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『とある青年の奮闘記』(没)  作者: 田舎乃 爺
第3章 世界を愛した男
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第六十一話 不帰島(かえらずのしま)

――新暦195年 9月 25日(日)

  『不帰島』・海岸

  14:00



「ほえー。これが不帰島か……」

 

 綺麗な砂浜に背負っていたリリィを下ろし、ウィンは周囲を見渡した。

 アナリスに集合した後、浮遊術と瞬を利用した移動で海上を走り抜けたウィンたちは、先を進むレオの後についてここまでやってきた。

 結構長めの道中だったが、お互いの近況報告やアナリスにてクランからもらった特産品を食べながら来たので、それほど苦ではなかった。来年結婚することを聞いたウィンが動揺するあまり盛大にずっこけそうになったのは危なかった。

 白い砂浜に、透き通るほどに綺麗な青い海。海岸だけ見ればどこかのリゾート地と思える景観だったが、島の陸地の方に目を向けると異様な雰囲気を漂わせている。


「かなり大きいな。こんなのが島の陸地全体を囲んでるのか」


 レインが目の前に佇む物に驚きの声を上げた。巨大な壁のように隆起した大地が、島の内陸部を取り囲んでいる。100mを超えるその自然の壁に、ウィンたちは圧倒されていた。

 すでに写真などでは見たことがあったが、実際に見るとなると凄まじい迫力だった。そんな中、ウィンはアルフレッドもこの光景に驚いていることに気が付く。


「あれ? アルもここにいる師匠に鍛えてもらったんじゃないのか?」


「いや、二大闘技に関して俺はレオに教えてもらったんだ。だから、ここにいるレオの師匠とは会ったことがないんだ」


「そうだったのか」


「レオが師匠に関しては何も教えてくれなかったから、気になってたんだよ。さて、どんな人なのかね」


 嬉しそうにするアルフレッド。だが、そんな彼に対してレオが忠告する。


「アル、そして皆にも忠告しなければならない。この島で会う師匠のことは他では絶対にしゃべらないでくれ」


 普段では見せないその深刻な顔は、冗談を言っているようには見えなかった。


「師匠のことを話そうという意思をこの島が感じ取った時点で、その者はこの島に捕らわれて永遠に外へと出るどころか身動きが取れなくなる。気を付けてくれ」


「……随分物騒な話だな」


 忠告を聞いたアルフレッドは苦笑いをしながら壁を見上げた。そして、何かに気が付いたアルフレッドはその場に体を凍り付かせた。

 一体何を見たのか。気になったレオ以外の面々も壁を見てみる。よく目を凝らしてみた結果、何ともいえないおぞましい物が見えてしまった。


「何……、あれ」


 震えたリリィの声が、その場にさらなる緊張感をもたらす。

 壁の表面には、無数の人やあらゆる生物が組み込まれていた。完全に壁と同化し、一体化している。

 異様なその光景に皆が言葉を失っていると、レオが語り始める。


「あそこにいるのは、この島に愛された師匠の情報を他に流そうとした存在の末路だ。私は大丈夫だが、お前たちはあれに取り込まれる可能性がある。重ねて言うが、気を付けてくれ」


 そのレオの忠告に対し、その場にいる全員が顔を青くしながら頷いた。誰もがあんなことになりたいと思うことはない。

 どういった原理なのかはレオも、そしてこの壁の向こうにいる師匠も分かっていないらしい。この島そのものが生物なのではないかとも考えられたが、真相は謎のままだ。

 そんな不気味な壁の頂上に、ウィンたち移動術を駆使しては登った。硬質化した生物の体を踏みつけてしまったりもしたが、気をしっかりと持ちながら内部の景色を見た。


「……すげえ」


 ウィンは静かにつぶやいた。壁の向こうに広がっていたのは見たこともない巨大な樹木の森林。そして、中央には神殿のような見た目の建造物があった。建造物の近くにある大きな湖が、日の光を反射してきらめいている。

