第六十六話 危険な存在
「……この感覚は!?」
ゴウシュウでカレンに取り押さえられたギリアムが異変を感じ取った。
カダリアの中心部で異常に魔力が膨れ上がったと思った瞬間、そこにいた存在の何もかもが消し飛んだ。絶望邪神像のような邪気や呪詛は感じ取ることができない。かといって人為的なものとは思えなかった。
戸惑うギリアムの様子に気づいたグランツが腕時計を見る。そして、満足そうに笑みを浮かべた。
「時間通りに起爆したみたいだな。カダリアは今頃大混乱だろうよ」
「グランツ、貴様一体何を……!」
「それは……、っと。主役のご到着か」
グランツが説明を始めようとしたところで、ぼろぼろになった自然公園にウィンたちがやってきた。
出迎えの言葉をかけようとしたグランツだったが、有無を言わさずにレオとアルフレッドが殴り掛かってきた。
流動と瞬による高速移動。常人では目視すら不可能な2人の攻撃を、グランツは難なく受け止めた。意表を突くこの攻撃で終わらせようとしていた2人の表情が曇り、グランツはそれを見て鼻で笑った。
すぐさま蹴りによる追撃を行おうとしたが、それよりも早く背後に回り込んだグランツの肘から繰り出された一撃が2人を襲った。防御も間に合わず、自然公園の木々なぎ倒し、外の建物に突っ込んだところでようやく止まる。
2人が突っ込んだでいった跡には凄まじい量の塵が舞い上がり、視界を塞ぐ。グランツはそれを背にウィンとレインに近づこうと一歩踏み出した。
「まだだこの野郎!」
塵の中から飛び出してきたアルフレッドの踵落とし。振り向くことなく左手で受け止めたグランツは、直後に姿を現したレオに投げ飛ばした。
驚きつつもレオはアルフレッドを受け止めると、その勢いを殺すことなくその場で一回転してアルフレッドをグランツへと投げ飛ばした。振り向くことのないその背中にアルフレッドの拳が迫る。
しかし、直前でグランツは姿を消した。どこにいったのかと探るよりも先に、アルフレッドの頭はアスファルトが剥げた地面へと叩き付けられた。凄まじい衝撃によって周辺の地面に亀裂が入り、アルフレッドの意識が遠のいていく。
それを見たレオは持てる限りの魔力を拳へと集約し始めたが、眼前に現れたカークがそれを遮った。仮面の向こうからこちらを見据えるその瞳を睨み付けつつ、レオは力強く踏み込んで正拳突きを繰り出す。
「……!」
「諦めてください。あなた方の時代は終わったんです」
全身全霊の一撃を全く動じることなく手のひらで受け止めたカークはつぶやいた。こちらからは手を出す気はないといった感じが伝わってくる。
悔しさを表情から滲ませながらも、レオはその場から後退していく。その様子に満足したグランツは、カークとカレンに指示を出した。
「よし、2人も次の拠点に向かっていいぞ」
「よろしいのですか?」
「まあ、この程度なら私らもいらない感じかな?」
「そういうことだ。最後のお楽しみはこの新リーダーにお任せあれってか」
「了解です。無理はなさらずに」
「じゃーねー」
その会話の後、カークとカレンはその場から転移術で姿を消した。静かになった中でグランツはゆっくりとウィンたちへと近づいていく。
身構えるウィンとレイン。たとえどんなに強大であろうと絶対にリリィを救うと考えているウィンの目には殺意がみなぎっていた。
不帰島を出る際に、ソフィアは焦るなと助言をしてくれた。しかしながら、その助言すら耳に入らないほどウィンは視野が狭くなっていた。
「落ち着けウィン。新世界も心配してる」
「分かってる。分かってるけど……」
先ほどのカダリアでの異変の影響で、今まで共鳴しかできなかった新世界は完全に目を覚ましていた。訳が分からないといった感じで今でも混乱している。
戸惑いながらも2人と共鳴し、魔力を無尽蔵に増幅させていく。圧倒的な光景を目の前で確認したグランツは満面の笑みで拍手を始めた。
「すげえな。これが新世界と共鳴してあの成長しきった絶望邪神像を消し飛ばした力か。流石だな」
「御託はいい。リリィはどこだ」
場違いな明るさのグランツに、敵意をむき出しにしたウィンが問いかける。
「あの子か。それならケネスが連れて行ったぞ。今頃どこか安全なところに預けてるんじゃないかな」
「……ケネスが?」
「ああ。俺たちが本当に用があったのはあいつなの。情報引き出すためにあの子を使わせてもらったよ。いきなりさらってごめんな。あ、ちなみに俺はグランツ・ガターリッジ。以後よろしく」
そういってグランツは両手を合わせてウィンに対して頭を下げた。目の前の行動と報告に、ウィンは困惑した。
