14 ワフーなニポーン
――新暦195年 7月 15日(金)
カダリア南西部『ニポーン・エドタウン』付近
16:30
西海岸ラインを下りて、ウィンたちを乗せて下道を走るバンは今日寝泊まりする予定のニポーンのエドタウンへと向かっていた。そこでウィルソンの言っていた助っ人と合流することになっている。
予想していたよりも道中が空いていたことと、ケネスが結構な速度でとばした結果、夜に付くはずであったエドタウンへは日没前に到着できそうだ。
道中、治安警備隊に速度オーバーで捕まらないか、助手席に座るウィルソンは冷や冷やものだった。その横の運転席で、ケネスは何食わぬ顔で運転しているのがまた恐ろしかった。
そんな前方の席のことなど知らずに、窓の外をボンヤリと眺めていたウィン。その膝を枕代わりに頭を乗せて、リリィは小さな寝息を立てて眠っていた。
悪夢にうなされるウィンを抱き寄せたまま、リリィは後部座席でそのまま一夜を明かした。しかしながら座ったままの体勢だったためかよく眠れず、昼食の後も眠そうにしていたので今こうして眠りについている。
リリィに対して深く感謝していると同時に、ウィンは不安を抱いていた。あの夢の中でのもう一人の自分が言ったことが頭から離れない。もし本当にツケが回ってくるとしたら、その犠牲になるのはリリィなのだろうか。
そう悩みながら変わりゆく窓の外の風景を眺めるウィンに、運転席の方からケネスが声をかけてきた。
「ウィン君、あと少しで着くからリリィちゃん起こしてあげてー」
「わかりましたー。リリィ、起きろー」
それに応えて眠るリリィを優しく揺さぶる。すると目を小さな手でこすり、膝に頭を乗せたままリリィはウィンを見上げた。
「……おはよーウィン」
「おはよーさん。もう着くってさ」
「……ん」
まだ覚醒しきっていないためか、ぼんやりとした目でウィンを見つめてくる。だが、その目はウィンが悩んでいるのを見抜いたようだ。
静かに、ウィンを見つめたままリリィは優しく微笑んだ。心を見透かされたように感じたウィンは、それに驚く。
「大丈夫。私はどこにもいかないよ」
それを聞いてウィンは上を向いた。気づいた時には涙腺が緩んでいたのを感じたからだった。こんなにも慕ってくれていることと、自分の不甲斐なさが重なって、思わず泣いてしまいそうだった。
力がほしいと思った。せめてあの白い異形の姿でも自我を維持できれば、大抵の敵からはリリィと皆を守れるような気がしていた。しかし、どうすればあれを制御できるのだろうか。
そしてウィンはそのヒントをくれるかもしれない人物に気が付いた。夢の中で出会った自分自身に。彼、というかレインに聞くことができれば一番いいと思った。何せ、自分自身なのだから。
その結論に至ったところでバンが止まった。エンジンの音も停止し、振動も無くなる。サイドブレーキをかけたケネスは、後ろに向かって呼びかけた。
「よし。荷物は僕の格納方陣に入れておいてあるから、そのまま降りてねー」
ケネスはそういって一足早くバンを降り、一日分の駐車料金を払いに行った。残された3人も降りると、そこには今まで見たことのない風景が広がっていた。
駐車場の外にある建物が全体的に低い。大きいもので2階ぐらいしかないそれらが、隙間をあまり作らずに並んでいる。屋根には波打つような特殊な物が使われており、店の看板だと思われるものには見たことのない字が書かれていた。
その光景をウィンが不思議に思いながら眺めていると、眠気が吹き飛んだリリィがとても嬉しそうに目を輝かせてしゃべり始めた。
「『エドタウン』だ! 前世界において古来の『ニポーン』にあった街並みを再現したところだね!」
まるで好きな物を手にはしゃぐ子供のようだった。よほど嬉しいのだろう、その大きな狐の耳がぱたぱたと動き続けている。
そういえば以前、リリィがニポーンについて熱く語っているのを思い出した。多くの術式の基礎が生み出された場所だとか。そこ出身の技術者は素晴らしい製品を作っているとか。語り始めれば止められることがない限り延々としゃべり続けてしまうほどだった。
