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第五十五話 希望を抱いて

 絶望邪神像は周囲に魔力を押し固めた。生み出されたいくつもの球体から光線が放たれ、ウィンとレインへと向かっていく。

 それを真正面から受け止め、無力化して2人は突っ込んでいった。それを予想していた絶望邪神像は、眼前に迫った2人に拳を振り下ろす。



「「そぉら!」」


(!?)



 2人が振り上げた右足が、街1つ消し飛ばすほどの魔力を込めた絶望邪神像の両手を吹き飛ばした。

 つい先ほどの2人であれば間違いなくこの一撃で仕留めることができたはず。想定外の事態に内部のイブは困惑していた。

 イブが取り乱したことで動きが鈍くなった絶望邪神像に、続けざまに2人は攻撃を行う。


「でえりゃあ!」


 気合の入った声を上げるとともに、ウィンが繰り出したアッパーが絶望邪神像の清らかな顔を吹き飛ばした。

 よろけるその巨体の腹部をレインが静かに殴り、街の外へと弾き飛ばす。自らの体の魔力を逆噴射し、絶望邪神像はなんとかその場にとどまった。

 再生した両手を空へと向けると、絶望邪神像はサノゼと同じぐらいの大きさの魔力を球状に押し固め、投げつけた。尋常ではない魔力と呪詛の念がこもった漆黒の大玉が、街へと落ちていく。

 世界の半分を消滅させるほどの威力を受けきることなど絶対にできない。勝利を確信した絶望邪神像は再生しきっていない頭部から気持ちの悪い笑い声を上げる。

 しかし、その漆黒の大玉を青と緑の二筋の光が貫いた。その穴を中心にして、大玉は消滅を始める。二筋の光はそのまま天にまで昇っていき、弾け飛んだ。




 世界全体に、真っ白に光り輝く突風が吹き荒れる。快晴の空からは、金色の光の雨が降り注ぎ始めた。

 絶望邪神像が進行した場所に残っていた黒い跡が消えていく。サノゼに人々を閉じ込めて浮遊していた黒い球体も消え、レオやアルフレッドたちが解放された。

 特殊結界も解除され、自由の身となったリリィとアリーシャは、思い人を静かに見守ることにした。

 光り輝く突風と雨を受けた絶望邪神像の体が消滅を始めていた。苦痛に顔を歪ませながら、その場でもがく。


(まだよ。まだ消えるもんですか。ようやくアダムスの望みを叶えられるのに!)


 イブの絶叫が世界全体に響き渡った。消滅の止まった絶望邪神像がその背に生えた巨大な翼で風と雨を振り払い、憎しみに歪んだその顔をサノゼの上空にいるウィンとレインへ向ける。

 世界が活気づいていた。共鳴によって得た莫大な魔力と2人の能力を世界に分散させ続けている。楽しそうにしているそれを心の中で感じながら、ウィンは新世界に話しかける。


「さて、これ以上長引かせてもまた被害が増えるだけだ。一気に決着を……?」


 その最中に新世界が心を通じて問いかけてきた。言葉ではないが、言いたいことはある程度分かる。

 

「この戦いの果てに何をしたいのか、何を望むのか。それを詳しく知りたいんだな」

 

 新世界の疑問をレインが口にした。自らと繋がった2人のこれからのことを詳しく聞きたいという素直な好奇心が感じられた。

 純粋なその問いに、ウィンが答える。



「やれることやって、そんでリリィと結婚してディアンで静かに一緒に暮らす! 前世の俺がそうしたかったからとかじゃない。今の俺、『ウィン』はそうしたいと考えてる!」



 ウィンはその場で元気に宣言した。その姿を横で見ていたレインも、それに続いた。



「俺は罪を償いながら生きる。その中でアリーシャと一緒になって生きていくつもりだ。子供は3人くらいほしい。家族は多い方がいいからな」


「……俺自身に言うのもなんだけど、意外ともうそこまで考えてるのね」


「ああ。俺はアリーシャを愛してる。だからこそ、その証でもあり、俺たちの結びつきをさらに深めるためにも、子供は欲しい。女の子が生まれたら、きっとアリーシャと同じくらい綺麗で可愛い子になると思う」


「俺も負けられねえな。精一杯リリィを幸せにしてやらないと」



 しかしながら、2人は気づいていなかった。この宣言と会話が世界全体に響き渡っているということを。瓦礫の山となったサノゼで、リリィとアリーシャは顔を真っ赤に染めていた。

 意気込む2人のその返答に満足したようで、新世界はさらに魔力を増大させていった。世界全体に巻き起こる突風と光の雨が勢いを増してゆく。

 絶望邪神像がその身に蓄えていたものを胸の一点に集中し始めた。その体が退化していき、全身が灰色へと戻って前のめりの姿勢になる。歪な笑顔を浮かべて2人を見た。その胸の中心には真っ黒な球体があった。

 その真っ黒な球体から漏れるどす黒い邪念と苦悶の声。2人にはその中心にイブがいるのに気付いた。不気味な笑みを浮かべているイブは、2人を真っ直ぐに指さした。



(さあ、止めてみなさい)



 真っ黒な球体は絶望邪神像から放出され、幾重にも重なった絶叫を轟かせながら2人へと迫ってくる。動力源を失った灰色の肉片はその場に崩れ落ちた。

 突風と雨を物ともせず、逆に侵食していきながら飛んでくるそれに、2人は送魂銃を向ける。すでに耐久限界を超えているが、新世界の補助で銃身が消滅するのを防いでいた。

 

(これが止められなければ私の勝ち。世界を飲み込むほどの絶望を消滅させることができるかしら)


