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『とある青年の奮闘記』(没)  作者: 田舎乃 爺
第3章 世界を愛した男
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第六十七話 歪んだ理想

 一進一退の攻防が続く。グランツはたった1人で新世界と共鳴するウィンとレインと渡り合っていた。

 拳が、脚がぶつかり合うたびに生まれる振動が自然公園の地面に亀裂を生み、周囲のあらゆる物を破壊していく。

 共鳴によって増幅させた魔力を一点に集中し、接触する一瞬にさらに増幅させて衝撃を相殺させる。言葉にすれば簡単に思えるが、かなり高度な制御が必要となることをグランツやカークはやってのけていた。

 それすら超える魔力を叩きつけようとしても、今のウィンとレインの体では行使できる魔力の量に限界があった。いくら精製能力が高く、無制限に近い魔力を保有していても、それを完全に使いこなすだけの体がまだできていなかった。

 自分たちの限界を感じながらも、攻撃を繰り出し続ける。互角と言えるその戦闘に終わりは見えなかった。新世界も、ただただそれを見守ることしかできない。

 ウィンとレインが繰り出した拳をグランツは両手の掌底で相殺する。行き場を失った衝撃は周囲に伝わり、地面や木々を吹き飛ばす。3人の戦闘によって、自然公園の中央部は見る影もないような荒れ地と化していた。その影響は戦闘が激しくなるにつれてさらに範囲を拡大し続けている。

 そんな深夜の中でも真っ白に光り輝く風と金色の光の雨で照らされているため、視界は悪くなかった。グランツを倒すという強い意志が、絶望邪神像を倒したときと同じ現象を発生させていた。

 睨み付ける2人に対し、グランツは感嘆の意味を込めたため息をついた。


「これだけの力持ってるのに、それを使って好き放題したいとか思わないのか?」


「もうしてる。俺はリリィとこの世界で好きなように生きてる」


「ウィンと同じく。この力を悪用する気はない」


「悪用……か。もったいないな、本当に」


 そういってグランツは一旦距離をとった。離れる時の僅かな隙を見逃さずに、2人は格納方陣から送魂銃を取り出してグランツへと向ける。

 時間がないために2割程度にしか溜められなかったが、それを放った。それぞれの魂の色をした弾丸が一直線に飛んでいく。

 しかしながら、グランツはその2発を上空へと弾き飛ばした。空中へと舞い上がった弾は、自然公園の上空にて弾け、温かな光を撒き散らした。

 自分たちの能力が効かないことにウィンとレインが驚いていると、グランツはそれに応えるように説明を始める。


「ログネスの特殊結界を真似た物を拳に纏わせたんだ。というかここまでの戦闘中でも使ってたぞ。そうでもなけりゃすぐに俺は消滅してるよ」


 笑うグランツ。その様子からは、この戦闘を心の底から楽しんでいるのが感じられた。

 敵ではあるが、ウィンとレインも目の前にいるグランツがこれまでに相対したどんな存在よりも圧倒的に強いということを確信していた。

 気合を入れ直して身構える2人に対し、グランツは両手を上げてこれ以上戦う意思がないことを示してきた。


「今日はもうやめとこう。これ以上やってもお互い疲れるだけだし、続けたとしても永遠に終わりそうにないからな。楽しいけど」


 微笑むグランツだったが、2人は警戒を解く気はなかった。そんな様子に少々呆れながら、グランツは手を下ろした。

 その後、ゆっくりとぼろぼろになった自然公園の中を歩き始めた。送魂銃へ存在の力を送り込み続けながらも、その後ろ姿についていく。

 アスファルトで舗装された道にたどり着いたところで、グランツは振り返った。


「戦い始める前に言ったよな、俺たちの理想について」


「どうせくだらないものなんだろ?」


「そう最初から否定するなよウィン君。もしかしたら共感できることもあるかもしれないぞ」


 笑いかけるグランツは、その手のひらに青い球を生み出した。いくつかの緑の部分があるそれは、魔力で形成した小さい新世界だった。

 綺麗なそれをウィンとレインに見せつける。その精巧な作りに、2人を通して見ていた新世界自身も心を奪われていた。



「新生レギオンズは、この世を俺たちのような存在が生きやすいように作り変え、絶え間ない争いを繰り返す世界にすることが理想だ」



 手のひらの小さな新世界の大陸、そして大陸間において火花が散る様子が表された。


「今回の魔導核兵器はそれの実現のための一歩にすぎない。人は恐怖と痛みを感じなければ、動き出そうとはしないからな」


「……お前、自分のしてること分かってるんだろうな?」


「分かってるとも。これは俺たちの理想実現のためのささやかな犠牲だ。いつの時代でも、新しいものを作るには犠牲がつきものだろう」


 グランツの様子からは、迷いもなければ、邪気すら感じなかった。それが正しいことだと確信している。そんな姿に2人と新世界は戦慄した。

 恐ろしいのは、その理想を実現するだけの力を間違いなくグランツと彼が率いるレギオンズが持っているということ。本気で世界の在り方を変えようとしている強い意志が伝わってくる。