微笑ましいその様子を見ていると、駐車料金を払い終えたケネスが戻ってきた。
「嬉しそうだねリリィちゃん。ニポーンが好きなのかい?」
「はい、大好きです! たしかこのエドタウンは3年前に作られたんですよね?」
「そうそう。復元術で町の風景の全容が分かったから、観光目的で作られたんだ。よく知ってるね」
今ウィンたちがいるのはニポーンと呼ばれている地域。前世界においては島国であったらしいニポーンは、新世界が構成される際に現在カダリアが統治するこの大陸に大移動してきた。カダリアが復元術による発展を遂げる中で、明らかに他とは気色の違う物が復元されることから調査したとろ、ここがニポーンであると判明したのだ。
復元された多くの観光名所が存在するため、カダリアでも1、2位を争う人気な地域となっている。このエドタウンも古来のニポーンの風景と風情を楽しむために作られたものだ。
いわゆる『ワフー』と呼ばれる独特の雰囲気の町の中を4人は歩いていく。活気の溢れる町の様子を見ていると、こちらも元気が出てくる気がした。
「……! すみません、少しの間離れます。皆さんは先に行ってください」
「了解ー。それじゃあ先に旅館の方に行ってるねー」
ケネスがそう返すと、何かに気づいたウィルソンが離れて行った。何事かとウィンがその後を見ると、1人の男性と話しているのが確認できた。恐らく調査員同士の情報交換だろう。
3人は先に今晩泊まる予定の宿へと向けて歩き出した。その道中でも、リリィの興奮は覚めることなく、さらに熱がこもり始めた。
資金の許す限り、このエドタウンでしか手に入らないであろう物を買いあさる。そのどれもが使い捨てのものではなく、しっかりと手入れすれば長い間使える代物だった。こういった面ではやはり性格がよくでてくると、ウィンは感じていた。
持ちきれない荷物に関してはウィンの格納方陣に収納できるとはいえ、もうそれなりの量を買っている。流石に止めた方が良いかとウィンが思い始めたところで、他とは違う雰囲気の物が目に入った。
リリィとケネスに待ってもらうように伝え、ウィンは気になったその店に立ち寄る。そこは、白髪が綺麗な老婆が営むワフーな髪飾り専門店だった。落ち着きがありながらも、とても綺麗な商品が並んでいる。
格納方陣にしまっていた自分の財布を取り出すウィン。ディアンでの手伝いで稼いだお金では、最も安い物を買うのでやっとだった。しかし、ウィンが望んでいるのはその倍の金額の商品。白い花が特徴的な髪飾りだ。
こんな思いをするのであれば、もっと手伝いをして稼いでおけば良かった。そう後悔しながら、ウィンは泣く泣く財布をしまおうとした。
「あの子のためかい?」
「え、あ、はい」
髪飾りが並ぶ棚の向こうにいた老婆からの突然の問いかけ。それにウィンが驚きつつも答える。
老婆の視線の先にはケネスに熱く語り掛け続けるリリィの姿があった。まじまじと見つめるその目は真剣そのものだった。
一体どうしたのだろうか。戸惑うウィンがその場でおろおろしていると、考えがまとまった老婆が口を開く。
「お前さん、いくら持ってんだい」
「えっと、この一番安いやつの分しかないです」
「そうか。で、欲しいのはどれ?」
「この白い花のやつです。ちょうど2倍くらいの――」
「代金は安い方のでいい。持っていきな」
「え!? いや、でもそれは悪い――」
「あの子ならきっと似合う。これはあたしが決めたんだ。人の親切は素直に受ける方が良いと思うよ」
「……分かりました。ありがとうございます」
老婆に従い、ウィンは最安値の代金を支払った。それを受け取り、手慣れた手つきで髪飾りを包みに入れる。所々に花の模様が施されていたそれを老婆はウィン手渡した。
感謝というよりも、申し訳ない気持ちのウィンは髪飾りの入った手の中の包みを見つめる。やはり謝ろうと思ったウィンだったが、老婆は自分で用意したお茶をすすりながらわざとらしくそっぽを向いている。まるでもう話しかけるなといったように。
