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第五十話 駆け抜ける

「――ということです。」


「ふむ、状況は大体理解した」


「俺たちが想像してたよりもヤバいな。こりゃ先に行った『シノン』と早く合流しないと」


 ウィルソンから現在のカダリアの現状、そして目の前にいるウィンとレインの説明を受け、レオとアルフレッドはお互いに顔を見合わせていた。

 先ほどの柔和な雰囲気とは一変し、深刻な顔で考え込む2人。そんな中、アルフレッドの手の甲に描かれた共有方陣から声が聞こえてきた。


『市民の誘導に手間取ってます。応援を頼めますか?』


「分かった、頼んどく。後、俺とレオはこれから首都方面に行ってくるから」


『了解です。お気をつけて』


 エルシンにいる部下との連絡を終え、アルフレッドはウィルソンに応援要請を頼んだ。

 ウィルソンが懐から取り出した端末で連絡を取り始める。緊迫した空気の中、四強の2人がウィンとレインに近づいてきた。

 先ほどの失礼ともとれる態度をしてしまったウィンは、レインよりもがちがちになっていた。その様子を見たアルフレッドが笑いだす。


「そんな固まんなくて大丈夫。あの結界破れた時点で俺たちよりもすごいかもしれないんだぞ」


 笑顔を絶やさないアルフレッド。魔人組合のトップであるとは思えないその明るさは、周囲を和ませる。


「確かに、四強を六強に変える必要があるかもな。いや、君たちの場合は2人で1つだから五強か?」


 その横で真面目な顔で悩むレオ。元カダリア首相でもあるその姿からは威厳を感じられる。

 返答にウィンとレインが困っていると、突然目の前でじゃんけんが始まった。勝利したレオはその拳を天へと掲げる。敗北したアルフレッドは悔しそうにうなだれていた。

 一体何を決めるためのものなのか。状況を把握できずにいると、レオがレインの前、アルフレッドがウィンの前へと背を向けて屈んだ。


「転移不可能者の直行便だ、乗りたまえ」


「サノゼ行きになりまーす。ベルトとかはないから、しっかりしがみつけよー」


「「あっはい」」


 言われるがままに、ウィンとレインは2人に背負われた。がっしりとしたその背中に、しがみつく。

 背負われることが久しぶりの2人。ましてやそれがカダリアの重鎮の背であることに、緊張してもう何も言えなくなってしまった。

 その様子を見たリリィとアリーシャが少し笑っていた。今すぐにでも交代してやろうかと、2人は恥ずかしそうな目で笑う2人を見つめる。


「それでは出発だ。後のこと、頼んだぞ皆」


「はい、御武運を」


 レオの言葉に対し、その場にいたアリーシャたちが敬礼する。それを確認し、2人を背負って走り出すレオとアルフレッド。

 間に合うことができるのかと心配になったウィンが、アルフレッドに問いかける。


「えーっと、アルフレッドさん?」


「アルでいいぞー」


「そ、それじゃあ、アル。どれくらいの時間でサノゼに到着するんだ?」


「んー、10分くらいかな?」


「え゛。そんなまさか――」


 その体が後方に引っ張られるほどの急加速が始まった。またたきによるものだが、その速度は共鳴で1つになったウィンたちを遥かに凌駕していた。

 絶叫するウィン。その声を聞いていたアルフレッドは大爆笑しながら、レオとともにカダリアの大地を駆け抜けていった。




 周囲の景色が全く見えない。瞬を使わずともその走りは凄まじい速度だった。激しく揺さぶられるウィンは徐々に気持ちが悪くなってきた。

 森の中を臆することなく突き進む。激突したらただではすまない速度を維持しつつ、木々の間をすり抜けて行く。

 アルフレッドの背中で絶叫するウィンとは違い、レインは静かだった。その圧倒的に鍛えられた力を発揮するレオに尊敬の念を抱いていた。


「どうした? 私の頭に何かついているか?」


「いえ、どうすればレオさんのようになれるのか、考えていました」


「そうか。だが、君はもうその答えを知っているはずだぞ」


「……え?」


「努力だ。私はひたすら努力を重ねることでここまで力を付けた。君も、そうなのだろう?」


 単純にして明快な答え。確かに、レインは復讐のためとはいえ、死にもの狂いで努力をしていた。同じその気質を、レオは感じ取っていたようだ。

 努力することでさらに自分自身を磨く。これまでも出来ていたのだから、これからも大丈夫。それに今度は目的が違う。復讐ではなく、大切な人たちを絶対に守りぬくためだ。そう自らの心にレインは言い聞かせた。

 思いを固めたその様子に満足したのか、レオは感覚を前方へと集中させた。

 森を抜けて快晴の空の下、サノゼに向けて広大な大地を駆け抜けていった。





     ※






 四強、『シノン・ヴァーンスタイン』はサノゼに設置された司令部に立っていた。

 街の中でも少し高めの場所にある公園に陣取っているため、遠くまでよく見渡すことができる。

 その司令部の中を慌ただしく動き回る団員たち。始まろうとしている決戦に備え、各部署において最終確認が行われている。

 緊迫した空気が張り詰める中、司令部に汚れた技術開発局のメンバーが到着した。


「シノン局長、侵攻ルートへの地雷の設置完了しました」


「ご苦労。俺がいない間、手間をかけさせたな。すまない」


「いえ、シノン局長が戻ってきてくれたのなら百人力ですよ」


 そういって自らの担当する部署へとメンバーは去って行った。

 大地が揺れている。南の遠方にはもうすでに歪な笑顔を浮かべる灰色の巨人の姿が見えていた。

 閉じ込められている間のことを現場にいる団員から聞いていたシノンは、苛立ちと悔しさを押しつぶすように拳を握った。

 これ以上の好き勝手を許すことはできない。ここで確実に絶望邪神像を討ち取る。この迎撃作戦に参加する団員や関係者は心を1つにしていた。

 静まり返るサノゼ。その中で各部隊を共有方陣で繋げ、指揮を執るエイブラハムが呼びかけた。



「レオとアルフレッド、そして新戦力が来るまで持ちこたえるぞ。各部隊、攻撃準備に取り掛かれ!」



 世界を混乱に陥れた絶望邪神像との最後の決戦の火蓋が切られた。

 サノゼの前方と西海岸ラインに展開された戦車部隊。その照準を近づいてくる絶望邪神像に合わせる。

 遠距離大規模術式を行使するために、それを担当する団員たちが同調を開始していく。司令部からも、街の中に術式の光を確認することができた。

 その進行速度を落とすことなく、絶望邪神像はサノゼに向けて歪なその笑顔が振り撒きながら走り続ける。その顔からの呪いの対策は十分にできているが、不気味であることに変わりはない。

 

「では司令、俺は先行して叩きます」


「うむ。頼んだぞシノン」


 シノンは司令部から転移した。街からかなり離れ、浮遊術で移動しながら絶望邪神像との距離を詰める。

 格納方陣の中から電磁砲を選択し、その先端部分だけを出して空間に固定する。そして、挨拶代わりの強烈な一撃を絶望邪神像に叩き込んだ。

 障壁をいとも容易く突き破り、歪な笑顔の顔と脚部を吹き飛ばす。激しく転倒した絶望邪神像は、すぐに再生するとその顔をシノンへと向けた。



「予想していたよりも脆いな」



 その顔の向こうには先ほど1門しかなかった電磁砲が、20門に増えていた。

 轟音と強烈な砲撃の雨が灰色の体を吹き飛ばしていく。遠くからでも分かるその光景に、見ていた者たちが歓喜に沸いていた。

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