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『とある青年の奮闘記』(没)  作者: 田舎乃 爺
第3章 世界を愛した男
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第六十九話 役割

――新暦195年 9月 26日(月)

  『キャベラン』・自然公園

  09:25



 今日の早朝から行われることになっていた大規模復元術による復興は中止となったが、街中を政府関係者、ゴウシュウの『防衛軍』が所狭しと動き回っている。レギオンズを警戒しているのだ。

 彼らは宣言通り、世界の都市を消滅させた。いつ、どこにおいても凶悪な兵器を行使できることを世に知らしめ、震撼させた。

 ウィンたちからアリーシャを通して情報は伝えられたが、遅すぎた。出来る限りを尽くした大規模転移術等を行使しても避難は間に合わず、その伝えられた情報自体を疑う声が上がった結果各国の動きが遅れたことも被害拡大につながってしまった。

 混乱の中でキャベランへとやってきたクランによってリリィの無事が伝えられたものの、魔導核兵器によって犠牲になった人々のことを考えるウィンたちの心が晴れることはなかった。

 まともに眠りにつくことができないまま、朝がやってきた。打ちひしがれている心にとって、その朝日は辛かった。

 アリーシャとクランは目覚めないアルフレッドに本格的な治療を施すため、そして拘束したギリアムを連行するためにカダリアへと戻った。残されたウィンとレイン、レオは現地にて深夜における戦闘に関して情報提供を行っていた。

 聞かれたことに可能な限り答えていく中で、3人は違和感を感じ取った。誰かがこの自然公園へと転移してきたのだ。

 その存在に周囲の人々の視線が集まったが、直ぐに何事もなかったかのように再び動き始めた。そればかりか、ウィンたち3人のことも全く気にも留めていないようで、聞き取りを行っていた政府の関係者もどこかへと行ってしまった。

 ウィンたちはやってきた者たちの下へと、人々をかき分けながら進んでいく。そこには、見慣れた研究者2人とリバーの姿があった。


「やあ、ログネスの施設以来だね。僕はリバー・ケネス。元レギオンズの研究者だよ」


「あの時の……!」


 天才と呼ばれるオズワルドの下に入り込んでいた存在がここにいることに、レインが驚愕の声を上げた。

 他の2人も驚いていたが、そんなことに構うことなくリバーは歩き出した。振り向くことなく、こちらに話しかけてくる。


「状況を説明してる暇がないんだ。悪いけど、付いてきてくれないかな」


「申し訳ありませんね。ですが、ここは黙って付いていってあげましょう」


 オズワルドの真剣な表情で言ったことに対し、ウィンたちは仕方なく頷き、後を付いていくことにした。

 人の波の中をかき分けて進んでいく。その道中においても、人々の注意がこちらへと向けられることはなかった。なんとも言えない複雑な思いを持ちつつ、先を行くリバーの後に付いていった。

 自然公園から出て、大通りを外れた路地裏に入ったことで人の姿はほとんど見えなくなった。どこに向かうのか見当もつかないと考えた矢先、リバーが立ち止まった。

 その場に座り込み、傷んでいるアスファルトの地面に触る。何かを確かめるように静かに触り続けると、一瞬地面の一部が光り輝いた。


「OK。誰も中にいないみたい」


 そういうとリバーは立ち上がり、ウィンたちの方へと少し下がった。周囲の安全を確認すると、その場で指を鳴らす。

 すると、地面の一部が光り輝いたと同時に穴が開き、地下へと続く階段が現れた。突然のことにウィンたちが驚いていると、リバーは何も言わずにその階段を足早に降りて行ってしまった。

 遅れてその後を追ったウィンたち。たどり着いた先には、いくつもの倉庫のような空っぽの部屋が存在していた。何かあったか調べるためにアイザックが残滓の確認を行ったが、めぼしい残滓は何も残っていなかった。だが、それらは人為的に消されたことが分かった。

 部屋を観察しながら、一番奥の部屋に行ったであろうリバーの下へと向かう。追い付いたところで、レオが自らの考えを述べた。


「ここは避難シェルターか何かか? 随分と頑丈にできているようだが」


「流石レオさん。その通りで、ここは前世界において避難用のシェルターとして建造されたらしいんだ。キャベランの活動拠点としてレギオンズがかなり前に使ってたんだよ」


 リバーは嬉しそうに答えた。その様子だけ見れば、年相応の少年に見える。

 こんなところに連れてきて、一体どうするのか。リバー以外の全員が何もない部屋を隅々まで見てみるが、これといって目立つ物は無かった。

 

「世界を旅して回った結果、ここが僕の目的地の可能性が高いと推測したんだ」


「推測ですか。珍しいですね、あなたが確証もないままに行動するなんて」


「僕だって賭けをしたくはないよ教授。でも、状況が状況なだけに急がなくちゃいけないんだ」


 そういって笑顔でオズワルドに返答するリバー。しかし、その笑顔の裏にある焦りを4年間師としてそばにいたオズワルドは見逃さなかった。


「隠蔽術式とそれに準ずる身を隠すためのものが底を突いたんですね。あなたは、誰かから逃れるのに必死なようです」


「……その通り。今使ってるのが最後の術式。これが解析されたら、覚醒した因子の見えない繋がりを頼りにグランツたちが僕を全力で殺しに来る。この2ヶ月、執拗に狙われてるんだ。僕の『役割』を彼らは知っているからね」


