第二十五話 天才式
――新暦195年 7月 18日(月)
首都『フォルニア』・防衛兵団本部屋上
23:00
夜更けの防衛兵団本部の屋上にて、オズワルドと対策本部の面々が集まっていた。約3日かけて作り上げられた対障害発生器専用兵器のお披露目が行われようとしていた。
ざわつく屋上で楽しそうにオズワルドがその兵器の前に立つ。
「さあお時間となりました。皆さま、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。満を持してとっておきが完成いたしました! こちらをご覧ください!」
オズワルドが意気揚々に手を掲げられると、いつのまにか設置されていたサーチライトがそれを照らす。大砲のような大型のそれには全体的にまんべんなくオズワルドの笑顔が描かれている。
それを見て対策本部の面々が苦笑いするが、そんなことは気にせずにオズワルドは解説を始める。
「技術開発局の協力の元、天才であるこの私オズワルド・ゲーニッツが主軸となって開発いたしました。名付けて『天才式・対虚無障害発生器専用兵器・飛んでって撃ち落とす君』です! はい、拍手~」
オズワルド自身がその場で満面の笑みで拍手をするが、それ以外の者は誰一人として拍手はせず、冷ややかな視線を向けていた。
確かにこの兵器はオズワルド抜きでは完成させることはできなかった。しかし、変人であり、この事件が終わった後には投獄が決まっている犯罪者のオズワルドを快く思っていないがほとんどだった。
たった1人の拍手を止めたオズワルドは、満足げに語り始めた。
「万雷の拍手、まことにありがとうございます。それに熱い視線。嬉しくて私はもう感極まってまいりました。ああ~涙が」
そういってオズワルドは白衣のポケットから取り出したハンカチで涙を拭う。その様子を見て、もはや呆れを通り越して逆に尊敬する人たちがちらほら現れる。
進まない解説に苛立ったアイザックが、オズワルドを急かした。
「茶番はいいから早く進めろ糞天才。作業手伝ってた技術開発局の連中に殺されるぞ」
アイザックの指摘の後、そーだそーだという声が上がった。ほぼ徹夜で作業に当たっていた技術開発局の数人は、その目の下にくまをつくり、眠そうにしながらもこの場にいた。
設計に約2日。製造、組み立てに1日を使った突貫作業。よくこれほどのスピードで完成させたとアイザックは感心していたが、その中心となった旧友が目の前で茶番を繰り広げるとその気持ちも薄れてきてしまう。
濡れたハンカチをポケットへとしまい、一度咳払いをして解説を再開する。
「天才である私としたことが、取り乱してしまいました。ではでは皆さま、事前に配布しておいた特殊お手製眼鏡をおかけください」
それを聞いて嫌そうにその場にいる者たちは眼鏡をかけた。奇抜な色と星形のリムに、ブリッジの部分には満面の笑みを浮かべるオズワルドの極小サイズのフィギュアが取り付けられている。しかも苛立ってそのフィギュアを取ろうとすれば電流が流れるという謎仕様。突っ込みどころ満載だが、それ以外の機能は完璧に近いからまたそこが腹立たしい。
「サーチライトが照らす先をご覧ください。『天才式・虚無障害発生器for禁忌バージョン』の姿が見えますでしょう? あ、もし見えなかったら手を上げてくださいね。予備と交換しますんで」
オズワルドとこの眼鏡の開発に関わった技術開発局以外の人々は驚きの声を上げた。サーチライトの先に、今まで肉眼では見えなかった発生器があるのを確認できたからだ。
しかし、驚いたのにはまだ理由があった。首都上空には2個の発生器があり、さらにもう一つ見たこともない物が浮遊しているのが分かったからだ。紫色の三角形の物体がゆっくりと回転しながら空中に存在している。
「さらに皆様には発生器以外の物が見えていると思いますです。ちなみにあれはこういった機能を持ったものなんです。はい、レッツゴー」
するとオズワルドはどこからともなく取り出した超小型ヘリを空へと飛ばした。前面に劇画タッチの渋いオズワルドの顔を取り付けたそれはゆっくりと上昇していく。さながらそれは死地に赴く戦士のように見えたような見えないような。
一定の高さまで行ったところで、三角形の物体の一点に光が集積していく。そして放たれた細い一筋の光がヘリを貫いた。炎上して墜落していくそれに敬礼しながら、オズワルドはとあるスイッチを押すした。その後スイッチから伸びた線につながっている魔道砲が放たれ、墜落するヘリを消し飛ばした。
「あれが恐らく謎の墜落事故の原因でしょう。海路においても一定の距離を離れると沈没させられるというのも同じはずですはい。いやはや、私がいなくともあれほどの物を作るとは。ログネスという男、侮れませんなあ」
感慨深そうな顔をして顎に手をやるオズワルドにアイザックは問いかけた。
「あれがあるっていつ気付いたんだ。何故言わなかった」
「この眼鏡が完成したのが4時間前ですからねえ。発生器を肉眼でも見えるようにと考えて作った後、空確認したらあれを発見しました。ならばこの場で知らない人には解説の時に見せた方が手っ取り早いと思いまして」
「あーそうかい」
