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第四十九話 嵐

 リリィとアリーシャは息の合った連携でログネスを翻弄している。攻撃を適度に行いつつ、確実にその視線を引きつけ続けるその戦闘はログネスを苛立たせていた。

 その様子を確認しつつ、2人は送魂銃に力を注いでいく。かなりの容量があるが、聖人を超えてさらに魔力精製能力と存在の力を増大させた2人には特に問題はなかった。

 新たな姿がどんなものなのかが少し気になるが、今はログネスの耐性を超え、エルシンの結界も吹き飛ばす一撃を放つために精神を集中させる。


(これないら行けそうだな、レイン)


(ああ。だが、油断は禁物だ。全力で行くぞ)


 集中していく中、2人は周囲が薄暗くなり始めているのに気づいた。雲で覆われる空とは別の現象による強風が吹き荒れ始めていた。

 エルシンと今戦場となっている道路を円形に囲むようにして突風の壁が出来上がっていた。吹き荒れる強風以外にも、強烈な雨も降り始める。

 この嵐はログネスをここで仕留めるという2人の思いが生み出したものだった。自らの能力が含まれる風と雨を意のままに操れることに気づき、2人はログネスの動きを妨害し始める。


「何だ、何だ、何だ、何だこれは! 貴様ぁ! 本当に人間か!?」


「そのセリフ、そのまんま返すよ」


 危険を察知したログネスは、リリィとアリーシャを押しのけて周囲の空間を歪ませる。そこから放たれたはずの光線は暴風雨によってかき消された。

 特殊結界は無事なのだが、あらゆる魔術や術式が無力化されてしまう現状に、焦りを見せたログネスは周囲にいる2人を捕えようとした。しかし、その間に割って入るように数発の落雷が発生した。

 暴風雨と落雷の援護を受けながら、リリィとアリーシャは2人の下へと戻ってきた。人の姿になっているが、様変わりしているその様子に少女たちは驚いている。


「また変わったんだね、2人とも。何かすごいことになってるから、写真撮っておくね」


「おう、頼むわ。自分でも気になるけど、見れないから助かる」


 2人の前に回り込んだリリィは、懐から取り出した携帯電話でその姿を撮影した。その数mさきの道路上では、身動きの取れないログネスが苦悶の声を上げていた。

 暴風雨によって身動きが取れず、かといって無理矢理にでも動き出そうとすれば結界を貫通するほどの威力の落雷が降り注ぐ。すでにログネスはその場から一歩も動けなくなっていた。

 悔しさを滲ませながら、今までに見たことのない形相で2人を睨み付けていた。それを見て一瞬2人は身震いしてしまう。


「この私がこんな……、劣悪種如きの力で……!」


「諦めろログネス。お前の負けだ」


「負ける……? この偉大なる血族の私が……? ありえません、あってはいけない、ありえるはずがない……!」


 自分の敗北を受け入れることのできないログネス。この絶望的な状況下においても、その高いプライドが失われることはなかった。

 2人は限界近くまで溜め込んだ送魂銃の銃口をゆっくりとログネスへと向け、引き金を引いた。




 