それを見たウィンは、開きかけていた口を閉じる。そして、無言のまま一礼すると店から去って行った。その後ろ姿を横目で見ていた老婆は、店の奥に飾ってあった写真に視線を移す。
「……あれが似合う子が来てくれるなんて、嬉しいもんだね、ひい婆さん」
笑みを浮かべる老婆。写真には、老婆の家族と数人の男女が映し出されていた。しみじみと茶をすすっていると、新しい客が来店した。台の上に湯呑を置くと、老婆はその客の様子を観察し始めるのだった。
そんな老婆の思いを知ることもなく店を去ったウィンはリリィの下へ合流した。すでに知識量で負けているケネスがウィンに対して助けを求めるような視線を送っている。
目を輝かせながらしゃべり続けるリリィ。そんな彼女に、ウィンは手に持っていた包みを差し出した。いきなりのことで驚きつつも、リリィはそれを受け取る。
「今まで世話になってたお礼。それと、これからもよろしくってことの証かな」
「あ、ありがとう。……凄い。綺麗……!」
包みの中身を確認したリリィは、その髪飾りに目を奪われていた。白く輝くそれを取り出し、手の中でじっくりと眺める。先ほどの熱気とはまた違う喜びが、その様子からは感じ取れた。
今使うのはもったいないと考えたリリィは、髪飾りを包みに戻して肩にかけていた小さな鞄の中にしまう。その後、満面の笑みをウィンに向けた。
「ありがとう、ウィン。ずっと大切にするね!」
「おう。喜んでくれて何よりだ」
「ウィンからのプレゼント……。私のための……。えへへ……」
頬を緩ませたリリィは、ふわふわとした足取りで次の店へと向かっていく。左右に揺れ動く大きな耳からも、喜びが伝わってきた。
その様子にウィンも満足していると、横からケネスがにやにやしながら小声で話しかけてくる。
「やるね。結構高かったでしょ」
「いや、あそこのお婆さんにかなりオマケして貰ったよ。手持ちじゃ買えなかった」
「へー。あの頑固な婆さんが……」
信じられないといった様子のケネスは、ウィンが髪飾りを買ってきた店を見た。その看板には、ウィンが読むことのできない文字で店名が描かれている。
せめて店の名前でも憶えておきたいと思っていると、ケネスがその読み方を教えてくれた。
「『こうてんぼう』。前は違うところで店を開いてたけど、このエドタウンができたと同時に移転した店だね」
「こうてんぼうか……。ありがとう、ケネス。ちなみにだけど、前からこの店のことは知ってたのか?」
「うん。配送の仕事を受け持ったこともあったからね。またいつか仕事を貰えるかも」
どこか懐かしそうな目で店を見るケネス。仕事以外にも何か繋がりがあるようにも思えたが、深く詮索するのは止めておくことにした。
その後はプレゼントに浮かれるリリィに付き合い、使用できる資金の限界を迎えたところで買い物は終了した。大好きな地域での買い物と、思いを寄せる人からの贈り物にリリィは有頂天になっていた。
ケネスは旅館の道案内と称してウィンとリリィの先に立って歩き始めた。空気を読んだかのような行動に感謝しつつも、ウィンはリリィと肩を並べ、楽しく談笑しながら歩を進めていった。
しばらくすると川に面するところに立つ、大きめの建物が目に入ってきた。木製の小さな橋を渡って直ぐ右側にあったのは、他と同様に木材を中心に建てられた旅館。入り口には『旭』と書かれた大きな看板がある。
「はい到着。ここが今日泊まる宿の『アサヒ』だよー」
先を行くケネスに導かれるまま、趣のある入り口から旅館へと入っていった。外見だけでなく、中身もワフーな雰囲気を漂わせていた。
入り口付近で待っていると、綺麗な女将さんが出迎えてくれた。その着物姿を見て興奮したリリィが飛び跳ねて喜ぶ。
「ウィン! 女将さん! 女将さんだよ!」
「わかった、わかったから落ち着けリリィ」
「あら、可愛いお方ですねえ」
その様子を見た女将さんが優しく笑っていた。そばにいる自分が何だか恥ずかしくなってくるので、早く落ち着いてほしいとウィンは心の中で願った。
