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第四十八話 悲願

 聖人へと変身した2人はその憎たらしい顔に向けて、迷うことなく拳を繰り出した。しかし、それは眼前の特殊結界に防がれる。

 驚愕する2人の様子に、ログネスは気持ちの悪い笑みを浮かべながら、取り出した杖で殴りかかってきた。

 予想以上の衝撃をもろにくらった2人は弾き飛ばされた。路面に叩き付けられつつ、何とか体勢を立て直してログネスを睨み付ける。

 

「無駄ですよ。『今』ここにいる私に、あなたたち2人の能力は効きません」


「お前……、本当にログネスなんだな?」


「ええ。正真正銘、ログネスですよ。あなたたちのお陰でこうして立っていられるのです」


 見た目と口調は間違いなくログネスなのだが、その魔力の総量は施設で会った際の何倍にも膨れ上がっている。身体強化術を行使しているその細身の体も、凄まじい力を有していた。

 別人としか思えないその様子にその場の全員がは驚きを隠せずにいた。それをみたログネスはとても満足そうにしていた。

 笑みを浮かべながらログネスは手に持っていた杖を路面に叩き付けた。そこからせり出した黒い棘の波が襲い掛かってくる。

 能力を使って無力化しようとした2人だったが、不気味に笑うログネスに危険を感じ、飛び上がった。リリィたちの後に遅れる形で空中を舞った2人の足を波から飛び出してきた棘が貫いた。

 激痛の中で着地した2人は貫通した棘を抜き去り、傷を自らの自己修復能力で治した。


「対策してしまえばこんなものですか。恐るるにたりませんね」


 そういって高笑いするログネスは、2人に杖の先端を向ける。その先の空間が歪んだと思った次の瞬間、そこから真っ白な光線が放たれた。間一髪で避けた後ろで、光線が直撃した無人の車両が爆散した。轟音と熱が伝わってくる。

 間髪入れずにログネスは横一文字に杖を払う。周囲の空間が大きく歪み、数十発の光線が放たれる。その攻撃は2人に対してだけでなく、リリィたちにも向けられていた。

 光線の雨をぎりぎりで避け続けるが、対応しきれなくなったカーネルの腹部を貫いた。バランスを崩したその体を目に見えない何かが掴む。


「まず1匹」


 そうつぶやいたログネスが杖を大きく振りかぶると、カーネルは悲鳴を上げる間もなく遥か彼方へと吹き飛ばされていった。

 

「カーネル!!」


 もう見えなくなってしまった部下の名をアリーシャが叫んだ。悲痛なその声を聞いて、ログネスは満足そうに笑った。

 ようやく光線がやんだ時には周囲からは溶解した様々な物の臭いが充満していた。圧倒的な強さを見せつけるログネスをその場にいる全員が睨み付けていた。

 

「一体何がどうなってるんだ、お前は施設で消滅したはず」


「あなたたちも理解できていない分離現象。そこから得られたデータで、私がかねてから研究していた『分体術』を完成させました。ギリアムがあなたたちを試しているときにね」


「分体術……?」


 2人の問いかけに嬉しそうにログネスは答える。


「魂を複製し、新たに作り上げた体にそれを取り入れることでもう1人の自分を生み出す術。完成時にここへ転移するように設定しておいて正解でしたね。今あなたたちの目の前にいる私は戦闘に特化し、あなたの能力に耐性を持つ完璧なログネスなのです」


 そういってログネスは自らの体を見せびらかすように、その場で回り始めた。


「新しい私の姿はどうですか! 完璧でしょう! この体があれば以前の体は不要。ですので前の私はあんなにも簡単に自害したのですよ!」


 楽しそうに回り続けるログネスに全員が苛立つ。だが、唐突に止まったと思えば今度は天に両手を掲げて懺悔し始めた。


「ああ……、この体がもっと早くに完成していれば全てがうまくいったものを。お許しください、アダムス様。せめて私の悲願達成の邪魔をした憎たらしいあの2人を完膚なきまでに叩き潰すことで償いとさせてください」


「……悲願?」


 施設でも言っていた、一族の悲願。それを疑問に思った2人は口にした。

 すると、真っ赤に血走った目を2人に向けてログネスが語り始めた。



「我が一族の悲願!! それは、寿命を迎えたこの世界の消滅!! 劣悪種の手によって転生し、存在し続けるこの世界に天罰を下すのです!!」



 手に持った杖の先端を再び2人に向けた。光線が来るかと身構えたが、空間が歪むことはない。

 感情を抑えきれない様子のログネスは、そのまま熱く語りだす。


「我ら魔術師が統治し、創造主の御心のままに世を動かすことが最善にして最良! 終焉の予言が出た時点でそれに従うべきだった! この世界は滅ぶべくして滅ぶのです!」


「なるほど、だからお前は絶望邪神像を生み出したのか」


 その2人の言葉を聞いた瞬間、ログネスの顔は真っ青になった。力を無くしたようにその腰を折り曲げ、頭を下へと垂れ下げる。

 

「あれは私の流儀に反するので使いたくはありませんでした。今回の計画の道具の1つでしかありません。進む先を蹂躙していくその様は劣悪種そのもの。美しさの欠片もないではありませんか」


 ぶつぶつとつぶやくログネス。その声からはやる気が全く感じられなかった。

 先ほどの熱弁していた時とかけ離れているその様子に、全員が戸惑う。


「だから私は最大級の慈悲の心を持ち、私自身がこの世界を統治することで、苦しむことなく安らかに消滅させようとしたのです。絶望邪神像は憎き脳筋猿2匹を打ち倒し、私が救世主と崇められるための演出の道具でしかなかった。そうなるはずだった。そうであるべきだった!」


