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『とある青年の奮闘記』(没)  作者: 田舎乃 爺
第3章 世界を愛した男
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第六十八話 地獄

 巨大な光が、新世界の三ヵ所で発生した。膨れ上がるそれは、一瞬にして街を飲み込んでいく。

 不審物の捜索を諦められなかった団員や残されていた住民、温かな街並みが成す術もなく轟音とともに吹き飛んでいった。

 爆発の範囲から離れた場所にある建築物にも凄まじい衝撃波が到達し、一瞬にして瓦礫の山が出来上がる。熱量によって発生した火災が建築物を焼いていく。不気味な黒煙がその範囲を瞬く間に拡大していった。

 そんな状況でもまだ息のある人々の姿があった。避難の遅れた者、残ることを決意した者、爆発範囲外であることに油断していた者。そういった者たちが命からがら崩壊した住居から脱出していく。

 四方を火災に囲まれて身動きがとれなくなることもあれば、崩落してきた建築物に押しつぶされるなど、現実とは思えない状況に追い込まれていく中、衝撃波が到達した地域にいる人々の体に異変が現れ始めた。

 皮膚の下、そして表面が泡立ち始め、激痛が襲う。悲鳴を上げ、逃げ惑うも体が言うことを聞かず、その場に崩れ落ちてもだえ苦しむしかなかった。絶叫と助けを望む声があたりに響き渡る。

 魔導核兵器によって爆心地を中心として周辺の空気中の魔力が異常に上昇していた。人体に害を与えるほどの濃度に達したそれは、地獄絵図を作り上げていた。

 やがて喉がつぶれ、声すら出せなくなったことで瓦礫の山になった地域から断末魔が消えた。聞こえてくるのは燃え広がる炎が物を焼く音と崩れていく建築物の音。そして、地面でのたうち回る声にならない絶叫だけだった。

 





     ※






 変わり果てたラスカの周辺から『天才式・魔力除去装置DX』が使用されつつ、防護服を身に纏ったアイザックとオズワルド、それ以外の数人で構成された調査兼救命チームが進んでいく。火災が消し止められていったのは、衝撃波の範囲内の人々が死に絶えた後だった。

 救いたくても何の対策もなしに現場に突っ込めば同じ末路をたどることになる。それを避けるためには、こうして高濃度の魔力を除去しながら進んでいくしかなかった。

 道中にて、変わり果てた人間だった存在がいくつも確認された。そのほとんどが、徹底的に苦しみぬいて死んでいったのが分かった。これまで見たこともない惨状に、耐えかねた者がその場で吐き出したり、中心部への同行を辞退する者も現れ始めた。無理をさせるわけにもいかず、限界を迎えた者には後退するように言い渡した。

 地獄の中、ようやくたどり着いた爆発範囲の光景を見てオズワルドは絶句した。何もない。月面にあるような数キロに及ぶ巨大なクレーターのみ。街としての痕跡は何一つ残っていなかった。

 全方位から同時に進行していたチームも全てクレーターに合流したが、魔力の除去が追い付かない。中心部ともいえるこの場所の濃度は凄まじいものだった。

 数十分後、周囲の魔力が安定してきたことを確認したアイザックが目を閉じて意識を集中する。そして確認が終わった後、残念そうにその場で首を横に振った。

 残滓がなかった。この爆発範囲だけでなく、凄まじい衝撃波が到達した地域も確認できない。エルシンへと向かったチームからも、同様の報告がなされていた。

 これほどまでに大きな損害を復元術なしで復興させていくとなると、莫大な費用が掛かる。魔導核兵器によって破壊された都市の再建はかなりの苦労が予想された。

 

「こんなに酷いとはな……」


「ゴウシュウからの報告が正しければ、後残りは9個。しかし、新たに製造されることも考えられますねえ」


 オズワルドはいつもの飄々とした苛立たしい態度をしていなかった。1人の科学者として冷静に現場を観察しながら、これ以降どうなるのかの予想に集中している。

 真面目なその様子を邪魔する気にもなれず、アイザックは周囲のを見渡して腕部に取り付けられていた計測装置を見る。除去によって空気中の魔力が基準値まで下がっているのを確認すると、防護服を脱ぎ捨てた。

 それに対してチームの数人からすぐに着直すようにと促されたが、それは拒否した。この惨状を目だけでなく、全てを使って感じ取りたかったアイザックの思いは強かった。

 焼け焦げた建築材の香り、変わり果てた存在たちの生臭い香り、爆心地から漂うあらゆるものが溶解した異臭。その全てを躊躇うことなく感じ取る。この地獄の感覚をもう二度と発生させないと、アイザックは心の中で決意した。

 アイザックと同様に、オズワルドも防護服を脱ぎ捨てた。2人は、眼前に広がる巨大なクレーターを静かに眺めていた。

 

