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第三十七話 風と雨

「ウィン、烈火とオロチは?」


「ちゃんとあるぞ」


 ウィンとレインはお互いの格納方陣から武器を取り出す。左手に送魂銃、右手に烈火2本、空中に8丁のオロチ。格納方陣の位置、所持している武器の個数も完全に一致している。

 武器を収納した後、まさかと思いレインはアリーシャからもらった婚約指輪を取り出してみた。ウィンはそれを取り出そうと自らの格納方陣を探った。


「……あ、指輪はないな」


「それは分裂してないんだな」


 一体なぜこんなことになったのか、原因が全くわからない。ウィンとレインは精神も体も完全に分離していた。

 その本人2人も驚いているが、周囲も驚きを隠せていない。混乱する中で、ウィンが口を開いた。


「えっと……、その……、なんだ。ということは、もう1つの体に縛られることはないってことなんだよな?」


「そう……だろうな。別人だし、体分かれてるから」


 レインのその返答を聞きくと、ウィンはリリィの方へと近づいていった。

 何が起きているのかまだ把握できずに目を点にしているリリィの肩に、優しく両手を置く。少し屈み、ウィンはリリィの目を見つめた。


「リリィ。俺、ウィン。分かるよな?」


「うん。ちなみに私が通ってる学校の名前は?」


「国営プレザント医術高等学校」


「オムドゥールさんの家の長男は?」


「アランさん」


 リリィの質問の全てを一切時間を置かずにウィンは答えていく。そのどれもがウィンであれば答えられるものだった。

 思い人が目の前にいることを実感したためか、リリィは自分でも気づかないうちに瞳を潤ませていた。その頬に触れて、ウィンが目の前に確かに存在していることを再確認する。

 こうして触れることがもうできないと思っていたリリィは感極まりそうになるが、それよりも早くウィンがその小さな体を抱き上げた。


「やったぞリリィ! これなら一緒にいられる! リリィの飯も食える! ディアンに帰れる!」


「ちょ、恥ずかしいよウィン! お、下して~」


 抱き上げたままウィンはその場をぐるぐると回る。恥ずかしがっていても、リリィの顔は満面の笑みだった。その2人の様子を周囲は微笑ましく見守っていた。

 もう1人の自分が喜ぶその姿にレインは安心していると、アリーシャが声をかけてくる。


「嬉しそうだね2人とも」


「ああ」


「……レインはやってくれたりしないの?」


「え゛。で、でも恥ずかしくないか、あれ。皆も見てるし……」


「じゃあ、2人っきりになったら何かしてくれる?」


「……ああ。約束する」


 積極的なアリーシャに戸惑うレイン。その困った様子が面白かったのか、アリーシャは笑っていた。

 同一人物のはずなのに、こうも違いがあるのことに周囲は驚いていた。

 興味深そうに2人のことを見ていたツバキとランが、お互いに意見を出し合っている。


「レインがクールタイプなら、ウィンは陽気なタイプね」


「見た目ほぼ同じだけど、雰囲気でわかるから判別しやすい」


「2人はもう分離したことに対してではなく、そちらに興味がいっているのか」


 判別のことで相談する2人にユウキが突っ込みを入れる。もはや分離のことはそこまで気にしていないようだ。

 話しを続ける中で、ツバキはカーネルが悟ったような顔をしているのに気が付く。その視線の先は仲睦まじき様子2人、特に笑顔のアリーシャに向けられている。

 ツバキは実体化した手を優しく肩に置く。そして慰めるように言った。


「諦めなさい。いつかもっといい人と巡り合えるわ」


「分かっています。ですが、せめて最後にあの幸せそうな顔を拝んでおきたいのです……!」


「いくらでも拝んでおきなさい。それであんたが救われるなら」


「ツバキさん……!」


「頑張りなさい。新たな恋を目指して!」


「……はい!」


 悟ったような顔はツバキの言葉で覚悟を決めた勇ましい表情に変わる。ツバキとカーネルの割とどうでもいい結束が新しく誕生した。

 この広間において分離したという驚くべき現実よりも、それによって救われる4人の喜びの方が大きくなっていた。

 賑やかな広間だったが、アリーシャの無線機からの声ですぐに静まり返った。


『アリーシャ、聞こえる?』


「はい、聞こえてます。回線が繋がってるってことはもしかして……」


『そのまさか。守護方陣が吹き飛んだの。たぶんそっちで一悶着あったときの余波の影響だと思う。透視術で施設内部確認した結果、そっちの入り口はダミーだってわかったわ。こっちから情報送るから待ってて』


