛を受けることは特別なんだぞ、さっさとデレデレして残り物を差し出せ!」


 身勝手な理由を恥ずかしげもなく突きつけるワンちゃんに対し、冬霧は動じることもなく箸を動かす。


「あのね、ワンに見た目を褒められてもなにも起こらないでしょ。だけどご飯はお腹を満たしてくれるしおいしいんだ。譲らないよ」


「ああそうだった! 冬霧はかわいいものに対するやさしさがない! いいところは見た目だけ! あと菜園とか料理とか草むしりとか! くっ、結構あるな。それはともかくうみ! こんなやつに甘やかされて育ったらろくな人間になれないぞ!」


 食べることに忙しい私は、全く興味のない話題を振られたので適当に返す。


「ああ……えっと、冬霧のごはんはおいしいよ。だから私をそっとしておいて欲しいというか……」


「ごはんは冬霧のがおいしいけど、かわいさならぼくの勝ちだ! な、うみ!」


 これはワンちゃんの言い分を認めないと長くなりそうな予感しかない。


 不毛な時間を一刻も早く終わらせるため、私はワンちゃんが満足することだけを念頭に置いて返事をする。


「うん。ワンちゃんは特別かわいいよね」


「冬霧よりもな!」


「うんうん。ね、冬霧」


 そろそろ話が終わりそうでほっとしながら再びご飯を頬張ると、妙な視線を感じた。


 冬霧が恨みがましいジト目を向けてくる。


 なんだか雲行きが怪しい。


「うみ、俺の写真見てかわいいって言ってくれたのに……」


「えっ。……か、かわいいよ?」


 ワンちゃんは勝利に酔う悪者のような高らかな笑い声をあげた。


「残念だったな、普通にかわいい冬霧くん! 特別かわいいのはワンちゃんなんだよ!」


「うみ……俺、普通なの?」


 両耳を伏せていじけだした冬霧に私は慌てる。


「そっ、そんなことないよ! 普通どころか、冬霧ってすごく変だし!」


「……でも特別じゃない」


 冬霧は拗ねた子どものように唇を尖らせた。


 私の何気ない一言で、なかなか面倒くさい感じにこじれている。


 これ以上地雷を踏むのは危険だと判断して、私はひたすら食事に専念することにした。


 というか、もともとそうさせて欲しい。


 ささやかな幸せを願う私の左隣で、冬霧の呪詛のように重い呟きがはじまった。


「もしうみが残り物を出した俺に不満なら、今からでもうみのためだけにごはん作るし。庭にはうみの好きなものしか植えないし、布団もふかふかに干すし、髪だって梳かしてあげるし、眠れないなら子守歌だって歌うし。ね、うみ。俺、どっかの媚びだけが取り柄のやつより、うみにとって特別だと思う」


 冬霧のぼそぼそと訴える自己アピールが煩わしいとは絶対に言えないので、私はとりあえず事を荒立てないように、引きつっているかもしれない笑顔を浮かべる。


「……いや、あのね冬霧。私は不満なんかないよ」


 強いて言えば今、美しい者たちの醜い争いに巻き込まれているのが不満なくらいで。


 平穏を求める私の右隣で、ワンちゃんが勢いに任せて腕を振り回した。


「おい冬霧! 見た目のかわいさ単品でぼくに勝てないからって、せこい付属能力でうみの評価をごまかそうとしてるだろ!」


「ごまかしてない。ワンには出来ないことばかりだからってひがむな」


「ひがむか! ぼくはこんなにかわいいんだから! そんな見た目も心もいい子のぼくと違って冬霧はデリカシーないし、過保護だし、至宝の毛を勝手に剃るし、うみに変な嘘ばっかりつくし!」


「嘘じゃない、うみのためだけに作る特別な話だ。絶対ワンには作ってやらない」


「いらねー! それにそういう態度がぼくのかわいさに及ばないんだよ! な、うみ! うみはぼくの心を一番理解してくれる人で、仲良しで、わかりあっているんだ。うみにとってぼくは、見た目も中身も冬霧よりかわいいに決まってる!」


 二人はまくしたてる最中も、ちらちら私を見てくるので食事に集中できない。


 というか正直、本当にどうでもいいことだといつ気づいてくれるのか。


 胸の中がむかむかしてきた私の顔を、無神経な二人が訴えるように覗き込んできた。


「うみ。俺は騒ぐことしか能のないナルシストより、うみにとって特別だよね」


「うみ! ぼくだよね!」


 二人に対する答えを込めて、私は両手を全力でちゃぶ台に叩きつける。


 迫力のある音が居間に響きわたってから、波が引くような静寂に包まれた。


「食事中は、静かに!」


 口下手な私は手短に言うと、再び目の前のごちそうに挑む。


 その後の食事はちょっと怖いくらい静かで、とても快適だった。



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