「糞天才、重・魔核の限界値到達をどこからでも抑制する方法は思いつくか?」


「すでに3通りほど」


「俺は6通りだ。ちなみに最短で実現可能なのはどんなのだ」


「早くて一週間ほどですね」


「期間では負けたか」


「ですが、彼らはその間にも派手に動く可能性が高いです。私たち以外にも協力者がいれば……」


 荒れ果てたラスカで、アイザックとオズワルドは思慮にふける。これ以上の被害を出さないこと、又は魔導核兵器そのものを無力化する案をすでに2人は考え始めていた。

 そういった方面での知識も豊富なチームの面々でも話についていけない。この2人を現場に連れて行けという政府の指示に誰もがその場で納得していた。彼らこそが、カダリアにおいてレギオンズに頭脳で立ち向かうことのできる数少ない人物だった。

 

「クラン副長はウィンの下へ、シノンは製造と被害地への輸送等で協力できそうにない。現状の技術開発局と俺の局で使えるのは2割程度だな。残りはもう出払っちまってるし」


「限界値到達時の結合抑制……、高出力魔核そのものの機能停止……、必要な要素全部ねじ込んで安定化させるのに、かなり時間がかかりますね」


「じゃあ僕がいれば3日か2日ぐらいかな?」


「いえ、私と同クラスかそれ以上であろうあなたがいれば、1日ですね」


「そっか。もうプラン考えてあるんだけど。これはどうかな、教授?」


「……よい術式です。しかしながら、ここに組み込んである抑制術を行使するのであれば、全体を支えるための構成の一角と作用して機能不全を起こしますよ。となれば29番の抑制術ではなく、58番を使用して行けば改善の余地があります」


「あ、本当だ。急いでてミスってたっぽい」


「焦ると初歩的な間違いをするのはあなたの悪い癖です。弟子として見ていた私を舐めてもらっては困りますね」


「うーむむむ、反論できないのが悔しい」


「……おい、ちょっと待て」


「「どうしたの?」ですか?」


 全く違和感のなく会話の中に少年が紛れ込んでいた。それも、つい最近みたことのある顔だ。

 アイザックが術式の準備を整えると、チームの面々も少年に対して銃を構える。その少年は、この事態を引き起こした許されざる組織の一員だからだ。

 緊張した空気の中、少年、リバーはオズワルドと顔を見合わせた。その後、ようやく気付いたようにオズワルドが口を開く。


「おや、久しぶりですね。今はリバー・ケネスでしたっけ?」


「そうだよ。久しぶり、教授」


「この前はしてやられましたねえ。今日はどういった用件で?」


「さっきのやつを届けるのと、ちょっと協力してほしくて来た」


「ほう」


「腹立つけどあのウィンとレインが抵抗力だってことが分かってから暇でさ。いらなくなったレギオンを消すための方法模索しながら二ヶ月旅してたの」


「……レギオンを消す?」


 それを聞いたアイザックは術式を解除した。驚いた様子のまま、リバーに問いかける。


「確かウィンとレインの新世界に関しての報告書にあったやつだな。一体何なんだ、説明してもらおうか」


「うん。別にいいけど、移動しようか。何しろ時間がないし、すぐに終わるから」


「お前、今のこの状況が分かって――」


 アイザックが話し終える前に、リバーがオズワルドとアイザックの腕を掴んだ。止めさせようと近づいてきたチームをアイザックが制止した。

 危険の可能性もあるが、付いていけばレギオンに関して何かが分かるかもしれない。アイザックはそう考え、リバーの好きなようにさせることにした。

 抵抗と交戦の意思がないのを確認したリバーはその場から転移した。目の前が光り輝くと、3人の体は地獄から全く違う場所へとたどり着く。

 真上に近い場所にあった太陽が、その位置を大きく変えていた。朝日の光を感じながら、アイザックとオズワルドが周囲を見渡すと、多くの人の視線がこちらに集中していた。


「ここは……、キャベランの自然公園か?」


 大きな爆発でもあったかのように至る所がめちゃくちゃになっている。一目でここが自然公園だと分かったのは奇跡に近かった。都市部の被害も大きく、先日から進んでいた復興は出だしに戻るどころか、前よりも悪化していた。

 多くの関係者たちが入り乱れて騒然となっている中、こちらにスーツを着た虎の亜人が話しかけようとしてきた。

 しかし、その体はアイザックたちの目の前で固まると、何も見なかったかのようにどこかへと歩いて行ってしまった。周囲にいる人々も、こちらにたいして全く興味を示さなくなっていた。


「『天才式・人払いの波動発生器』ですね。格納方陣内で稼働させても機能するように改善しましたね?」


「うん。だってあからさまに怪しい物を腰にぶら下げるわけにいかないでしょ」


「何を言いますか。あの私のチャーミングな笑顔が印象的な造形のどこが気に入らないんですか」


「主に全体的に。何故かあの形状崩すと使い物にならなくなるからこうしたんだよ。凄く面倒くさかった」


 そういって大きなため息をつくリバー。幼いながらも、その心と脳内はオズワルドと同等かそれ以上に発達していた。

 何故ここへやってきたかと今すぐにでも問いただしたいアイザックだったが、周囲の人をかき分けてこちらへとやってくる見知った顔を見てその口は止まった。

 その人物たちの姿を確認したリバーは、静かに笑った。


「役者は揃ったね。さあ、急がなきゃ」


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