 絶望邪神像の何もかもが込められた真っ黒な球体。世界を滅ぼす力を持ったそれに対し、2人は引き金に指をかける。

 深呼吸し、新世界との繋がりをさらに高める。自らの全身全霊を今から撃ち出す一発に集約していく。

 新世界と共鳴したことで見たこと、聞いたことを思い出す。この世界を存続させるために、多くの人が奮闘していた。自らの身を犠牲にしたとしても実行するその覚悟は凄まじいものだった。

 自分たちは、そういった人たちが作り上げてくれた基盤の上に生きている。その人たちの思いを無駄にしないため、これからもこの新世界で生きるためにも、全力で頑張らなければいけない。

 漏れ出す温かい光を感じながら、強く決意した2人は無言のまま引き金を引いた。



 放たれた二筋の光は、真っ黒な球体に当たる前に1つとなって突き進む。白く光り輝くそれは真っ黒な球体に衝突した。

 その白い光を蝕もうと、球体から無数の黒い生物の腕が伸びる。しかし、その手が届く前に光は球体を貫いた。

 空中に制止する真っ黒な球体。光が貫通した穴を中心として、全体が光の粒子となって分解されていく。

 内部で発生する粒子の量に限界を迎えた真っ黒な球体が異様に膨張を始めた。破裂する寸前、イブはウィンに声をかけてきた。



(また会いましょう。いつか、必ず)


「おう。その時はまた相手になってやる。俺たちと、この新世界がな」



 球体は弾け飛び、周囲に光の粒子を撒き散らした。解放された魂が、空へと昇っていく。

 光り輝く突風と雨が重なって、幻想的な光景を生み出す。そんな中、数えきれないほどの魂が放った温かい声が重なり合いながら響く。



(ありがとう)



 たったの一言。精一杯の感謝の言葉。それは、世界全体に響き渡った。

 






     ※






 全ての魂は空へと消え、突風と雨も止んでいた。静かになった瓦礫の山に2人は降り立った。

 終わった。背後からの気配に気づいたウィンとレインが振り向くと、そこには顔を真っ赤に染めたリリィとアリーシャの姿があった。


「えっと、その……、宣言してくれるのは嬉しいけど、丸聞こえだったよ、ウィン」


「レインも……、子供とか、嬉しいけど、恥ずかしいよ……」


 その顔の熱はしばらく冷めそうになかった。響き渡っていたそれを聞いていたレオやアルフレッド、団員たちなどが遠くのほうからにやにやしながら見守っている。

 2人のその様子を笑ったウィンとレイン。しかし、そこでリリィが異変に気付いた。


「ウィン? レインもそうだけど、声が出ないの?」


 目の前で笑う2人の声が聞こえなかった。それはアリーシャも同じだったようで、心配そうな目で見つめる。

 異変に気づいたウィンが大声で叫ぶような動作をしても、声は聞こえてこない。状況が理解できないレインも動揺していたが、何かに気づいたようで、それに対して静かに耳を傾けていた。

 聞いたそれをウィンに伝えると、一瞬驚いたがすぐに納得したような顔に変わった。

 何がなんだか分からないリリィとアリーシャ。困惑していると、目を疑うような現象が発生し始めた。


「……え?」


「何で……、何で消えていくの!?」


 目の前の思い人たちの体が光の粒子となって消滅を始めた。リリィは急いでその体に触れようとしたが、ぶつかることなくその体をすり抜けてしまった。アリーシャはその様子が信じられないといった様子で、口を両手で覆ってその場に立ち尽くしていた。

 大好きな人が、大切な人が消えていく。理解したくないその現象に、リリィは静かにつぶやいた。



「……絶対どこにもいかないって、約束したじゃん。何で……、どうして……」



 大粒の涙を流し始めるリリィ。アリーシャは、必死に涙を堪えていた。

 それを見たウィンが慌て始める。何かを伝えようと全身を使ってリリィに対してジェスチャーをするが、下手くそすぎて全く意味が分からない。それを横で見ていたレインはため息をつきながら、アリーシャの目の前へと向かった。

 もうすでに体の半分が粒子となって消え、その向こう側が見えるほどに透けていた。そんなレインが目の前に来たことで、堪えていたアリーシャの目から涙が溢れ出す。

 そんなアリーシャに対してレインは笑いかけ、格納方陣からある物を取り出した。ウィンもそれを真似して首にかけていた物をリリィに見せつけた。そして、ゆっくりと、分かり易く口を動かした。



『大丈夫』


 

 リリィとアリーシャを安心させるために、2人はそれを何度も繰り返した。

 レインの手の平には婚約指輪。ウィンが見せつけているのはお揃いのネックレス。2人はそれを強く握りしめて見せた。

 絶対に帰ってくる。だから大丈夫。その思いは声に出さずともリリィとアリーシャに伝わっていた。


「絶対に、絶対に帰ってくるんだよね?」


 リリィの涙ながらの問いかけに、ウィンは笑顔で頷いた。


「……待ってるから。早く帰ってきてね、レイン」


 涙を拭い、アリーシャは消えゆくレインに微笑む。それに応えるように、レインも満面の笑みを浮かべた。

 



 その後、2人の姿は完全に消え去った。快晴の空の下、瓦礫の山となったサノゼに爽やかな風が吹き抜ける。

 消えた思い人のことを思いながら、リリィとアリーシャはつぶやいた。

 


「「待ってるから」」



 サノゼに、カダリアに、この世界全体に爽やかな風が吹き抜けた。

 約一ヵ月に及ぶ世界全体を混乱に陥れた大騒動は、静かに幕を閉じた。

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