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裏神様に願いを!  作者: ぞのすけ
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廃工場にて 其の四

 一方、祓川は樹が埋もれているパレットへと視線を向けたままジッと座っていた。

 ふぅ、と一息つくと時間を確認するために腕時計に目をやった。すると、パレットの方からガラガラと音がした。

 まさか、と思いパレットの方へと視線を戻した。そこにはボロボロになり、立つのがやっとと思える樹の姿があった。

 「まさかそこまでしぶといとは思いませんでしたよ。

 まぁ、一応神威になってますから当然と言えば当然ですよね」

 祓川はゆっくりと立ち上がった。樹は項垂れたまま動かない。その様子を見て、祓川は怪訝な表情を浮かべ首を傾げた。

 すると、その様子を見ていた死神が叫んだ。

 「おい! 祓川! 早くトドメを刺せ! そいつは何かおかしい!」

 祓川は死神の方を見ると、さっきまでただぼーっと眺めるように座っていた死神と裏神は立ち上がり身構えていた。

 祓川は樹に視線を戻した。だが、先程と何かが変わったようには見えない。一体何が?と思っていると死神が急かすように口を開く。

 「おい! 早くしろ!」

 「わ、分かりました」

 祓川はそう言うとナイフを構え、樹との距離を詰める為、足を一歩踏み出した瞬間、樹の様子が変わった。

 「う、うっ、うわああああああぁぁぁぁ!!!!」

 樹は頭を抱え叫び出した。祓川はその姿に一瞬怯んだが、樹との距離を詰めた。その姿が眼前に迫った時、樹の足元から黒い球体上のオーラが現れ、樹を飲み込んだ。

 祓川のナイフはそのオーラに阻まれ、樹に刺さることなく折れた。

 祓川は一旦樹との距離を取り、樹が包まれたドス黒いオーラを為す術もなく眺めていた。しばらくすると樹の叫び声が聞こえなくなった。それから、樹を包んでいたオーラがゆっくりと剥がれ落ち、樹が姿を現した。いや、正確には樹によく似た何者かの姿だ。

 オーラから出てきた樹の髪の毛は全て真っ白になり、逆立っていた。瞑っていた目を開けると、赤と黒が入り混じった不思議な瞳をしている。そして、左手には一メートルを超える刀が鞘に納められた状態で握られていた。

 樹とは全くの別人と言っても過言ではないような変わりようだった。

 樹は自分の手を、まるで長い間眠っていた人が目覚め、体の具合を確かめるかの様に手を握ったり開いたりしている。そして、おもむろに口を開いた。

 「はははっ、これは素晴らしい。今まで行くマンの人間の体を借りてきたが、ここまでしっくりくる体は初めてだ。気に入った。気に入ったぞ」

 樹の口から発せられた言葉は気持ちが悪くなる程不気味で恐ろしいものだった。

 「…さて、神が二体と為り損ないが一匹か。

 丁度いい運動になるだろう」

 樹は祓川を始め、こちらに目をやった。祓川はその重圧に恐れ、脂汗を滲ませていた。

 「…お前、まさか禍津日神(まがつひのかみ)か?」

 口を開いたのは裏神だった。

 「ほう、貴様、私を知っているのか?」

 禍津日神と呼ばれた樹は裏神に目を向けていった。

 「神をやっていて知らない奴はいないじゃろ。

 災厄を司る神じゃろ。そう言われておるが、災厄だけではなく、人々の怒り、憎しみ、苦しみ、妬み、僻み。そういった負の感情の全てを受け持つ神じゃな。

 それに、神殺しの禁忌を侵した神なんぞ後にも先にも禍津日神だけじゃ。

 しかし、五千年も前に討ち果たされ、封印されたはずじゃが」

 「討ち果たされた? 討ち果たされただと? ふっ、全く平和で滑稽な奴らだ。確かに私は神を割き、神殺しの禁忌を侵した。そして、その後の戦いに敗れ封印された。しかし、封印されたのは肉体のみ。私の魂は封印などされていない」

 禍津日神は薄ら笑いを浮かべながら裏神にそう言った。

 「…なんちゅう奴じゃ。あの時、あの一瞬でそんな判断をしていたとは。これは到底手の付けられぬじゃじゃ馬じゃな。

 して、お前の目的は何じゃ?」

 「そんな分かりきったことを聞くな、名もなき神よ。私の目的はただ一つ。天照大神を討つことのみ。あの日の復讐の為に五千年、五千年だ。長い間、本当に気が遠くなるような時間をかけて力を溜めた。

 五千年前にやられた時は完全に私の慢心があった。しかし、今の私は五千年前とは比べ物にならない程強くなった。だが、肝心の肉体がなければ何の意味もない。天照を討つどころか、そこら辺の妖怪にも勝てはしない。しかし、私は今、素晴らしい肉体を手に入れた。自分の肉体より少しばかり力は劣るが肉体を取り戻すまでの仮の入れ物だと思えば丁度いい。

 …ところで、お前らは何故、禁忌を侵した私を殺すことなく、封印しているのか知っているか?」

 禍津日神の問いに誰も答えなかった。

 「私を殺すと、私の代わりをしなければならない神が出てくる。私の役割は言わば汚れ仕事みたいなものだ。人々の負の感情が全て私の体にのしかかる。普通の髪ならば精神が耐え切れず、自ら死を選ぶ神が出る。しかし、神は死なない。だから、代わりの柱を言葉巧みに騙し、自分の役割を押し付けなければならない。

 やりたがる者が当然いるはずもないだろう? しかし、誰かがこの役割を当然やらねばならぬのだ。受け止める器がなければ、この世はもっと争いで満ちているだろう」

 「…だから、お前の体を封印して、役割を果たさせているということか」

 「そうだ。

 全く、天照も酷いことをする。

 さて、話はこれぐらいでいいだろう。準備運動に入ろうか」

 禍津日神はそう言うと体から迸る程の重圧を放った。

 「どうした? 何故、動かぬ。私はこうして立っているだけではないか。私を倒す絶好の好機だぞ?」

 禍津日神は三人を煽るが、三人とも足に重りが付いたような感覚に襲われ一歩も動けずにいた。いや、仮に動けていたとしても圧倒的な力の差に為す術もなく負けることが分かっているのだ。触らぬ神に祟りなしとはこのことだろう。だが、禍津日神がこの世に現れた時点で祟りに触れてい待っているのだ。後はどれだけ最小の被害で抑えられるかというだけの話。そのことをちゃんと理解しているのは裏神と死神だけであった。祓川は目の前の神にただ、畏れ、戦くことしか出来なかった。

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