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第三十五話 敵地

――新暦195年 7月 20日(水)

  首都『フォルニア』・ログネス邸1階『書斎』

  10:30



『正面異常なし』


『屋上も同じく』


『2階と1階の広間も問題なし』


 

 ログネスの討伐、または確保を目的とした作戦が開始されてから10分が経過した。すでにログネス邸の各所を確保、制圧を完了している。

 首都にいる精鋭をかき集めて行われている今回の作戦。クランはアナリス防衛のために行ってしまったが、それでも十分すぎる戦力が集結していた。

 各々からの報告を耳に取り付けた小型無線機で確認したアリーシャが返答する。


「予定通り、私たちが先行します。後続が守りを固め次第、皆さんも施設内部に突入してください」


 その報告の後、アリーシャがレインに合図をした。それに頷き、レインは左右の手と周囲にオロチを展開し、その銃口の先を書棚へと向ける。

 ここに施設の入り口がある。しかし、その入り口を開くための方法が以前と変わっていたのだ。仕方なく、強行突破ということで邪魔な物の破壊作業が行われようとしていた。

 アリーシャとカーネルが障壁を張って仲間たちを保護するのを確認したレインは、最大出力のオロチの引き金を引いた。圧倒的な火力の連撃が書棚を粉微塵にしていく。30秒ほど続いた後、風の術式によって払われた塵の向こうには、青白く光る壁が姿を現した。

 レインは試しにその場にあった1冊の本を蹴とばしてみた。壁に当たった本は一瞬にして灰となる。それを確認し、オロチを収納して送魂銃を両手で握り、壁へと向けた。


(レイン、これって同調することで消費量少なくできたりしないかな)


「同調か……。存在の力も繋げられるとは聞いたことがないが」


(やってみる価値はあるんじゃねーの? 同調自体はたぶん簡単にできるだろうから、やってみよう)


「わかった。物は試しだな」


 ウィンの提案に乗り、レインは精神を集中した。自らの体の中にいる自分と波長を合わせていくと、ほとんど時間をかけずに同調は成功した。分身ともいえる存在と繋がるのは容易だった。

 2人の思いを重ね、送魂銃へと力を注いでいく。あっという間に耐久限界まで溜まった力は、銃口から光となって漏れ出している。その様子にアリーシャは心配していたが、レインとウィンに不安は全くなかった。

 

(これ、正解なような気がする)


「ああ。間違いない」


 お互いに上手くいっていることを実感しつつ、引き金を引いた。撃ちだされた綺麗な青い光球は風を纏いながら壁へと向かっていく。激突した光球は弾け飛び、壁を吹き飛ばした。壁のあった先には階段が続いている。

 安全を確認した後、障壁を解除して弱めの照明の薄暗い光の中をレインたちは進んでいった。下り続けている途中でアリーシャが声をかけてきた。


「大丈夫? 無理はしてないよね?」


「問題ない。それどころか凄まじく調子がいいんだ」


(底から無限に湧き出してくるような感じがするよ。同調ってこんなに凄いんだな)


「そう。なら、大丈夫そうかな」


 その2人の元気な返答と実際の体の様子を確認し、アリーシャは安堵していた。教会で送魂銃を使用を目の当たりにしていたので、その場で倒れてしまわないか心配しているようだ。

 実際、先ほどの放たれた一撃は教会の時のものよりさらに力が込められていた。しかし、2人は平然としている。

 やがて階段が終わり、広間へと出た。周囲を確認すると、3つの扉があった。


「レイン、入り口もそうだったけど、やっぱり内部も変わってる?」


「そうだな。前来たときはしばらく一本道だったはずだけど、ここも手が加えられてるみたいだ」


 作戦前の会議の時、依然訪れた際の施設内部をレインは話したが、入り口の時点でもう前とは様変わりしていた。

 内部経路を知っているレイン、そして第23のアリーシャとカーネル、リリィたちが先行して侵入して内部を捜索。後続と合流した後に最深部へと向かう手筈になっていた。

 扉以外には何に使われていたのか分からないガラクタが散乱している。塗料や油の臭いが混ざり、異様な臭気を漂わせている。

 レインたちはその中を進んで手分けして扉を調べてみたが、そのどれもが開く気配はなかった。試しにランがそのうちの1つに力を込めて殴りつけてみるが、扉はびくともしない。


「駄目だこりゃ。何か解除しなきゃダメな感じ?」


「とはいっても、これだけ散らかっていると何がどこにあるかもわからないな」


 ランの一言に、ユウキはため息交じりに答えながら広間を見渡すが、特にこれといった目立つ物もなければ怪しい物もない。

 全体を捜索してみるがめぼしい物は結局見つからなかった。最悪の場合、アリーシャの全力の術式でそれぞれの扉を破壊するといった案が出た。崩落の危険も考えられるので、やるとしたらそれは最終手段となる。

 進まない状況にそれぞれが焦りを感じ始めていた時だった。



「お待ちしておりました」



 広間に響き渡った男性の声。その直後、広間の中心から結界が発生し、レイン以外の者をその外へと弾き飛ばした。

 すぐさまそれに対して攻撃が行われるが、物理攻撃も魔術も完全にその結界に防がれて無力化されてしまう。


「無駄です。ログネス様の特殊結界は完璧ともいえる強度を誇りますので」


 その声の主は広間の中央にいた。真っ白な仮面で素顔を隠し、防衛兵団の軍服を着ている。

 不気味な見た目だったが、レインはその声に心当たりがあった。静かに佇むその男性に、問いかける。


「お前……『ロン』なのか?」


(え? もしかして知り合い?)


