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第五十七話 とある青年の奮闘記

「では、隊長に報告してきます。リリィさんはここで待っていてください」


「はい」


 寄宿舎の屋上に転移してきたリリィとカーネル。アリーシャに報告するため、カーネルはその場を後にした。

 リリィはフェンス越しに首都を見渡した。ディアンとは正反対の大都会。乱立する建物や道路では数えきれないほどの人がいた。同じ国の中にあってもこれほどにまで違いがあるということに素直に驚いていた。

 確かに色々便利なことがたくさんあるのだろうが、正直に言ってリリィは静かなディアンの方が好きだった。

 これからもあの小さな町で過ごしたい。でも、一緒にいたい人は今はいない。少し気分を落としたリリィを励まそうとツバキが話しかけようとしたとき、背後に誰かが転移してきた。

 ブレスレットが反応している。いや、それだけでなく、ネックレスも対になる存在に反応していた。まさかと思い、リリィは振り返った。



「よおリリィ。ただいま」


「……ウィン!!」



 勢いよくリリィは思い人に飛びついた。何故かびしょ濡れになっているが、そんなことは関係なかった。

 間違いなく、ウィンが今ここにいる。リリィにとってはそれが嬉しくてしょうがなかった。


「止めとけリリィ。ちょっと訳あってびしょ濡れなんだ。風邪ひいちゃうぞ」


「離したくない!」


「でもな、リリィの服も濡れ――」


「離したくない!!」


 是が非でも離れようとしないリリィに、ウィンは諦めてその頭を優しくなでた。

 その様子を横で見ていたクランは笑顔だった。それに対し、ウィンは感謝を込めて一礼した。

 満足そうにしながら、2人の仲を邪魔しないようにと気遣ったクランはアナリスへと転移していった。ツバキも空気を読んでリリィの中から出て、精霊体のまま空へと飛んでいく。

 静かになった屋上。聞こえてくるのは時たま吹く風の音だけ。とりあえず、ウィンは今回の出来事について説明を始める。


「新世界に頼み事されてさ、1日で終わるって伝える前に取り込み始めたから声出せなかったんだ。ごめんな、心配かけちゃって」


「……それをあの糞下手くそなジェスチャーで伝えようとしたの?」


「やっぱり分かんなかったか」


「……ふふっ。分かるわけないよ」


 リリィは抱き着いたまま、ウィンの顔を見上げた。満面の笑みからは一筋の嬉し涙が頬を伝った。

 それを見て安心したウィン。お互いの体温を感じながら、その視線を合わせ続けた。

 少し経った後、リリィが静かに目をつぶった。それに応じ、ウィンは少し照れながらも腰を曲げ、自らも目を閉じて唇を重ねようとした。


「リリィさん。今ここにクランさんが……」


 勢いよく扉を開けて屋上に出たカーネル。その視線の先には抱き合ったまま顔を真っ赤にしているウィンとリリィ。

 全てを察し、自らのタイミングの悪さに自責の念を抱くカーネル。そのカーネルの背後に、恐ろしいほどに無表情なツバキが実体化して降り立った。

 圧倒的な威圧感を放つ背後の存在に戦慄しながらも、カーネルは2人に謝ろうとしたが、それよりも早くツバキに拘束されて扉の向こうへ一緒に消えていった。

 扉の向こうからカーネルを叱るツバキの声が聞こえてくる。真っ赤になっていた2人はそれを聞いて笑い始めた。

 屋上に、2人の笑い声が響き渡る。お互いに腹の底から笑っていた。ひとしきりに笑った後、お互いの視線を再び合わせる。



「待っててくれてありがとうな、リリィ」


「うん。ウィン、大好きだよ」


「俺も、大好きだぞ、リリィ」



 飛び上がったリリィをウィンは受け止め、抱き合ったまま唇を重ねた。

 ようやく手に入れた安息の時間を、2人は心の底から喜んでいた。






     ※






 ウィンとレインの様子を見て、新世界は安堵していた。

 本当に、冷や冷やの連続だったと思い返した新世界はため息をついた。正確にはため息をつける体はないのだが、気分的なものだ。

 ひたすらこちらを急かすように動き回るレギオンズ。そして世界の崩壊をもくろみ続けるロンギヌス家の一族。生み出したはいいものの、厄介ごとに巻き込まれ続ける抵抗力君。

 挙句の果てに人格をもう1人作り上げたのは新世界でも予想外だった。仕方なく頑張って手伝って分離させた結果、良い方向に繋がってくれてほっとしていた。

 彼の、彼らの能力を生み出すことができても、新世界そのものにその力はない。こうして彼らを生み出すことができたのも、新世界に新たな因子付け加えたあの博士の助言のお陰。名前は忘れてしまったのが残念だ。

 新世界は彼らの働きを『とある青年の奮闘記』として自らの記憶に刻み付けることにした。しばらくの間は、これほどの脅威が襲うことはないだろう。

 生まれ変わって初めての大仕事に疲れた新世界は、ほんの少しの間休憩することにした。彼らがいればなんとかなる。

 休んでいる間でも彼らと共鳴は出来るように設定しておいた新世界は、誰にも邪魔されることなく、静かに眠りについた。

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