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ポンタの恩返し

作者: 渡辺哲

 井上マサルは二十三歳の会社員です。東京の小さな会社で働いています。しかし、いつも失敗ばかりしていました。それで、会社の社長はマサルに言いました。

「井上くん。君は使い物にならない。今のままでは会社をやめてもらわなくてはいけない」

 マサルは自信を失って、自殺しようと思いました。マサルは電車の踏切の前に立ち、電車が来たら線路に飛び込もうとかまえました。その時、後ろから声をかけられました。

「こんにちは。一緒に散歩しませんか?」

 マサルが振り返ると、男の人が立っていました。マサルは思いました、「僕と同じ年齢くらいだろう」と。

男の人は笑って、言いました。

「僕の名前は本田といいます。こんなに天気のいい日は一緒に散歩しましょう。散歩したら、気分も晴れますよ」

 マサルは本田くんと一緒に散歩しました。すると、マサルは気分が少し明るくなってきました。

 本田くんが言いました。

「また、一緒に散歩しませんか? 毎周、日曜日、一緒に散歩しましょう」

 マサルは「はい」と返事しました。

 それから、マサルと本田くんは毎週、日曜日になると、一緒に散歩しました。

 散歩している時、本田くんは右足を引きずって歩きました。マサルは思いました、「けがをしているのかな」と・・・。

やがてマサルは本田くんに悩みを相談するようになりました。

マサルは本田くんに言いました。

「僕は仕事でいつも失敗ばかりしているんだ。会社の社長は僕に言ったんだ、『会社をやめてもらうことになるかもしれない』と・・・」

 本田くんは言いました。

「ベストをつくせばいいんだよ。結果なんてどうでもいいんだよ」

 その話を聞いて、マサルは思いました、「そう言えば、そうだな。たしか、そんなことを僕は昔、言われたことがある」と・・・。

 また、ある日、マサルは本田くんに相談しました。

「僕は自殺しようと思うんだ」

 本田くんはマサルに言いました。

「僕達はいつ死ぬか、わからないんだよ。『今晩、僕は死ぬ』と思って、その日その日を全力で頑張ろうよ。そうしたら、悩みも消えていくよ。自殺なんてしないでよ」

 その話を聞いて、マサルは思いました、「そうだ、自殺はやめよう。ところで、僕は同じ話をどこかで聞いたことがある」と・・・。

 また、ある日、マサルは本田くんに相談しました。

「僕は一度限りの人生をどう生きていったらいいか、わからない。教えてくれよ」

 本田くんはマサルに言いました。

「大事なことは二つあるよ。一つは、人生の大きな目標を立てること。もう一つは、人生の大きな目標を達成するための方法を決めることだよ。そして、目標達成に向けて努力するんだ。そうすれば、生きがいを感じながら、明るく元気に生きていけるよ」

その話を聞いて、マサルは思いました、「よし、がんばるぞ。ところで、本田くんが語った話と全く同じ話を僕は聞いたことがある。だけど、だれから、いつ、どこで聞いた話だったか、思い出せない」と・・・。

その日以来、マサルはずっと考え続けました、「本田くんが語った話と同じ話を、僕はだれから、いつ、どこで聞いたかな」と・・・。

そして、ある日、マサルは町で柴犬を見た時、フッと思い出しました。

「僕が小学校四年生の時、おばあちゃんが柴犬を買ってくれた。そして、名前を『ポンタ』とつけた。それから毎日、ポンタをつれて、おばあちゃんと一緒に散歩をした。その時、おばあちゃんが話してくれた話と、本田くんが語った話がまったく同じだ」

マサルは本田くんに尋ねました。

「本田くん。君が僕に語った話と同じ話を僕は聞いたことがあるんだ。それは、僕のおばあちゃんから聞いた話なんだ。僕が小学生の時、僕は毎日、おばあちゃんと一緒に散歩をしていたんだ、ポンタという柴犬と一緒に。散歩の時、おばあちゃんは僕に話をしてくれた。だけど、おばあちゃんの話を聞いたのは、僕だけなんだ。僕以外におばあちゃんの話を聞いて知っているのは、ポンタしかいないんだ。君はおばあちゃんの話を知っている。ということは、君は・・・もしかしたら・・・」

 本田くんは静かに笑いました。

マサルは本田くんに向かって言いました。

「もう一つ、思い出したことがあるんだ。ポンタは交通事故に遭って、右足を手術したんだ。そして、リハビリ後も右足を引きずって歩くようになったんだ。君も右足を引きずっている。これは単なる偶然の一致なのか? 本田くん。君は一体、何者なんだ?」

 本田くんはニッコリと笑って言いました。

「マサル君。また今度、『死にたい』と思うような時があっても、どうか自殺なんかしないで。自殺なんかしなくても、みんないつか死んでいかなくてはいけないんだ。だから、自殺だけはしないでよ。何があっても、大丈夫だよ。僕もおばあちゃんもいつも君を見守っているよ。大丈夫だ」

「僕はもう大丈夫だ。これから全力でがんばるよ。君はポンタなんだね。人間の姿に変身して、僕を助けに来てくれて、ありがとう」

 本田くんはうなずいて、言いました。

「僕を大切に飼ってくれて、ありがとう」

   僕は本田くんを抱きしめて、言いました。

「ポンタ。これから僕は頑張るよ」

本田くんはニコッと笑って、真っ赤な夕日に向かってゆっくりと歩いて行きました。


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