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19 束の間の休息(前編)

――新暦195年 7月 17日(日)

  西海岸『ロス』・『ヴェニービーチ』

  10:40



 海風が心地いい砂浜に、日の光が燦々と降り注いでいる。休日を謳歌せよ言わんばかりの快晴の空は、人々の心に活気を与えていた。

 ニポーンから移動したウィンたちはアナリスを過ぎた先にある大きな街、『ロス』に昨日到着した。本来であればすでにこの街を発っているはずなのだが、僅かにできた余裕をここで消費することになったのだ。

 緊張した日々が続く中でこうした休息が取れることにウィンは素直に喜んでいた。延々と緊張感を保ち続けていたことですり減り始めていた精神を癒すような優しい砂浜の光景を眺める。

 目の前に広がっている海の向こうとは連絡が取れず、一定の距離を離れることが不可能。そんな障害が発生していても、それを感じさせないほどの活気が砂浜には満ちていた。

 多くの家族連れやカップルで賑わい、それぞれが思い思いに楽しんでいる。その内の1つ、子供たちが笑顔で砂の城を作っているのが目に入った。見事なそれにウィンが感心していると、隣にいたユウキが口を開いた。



「見事だな。あの発想力は将来役に立つに違いない」


「そうだな。ここでなら猫もあまり来ないだろうから、安心して砂遊びできていいよなー」


「ん? 猫?」


「ディアンの公園は猫のたまり場にもなってたんだ。町の子供たちとよくそこで遊んだんだけど……、もう察してくれる?」


「……町のトイレになってたわけか」


「その通り。色々やろうと砂を集めてたらそれが次々と出てくるからたまったもんじゃなかったよ」



 砂から現れたそれの感触を思い出したウィンは苦笑いするしかなかった。しばらくの間子供たちからその一件をからかわれ続けたことが脳内に蘇る。その様子を隣で見ていたユウキは無愛想なその顔に笑みを浮かべていた。

 警護のために一緒にいてくれることもあって、話す機会が多かったユウキとランとはもうそれなりに打ち解けていた。見た目に関わらず結構会話が進むのが意外に思えたが、ウィルソンよりも意思疎通がしやすいことにウィンは安心していた。

 水着姿の2人は現在パラソルを開き、その下に敷いたシートに座って砂浜の一角に陣取っていた。着替えのために遅れているリリィとランのために先行して場所取りを任されたのだった。

 そろそろ飲み物が欲しいとウィンが考えていた時、派手なアロハシャツに身を包んだウィルソンが現れた。その姿を見てウィンとユウキは吹き出す。



「報告から戻りましたが……、何か可笑しいことでもあったのですか?」


「い、いや。何でもない。その、ウィー、それは自前なのか?」


「いえ。昨日全員で立ち寄った店の店員さんからおすすめされたものです」


「そうなのか」


「はい。私もそれなりに気に入っているんですよ」



 いつも通りの無表情なのだが、どことなく嬉しそうな雰囲気を漂わせるウィルソン。その見た目と服のギャップに、ウィンとユウキは必死に笑いをこらえていた。

 この街のホテルに到着した後、休息をとることが決まったことで水着などの海水浴用品をウィンたちは売店で買いそろえていた。思い返せばそこで確かにウィルソンは店員に話しかけられていたのをウィンは見ていた。まさかこれをおすすめされているとは予想していなかった。

 そういった面での押しにウィルソンが弱いことを知ったウィンは、本格的に普通の人と同じような感性をウィルソンが持っていることに気づき始めた。こんな見た目でも、内心はそこまで冷徹でもないようだ。

 幸いウィルソン以外にも似たような服を着た人がいるため、砂浜において一際目立つということはなかった。さらに強くなり始める日光を避けるように、ウィルソンもパラソルの下に入り、リリィたちを一緒に待つことにした。

 午後に近づくにつれてさらに気温が上がっていく中で適当な会話をしていると、ほどなくして着替え終わった2人がウィンたちの下へとやってきた。予想していたよりも大人っぽいそれに身を包むリリィの姿を見たウィンは思わず息をのむ。



「はーい、お待たせー」


「お、お待たせー……」



 ランに背中を押されながら近づいてくるリリィは恥ずかしいといった感じでほのかに頬を染め、耳を垂らしている。ツバキはどうやらリリィの中に入っているようで、姿は見えなかった。

 その見た目に反して可愛らしいフリフリが付いた水着ではなく、体のラインがはっきりと分かるビキニだった。小さな身長だが、着用しているそれのおかげでほどよい大きさの胸があることが分かった。今まで服の上からでは分からなかったそれと、見たことのないリリィのその姿にウィンは見惚れていた。

 真っ直ぐと向けられたその視線を感じたリリィはさらに顔を赤くさせる。困ったかのように眉を八の字に曲げてウィンを見つめ返した。



「ど、どうかな? こういうの初めて着たんだけど……」


「……ああ。似合ってると思うぞ」


「そう? ならよかった」



 赤い困り顔が笑顔へと変わる。それによって愛らしさがさらに増したことで、ウィンも気づかぬうちに頬を染めていた。

 ほぼ裸である。好意を寄せる存在のその姿はウィンにとって刺激的すぎる。リリィから視線を逸らすことができずにいると、その背後にいたランがにやにやしながらこちらの様子を窺っていた。