 ログネスは再び真っ赤に血走る目を向けてくる。先ほどの弱々しい面影はどこにもない。

 

「あなたたちさえいなければ、私の計画はうまくいった! 奴を最大限に使う必要もなかった! アダムス様の最高傑作の1つとはいえ、使いたくなかったんですよ! 私はぁ!」


 喚き散らすログネス。情緒不安定なその様は、狂っていると断言できるほどだった。

 感情のままに表情と態度を変化させるログネスの体内の魔力に、異常な変化が起きていることに2人は気が付いた。

 もしかしたら、分体術が体と魂そのものに何か悪影響を与えているのかもしれない。少なくとも、施設で見たログネスより、目の前にいるログネスの方がおかしくなっているのは目に見えて明らかだった

 杖を路面に落とし、金髪の頭を両手でぐしゃぐしゃにかき乱す。


「魔力と負の念を限界まで溜め込んだ絶望邪神像は、大爆発を起こしてこの世界を消滅させます! ああ、何と醜い世界の終焉! 私が私の私によって導いてやれたものを! 全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て、全てぇ、あなたたちの責任です!」


 本格的におかしくなってきたログネス。自ら髪の毛をつかみ取り、強引に引き抜く。その髪を周囲にばら撒き、踏みつける。

 絶叫しながら杖を手に取り、それを振り回す。いくつもの術式が発動し、周辺を無差別に攻撃していく。


「ですがぁ! まだです! ここであなたたちを排除し、私は私が私による私のための計画を再開するために奔走します! この世界は美しく消し去ることが私の慈悲、慈愛ィィィィ!」


 四方八方に飛んでいく攻撃に耐えられなくなった道路が崩壊していく。2人はリリィたちとともにまだ健在な一般車両道路の方へと退避した。

 崩落した道路が大地に降り注ぎ、凄まじい土煙を上げる。その中でログネスはまだ絶叫を続けていた。


「まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、終われません! 悲願を! 私による美しい悲願をォォォォ!!」


 土煙の中から飛び出してきたログネスが2人に向けてその杖を勢いよく振り下ろす。それを両手で受け止めた2人の足元に、衝撃波によってクレーターが生まれる。

 血走ったログネスの目を見据える。その目には、自らを追いつめた憎むべき青年の姿が映っていた。

 苦しみもなく、安らかに消滅させるといっておきながら、絶望邪神像を生み出して世界をめちゃくちゃにした。道具だと言っていたが、それを使っている時点でログネスはもう許されない存在になったのだ。

 それに、魔術師や創造主が絶対だとし、それ以外に生きる人々を劣悪種と呼んで差別するのも間違っている。一歩でも道を外れれば、ログネスもその劣悪種に含まれることになったかもしれないのに。

 2人はログネスの杖を握り、思いっきり投げ飛ばした。その杖を握ったままのログネスは、経路案内の看板にぶつかりながらも空中で制止した。

 世界が滅ぶということは、人や生物が死に絶えるということ。何も感じられず、何も考えることができなくなる。滅ぼす権利は誰にもないはず。滅ぼす必要もないはず。

 そう考える2人の目の前で、ログネスは感情を垂れ流しながら気持ち悪い笑みを浮かべる。


「私の私が私による世界の破滅! 滅びる、滅ぼす、滅ぼされる、滅ぶべき、偉大なる魔術師の、ロンギヌス家の血を継ぐこの私がぁ!!」


 例えウィンとレインの2人を倒すことができても、まともな思考回路を持たないログネスには世界を統治することは不可能だろう。

 それでも、圧倒的な力を行使し続けるログネスを止めるため、2人はさらに意識を集中していった。やがて、白い異形である2人の体を光が包み込んだ。




 世界の、人々のために目の前のログネスを倒すという決意が、2人の姿をさらに変化させた。

 光が消えた先にいたのは全身から光を放ち、真っ白に発光する髪に青と緑の目の輝きを増した2人の姿があった。

 すぐさま格納方陣から取り出した新型の送魂銃の銃口をログネスに向ける。1割ほど溜まったところで2人は引き金を引いた。

 巨大な光球が青と緑の光を纏いながら飛んでいく。直撃とともに大爆発を起こし、ログネスの断末魔が周囲に響き渡る。

 爆発は周囲の物やリリィたちには害を与えていない。その圧倒的な威力が効いているのはログネスだけだった。


「終わりません、終わらせません、終われません、終わらない! 殺す、必ず! あなたたち、あなたたち、あなたたち、あなたたち、あなたたち、あなたたちを!」


 ぼろぼろになった体を修復させながら、ログネスは叫ぶ。再び宙に浮くそれに銃を向けると、2人の目の前にリリィとアリーシャが立った。


「ウィン、どれだけ溜めれば大丈夫そう?」


「3分も溜めればログネスとエルシンの結界を同時に吹き飛ばせると思う」


 リリィの問いかけに、ウィンが素早く答える。


「私とリリィで時間を稼ぐ。レインは力を溜めるのに集中して」


「了解。絶対に無茶はするなよ」


 レインの言葉に、アリーシャは頷いた。

 少女2人は宙に浮くログネスを睨み付けた。その様子が気に入らなかったのか、ログネスはその2人を攻撃対象に変えた。


「女狐と小娘が調子に乗るなぁ!!」


 もはやその頭の中に優先順位をつける余裕は残されていなかった。自らに盾突く者全てに攻撃をするその見た目は、血に飢えた獣のようだった。

 振り下ろした杖から発生した風の刃を搔い潜り、リリィとアリーシャはログネスに向かっていった。


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