女将さんの案内でエレベーターに乗り、今日寝泊まりする3階へと向かった。ワフーだけどエレベーターはあるのかとウィンは突っ込みを入れたかったが、興奮冷めやらぬリリィを見てそれをやめた。
最上階でもある3階の角部屋にたどり着く。今回部屋は2つとっており、今入る角部屋とその横の部屋の2つだった。少し高そうな宿だが、宿泊費に関してはすべてウィルソンが出してくれているらしい。
女将さんは旅館内に関しての一通り説明してくれた後、一礼して部屋から去っていった。静かになったと思った矢先、窓の外の風景を見てリリィが歓喜の声を上げた。
「『トーキョー』! すごいよ、ここから『トーキョー』が見える!」
ウィンも窓の方へ移動すると、ここからそれなりに離れたところに多くの摩天楼がそびえ立っている街があった。その広さもかなりの規模だ。
旅館周辺の雰囲気とはまるで別次元の雰囲気にウィンは圧倒された。ディアンとは比べ物にならないぐらいに発展しているのは、目に見えて明らかだった。
「あそこのトーキョーがこのエドタウンの未来の姿なんだよ! 時代の差があるとはいえ、すごいよね!」
「そうそう。このニポーン地域最大の都市があのトーキョー。このエドタウンを作るのもあそこにいる人たちの悲願の1つだったらしいね」
興奮するリリィに付け加えるように、手短に背後からケネスが解説をしてくれた。この町が時を経てあんな姿になることを知り、ウィンはさらに驚いた。
その後もリリィの熱烈なニポーンうんちくが次次と語られていくが、ウィンは付いていくことができなかった。助けを求めて背後を振り返るも、そこにはもうケネスの姿はなかった。
止めるのは諦めたウィンがため息をついた。それからしばらくの間は、リリィのニポーン教室が開催されることになった。
楽し気に語るその姿はとても微笑ましい限りだったが、それを聞いている間、ウィンはずっとニポーンの座り方である『セイザ』を強要されていた。
慣れないその座り方に困惑するとともに、足がしびれてきたウィンは目くばせでリリィにもう終わりにしくれないかと懇願するが、熱く語るリリィにその思いが届くことはなかった。
本格的に動けなくなりそうな気がしていると、部屋にウィルソンと見知らぬ男女が入ってきた。
「遅くなりました、申し訳ありません。彼らが今回雇う助っ人の2人です」
その紹介を受け、男女は2人の前に座った。ウィルソンもその横に座り、その様子を見てさすがにリリィもうんちく語りを止めて、ウィンの隣に座る。
こちらに対して一礼すると、男性の方から話し始めた。
「今回、護衛の任につくこととなりました。『ユウキ・カザマ』です」
ウィルソンほどではないものの、少し無愛想な感じを漂わせる黒髪の男性。和服でそのがっちりと鍛え上げられた身を包み込むその様はニポーンの侍を連想させた。
「同じく『ラン』です。首都までの間、よろしくお願いします」
一般的な女性の服をきているが、寒くないのにも関わらず首に長いマフラーを巻き付けている。それのせいで口元が見えない。
黄金色の髪の毛は肩辺りまであり、右目を伸ばした前髪で隠しいる。見えている左目は半開きのジト目でだが、しっかりとこちらを見据えていた。
どことなく助っ人の2人は雰囲気がウィルソンと似ている気がする。類は友を呼ぶというらしいが、やはり似た感じなのだろうか。これ以上どう接したらいいかいまいち分からない人が増えると考えると、ウィンは少し不安になった。
そう考えていた時、ランのジト目がリリィをとらえた。リリィはそれに驚いて小さく震えた。ランの目はリリィを見続ける。
「ウィルソンさん。今回の警護において、周囲に疑われないように可能な限りフレンドリーに振る舞うのも大切だと言っていましたよね?」
「はい。それがどうかしましたか?」
「いえ、確認しただけです。それでは」
そういうとラン立ち上がり、リリィの背後へと回った。何をとされるかとびくびくしているリリィを唐突に抱き上げた。
