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第二十九話 自分にできること

 結界が解除されたと同時にクランに殴り飛ばされたウィンは、教会の壁に激突した。床に落ちた後、口の中にたまった血をその場に吐き出す。

 物理的な痛みと涙の影響で視界がかすむ中、クランが治癒術と再構成術をリリィに行使しているのが見えた。その目からは涙を流している。後に続いて来たアリーシャも、その補助に回った。

 止められなかった。いや、もし止めていたとしてもこうなったかもしれない。今ウィンの心の中にあるのは後悔だけだった。


「何よこれ……! これが呪詛弾の力だっての!? 弾は貫通したのに! 複雑すぎるし、新しく呪詛が生まれ続けるから解呪が間に合わない!」


 苛立ったクランは不満をその場でぶちまけた。四強と呼ばれるほどの存在でも、呪詛弾の呪詛の解呪は難しいようだった。

 傷は修復されたが、呪詛を解呪できない限りリリィに待っているのは死と魂そのものの消滅だ。

 目の前で必死になっているクランにウィンは呆然としながら問いかけた。


「何でクランさんがここに……?」


 その呆けた様子に我慢の限界を迎えたクランは解呪をアリーシャに任せ、ウィンに詰め寄って首元を掴んだ。そして、左腕に通しているブレスレットを見せてきた。


「これのおかげでここに来れたの。あたしの居場所を探してたのを感じたから来てみたらこの様よ。あんた、自分が何をしたか分かってるの?」


「呪詛弾をレインが使いました」


 その静かな返答を聞いてクランはウィンを壁に投げつけた。絶望に打ちひしがれるその様子に本気で怒りだす。


「使いましたじゃないわよ! あんたはそれを止められなかったんでしょうが! だからリリィは――」


「もう止めてくださいクランさん! あの状況でレインが出てこなければ2人とも殺されてました!」


「じゃああんたはそれでよかったと思うの!?」


「いいえ! でも、しょうがなかったんです! 誰も……、誰も悪くなんてないんです!」


 ウィンを責めるクランをアリーシャが止めた。その目には涙を浮かべている。

 自らを落ち着かせたクランはリリィの元へと戻り、再び解呪を行い始めた。

 あの2人なら少しでもリリィを救うための力になることができる。しかし、自分には何もできない。何もすることがない。ウィンはその場でうずくまり、静かに涙を流し続けた。


「おやまあ、またこんなど真ん中に近い場所で派手にやりましたねえ」


 教会の中に、変人オズワルドが入ってきた。ボロボロになった内部を興味深そうに眺めながら進んでいく。


「こちとら仕事があるってのにこんなことになるなんてな。おいクラン副長、状況は?」


「うるさい! 局長は黙ってて!」


 後から入ってきたアイザックに苛立ちをぶつける。その様子に何かを感じ取ったアイザックは奥へと急いだ。

 そこで行われている解呪作業を見たアイザックは、深刻な顔をしていた。気になったオズワルドもその横で作業を見ていた。


「解呪……、それも呪詛弾の呪詛か。クラン副長、残念だがこの子はもう――」


「わかってる! わかってるけど諦めたくないのよ! こんなにいい子が、こんな死に方するなんてあたしは嫌なの!」


 涙を流しながらそう訴える様子にアイザックは言葉をなくした。これほどまで悲しんでいるクランを見たことがなかった。

 そんな中、オズワルドは何かを思い出すと周囲を見渡した。いるであろう存在を探すと、それは壁の方でうずくまって泣いているのを発見した。急いで駆け寄り、話しかける。


「はーい、おはようございます。レイン君、いえ、今はウィン君ですね。お話は聞いております。私、天才のオズワルドと申します」


「……天才?」


「はい、天才です」


 満面の笑みを浮かべるオズワルドの顔を見て、ウィンは今朝のウィルソンとの会話を思い出した。

 オズワルド。この人が発生器を破壊するための専用兵器を作った天才だ。ならば、まだ、望みはあるかもしれない。そうウィンが考えていた時、オズワルドがしゃべりかけてきた。


「望みはまだ、あるかもしれませんよ。あなたの力が、あなたにしかできないことが、少女を救うかもしれないのです」


「……本当にできるのか!?」


「ええ。恐らくは」


 その言葉を聞いて、ウィンは全力の懇願を行った。正座の状態で思い切りよく叩き付けた額からは血が滲む。


「頼みます! 何でもする! 何だってするから、リリィを救う方法を教えてください!」


 気持ちのこもった大声が教会内部に響き渡る。その様子を、その場にいる全員が見ていた。

 オズワルドはウィンの肩に、優しく手を置いた。そして静かに語りかける。


「今回の実験に参加することが私にとって、あなたからの謝礼金代わりとしましょう。さあ、事態は一刻を争います。すぐに私の研究所へ向かいましょう。クラン様、お願いいたします」


