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第五十一話 絶望邪神像(前編)

 電磁砲で吹き飛び続ける肉片。しかしながら、徐々にだが耐性を付け始めていることにシノンは気づいた。

 それなら早期に決着をつける。シノンは電磁砲以外にも魔道砲などいくつもの大型火器を空中に展開して固定し、圧倒的な火力を叩き込んだ。それによって発生した衝撃波と熱が、サノゼにまで伝わって行く。

 肉片は全て消し飛び、その中心の黒い球体が姿を現す。それを破壊するために勢いを落とすことなく攻撃を続ける。


「こっちに関しては情報通り。硬すぎるな」


 障壁や結界の類は全て消し飛ばしたのにも関わらず、黒い球体本体は破壊することができずにいた。

 灰色の肉片はそれほどでもないのだが、中心部はこれまでに見てきた物体の中でも、間違いなく一番の硬度を誇っている。 

 シノンは舌打ちしながらも、自らの体の中に埋め込まれている5個の業・魔核の魔力を右腕に集中し始めた。その手には自らが作り上げた専用の魔導銃が握られている。

 限界にまで溜め込んだ魔力を黒い球体に撃ち込んだ。


「ほう」


 危険と判断したのか今までよりも強固な結界を張って、飛んできた魔力の塊の無力化する。

 それを目の前で見たシノンは大きくバランスを崩した。違和感を感じた足には灰色の肉片がこびりついていた。

 侵食術によってシノンの強固な障壁と結界を潜り抜けてきた肉片は、凄まじい力で投げ飛ばした。地面に体を強く叩き付けられつつも、シノンはすぐに体勢を立て直す。

 もうすでに格納方陣内の大型火器の弾が底を尽きようとしている。普通に使えば15年は無くなることがない量を、たったの5分でそのほとんどを使い切ってしまった。それだけ、この絶望邪神像の再生能力が異常に高いということだ。

 地面に降りたシノンに、小さく千切れた肉片が様々な生物へと姿を変えて襲い掛かってくる。取り出した2丁の魔導銃を手に、灰色の生物を消し飛ばしていく。

 背後から砲撃や術式が行使される音が聞こえ始めた。どうやら、進行する小型の絶望邪神像を排除しているようだ。

 周囲の生物を全て撃破したところで、黒い球体へ向けて攻撃を続けていた大型火器の弾が完全に尽きた。魔道砲だけでは、絶望邪神像の再生は止められず、その巨体を再び形成して歪な笑顔をシノンへと向ける。

 自らでは決定的な一撃が与えられないとシノンが理解したその時、サノゼの方にレオとアルフレッドが到着したのを確認した。


「来たか。それでは、もうひと踏ん張りと行くか」


 走り出そうとした絶望邪神像に、シノンは向かっていった。






     ※






「到着だ」


「忘れ物がないようにー。ほい、紙袋」


「オヴェロロロロロォォォ」


 アルフレッドの背中から降り、ウィンは手渡された紙袋に嘔吐する。ここまで耐えられたのが奇跡に思えていた。

 たどり着いたサノゼでは、轟音が鳴り響いていた。街を揺らす振動が、戦闘の激しさを物語っている。

 

「来たか、レオ、アルフレッド」


 こちらに気づいたエイブラハムがテントからやってきた。その背後では、慌ただしく情報を伝達している団員たちの姿が見える。

 エイブラハムは深刻な表情のまま、その場にいる者に説明を始める。


「シノンが今本体を抑え込んでいる。分離してきた小型は何とかこちらの戦力だけでも持ちこたえられそうだ。至急、シノンの下へ向かってくれ」


「了解した」


「任されてー。そっちは大丈夫そうか?」


「ええ、何とか。ウィン、共鳴だ」


「りょ、りょーかーい……」


 青ざめたままのウィンとレインは共鳴によって1つとなる。無尽蔵に魔力を湧きあがる姿に、その場にいた者たちが驚く。

 3人がシノンの下へと向かうために、攻撃が止んだ。司令部から飛び立ち、サノゼの入り口辺りに降り立った。

 遠くの方から様々な姿をした小型の絶望邪神像の姿に、2人は驚いた。しかし、レオとアルフレッドは違った。



「アルは左半分。私は右半分をやる」


「オーライ。任しとけ」



 レオとアルフレッドは砕導の波動を溜めると、流動によって発生させた魔力の波に波動を含ませて放った。

 目には見えないが、確実に広がっていく。それが当たった小型の絶望邪神像は塵も残さずに消え去った。圧倒的な強さを見せつける2人に、サノゼから歓声が上がる。

 これが四強の中でもさらに次元の違う強さを誇る2人の力。それを間近で見ていた2人は、思わず息をのんだ。


「さあ、邪魔者は消えた。行くぞ」


「一番乗りは俺に任せろー!」


 そういってアルフレッドは全速力で駆けだしていった。その後をレオが追うが、2人はその速さに付いていくことができない。

 シノンが押しとどめていた絶望邪神像が新たな獲物を見つけたことで、気持ちの悪い笑い声を上げる。

 その腹立たしい巨体めがけて、砕動の波動と自らの魔力を溜め込んだ右腕でアルフレッドが殴り掛かった。


「オッラァ!!」

 

 気合のこもった声とともに放たれた一撃は絶望邪神像の腹部を消し飛ばし、その体を数百m先へと弾き飛ばした。大地を転がったその巨体は、土煙を舞い上げながらようやく停止する。

 消された腹部を再生させながら、絶望邪神像が幾重にも重なった絶叫を轟かせる。悔しそうにも見えるその様子に、アルフレッドは右手の中指を立てた。


「デカい図体のくせしてそうでもねえな。絶望邪神像さーん!」


 盛大な煽り文句に、それを横で見ていたシノンは呆れていた。


「相変わらずめちゃくちゃだな。まあ、これで俺はお役目ごめんだ。後は任せるぞ」


「おうよ。たっぷり弾の補充してこい」


 アルフレッドに送り出されたシノンは転移でサノゼへと戻っていった。

 天に向かって咆哮した絶望邪神像が、その眼前に魔力を押し固めて形成する。そして、凄まじい威力の光線が放たれた。迫りくる真っ白なその光に身構えるレオとアルフレッド。だが、その前にさらに姿を変えた2人が立った。

 白く発光する頭髪の2人は、自らの力を結界として生み出して光線を防いだ。先ほどの状態よりもさらに力を増したその姿に、レオとアルフレッドは驚愕していた。


「すごいな。魔力精製能力は私たち以上だぞ」


「こりゃ鍛えればとんでもなく強くなるな」


「褒めてくれてありがとうございます。でもお2人も――」


 とてつもない違和感を感じ取った2人は、途中で話しを切って絶望邪神像へと向き直った。



 絶望邪神像の姿が変化し始めていた。全身が体の内側から真っ黒に変色していく。

 前のめりの姿勢が改善され、しっかりと背筋を伸ばしてその場に立ち上がる。顔に形成された灰色の口はへの字に曲がり、目と思える部分もたれ目のようになっていた。悲しそうな表情をサノゼの方へと向けた。

 全長200mはあるその巨体は、さらに人間に近づいているようにも見えた。姿を変えた絶望邪神像が、その両手を前方へと掲げた。



「イヤアアアァァァァァァァァァァアアァァァア!!」



 絶叫が響き渡る。それは、これまでのように幾重に重なったものではなく、女性のような甲高い声だった。

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