この眼鏡に組み込まれている術式はかなり特殊だと説明がされていた。中央病院から回収した残っているレインの血液をオズワルドの技術で急速培養し、その血をインク代わりにしてで眼鏡の至る所に特製の術式を組み込ませてるという。これがなければレイン以外は発生器を肉眼では確認できないと、オズワルドは断言していた。
見ていても聞いていても腹立たしいオズワルドだが、その技術と才能に関しては誰もが認めざるを得ないほどに凄かった。
その後、再びサーチライトが大型兵器へと向けられた。オズワルドはその近くまで移動すると、自信満々に語り始める。
「皆さんもご存じのとおり、発生器には高い自己防衛機能が備え付けられています。しかし、しかぁーし、この兵器はそれをも貫く圧倒的な専用兵器なのです。それでは発射のカウントダウンを開始いたしましょう」
大型兵器の近くに設置されていたモニターに数字が表示される。最初の数字は5だった。
「「「「「5!」」」」」
オズワルドと技術開発局のメンバーの熱い声が響き渡った。眠そうにしていたメンバーがいきなり元気になったことでその周囲にいた人は戸惑ったが、その視線は大型兵器に集中することとなった。
変形し始めたのだ。大型兵器が。大砲のような姿から。
「「「「「4!」」」」」
固定されている台座だと思っていた部分が垂直に立ち上がり、半分が上へ、もう半分は下へと分かれる。
「「「「「3!」」」」」
分かれた下は脚部へと変形し、上は腕となった。大砲と思われる部分を胴体として、その場に立つ。
「「「「「2!」」」」」
大砲の中心部分に凛々しい顔が形成され、屋上にいる面々に輝かしい笑顔を見せた。しかしながらオズワルドとメンバー以外は唖然としている。
「「「「「1!」」」」」
大砲の先端からいきなり長いドリルが突き出し、勢いよく回転を始める。そして、オズワルドとメンバーたちはは叫んだ。
「「「「「行け! カダリア天才式・ブレイクドリル壱号機! この国の未来のために、ブレェェェェイク、ゴオオォォォー!!」」」」」
「名称変わってんじゃねーか」
アイザックの適当な突っ込みの後、脚部と砲身の後部から白煙を上げながら勢いよく壱号機は飛び立った。その煙に包まれて、オズワルドは咳き込んだ。
加速していき、真っ直ぐに発生器の方へと向かう。三角形の物体からの攻撃が放たれるも、それを特殊障壁で防いで突き進む。一つ目の発生器が破壊され、屋上に驚きの声が上がる。見た目は色々と変だが、その性能は圧倒的になものだった。
続いて2つ目を破壊すると、首都の電波が回復した。すぐさま団員や政府関係者がそれぞれ連絡を取り始める。
その勢いを落とすことなく、壱号機は三角形の物体へと飛んでいく。放たれる光の勢いはさらに強くなっていくが、それをものともせずに前進していく。そして、ドリルは三角形の物体を貫いた。
屋上で歓声が上がった。完全勝利といった歓喜に包まれる中、壱号機が屋上へと近づいてくる。だが、
「……?」
壱号機は着陸することなく、北東の方角へと飛び去って行った。その様子を何故かと屋上の人々は不思議そうに見守った。
その中で、メンバーとオズワルドが笑っていた。アイザックはそれを見てまさかと思いつつも問いかけた。
「……全部壊しに行くのか? あれは」
「その通りですよ局長殿。カダリアの天才技術者の腕を舐めてもらっては困ります。おおよその位置は予測済みですので、一晩中には全部破壊して戻ってくる予定です」
「とんでもないなお前ら」
その言葉を聞いて、オズワルドと技術開発局のメンバーがにやにやと笑顔を浮かべて、一斉に答えた。
「「「「「ドリルは男のロマンですから」」」」」
「……そうか」
そのよくわからない団結力を見せつけられ、アイザックは適当な返事を返すことしかできなかった。
結果はどうであれ、これでカダリア全土における広範囲障害は解除されることになる。屋上にいる対策本部の全員が喜んでいた。
アイザックも一息つこうと懐から取り出した煙草をくわえ、指先の術式を使って火を起こした。しかし、その安らぎを政府関係者が遮った。
「アイザック様。至急新たな対策本部の設立と、その筆頭となるようにと政府から要請が来ています」
「ああ? 何でだよ。たった今終わったって時に……」
苛立ったアイザックの表情は直ぐに真剣な表情へと変わる。政府関係者の顔は青ざめていた。
異常事態の後に続いてさらなる異常事態の発生。旧友の様子に気づいたオズワルドが近くによって来る。
緊張し、青ざめている政府関係者の男性が口を開いた。
「三角の物体が破壊されたと同時に、政府がユーラス連合と亜人連盟から救援要請を受理。そして、カダリアに『奴』が迫っていると警告が届いたとのことです」
※
――同日・同時刻
カダリア西部・工業都市『サノゼ』・ホテル5階『504号室』
「司令、始まったようです」
「そうか。分かった」
秘書官からの報告を受け、厳格な雰囲気の初老の男性が頷いた。
短い白髪。深くしわが刻み込まれたその顔の銀色の瞳が、目の前にいるウィンを見据える。
そして、男性はゆっくりと口を開いた。
「単刀直入に言おう。我々防衛兵団、各機関、政府の上層部は君のことを疑っている。ログネスと繋がっている可能性があるとね」