「ちなみに選んだのは私。うぶなウィンには効果抜群だったみたいだね」



 ランのその表情は憎たらしいものだったが、そこから下の部分を見たウィンは少し驚いた。今まで服を着ていたので分からなかったが、かなりスタイルが良かったのだ。

 十分ともいえるサイズの胸に、見事なくびれ。前にいるリリィとは違って大人な見た目のランのその姿は見事なものだった。ウィンの視線は無意識のうちにリリィからランの方へと移動してしまっていた。

 その視線を感じたランはリリィの横に立ち、わざとらしくウィンたちに向けて体を見せつけてきた。各部を際立たせるようにいくつかのポーズをとっているその姿に、他の人々の視線が集まる。



「ふっふっふ。どうよこの体。何だかんだで鍛えてるうちにスタイルもよくなったんだよ。ほれほれどうだい男性陣」


「そこらへんにしておけラン。周りの視線を集めているぞ」


「男の視線を釘付けにするなんて。ああ、私ったらいけない女」



 完全にふざけている様子のランにユウキが静かにたしなめる。まだ見せつけ足りないといった感じのランだったが、渋々やめてユウキの隣に腰かけるのだった。

 その後もお互いに赤いままのウィンとリリィ。状況を打開するために、リリィが先に口を開く。



「そ、そうだ。喉乾いてない? すぐ近くに売店があるから、私買ってくるよ」


「あ、ああ。頼む。皆は大丈夫そうか?」



 リリィの提案を受け、ウィンがその場にいる全員に問いかけるが、ウィルソン以外は大丈夫といった答えが返ってきた。

 格納方陣から財布を取り出したウィンはリリィに手渡す。一緒に行こうかと問いかけてみたが、残っていてほしいと言われたのでその場で待つことにした。

 売店へと向けてウィンたちから遠ざかっていくリリィ。耳を左右にパタパタと動かし、その顔には満足そうな笑みを浮かべていた。



「似合ってるって……。ウィンが……、えへへ……」






     ※※※






「お釣りになりますー。ありがとうございましたー」



 可愛らしいリリィに対し、売店の女性店員は笑顔でお釣りを手渡した。それを財布の中へとしまい、脇に財布を挟んで両手で飲み物を持って海岸の方へと向かっていった。その後ろ姿をにやけながら女性店員は見送り、意気揚々と自らの作業に戻っていった。奥にある厨房からは、美味しそうな臭いが漂ってくる。

 海岸から離れ、道路を1つまたいだところにあるこの売店。その飲食スペースに短髪赤髪の男が座って名物である飲み物を口にしていた。

 評判通りの美味しさのジュースに満足した様子の男。飲み干して空になった容器をテーブルの上に置くと、空いていたもう一つの椅子に長い髪を後頭部にまとめた女性が静かに腰かけた。



「可愛いわよね、彼女」


「そうだな。ま、もう俺たちには関係ないけど」



 そういいながら男は名残惜しそうに容器をもう一度手に取り、軽く振ってみた。聞こえてくるのは残った氷がぶつかり合う音だけ。

 だが、その透明な容器の向こう側にある景色に男は注目していた。その先にあるのは海岸が見える店の入り口。そして、かなり離れたところにこちらを注意深く見ている存在がいる。

 ニポーン地域から彼らを尾行していたのがサーチャーにはいち早く察知されていた。怪しい動きを1つでも見せればすぐにでも対応しようという魂胆が見え見えだった。



「ということは、正式に指示が来たの?」


「ああ。『抵抗力』はあいつでほぼ確定らしい。これ以降は他の候補者に関しては無視していいそうだ。可哀想だよなー、何年も他の奴監視してたやつら」


「いいじゃない。それだけ私たちの仕事も減ることだし」


「まあな。呪詛弾の奪取もお蔵入りになったし、俺らはとりあえず本部に戻るぞ。海藻まみれになって帰ってきたローグを馬鹿にしてやろうと思うんだが、どうよ?」


「それ最高ね」



 女はそういって笑う。それを見た男は容器をテーブルの上に置いた。正直に言えばもう一杯飲みたい気もしていたが、先を急ぐために諦める。

 2人は顔を見合わせた後、立ち上がった。手早く準備を済ませ、気前のいい笑顔で店員に手を振りつつ売店を後にするのだった。

 背後からの店員の送り出しの言葉を聞きつつ、2人は徐々に歩みを速めていく。予想していた通り、至る所からの監視の視線を感じながら街の中へと入りこんでいった。

 多くの人が行きかう中、細い路地へと入っていった2人。それを追い掛けるために、市民に紛れたサーチャーの捜査員が1人向かったが、そこにいるはずである2人はそこにはもういなかった。

 目標を見失ったことを仲間へと伝えるために路地から出ようと捜査員が振り返る。すると、



「はい、お疲れさん」



 赤髪の男の強烈な一撃が捜査員を襲った。体全体を痙攣させながら崩れ落ちる捜査員。それを冷ややかな目で見降ろした男は、路地から姿を消すのだった。


(報告)

サブタイトルが(前編)となっておりますが、バックアップデータ内に中編と後編は存在していませんでした。

PC内の別のフォルダに(中編)を見つけましたが、書きかけであり、(後編)はありませんでした。

投稿当時に1話目から今作を改稿しており、この(前編)~(後編)を新たに追加しようとしていたと考えられます(投稿者本人も正確に覚えていない)。

改稿途中だった名残で次話からサブタイトル表記が変わりますが、特に問題はないと思うのでそのまま投稿します。

以上、報告でした。

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