「神出鬼没な俺たち、それに準ずる勢力に対抗するため、各国家は戦力を整えていく。肥大化していく力はいずれそれを行使したい、足りないものを奪いたいという欲へと変わる。そこに『俺たち』の需要が生まれる。だけど、お互いに叩きあって滅んでもらうのは望まない。そこら辺のバランスを整えるのが、レギオンズの役目だ」


 絶え間なく争いの光が生まれ続ける小さな新世界を覆い隠すように、真っ赤なオーラが形成された。


「行き過ぎた争い、進み過ぎた兵器開発、過度な領地拡大。そういったものにレギオンズが介入し、世界全体にいい塩梅のバランスを生み出す。そうして、世界は俺たちの理想の姿になっていく」


「確かに、人は力を求めるかもしれない。でも、そんな簡単に行くと思うのか」


「いくと思うぞ。現に絶望邪神像襲撃後、ユーラス連合は復興と同時に軍備の拡大を計ってる。国が民よりも先に力を付けようとしてるんだ。再び現れる可能性のある強大な存在に対抗するためにな」


 満足そうな笑みを浮かべるグランツ。腹立たしいその姿に苛立つウィン。手の平にある新世界の表面をグランツ率いるレギオンズが闊歩していたのが、それをさらに増長させる。

 必死に怒りを押さえつけながら、レインは真っ直ぐと送魂銃を向けたまま問いかける。


「こんな重要な話、俺たちにしてよかったのか。これらの情報を上に伝える可能性が高いんだぞ」


「それに関しては問題だと考えてないし、逆に好都合だと思ってる。最終的には俺たちに対抗するために戦力を拡大させると思うからな」


 こちらが投げかけてくるであろう問いにはもうほとんど答えが用意されているようだ。手のひらの上で踊らされている感覚に、レインは不快感を露わにした。

 自らの思いを打ち明けるグランツはとても楽しそうだった。手のひらの小さな新世界を握りつぶすと、腕時計を確認し始めた。

 

「おお、結構戦ってたんだな。予想よりもだいぶ経ってるわ。ゴウシュウのこの地域の現在時刻は……、となれば2時間後か」


「何だ。一体何のことを言っているんだ!」


 不穏な動きをするグランツに、ウィンが怒声を浴びせる。それにグランツは笑顔で答えた。


「前世界でヒロシマに原爆が落ちた時間にカダリアで起爆させたんだけど、元偉大なる国家だけに使うのは不平等だから、次は三大国家の主要都市で使うことを決めてたんだ」


「……世界からあと3つ都市を消すってのか!?」


「ウィン君、ご名答。カダリア西海岸地域の現地時間11時2分に合わせて、世界の3都市を消滅させる。今度はナガサキに投下された時間に合わせてみたよ」


 また多くの存在が何も分からぬまま、理不尽に消滅する。凄まじい恐怖と焦りが2人と新世界を襲った。

 グランツの報告にその場で身を硬直させている2人に対し、グランツは嬉しそうに話しかけてきた。


「ちなみに起爆させるのは『ラスカ』、『リンブルグ』、『パース』だ。今のうちに避難勧告出せばまだ間に合うかもしれないな。それじゃ俺はもう行くから」


「「逃がすか!」」


 背を向けたグランツに対し、限界にまで溜め込んだ送魂銃の一撃を放った。輝く2発は空中で1つとなり、突き進んでいく。

 振り返ることのないその背中に直撃した。だが、そこから先へと弾丸は進むことなく、徐々に消滅していった。最大限の力を無力化されたことに、2人は愕然としていた。

 そのまま明るい深夜の自然公園を歩いていくグランツは、消え去る前に別れの言葉を残していった。


「また会おうぜ。今度は俺ももっと強くなるから、そっちも鍛えといてくれよ」


 楽しそうな笑い声を上げ、グランツは自然公園から姿を消した。ウィンとレインは、それを見ていることしかできなかった。

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