 撃ちだされた光球は、巨大なものではなかった。9m弾ぐらいの大きさの弾丸の形をしたそれは、半分が緑、もう半分は青で構成され、いくつもの光の輪を纏っていた。

 一直線に飛んでいったそれは、ログネスの胸部を貫き、エルシンの結界を貫通した。

 これが世紀の大犯罪者の最後。自らの一族が正しいと信じぬいた狂信者であり、防御術と防御兵器に関しての天才でもあった男が世界から消え始める。

 胸部の光り輝く穴を中心に、体全体が光の粒子となって分解がはじまる。エルシンの結界も、その展開した主と同様に消滅し始めた。


「ああ……、消える。この私が……、偉大なる一族の私が……」


 劣悪種にとって大罪人である自分を許すかのようなその温かな光の粒子が、ログネスは嫌で嫌でしょうがなかった。

 汚らわしいその光の粒子へと分解され続ける。ログネスは消える間際に、最後の力を振り絞って生涯追い求め、尊敬していた存在の名をつぶやいた。


「アダムス……様」


 やがて、ログネスとエルシンの結界はその全てが光の粒子となって、新世界から完全に消滅した。






     ※






 無事に終わったとは言えないが、エルシンの結界の解除に成功した。安堵のため息をついた2人は共鳴を解除し、ウィンとレインに分離した。

 先ほど巻き起こした嵐の影響のためか、空を覆い隠していた分厚い雲はどこかへ行ってしまった。首都と同じような快晴が広がっている。

 とりあえず一段落。そう思ったウィンに、リリィが青ざめた顔で言った。


「ウィン……! ブレスレットから感じる力がほとんどないの! クラン姉が、クラン姉が大変……!」


「……嘘だろ。まさか突破されたのか!?」


 お揃いのブレスレットからの反応が薄い。すなわちクランに何かがあったということ。緩んだ空気が一変し、緊迫したものへと変わる。

 すぐにアリーシャが首都に連絡を取ろうとしたところで、見知った顔が道路に転移してきた。


「ウィンさん、皆さん、結界の解除お疲れ様です。ですが、同時に緊急事態をお知らせに参りました」


「ウィー!」


 相も変わらずの無表情なウィルソンがやってきた。顔は変わらないが、焦っているのが感じられる。

 その場にいる全員が知らせを聞くためにウィルソンに注目する。



「アナリスを突破した絶望邪神像が首都に向けて侵攻中。あともう少しでサノゼに到達します」

 


 絶望的な知らせにウィンたちは絶句した。今からまた共鳴して動き始めたとしても、絶望邪神像が首都に到達するまでに戻るのは不可能だった。

 危険を覚悟でアリーシャに転移で連れて行ってもらうことをレインが考えた。その提案を口に出そうとしたが、先にしゃべりだした声に遮られる。



「じゃあ、俺は先に行って足止めしておく。お前らも早く来い」



 ウィンとリリィの2人は聞いたことのない声だった。一体誰なのかと周囲を見渡すと、サングラスをかけ、分厚いコートを身に纏う青髪の男性がいた。その背後には長身の男性がさらに2人。

 見知らぬ存在にウィンは声をかけようとしたが、即座にレインやアリーシャたちがその男性に敬礼したので止めた。これは結構偉い人だと察して、遅れてウィンとリリィも敬礼をする。

 男性はそれに応えて敬礼するとすぐに転移して行ってしまった。その後ろにいた黒髪をオールバックでまとめた男性が笑顔でこちらに向けて問いかけてくる。


「あの結界ぶっ壊してくれた猛者はどこかなー?」


 それに応じてウィンとレインが手を上げる。2人を見た男性は笑顔のまま近づいてきて、肩を叩いた。


「マジで助かったわ。『レオ』と一ヵ月間ずっどぶん殴り続けたのに壊れなかったんだよあれ」


「止めておけ『アル』2人とも戸惑ってるぞ」


 やれやれといった感じで眼鏡をかけた銀髪の男性が近づいてくる。2人ともかなりデカい。190cm程の身長に、鍛え上げられたその体格は見る者を圧倒していた。

 最近になって取り戻した記憶を総動員してウィンは目の前の2人の名前を思い出そうとする。偉い人ならば、昔の自分も知っているはずだ。

 しかしながら思い出せない。思い切ってウィンは男性2人に問いかけてみた。


「お2人の名前は何て言うんですか?」


 その問いかけに男性以外の皆が凍り付く。やってしまったかと冷や汗をかくウィンに、黒髪の男性は笑いながら答えてくれた。



「俺は『アルフレッド・ヒューストン』。気軽にアルって呼んでくれ」



 差し伸べてきたその手をウィンは握り返した。続いて銀髪の男性も手を差し伸べてくる。



「私は『レオ・ガーフィールド』。よろしく頼むよ、青年」



 握り返したと同時にウィンは自分が凄まじい過ちを犯したことに気づく。この人たちは、カダリアに住む人であれば絶対に知っている人物だ。

 アルフレッドとレオはあの四強のメンバーであることを思い出したウィンは、申し訳なさからくる震えが止まらなかった。


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