「役割とは?」


「レギオンが必要なくなった時の処理。それが僕が『彼』から託された役割」


 その幼い容姿からは考えられないほどの強い意志がその瞳の中にはあった。自らの運命を受け入れ、どんなことがあろうともそれに向かって突き進む覚悟が感じることができた。

 許されないことをしてきた存在に、ウィンたちは気圧された。揺るぐことのないその見た目に、ウィンとレインは何故かで見たことがあるるような気がした。違和感を感じていた中、繋がっていた新世界がその答えを伝えてくれた。

 あの男だ。新世界の記憶の中で見た、レギオンを生み出したあの研究者。名も知らぬ存在と全く同じ雰囲気をリバーは纏っている。


「本来であればもっと簡単に済む方法を知ってる人がいたんだけど、かなり前にどさくさに紛れて殺されちゃった。その時からグランツを疑ってれば、現在の大惨事にはならなかったと思う」


「その時とは――」


「はい、ごめん教授。もう時間がない。こうしてる今も彼らは僕の僅かな魔力をたどって解析を続けてるからね。本題に入るよ」


 リバーはそういうと、ウィンとレインを嫌々ながらに指さした。いきなりのことで驚く2人を見て、リバーは大きくため息をついた。


「僕が嫌いな君たちが最後の鍵となるはずなんだ。最終手段である彼の遺産にたどり着くためのね」


「……俺たちが?」


「君たちにはこれまでに酷いことをしてきた。でも、今は僕に協力してほしい。許せないのであれば、ここで僕がこの身を君たちの気が済むまで痛めつけるよ」


 戸惑いの声を上げたウィンをリバーは真っ直ぐに見つけて言った。その言葉に一切の迷いはなかった。

 ここまで言うのであれば協力しようと思ったウィンと新世界だったが、レインは違った。


「……じゃあ、両目を潰せ」


「な、何言ってんだレイン!」


 レインの心の中には、リバー、そしてこれまでのレギオンズへの憎しみと怒りが渦巻いていた。先ほどのリバーの言ったことが、底に眠っていた復讐鬼としての一面が蘇ったようだった。

 正気に戻れとウィンと新世界が呼びかけると、レインは我に返った。一時的な気の迷いによる一言を撤回しようとレインは口を開こうとした。



「分かった」



 その返答の後、リバーは自身の格納方陣から取り出したナイフを両手に持ち、両目を切り裂いた。綺麗に避けた瞼と目から、真っ赤な血液が流れ出る。

 治癒術などは行使しなかった。近づこうとしてきたオズワルドを感じ取り、リバーは痛みに震えながらもそれを止めた。

 延々と血の涙を流すような光景にウィンたちが絶句している中、静かにリバーは話し始める。


「どんなに痛みを感じても気絶しないようにしたのは正解だったよ。こりゃ対策なしだったら間違いなく一発で気を失うか、ショックであの世行きだったかも」


「リバー、お前は……本気なんだな」


「本気も本気。さあ、物足りないならまだどこかあげるよ。最悪の場合でも、魂さえ残ってれば遺産にはたどり着けるはずだから」


 レインに応え、リバーはその手中にあるのナイフを強く握った。本人は意識していないようだが、開いた口から痛みを耐えるように歯を食いしばっていた。

 凄まじい覚悟だった。自らの任された役割を全うしようとするその姿を疑う心は、レインの中から完全に消えていた。

 アイザックにレインは視線を送った。それを確認したアイザックはゆっくりと震えるリバーに近づき、治癒術と再構成術を行使した。視界を取り戻し、痛みの消えたリバーがその場で安堵のため息をついた。

 わずかに潤んでいる瞳をウィンたちに向けてくる。それに対し、レインは言った。


「俺たちは何をすればいいんだ?」


「……ありがとう。たぶん、君たちならここにある何かを感じ取れるはずなんだ。僕たちじゃ分からない何かを」


 感謝の言葉とともに指示されたことを聞き、ウィンとレインは精神を集中させる。新世界も加わり、あると思われる何かを探し始めた。

 恐らく目では見えないと判断し、静かに目をつぶる。感じ取れるのは隣にいるもう一人の自分と全体から見守っている新世界。そこから部屋全体へと意識を研ぎ澄ましていく。

 見落とすことがないように、しっかりと探り続ける。ほんの僅かな違和感でも感じ取ろうとする2人。そして、ようやくその何かを見つけた。

 

「これ……か?」


 目を開けたウィンが、ちょうど今立っているところの真下の床を触った。他の部分とは違う何かを感じ取ることができたのだが、反応はない。

 首を傾げた後、試しに自らの能力を行使しながらもう一度触れてみた。すると、その床の1点が光り輝いた。



『おめでとう。そして、君を歓迎しよう』



 部屋の中に、あの男、博士の声が響き渡った。


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