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第三十四話 俺もお前も

「何故今まで黙っていたんだ。というか透視で存在がばれなかったのか?」


(いや、俺でもよくわからん。目が覚めたら口論してる2人の様子が見えたから感想言ってみたら聞こえてたって感じ)


 ありのままを話したウィンだったが、自分自身でも何がどうなっているのか理解できないでいた。

 体の主導権は依然レインが握っている。なのにも関わらず、心を通してその場にいる者とウィンは会話ができている。今までに体験したことのない不思議な感覚に2人が戸惑っていると、涙が止まったアリーシャがその様子を不思議そうに見ていた。


「……不思議な感じだね。レインの中に似てるけど本質は全く違うウィンを感じる。何でそんなに綺麗に混ざってるんだろう」


「俺に聞かれても……」


(同じく……)


 持ち前の能力の影響で感じ取りづらいレインの魔力の中に、ウィンが完璧に混ざっている。完全に体の一部だとしか感じられないのに、はっきりとした自我を持っている。

 状況が飲み込めずに、狭い部屋の中で3人は沈黙してしまう。気まずい空気が流れる中で、その部屋の出入り口が開いた。


「……ウィン?」


 その扉の向こうにいたのはリリィ。何故か防衛兵団の軍服を身にまとっている。サイズの合う物がなかったのか、少し大きめのものを着ていた。

 心配そうな表情で中を覗き込むリリィに、ウィンが話しかけた。


(リリィ? どうしたんだ軍服なんて着て)


「やっぱりウィンだ……!」


「はあ? ちょっと待ちなさいよ、何がどうなってんのよこれ」


 その声を聞いたリリィは、ウィンが生きていることを知って喜んでいた。リリィの背後からツバキが驚きつつもレインへと近づいていく。

 雰囲気と見た目はレイン。ならば中身はどうなのかと思ったツバキは、許可を取ることなくレインの体の中へと入っていった。

 少し肌寒いレインの心の中、そこにいると予想していたウィンはいなかった。周囲に声が伝わる程ならば、心の中でその存在を維持しているだろうとツバキは予想していたのだ。

 渋々外に出たツバキは、喜んでいるリリィの横に立った。その場が少し落ち着いたところで、アリーシャが説明を始めた。


「今回の作戦、リリィたちにも参加してもらうことになったの。リリィの治癒術なら十分戦闘においても活用できるし、ツバキもいる。それにあの2人もかなりの力を持ってるから、問題はないと思う」


 そういってアリーシャは扉の方を指さすと、そこには助っ人傭兵2人組の姿があった。

 顔だけを部屋の中へと向けた2人は困惑しながらも申し訳なさそうにしていた。


「入るタイミングを見失った結果、顔だけ出すことにした。ごめんねウィン。いや、今はレイン? あれ、でも声が聞こえたからウィンもいるんだよね?」


「止めろラン。ただでさえややこしいのに、余計に複雑になってくる」


 ランの少し上に顔を出したユウキが気難しい顔をしながら突っ込みをいれる。

 そんな彼らを確認した後、レインはアリーシャに問いかけた。


「何でリリィたちを参加させるんだ? 部外者でもあるし、戦力的には足りていると思うけど」


「私から司令に進言したの。もし主導権がウィンに戻ったとき、その力を引き出すためには大切な仲間がいたほうがいいと考えたの」


(なるほど。でもそれが受け入れられるってことは、アリーシャって司令にかなり信頼されてたりするのか?)