「そうだと……思う」


 聞き覚えのある声。それはレインは自らが隊長を務めた部隊の副隊長、『ロン・ワイズマン』のものだと予想した。訓練学校時代において数少ない友人であり、信頼できる男だった。

 だが、レインは混乱していた。声は間違いなくロンなのだが、その体から感じられる魔力が異様に変化しているからだ。

 警戒を続けるレインに対し、ロンだと思われる存在は返答した。


「確かに、中核となった私の声が使われていればそう思うでしょう。5分の1ほど合っている。とお答えしましょう、隊長」


 男は両拳を握ると体から同じくらいの大きさの真っ黒な4人分の分身を作り上げる。その分身のどれもが、男とは異なる体系へと変化していく。

 その変化した分身と、目の前にいる男の姿は第25に所属していた団員のものだった。レインは理解してしまった。目の前にいる存在の正体を。


「まさか、『全員』1つになったっていうのか」


「ご名答です、隊長。これも、ログネス様に歯向かうあなたを確実に排除するため」


 男は仮面を外した。そこにあったのは顔と呼べるものではなかった。中心部分に大きな黒い穴が開き、それに引き込まれるように皮膚が引っ張られている。

 その黒い穴から発せられる声は、レインに提案を持ち出した。


「しかし、『私たち』も隊長を殺すことは本心ではありません。隊長がログネス様の下に来ていただければ、戦わずに済みます。共に醜く、愚かな亜人を皆殺しにしましょう」


 第25に所属する者全員が亜人に対して強い憎しみや偏見を持った者たちで構成され、ログネスからの支援を受けていた。今考えれば、皆がログネスに対して異常とも考えられる忠誠心をもっていた。

 しかしながら、今のレインにとってログネスは自らを利用していた敵であり、許すことのできない人物だと捉えている。そんな男の下に行く気は毛頭なかった。

 警戒を解かないレインに、男は首を傾げた。


「何故なのですか。私たちと隊長の思いは同じだったはず。これまで多くの亜人を地獄へと送ってきたではありませんか」


「確かに、俺が多くの『人』を手にかけたのは間違いない。でも、これからは――」


「何を言っているのですか隊長、奴らは『人』などではありません。ただの野蛮な獣ですよ。殺して当然の『害獣』です」


 一切躊躇なく遮る形で放たれたその言葉に、レインは動揺した。男も、それについて間違いはないといった様子だ。

 揺れ動く思いを押し殺しつつ、レインは語り掛ける。


「両親を殺した犯人はログネスの指示を受けた獣魔人だった。俺が恨むべきは彼ら、亜人ではなくログネスだったんだ。お前たちの気持ちもわかるが、奴は許されない行為を――」


「ログネス様を、『奴』と呼ぶな裏切者!!」


 男の叫びが響き渡った。一斉に動き出した分身がレインに対して襲い掛かる。

 レインは迷うことなくオロチを展開して迎撃を行うが、最大出力に設定したはずのそれから放たれた一撃は何故か威力が激減していた。

 直撃はしたがその動きを止められることはできず、距離を詰めた分身の攻撃をギリギリで避けつつ『またたき』で距離を取る。

 息を荒げる男だったが、すぐに平静を取り戻した。


「確かに隊長がログネス様を恨むのはしょうがないかもしれません。ですが、それは呪詛弾を所有し続けた隊長にも問題があるのではないですか。それさえ渡していれば、ログネス様は隊長を喜んで迎え入れてくれたはずです」


(……本気で言ってんのかお前?)


「この感じは……、ああ、隊長の隠れ蓑ですか。邪魔ですから話しかけないでください」


 一方的な見解を述べ続ける男のその一言にウィンは苛立つ。


(ログネスは最初からレインを殺す気で手元に置いていた。利用価値があるって判断して、泳がせていただけで後で殺す気満々だったはずだ。レインの、そして俺の能力は間違いなく邪魔になるからな。そんな糞野郎のことを信じるってのか?)


「黙れ隠れ蓑。貴様ごとき存在する価値すらないゴミがログネス様を侮蔑することは絶対に許されない」


「ウィンはゴミなんかじゃない!」


 結界の外から男に対して怒声が浴びせられた。男がその声の方向に顔を向けると、そこには睨み付けるリリィがいた。

 その大きな狐耳を持つ姿を見てため息をついた後、男は再び顔をレインの方へと向け直す。

 

「ゴミ同士が仲良くする様子など、想像しただけで吐き気がします」


(お前は……!)


 こちらの意見を聞き入れる気は全くないその様子に、ウィンとレインは苛立つ。

 これ以上は話すだけ無駄だと判断したのか、男は分身を自らの横に呼び戻した。黒い穴が、真っ直ぐとレインに対して向けられる。


「本当に残念です。隊長のことは尊敬しておりました。ですが、ログネス様に盾突くとなれば話は別。あなたは私たちにとって排除すべき敵なのです」


 男は両手に剣を握った。分身たちも、それぞれの武器をその手に持つ。

 レインが身構えると、男と影は襲い掛かってきた。

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