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第三十八話 共鳴

――新暦195年 7月 20日(水)

  首都『フォルニア』・地下施設最深部付近

  11:50



 薄暗い通路の中をウィンたちは進んでいた。もう下水処理場の入り口から入ってから40分が経過していた。

 道中において、先行した者たちが解除した罠や倒した怪物たちの死骸が積み重なっていた。今のところ新たに何かが襲ってくるという気配はない。

 終わりの見えない施設の中を進んでいく中で、最も気がかりなのは先行した者たちへ回線が繋がらず、こちらに対しても繋げてこないということ。この先で何かあったのかもしれないという焦りが、ウィンたちの歩を速めていた。

 

「……! レイン、これって……!」


「俺も感じた。急ごう!」


 違和感を真っ先に感じ取ったのはアリーシャとレイン。この先で多くの団員が倒れているのを感じたのだ。全員が走ってその現場へ向かう。

 たどり着いた場所はかなり開けた場所だった。壁の方には先行した団員たちが倒れている。奥の方には大きな扉があり、その目の前にサングラスをかけた大柄の男が立っていた。

 オールバックの白銀の髪。鍛え上げられた肉体。尋常ではない存在感を放つ男は、ゆっくりと口を開いた。



「来たな。ウィン・ステイシー、レイン・クウォーツゲル」



 いきなり名を呼ばれた2人は驚く。もちろん2人は男のことは全く知らない。

 戸惑う2人の横で、カーネルが驚愕の表情で男の名を言った。


「ギリアム・ウォーケン!? 何故ここに!」


「サノゼの商店街で戦ったカーネルか。君には用はない。下がっていろ」


「貴様……!」


「駄目、下がってカーネル。この男、私たちがどうこうできる相手じゃない」


「しかし、隊長――」


「いいから下がって」


 アリーシャの警告に従い、カーネルは渋々引き下がった。だが、その目はギリアムから離れることはない。

 圧倒的な威圧感を消すことなく、ギリアムが要求してくる。


「俺はウィンとレインの2人に戦いを挑みに来ただけだ。安心しろ、壁の方で倒れてるのは誰も死んでいない」


 ギリアムの言う通り、壁のところで倒れている団員は全員気絶しているだけだった。しかし、防衛兵団の精鋭である彼らが太刀打ちできなかった時点で、凄まじい戦闘力を有しているのはすぐに理解できた。

 緊迫した空気が流れる中、ウィンとレインがギリアムゆっくりと近づき始めた。リリィとアリーシャが止めようとするも、ギリアムの眼光が彼女たち止めた。

 開けた場所の中央に立ってギリアムに向き合う。ウィンは足の震えを必死に抑えながら、問いかけた。


「ギリアム。戦うとか言ってたけど、こっちも全力で行っていいのか?」


「いや、最初は同調せずにかかってこい。色々確かめたいことがあるんでな」


「そうかい」


 その返答を聞き、ウィンはレインに目で合図を送る。その後即座に空中にオロチを展開した2人は、烈火を両手に持ってギリアムへとまたたきで急接近した。

 同時に振り下ろされた烈火の刃はギリアムに触れる直前で見えない何かに防がれた。まるで何かに掴まれているようで、烈火を引き離すことができなかった。

 2人は舌打ちするとオロチでギリアムの周囲を取り囲んだ。16丁の銃口が向けられるが、ギリアムは平然としている。その余裕の態度に恐怖しながらも、オロチの全方位攻撃を行った。

 しかし、その攻撃の全てがかき消された。2人が驚愕すると、ギリアムの強烈な拳の一撃が腹部に叩き込まれた。張っていた障壁を易々と貫通したその攻撃をくらって、2人は弾き飛ばされる。

 飛びそうになる意識を全力で留める。その様子を見たギリアムはため息をつきながら告げた。


「素のままではこの程度か。よし、次は同調してかかってこい」


「マジかよ。ここまで差があるなんて……」


「やるしかないか。ウィン、同調だ」


 ギリアムの要求通り、2人は同調を開始した。すると、2人の体が光り輝いて1つになっていく。同調が完了した時には2人の体は再び1つになっていた。

 しかしながらその見た目には僅かな違いがあった。右目が青、左目が緑となり、そのどちらも透き通るように綺麗だった。

 その様子に本人たちとそばで戦いを見守るリリィたちが驚いていた。ギリアムは興味深げにその姿を見ている。

 何がどうなったのかよくわからないが、心の底から無尽蔵に力が湧いてくるのを2人は感じた。これならばいけるかもしれない。

 両手にしっかりと烈火を握り、周囲にオロチを展開する。ギリアムも先ほどのただ立っているだけの状態から、静かに戦闘態勢に入った。

 先に動いたのはギリアム。目で追うことが不可能な速度で急接近し、その拳を再び腹部に繰り出した。しかし、その拳は強度を増した2人の障壁に阻まれた。

 2人の蹴り上げを身を後方に反らすし、寸でのところで避ける。体勢の崩れたギリアムに、烈火を振り下ろす。


「!?」


 あり得ない体勢からの回し蹴り。予想外の攻撃に対処できず、障壁を張ったまま弾き飛ばされて2人は壁に激突する。

 支えがあっても絶対にあの体勢で回し蹴りなんてできないはずだった。もしできてもその威力はたかが知れてる。しかし、ギリアムは繰り出してきた。その威力の大きさに2人は混乱していた。

