第六十二話 元気な師匠
「幼児体形で悪かったね……」
「レインのスケベ……」
リリィとアリーシャは不満そうな表情でつぶやいた。その2人の様子に、ソフィアは笑っていた。
「大丈夫、大丈夫。お主らの思い人に手を出す気はさらさらないわ。ワシにはレオがいるからの」
そういったソフィアは笑い続ける。その体には純白のワンピースを着ている。身に着けているワンピースの下の部分は綺麗な白い肌だったが、それ以外の出ている部分はこんがりと日焼けしていた。
自己紹介を終えた後、島の中心部にある神殿の中に全員が集まっていた。女性陣とレオとは少し離れたところに、ずぶ濡れになっているウィンとレインとその姿を見て笑い続けるアルフレッドがいる。
ソフィアに見惚れるだけでなく、素直な思いを打ち明けた2人に苛立ったリリィとアリーシャは、無意識のうちに殴り飛ばしてしまった。
今でも申し訳ない気持ちよりも、ソフィアに見惚れた2人のことが許せない気持ちの方が大きい。圧倒な魅力を醸し出すソフィアに2人は少し嫉妬していた。
ワンピースの上からでも分かる大きくて綺麗な胸を改めて見たリリィは、おもむろに自らの胸に手をやった。最近成長を始めたとはいえ、目の前の美巨乳には程遠い自らの胸に気を落とした。
やはりウィンも大きい方が好きなのだろうか。そんなことを考え始めた時、ソフィアが言った。
「よく寝て、規則正しい生活しとりゃあいつかは大きくなるぞ。ワシもリリィと同じくらいの頃はそれぐらいの大きさじゃったもの」
「ほ、本当ですか!?」
「本当に、本当じゃ。でも、リリィの思い人はそこまで胸に関して気にしているのか?」
「いえ、今のところそういったことは……」
「ならそこまで心配することもなかろう。間違いなく、奴はリリィのことを胸なんか気にせずに愛しているはずじゃ。大切にしろよー」
「……はい!」
今の今まで嫉妬していたソフィアに勇気づけられ、リリィは元気に返事をした。
目を輝かせるその姿を見て、アリーシャも不満そうにしている自分が馬鹿らしくなった。ソフィアからは全く邪念が感じられない。そんな存在に嫉妬すること自体が間違っていると感じた。
笑顔を取り戻したアリーシャは、レオに素朴な疑問を投げかけてみた。
「ちなみに、彼女のお父さんがレオさんの師匠なんですか? 今のところ姿は見えないようですが……」
そのアリーシャの問いかけに、レオとソフィアは顔を見合わせた。その後、少し笑いながらもレオが答える。
「彼女が、ソフィアが私の師匠だよ」
それを聞いたリリィとアリーシャは驚きのあまり口を開けたまま硬直してしまった。
無邪気な笑顔を向け続けるソフィア。目の前の様子と体から感じられる魔力には、その片鱗は一切感じられなかった。
「ソフィアが使っていた戦闘術を私が二大闘技と名付けて使っていたんだ。彼女は私よりも圧倒的に強いぞ」
「そうじゃのー。修行をしながら一緒にいた三ヵ月間はとても楽しかったわー」
「そ、そうなんですか……」
いまだに信じられないリリィとアリーシャはとりあえず気分を落ち着かせるために、格納方陣から取り出した水筒を傾けた。
一口分飲んだが、まだ気持ちの整理ができない。もう一口分を口に含んだところで、ソフィアは衝撃的なことを話す。
「丸一日子作りに没頭したこともあったのー」
「「ぶっふぉあぁ!?」」
口に含んでいた飲料を盛大に吹き出す。何とかギリギリで顔を逸らすことで目の前の2人にはかからないようにしたが、一部が気管に入ってしまってその場で咳き込んだ。
苦しそうにしながらも、リリィはソフィアに問いかける。
「けほっ、けほっ。そ、ソフィアさん、それって、レオさんとですか?」
「もちろんじゃ。他に誰がいるというのだ? 伴侶として、愛し合う身として子を宿したいと思うのは変なことではなかろう」
「それは、けほっ。そうですけど……、レオさんが丸一日……」
視線を向けた先にいたレオは、少し頬を赤く染めている。見たこともない恥ずかしがるその姿から考えても、どうやら本当のことのようだ。