訳が分からずにきょとんとするリリィ。ランはその場にあぐらをかいて座ると、リリィを優しくその膝の上に乗せた。そして満足げにリリィの頭をなでながら、その場にいる3人に向けて言った。
「可愛いは正義です。ですので私は主に彼女の警護を行います」
理由としては成り立たないであろう根拠だったが、ランはそこから動こうとはしなかった。リリィも戸惑いつつも、それほど嫌がってはいなかった。
突然のその行動にウィンが唖然となっていると、ユウキは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「すまない。ランは可愛い人や物が好きなんだ。許してやってくれ」
「そ、そうっすか」
その顔からは考えられなかったが、ユウキは意外に社交的なようだった。まだ救いはあったとウィンは胸をなでおろす。
これからが不安になるような、そうでもないような顔合わせが終わったところで、ウィルソンが問いかけてきた。
「ウィンさん、ちなみにこの町には前回の物があるのを感じますか?」
「そういえば、ちょっと違和感がある。もしかしたらあるかもしれないな」
言われてみればプレザント破壊した球状物体と同じ嫌な感じがするような気がした。しかし、リリィのはしゃいでいる様子に気を取られていてここまで気づくことができなかった。
立ち上がり、窓へと移動して周囲の空を見渡す。しかしながら見当たらない。もしやトーキョーの方にあるのかと考え、目を凝らすが分からない。だが近くにあるような気がしてならない。
「そういうときって真上にあったりするけど、見てみた?」
膝の上に乗せたリリィを後ろから抱きしめながらランがアドバイスを出してくれた。それに従い、ウィンは視線を今いる旅館の真上へと向ける。
「そんな分かり易く……、マジか」
そこには、プレザントと同じ物が空中に浮遊していた。まさかこんなに近くにあるとは。
驚いているウィンにウィルソンが立ち上がり、部屋を出る準備をし始めた。それに合わせ、ユウキも支度を整える。
「政府からこの道中において発生器を発見した場合、破壊してほしいと要望がありました。ウィンさんは発生器の破壊の準備を。私は周囲の人たちへ事情を伝えてきます」
「私も行きましょう。ランはここで待機していてくれ」
「了解ー」
部屋に3人を残し、ウィルソンとユウキは部屋を足早に出て行った。残されたランはそのまま膝の上にリリィを乗せている。だが、無防備にも見えるその姿からは周囲を警戒する威圧感が放たれていた。
その姿を確認したウィンは、大型拳銃を取り出して素早く弾丸を装填する。いつでも撃てるように準備が完了すると、ウィルソンからの指示を静かに部屋で待つことにした。
※※※
夕焼けで赤く染まるエドタウン。そんな風情のあるワフーな風景の中で数発の銃声が鳴り響いた。事前にそれについて情報が伝わっていたためか、町ではそれほどの騒ぎにはなっていない。
いつも通りの夕刻の流れの中、電波がつながったと各所で声が上がり始める。その様子を男のような女のようなどちらともいえない雰囲気を醸し出す精霊が上空からエドタウンを見守っていた。
「あらまあ、解除できるものなのねこれ。発生器はどこかしら」
上空から発生器を探していると、旅館『旭』の前で球状のそれを抱えているランの姿を見つけた。いつもと変わらぬその無愛想な容姿を見て精霊はため息をついた。
「何よランがやってくれたの? 意外だ――」
精霊の言葉は途切れた。その視線の先には、大きな狐耳の少女。青年のすぐそばにいるその存在に、精霊は震えながら口を開く。
「な、何よあれは……! あり得ない、あり得ないわ……!」
目を見開き、精霊は驚愕していた。まさか、また出会うことになるなんて。世界が生まれ変わっても生き続けた自分を褒めてやりたかった。
これこそまさしく運命。必然なのかもしれない。彼女に巡り合うことが。精霊はそう考えていた。
少女は青年と仲良く話しながら旅館の中へと戻っていく。それを確認した精霊は旅館の場所をしっかりと把握すると、作戦を練るためにエドタウンの遥か上空へと飛び立っていった。