 牽制で放ったオロチの攻撃は全て同じように手前でかき消される。平然としているその様子を見て、レインはつぶやいた。


「まさか、『二大闘技にだいとうぎ』?」


「ほう。感が良いなレイン。その通りだ」


「え? 何それ?」


 聞き覚えのないその単語に、ウィンは自らの体のレインに問いかけた。


「四強の『レオ』と『アルフレッド』だけが使うことのできる特殊な2つの闘技、『流動りゅうどう』と『砕動さいどう』。レオとアルフレッドが世界最強と呼ばれる所以の1つ」


「……それってもしかしなくても、かなりヤバくないか?」


「ヤバいどころじゃない。絶望的だ」


 自らの周囲の魔力を自在に操り、時には攻撃に、時には防御に転用する万能闘技が『流動』。ありとあらゆる物を原子レベルで破壊し、塵の1つも残さずに消滅させる波動を送り込む凶悪闘技の『砕動』。

 使いこなせれば圧倒的な力として振るうことができるが、異常と言っていいほど制御が困難であり、現在世界中でその2つを使っているのは四強のレオとアルフレッドだけ。しかし、目の前にいるギリアムはそれを難なく使っているのだ。

 勝てるわけがない。絶望に叩き落されるウィンとレインだったが、まるで助言するようにギリアムが語り掛けた。


「レインであれば知っているはずだ。この二大闘技の弱点を」


「……対する相手が自分以上の魔力精製能力があった場合は、機能しない。だが、それを扱えている時点で使用者は凄まじい精製能力を持っているはずだ。お前も――」


「俺は先ほど回し蹴りに砕動の波動を含ませていた。これだけ言えば分かるだろう?」


 その言葉を聞いてウィンとレインは理解した。自らの精製能力がギリアムを上回っているということを。

 しかし、敵であるこちらに対して何故それを教えてくるのか2人には理解ができなかった。舐めていると考えればそれで終わりなのだが、そういった感じはギリアムからは感じ取れない。

 混乱する2人。ギリアムは完璧に混じり合い、圧倒的な魔力精製能力を維持する2人の体を隅々まで観察していた。



「同調というよりも、『共鳴きょうめい』とでもいうべきか。繋がって補うのではなく、お互いに魂を奮い立てることで無尽蔵に魔力を生み出す。……予想を遥かに超えていたな」



 感心しているようなその口ぶりに、2人は戸惑った。というか、戦闘が始まってから2人はギリアムから本気の殺意も邪気も感じていなかった。まるでこちらを試しているような気がする。

 しかしながら、本気を出さねば死ぬということは間違いない。先ほどの回し蹴りも、同調、共鳴していなければ死につながる致命傷になったはずだ。

 身構える2人。それに応えるようにギリアムも静かに体勢を整える。静まり返った後、ギリアムが小さくつぶやいた。


「後もう少し相手をしよう。お前たちの力を見極める」


 その後、流動を利用した高速接近で一気に距離を詰めるギリアムに、2人は烈火を振り下ろした。

 硬質化した右腕でギリアムは烈火を受け止めた。膨大な魔力を宿した赤熱した剣が、その肌を焦がす。左腕でそれを弾くと、右足の蹴り上げが2人を襲う。

 間一髪で避けた後、2人は反撃が飛んでくる前に徹底的に強化した左足の回し蹴りを繰り出した。それを空中で流動を利用して体を捻ったギリアムが左足で受け止め、衝撃を最小限に抑えつつも弾き飛ばされた。

 初めてまともな攻撃が通ったことに2人は喜んだ。圧倒的な強敵だが、こちらもそれに対するには十分な魔力は持っている。逆にこれは自らを鍛え上げるチャンスだと、2人は自らの心に言い聞かせる。

 烈火の剣先をギリアムに向け、2人は言った。


「見極めるどころか泣かせてやるよ、ギリアム」


「ウィンほど大層なことは言えないが、簡単に倒せると思うな。とでもいっておこう」


「……いい気合だ。では全力で行かせてもらおう」


 その後、再び2人とギリアムはぶつかり合う。彼らの戦いは、地下施設を激しく揺らしていた。

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