 その指示の後、アリーシャが格納方陣から取り出した端末に情報が送られてきた。端末から空中に浮かび上がったホログラムが施設の8割ほどを表示する。


『既に障害が発生してて、施設内部では転移術が使えない。だから、ログネス邸から随分離れたところになるけど、首都の北東にある下水処理施設に隠された入り口があるからそこから入ってきて。私たちは先行して、まだ判明してない最深部の方に行ってくるわ』


「了解しました。気を付けてください」


『わかってるわ。それじゃ』


 回線が途切れ、ホログラムに下水処理施設と施設の入り口の位置が表示された。各々がそれを確認すると、移動のための準備を整える。

 ここをダミーで使ったということは、レインの排除が目的だったのだろう。だが、その戦いが発生せずに変身をしなかったら違う場所の入り口が見つからなかったかもしれない。結果的には良い方向へと向かうことになったのだ。

 散らかった広間から準備の整った者から出ていく。最後に残ったのはレイン。あの男が、ロンたちが消滅した場所を見つめる。

 あんな状態になっていたら、もう救うことはできなかった。仕方がないと自らに言い聞かせるレイン。そんな悔しそうな姿に、気になって戻ってきたウィンは元気づけるように言った。


「あいつら、最後は嬉しそうにしてたじゃんか」


「……ああするしかなかった。あいつらの分も、頑張らなくちゃな」


「だな。後に引くことは、俺たちには許されない。やれることを精一杯やっていこう」


「……何か不思議だ。心の中では話してたけど、こうして現実で自分自身と話すっていうの」


「そうか? 俺はもう慣れたけど」


 そういってウィンはレインに笑顔を見せた。自分自身だけど違う、頼もしい存在にレインは勇気づけられた。

 何故分離したかは後でわかるはず。今はログネスを追いつめることが重要だとして、2人は書斎へ向けて共に階段を上り始めた。






     ※






「何故ぇ……、何故にぃ……」


 作業を終え、机に突っ伏していたログネスがうわごとのようにつぶやいていた。

 最初から倒せる望みは薄いと考えていた。だが、戦闘の最中であの能力をこれまでとは比べ物にならないほど増大させるのは予想外だった。

 『第25複合体』を倒されただけでなく、施設を守り、隠していた守護方陣が変身の際の余波で消し飛んだ。ロンギヌス家が195年もの間強化し続けていた努力の結晶が、たったの一撃で消え去ったのだ。ログネスの精神的ダメージは凄まじかった。

 消えたということは丸裸になったということ。その隙を見逃さずに防衛兵団は透視術によって施設の全容を探ろうとしてきた。対処はしたが間に合わなかった。

 この最深部はなんとか予備の守護方陣を展開して守ることができたが、それ以外の部分はもう把握されてしまった。確実に近づく自らの死期にログネスは絶望していた。


「忌々しい……、脳筋猿2匹とレイン……。あいつらさえ――」


「無様な姿だな、ログネス」


 突然の声にログネスは椅子から飛び上がり、体の随所をぶつけながらも机の下に隠れた。

 早すぎる侵入。まだ守護方陣崩壊から10分も経っていない。それに先ほどこの最深部には予備を展開したはずなのに。

 

「何をしている。早く出て来い。貴様にとって悪くない話を持ってきた」


「……この声は」


 焦っていてわからなかったが、しゃべりかけてくるその声にログネスは聞き覚えがあった。

 恐らくもう聞くことはないはずのその声の主を探すため、ゆっくりと警戒しながら机の下から出て周囲を見渡した。それは机の前、部屋の中央にいた。

 ログネスは威圧感を放つその男の名を静かにつぶやいた。



「ギリアム・ウォーケン……!」



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