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16 オカマの戦い

 巨大な鋭い爪が振り下ろされる。それを避けることも受け止めることなく、逆に振り上げた拳で粉砕する。断末魔を上げる真っ黒な人型の怪物だったが、直後の蹴り上げで胸元から頭部を吹き飛ばされて沈黙した。

 ランはその後、着地の際に振り下ろした足で近くにいた怪物の頭部を踏み砕いてもう一匹無力化した。怪物の血にまみれたランはすぐ近くで戦うユウキにいった。



「頭吹き飛ばせば止まるね。見た目全部同じだから簡易量産型の生物兵器の類かな?」



 そういいながらも2匹同時に近づいて来た怪物の頭部だけを回し蹴りで器用に粉砕し、そのままの勢いでやってきた頭の無い2匹の体を受け止めて周囲にいた怪物に投げて動きを妨害する。

 次々と襲い掛かってくる怪物を細切れにしながら、ユウキがため息をついた。



「国際条約で生物兵器の使用、開発は禁止されていたはずだが……。レギオンズ辺りと考えるのが妥当か」


「それっぽいね」



 会話をしつつも、襲い掛かる怪物を2人は確実に仕留めていく。早く救援に向かいたいが、如何せん数が多すぎてそれどころではなかった。

 転移術によって次々と怪物が送り込まれてくる中、3階の角部屋のから男が空中に出てきた。何かあったかと思ったその後、威勢のいいリリィの声が聞こえてきた。



「さあ、どっからでもかかってきなさいキモロン毛!」









     ※※※








「キモロン毛だと……?」


「そーよ。悪いかしら? ぴったりのあだ名だと思うけど。たぶん部下とか上司からもそんな感じで呼ばれてるんじゃないかしらね~」



 あからさまに挑発的な態度と言葉にローグは眉間にしわを寄せる。

 そのやり取りをそばで聞いていたウィンは、リリィの声にツバキの声が重なっていることに気づいた。



「かかってこいって言ったけど、ここじゃ狭いし後後の弁償額が増えそうね。それじゃ、表でやりましょうか、ね!」



 目にも止まらぬ速さでリリィ、もといツバキはローグに向かって突進すると、その勢いに乗せて強烈な蹴りを繰り出す。一気に距離を詰めたその様子は転移術を使ったのかと見間違うほどだった。

 想定外の攻撃にローグは防御する間も与えられず、装備していた障壁が反応するも弾き飛ばされた。屋根に激突しながらその体は上空へと投げ出されるが、何とか勢いを殺して空中で止まった。

 エドタウンの上空、鬼の形相で睨み付けてくるローグに、ツバキは微笑みながら近づいていった。



「やだわ~ただでさえ怖い顔なのに、そんな顔したらしわが残ってもっと大変なことになっちゃうわよ」


「貴様……! 私だけならまだしも、この街の景観の一部を……!」」



 ローグの両手がツバキへと向けられる。見えない何かが体に巻き付き、体を締め上げた。

 本体であるリリィの体中に、透明の糸のようなものが食い込む。柔らかな肌が悲鳴を上げそうになるが、落ち着いたツバキは精神を集中する。



「甘いわ」



 その一言の後、無数の風の刃が巻き付いた何かを切り刻み、拘束を解除した。ツバキはため息をついてローグを見下した。



「さっきも効かなかったことを何でやろうと思ったのかしら。それともあれ? 1点に集中すればどうにかできると考えたの? なめんじゃないわよ」


「いい気になるなよ」



 ローグの周囲の空間が歪み、そこから人間と同じ大きさのブリキの人形や、気味の悪い鋼鉄製の人形が複数現れる。ローグの指から伸びた何かがつながり、それらは命を与えられたように動き出した。

 その光景を目の当たりにし、ツバキは心底嫌そうな顔をした。



「あんたやっぱり傀儡使いか。にしても趣味悪い人形使ってるわね。女性受け悪いと思うわよそれ」


「減らず口を。これでもその余裕を維持できるか?」



 人形たちが一斉に動き出し、ツバキの周囲を取り囲む。不気味に笑うようなその人形たちの顔は、中心にいるツバキへと向けられている。

 そして、ほぼ同時に人形たちは襲い掛かってきた。たったそれだけかと思ったツバキだったが、近づいてきた人形に取り付けられた刃物に無数の黒い文字が書き込まれていることに気が付いた。

 それが呪いの術式だと勘付いたツバキは、その刃物が届く前に風を纏った左足による回し蹴りで人形を弾き飛ばした。しかし、その直後ツバキが乗り移っているリリィの体の動きが鈍くなる。