この男がリリィをさらったのは事実であり、許されないこと。だが、一切邪気の感じられない男の行動を見て、自らの中の殺意が収まっていくのが分かった。
「ウィン。ケネスってあの橋での襲撃で死んだはずじゃ……」
「すまんレイン。ちょっと訳ありで――」
「2人とも、大変! え、エルシンが消滅したって……!」
ウィンを遮り、通信機からの情報を聞いたアリーシャが青ざめた顔で話しかけてきた。
驚愕しつつも、すぐに新世界に確認するウィンとレイン。自らの状態を探った新世界は、その情報が間違っていないことを伝えてきた。
確かに先ほど異変は感じたが、まさかこれほどにまで重大なことになっているとは予想外だった。共鳴している心が揺らいでいると、グランツが頭を上げつつ笑った。
「その様子だと、そっちにも情報が伝わってきたみたいだな。どうだい、俺たち新生レギオンズ特製『魔導核兵器』の威力は?」
「核兵器……だと?」
その名称を聞いて口を開いたのは、拘束具で身動きの取れなくなっていたギリアムだった。
新とつくことは新しいことは分かるが、核兵器といったものがどういった物なのか、ウィンたちは知らなかった。しかしながら、ギリアムの慌てようから見てもそれが驚異的な兵器であることは理解できる。
唯一動かせる顔を動かし、ギリアムはグランツを睨み付ける。その表情は怒りに満ちていた。
「あれを再現することはできないはずだ。この新世界に、あれを作るための素材はない」
「その通りだギリアム。だけど、似たような物は作れるんだよ。それも、とても簡単にな」
「何だと……!」
「限界にまで縮小し、同様に限界にまで錬成させ続けた重・魔核を一度に数百個単位で結合させる。調整が難しいが、それさえ済めばどんなものでも防ぐことのできない爆発を引き起こす最強の兵器となる。前々から研究されてた物を俺たちが実現させたんだ」
「俺がいた時にはそんな研究はさせていなかったはず。一体いつそんな物を作った!」
「いつって、一ヵ月前に俺が再結成させたその時から開発に取り掛かってたぞ。これの設計自体はカークが2日で仕上げた。今俺たちの手元にはエルシンを吹き飛ばした物が後12個ある」
その気になればいつ、どこにおいてでも無差別な破壊を行う権利をこんな身勝手な者たちが持っていることに、ウィンたちは戦慄した。そして、倒さねばならない危険な存在として改めて認識した。
島においてカークと呼ばれている仮面の男と戦ったことで、少しだけだが彼らの戦い方が分かり始めていたウィン。これからのそれを明確にしていくためにも、最初から全力全開で行くことを心に決めた。
膨れ上がり続ける魔力が周囲の空気にも影響を及ぼし始める。静かに、その体を中心として真っ白に光り輝く風が吹き始めた。
「アリーシャ、下がって。このままそこにいれば、巻き添えになる可能性が高い」
「……分かった」
レインの忠告を聞き、力になれないことが残念に思いながらもアリーシャは安全といえる場所まで転移で後退していった。
これで思う存分戦える。ウィンとレインの視線は、倒すべき敵へと真っ直ぐと向けられていた。力強いその姿勢に、グランツは嬉しそうに拍手していた。
「いいね、最高だ。これ以降は戦いながら俺の、俺たちの理想を教えてやるよ」
「いい気になるな」
先に動いたのはウィン。風を纏いながら突っ込んでいき、その顔めがけて拳を繰り出す。だが、予想通りにその全力の拳は難なく受け止められた。
この瞬間のグランツの魔力の流れと大きさの変化をウィンは見逃さなかった。自らが理解した情報を共鳴を通してレインへと伝える。
その後、グランツの腹部めがけて強烈な蹴りを放とうと接近したレイン。しかし、危険を察知したグランツは一旦2人から距離をとった。
崩壊した公園内のオブジェの上に立ち、グランツは苦笑いしていた。
「本当にすげえな。カーク、そしてさっき俺と接触しただけでおおよその戦闘法がばれたみたいだな」
「ああ。でも、まだだ。確実にそれを突破するため、もっと精度を上げていく」
「……流石だよ。これが抵抗力の力。そんじゃ、俺も全力で行かせてもらうとするかね」
そういってグランツは地面に降り立つと、共鳴による魔力の増大をさらに跳ね上げた。先ほどの倍かそれ以上に膨れ上がった魔力に驚きながらも、ウィンたちは身構える。
間違いなく、共鳴だった。たった1人で一体どうやっているのか。新世界と共鳴する2人に負けないその精製能力を発揮するグランツは、静かに微笑んだ。
「さあ行こうか。楽しもうぜ、戦いを」
深夜の自然公園の中で、圧倒的な力がぶつかる。凄まじい魔力の振動は、世界中へと響き渡っていった。