「されてるかどうかはわからないけど、最近よく司令直々の指示が出たことが多かった気がする。そのおかげかな?」


 少し考え込みながらアリーシャは答えた。その誠実さと実力は司令の目に留まる程だったのだろうと、ウィンは予想した。

 身近な存在がいてくれるのはとても嬉しかった。またリリィと一緒にいられることが、ウィンにとってなによりも嬉しい。

 レインの中でウィンが喜んでいると、リリィが静かに口を開く。


「私じゃ力不足かもしれない。でも、好きだった人のそばにいたい。その気持ちで付いていこうと思った。我が儘だと思ってくれてもしょうがないと思う」


 決して大きいとはいえないが、はっきりとしたその声には心が込められていた。


「私はウィンのことが好き。だから、できる限り力を貸したいの。今はレインでもその中にウィンがいるなら、あなたは間違いなく私の好きな人だから」


 力強い眼差しがレインを見据えていた。その目から、見た目からは考えられないほどの強靭な信念をレインは感じた。

 そして涙の跡がまだ残っているアリーシャがそれに続けるように語り掛ける。


「さっきも言ったけど、頼ってほしいの。私たちを。ウィンを。レインを大切に考える人がいるってことを忘れないで」


 少し前では復讐に捕らわれ、今は自責の念に捕らわれる心にその優しい思いと言葉がレインの心に深く突き刺さる。

 先ほど心に言い聞かせたことを、レインはさらに強く言い聞かせる。生きて世界を見続けることが自らの義務なのだということを。これからもアリーシャとともに生きることを。

 強く決意するその様子を間近で見ていたウィンは、レインに笑いかけた。


(幸せ者だよな、俺もお前も。いや、お前も俺だからこそ、同じような大切な人ができたのかもしれないな)


「……かもしれないな。本当にありがたいことだ」


 自らのことを大事に思ってくれる人を裏切るわけにはいかない。それが思い人であればなおさらだ。

 

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。これからよろしく頼む」


(俺からも、よろしく)


 深々と、レインは目の前の思い人2人に頭を下げた。顔を上げたところで、2人は笑顔で頷いた。

 その光景を目の前で見ていたツバキは感慨深そうな顔をしていた。


「両手に花。いえ、それぞれ片手に1つずつ花って感じかしら。健気ね~本当にこの2人は。こんな深読み男と能天気男には勿体ないくらいだわ」


 物思いにふけるツバキはゆっくりと先に部屋を出て、ランとユウキの近くへと行ってしまった。たまに身をくねくねと動かすツバキをランは訝しげに見ていた。

 静かになった部屋の中。深呼吸をした後、レインが問いかけた。


「アリーシャ、作戦会議はどうするんだ? 可能な限り早く始めた方がいいと思うけど」


「それなら大丈夫。今回参加する部隊は朝9時に5階の第2会議室に集まるように呼びかけ済みだよ」


(さすが。用意周到だな。リリィもこういうところは見習った方がいいかもしれないぞ)


「むう……、反論できない」


 資料を格納方陣に収納したレインは立ち上がった。そして3人(4人?)は狭い査問部屋を後にした。廊下にいたランたち3人と合流し、5階の第2会議室へと向かう。

 エレベーターへと乗り込んだ全員が、上昇していく中で外の景色を見ることができた。先ほどまで降っていた雨はやみ、予報外れの快晴となっていた。

 朝日がレインたちを照らす。温かい日差しを受けながら、エレベーターは5階へと到着した。






     ※






 暗い配色の部屋の中、いくつものモニターが設置されている前でログネスはぶつぶつとつぶやきながら、設定の最終確認をしていた。

 あの青年の情報が正しければもう間もなくここにレインたち防衛兵団がやってくる。もう逃げ場はどこにもない。逃げたところでどうにもならない。

 使える手を全て行使して迎え撃つ。倒せずとも最悪の場合同士討ちを狙う。勝率の方が明らかに低い現状に、ログネスは苛立った。


「守護方陣出力最大、各設置型術式の充填完了、要所における『シュヴァルツ』、私兵の配備。……これだけやっても勝てる保証がないのが腹立たしいですね」


 ロンギヌス家の悲願成就。それが厳しいものとなった今、これまでの地位を築き上げ、生き延び続けた先祖様に詫びる言葉をログネスは考え始めていた。

 モニターに映し出されたレインの顔。こいつを始末し、呪詛弾を手に入れていればこんなことにはならなかった。憎たらしいその顔に向けて拳を叩き付ける。

 ひび割れたモニターは暗転し、機能を停止した。身体強化術を行使していなかったために、拳から血が流れ出る。

 痛みを感じながらも両手を広げ、施設内を映し出すモニターの目の前でログネスは叫んだ。



「さあ来なさい劣悪種ども! 偉大なる血を受け継ぐこの私が相手をして差し上げますよ!」


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