「でも残念じゃった。あれほど激しく何度も体を重ねたが、やはり特殊なワシの体では子供はできんかった」
「そうだな。残念だった。だが、それでも私の思いは何一つ変わらないぞ」
「そういってくれると嬉しいぞレオ。そうじゃ、20数年経ってもしかしたら体質が変わったかもしれん。今から――」
「気持ちは嬉しいが、その話は後にしておこう。2人が戸惑っているからな」
レオが強引に話をそっちの方面から逸らした。かなり恥ずかしかったのだろう、頬の赤い部分はさらに拡大していた。
それに協力するように、息を整えたアリーシャが気になったことを指摘する。
「そういえば、ついさっきソフィアさんは自分の体が特殊だと言っていました。それってどういうことなんですか?」
「気付いたら呼吸するだけで生きていられるようになったことじゃな。かなり前になるから、正確な年数は覚えとらん」
さらっとまた衝撃的なことを口にするソフィア。もはや人間を通り越した神様的な位置に近い人なのかと、リリィとアリーシャは疑い始めた。
驚きの連続ですでに疲れ始めた2人に、ソフィアはこれまでのことを手短に説明し始める。
「何か世界全体が変わったと思ったらこの島から出られなくなっての。猫の耳が生えたり、面白い生き物や物体がおるから最初のうちはよかったんじゃが、少し経ってからは暇で暇で死にそうじゃった。そこにレオが来てくれたんじゃよ」
その後、ソフィアはレオの左腕に両腕を回し、体を擦りよせた。嬉しそうにしているソフィアの頭をレオが優しくなでる。
ここまでイチャイチャされると、逆に清々しくも感じられる。リリィとアリーシャも、こうした方が喜んでくれるのだろうかと思い、ずぶ濡れの2人の方を見た。
すると2人は申し訳なさそうにこちらに頭を下げた。反省するその姿を見て、リリィとアリーシャは少し笑った。
そして、お互いに十分イチャイチャしていたことを思い出して頬を染めた。今のままで全く問題はない。そう自己解決した2人は、レオたちの方へと向き直った。
話のきりがついたところで、レオは今回の訪問において最も重要なことを問いかけた。
「ソフィア。確か一緒にいた時、かなり前にこの島にとある博士が来たことがあると言ったはずだが、覚えているか?」
「ああ、ゴウシュウから来た博士のことじゃな。この島全体を調べて帰っていった奴じゃ。何故かあいつは壁には取り込まれなかったから、よく覚えとるよ」
「名前は分からないか?」
「そこが問題なんじゃ。何度も名を訊ねたが、何故か名前だけ何かに邪魔されるように思い出せんのじゃ。それが悔しくて記憶に残っとる。ん~、今でも思い出せん。顔は思い浮かぶのにの~」
レオの腕に頭を乗せながら、ソフィアは悔しそうな顔をしていた。その様子からは、嘘を言っているようには感じられない。
名前は分からなかったが、ゴウシュウにいたことは分かった。もしかしたら、その足跡がゴウシュウのどこかに残っている可能性がある。
それを伝えるために、レオはソフィアを優し離し、ウィンたちの所へ向かった。その後ろ姿を笑顔で見送ったが、頭の耳は寂しそうに垂れていたのが可愛らしかった。
唯一の男性が消えて女性3人になったところで、リリィが少し顔を赤くしながらソフィアに話しかける。
「あ、あの、ソフィアさん」
「ソフィアでええぞ、リリィ」
「えっと、じゃあソフィア。その……、『初めて』した時ってやっぱり痛かったりした?」
大胆な質問に、隣にいたアリーシャが赤面しつつも驚いた。確かに経験済みのソフィアであれば答えられるとは思うが、積極的なアリーシャでも中々にしづらい質問だ。
赤くなりつつも真っ直ぐな視線を向けてくるリリィに、ソフィアは真面目に答え始めた。
「確かに痛みはある。だが十分に濡らした後なら――」
少し離れたところで真剣に話し合うウィンたち。その近くで、乙女にとっても最大クラスに重要な話が続けられた。