 この恐ろしい壁の向こうにこんな壮大な景色が広がっているとは思っていなかった。てっきり地獄のような景色が広がっていると誰もが考えていた。

 見惚れているウィンたちに合図をすると、レオは先に壁を飛び降りた。遅れてそれに付いていったが、森林に飛び込んだところでレオの姿を見失ってしまった。

 レオを見つけるために周囲の魔力を探ったウィンたちが驚愕した。レオと同等の魔力を持つ存在が、周囲にいくつも存在したからだ。

 迂闊に動くことができない。それらの魔力の主が、こちらに対して友好的である保証はない。部外者である自分たちに襲い掛かってくる可能性も十分に考えられる。

 警戒するウィンたちの目の前に、草木をかき分けて体長6mほどの巨大な灰色の狼が姿を現した。迫力に満ちたその顔がウィンたちへと向けられた。いつでも動けるように、ウィンたちは身構える。



「おや、客人とは珍しい。さっきレオが通っていったから、もしや彼の友人かな?」



 狼がしゃべった。低めのダンディな声で。予想外過ぎる事態に、ウィンたちは唖然とするしかなかった。

 その様子が面白かったのか、狼は声に出して笑っていた。森林に響き渡るそれを聞いたレオがここまで引き返してきた。


「やはり『ウォルフ』だったか。すまない、連れが迷惑をかけたか」


「いや、久しぶりにこの驚いた様子を見たんでな。笑ってしまったよ。確か、お前も初めてここに来た時、こんな顔をしていたな」


「そうだな。ところでウォルフ、『ソフィア』がどこにいるか知っているか?」


「ソフィアなら今水浴びをしていると思う。湖に行けば会えると思うぞ」


「助かる。よし、行くぞ皆」


 レオはそういうと森の中を進み始めた。戸惑いながらもウィンたちがその後に続く。

 背後にいるウォルフの存在が気になったリリィが振り返った。するとそこには笑顔でその巨大な肉球のある手をこちらに振っている姿があった。思わずそれが可愛いとリリィと中にいるツバキは思ってしまった。

 何もかもが予想外の連続だった。道中ではウォルフと同じくらいのカマキリや、オオトカゲ。口を持つ草花が談笑していたり、最近の良すぎる天候を愚痴りあう岩石たち。

 驚きが列をなして襲い掛かってくる。進むだけでもウィンたちは精神的に疲れ始めていた。

 しばらく経った後、ようやく目的地の湖に到着した。底から吹き上がる水が、巨大な水の柱を形成している。その優雅な光景に目を奪われていると、元気いっぱいの声が響き渡った。



「レオ!!」



 その声の直後、長身の女性がレオに飛びついてきた。


「久しぶりじゃの! ここに来たということは、ついにワシと一緒になることを決めたのか?」


「確かに、その約束もした。だけど、今日はまだその時じゃない。ちょっと聞きたいことがあって、ここまで来たんだ」


「んむー。そうか。まあ、いいじゃろう。それでもお主の顔が見れてワシは嬉しいぞ」


「ああ、私もだ」


 170ほどの身長に、肩辺りまで伸びた黒髪。綺麗な茶の瞳は真っ直ぐにレオへと向けられ、その頭にある猫の耳を嬉しそうに動かしている。

 ウィンたちに気づいた女性は、レオから離れて満面の笑みを浮かべた。


「客人か! レオに引き続き、今日は珍しいことが多いのう。何もないこの島だが、ゆっくりしていってくれ!」


 その言葉をかけられたウィンたちは硬直していた。アルフレッドは鼻の下を伸ばしながら女性を見ている。

 我に返ったリリィとアリーシャが、それぞれの思い人の視界を急いで遮る。何故そんなことをするのかと女性が首をかしげると、背後からレオが指摘してきた。


「『ソフィア』、服はどうした?」


「水浴びの途中で来たから何も着とらん。それがどうかしたか?」


「私は大丈夫だが、彼らには刺激が強いと思う」


「おお、そうか。だから皆びっくりしとったんか。これはスマンことをしたのう」


 そういってソフィアは全裸のまま、その場で大笑いしていた。彼女にとって、他人に裸を見られることはさほど気にはならないようだ。

 しかしながら、ウィンとレインはしっかりと目に焼き付けていた。圧倒的なスタイルの良さとその胸に実った巨大ながらも美しい形をしていたそれを。

 視界を遮られたまま、その鼻から血を垂れ流しながらウィンはレインに話しかけた。


「……デカかったな」


「ああ、デカかったし、スタイルも抜群だった」


 そのレインの返答の後、2人は不意打ちに近い思い人からの一撃をくらって宙を舞い、湖へと頭から勢いよく飛び込んでいった。


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