 呼びかけられたクランは立ち上がり、オズワルドに鋭い視線を送る。


「本当に、どうにかなるんでしょうね?」


「はい。少なくともこの場で解呪作業を続けて延命を施すよりかは遥かに有用な実験になるはずです」


 それを聞き、クランは2人をまとめて転移するため、教会の中央へと来るようにと指示を出した。

 それにに従い、ウィンとオズワルドは移動する。準備が整った後、最後にアイザックがオズワルドに問いかけた。


「何で、謝礼金は実験の参加が代わりだなんて言ったんだ? お前は金にがめつい奴だと思ってたが」


 アイザックからの問いに、オズワルドは眩しい笑顔で答えた。


「私、熱い思いを持った人は大好きなんですよ」


 そう言い残し、3人は教会から転移していった。






     ※






――どこかにある研究所



「はいここですね、武器系倉庫15番」


 目的地である倉庫に3人は到着した。扉を開けた向こうには、床や棚などいたるところに資料や物が散乱している凄まじい光景だった。 

 時間がないというのにまさかこの中から探すのかとウィンとクランが焦っていると、隣でオズワルドが2回手をたたいた。


「整理整頓のお時間でーす。移動開始―」


 そのオズワルドの指示の後、散乱していた物が次々とひとりでに収まるべき場所へと帰っていく。1分もしないうちに、倉庫の中は綺麗になってしまった。

 唖然とする2人を置いて、スキップをしながらオズワルドは中へと入っていき、目的の物が収納されている棚へと向かっていった。


「確かここに……。んあー、ありましたありました。やはり天才は一味違いますね、これほど記憶力の良い自分に惚れ惚れしちゃいます」


 腹立たしい自画自賛をしつつも、オズワルドは目的の物を見つけ2人の元へ持ってきた。

 オズワルドが持っていたのは2つの大型の拳銃。見た目は似ているが、細部に違いがみられる。まずそのうちの1つがウィンに手渡された。

 その後オズワルドが壁のボタンを押すと、倉庫の床が開き、複数の射撃訓練用のダミーが姿を現した。その先にある棚の方には全て防弾・防魔力シャッターが下ろされている。


「ではクラン様、簡単な炎系の魔術でダミーを1体燃え続けるようにしてもらっていいですかな?」


「わかったわ」


 指示通り、扇子の先から放たれた小さな火の塊がダミーへ飛んでいき、炎上させた。それを確認し、オズワルドがウィンに次の指示を出す。


「それではウィン君、その銃に自分の力を籠めるイメージで集中してください」


「わかりました」


 照準の先に炎上するダミーを捉え、ウィンは集中した。

 

「その銃は備え付けの魔核以外に、使用者の何かしらの能力を重ね合わせて弾として使用する銃。名付けて『天才式・能力混合魔銃』です。さあ、行けると思ったら引き金を引いてください」


 それを聞いてウィンは静かに息を整えた後、ゆっくりと引き金を引いた。だが、弾が発射されない。

 壊れているのではないかと考えたが、オズワルドがその銃を手に取ると手早く解体を始めた。その一切無駄のない手つきにウィンは驚き、尊敬のまなざしで見ていた。

 

「なるほど、原因はウィン君自身の能力ですか。ご覧ください」


 見せられたのは銃の内部に取り付けられた魔核。本来その中心には魔力を生み出す光が見えるのだが、それが完全に消えていた。


「魔力を消し去る、またはそれに準ずる物を消す力は魔核にも影響が出るようですね。こちらの銃はだめですね。もう一つを使いましょう」


 使い物にならなくなった魔核を交換し、懐にその銃をしまう。そして、先ほど持ってきたもう一つの銃をウィンは手渡された。

 身体強化術で強化されているウィンでもその銃はとても重く感じた。しっかりと握り、炎上するダミーに狙いをつける。


「その銃こそ最終手段、『天才式・送魂銃(そうこんじゅう)』です。その銃はあなたの魂、すなわち『存在の力』そのものを糧として撃ちだす銃なのです」


「ちょっと待ちなさいよオズワルド教授! 存在の力を消費する魔具の開発は禁止されているはずよ!」


 クランの厳しい指摘がオズワルドに飛んでくる。それに冷静に答えた。


「だから最終手段なんです。この銃は禁忌とされている領域に踏み込んだ許されないものなのです。調整を一歩でも間違えれば撃った瞬間に使用者が絶命することもあります。まさに命がけの切り札といえますね」


「何だっていい。俺がどうなってもいい、リリィが助けられるんだったらそれで問題はない」


 これを使いこなせればリリィを助けられる。焦る気持ちを抑えながら、しっかりと集中する。

 握っている部分から何かが吸い取られていく感覚がある。これが存在の力を消費するということなのだろう。

 目の前の燃え盛るダミーに向けて、溜め込んだ存在の力を撃ち放った。真っ白な輝く光球がダミーへと飛んでいくと、直撃とともに眩しい光が周囲に広がった。

 その光が消えた先を見てオズワルドは満足そうに笑みを浮かべた。


「実験成功ですね」

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