「私特製の術式に気が付いたか。だがどうした? どうやらお前は大丈夫でも、本体がもう魔力切れに近いんじゃないか?」


「るっさいわね。まだまだやれるっつーの」



 強がってはみせるが、はっきりいって厳しいのが現状だった。早めに決着をつけなければ、こちらが先に倒れることは容易に想像できる。

 頑丈な人形たちは先ほどの攻撃ではかすり傷1つついていない。ツバキの攻撃は間違いなく強力なものではあったが、それを実際に行使しているリリィの体が戦闘に関して未熟であることが影響し、本来の半分以下の威力しか出すことができていない。

 打開策を考える暇すら与えられず、再び攻撃が始まろうとしていた。身構えるツバキ。



「……!?」



 銃声が鳴り響く。放たれた一撃が、人形に直撃する。月明かりだけが頼りの真っ暗なエドタウン上空。撃つべき対象がどれだかはっきりしない中での狙撃にローグが驚愕した。

 さらに続けざまに放たれた攻撃が確実に人形を捉えていく。破壊には至らずとも動きを止めるには十分だった。



「やるじゃないの青年。惚れちゃいそう」



 ツバキはその攻撃が旅館の方角から行われているのに気付いた。探ってみると屋上には先ほどの角部屋にいた青年の気配を感じる。リリィの体の頬を染めながら右足に力を集中した。

 ローグに対して放たれた一撃がその直前で障壁に阻まれて打ち消される。仕留め損ねた青年の攻撃にローグは歯ぎしりして悔しがった。

 時間をかければ駐在団員が騒ぎを聞きつけてやってくる。その前に奇襲で手早く済ませるつもりがこんなことになるとは。油断するなとリーダー言っていたが、どうやら相当の強運をあの青年は持っているらしい。ブレントが3度もしくじったのも納得できた。

 そうローグが考えている中、目の前にいたツバキが微笑んだ。



「はい、溜まったわよ~」



 その声の後、すぐさま動くことのできる2体の人形がツバキに襲い掛かる。しかしながら最も近づいた1体は銃撃で動きを止められ、残りの1体は空を切った。

 装備している二十層式以外にも、自らの魔力で練り上げた障壁を前面へ展開してローグは衝撃に備える。それを確認してツバキが笑みを浮かべた。



「ありがとうね、念入りに障壁張ってくれて」



 ため込んだ魔力を右足を振り上げるとともに解放した。目の前のそれを見てローグは自らの選択の失敗に気が付いたが、もう遅い。

 圧倒的な突風。障壁はそれによって傷つけられることはなく、その風は突き抜けてローグを直撃した。



「吹っ飛びなさい、あたしの高貴な風でね!」



 障壁の最大の欠点は、使用者に危害があるというものにしか反応せず、防ぐことができないというもの。今回のようなツバキが巻き起こした突風は自然現象とみなされ、危害はないと判断される欠点の代表ともいえる力だった。

 もしここで魔術系を無効化する結界を張られていれば、この一撃は無駄となり、その後かなり不利な状況に立たされることが予想できる。しかし、これまでの戦闘で物理的な攻撃を繰り返したことで、ローグに次の攻撃をそれに準じたものだと思わせたツバキの戦略が勝利のカギとなった。

 素っ頓狂な悲鳴を上げて、南の方角へローグは吹き飛ばされていき、それに引っ張られるように人形たちも飛んで行った。ツバキの予想なら海まで飛んでいくのは間違いない。

 何とかやり過ごすことができ、ツバキはその場で汗を拭った。その直後視界が揺らぎ、凄まじい疲労感に襲われて体が重く感じるようになった。



「まだよ。まだまだ。こんなか弱い体を屋根に落下させることなんて絶対にできないわ」



 空中をふら付きながらもゆっくりと旅館の屋上を目指す。今にも本体のリリィが気を失ってしまいそうだが、それを勇気づけるようにツバキが呼びかける。



「あとちょっとだから我慢なさい。愛しい人が待ってるんだから」



 体を借りたことで、ツバキはリリィの心を少しだけ理解していた。あの青年、ウィンに対する思いを。

 こんなにも純粋で無垢な心を持つリリィに出会えて、ツバキは心の底から喜んでいた。『また』こんな子に会えるなんて。

 ようやくたどり着いた屋上で、限界を迎えたツバキがウィンに抱きかかえられた。たくましくも優しいその腕の中で、リリィは静かに気を失った。

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