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09 予期せぬ再会

「どうですかウィン様?」


「すげえ、本当に真下だ。よくここがそうだってわかったんですか?」


「ここの地図はもう頭の中に入れてきたので」



 予定を変更した3人は役所の屋上にいた。ウィルソンの予測通り、球状の何かはここの真上にあった。何かしらの力によって浮くそれは、空中に静かに佇んでいた。

 すでに役所から許可は出されており、随伴として付いてきた職員の中年男性が少し離れたところで3人の様子を心配そうに見守っている。

 真下に来たとはいえ何をすればいいのかと考えていた時、ウィルソンが指示を出してきた。



「ウィン様。その浮遊物、撃ち落とせそうですか?」


「そうきましたか。とはいっても……」



 要はあの回転式の大型拳銃を使えばいいのだろうが、それが収納されている格納方陣が自分の体のどこにあるのかウィンはわからなかった。拳銃も今まで無意識のうちに取り出し、気づいた時には消えている有様。どこに格納方陣があるか皆目見当もつかない。

 その位置さえ把握していれば、自由に物の出し入れができる格納方陣。一般社会にも普及しており、商人や遠出の多い人が使っている優れモノだ。肌に特殊塗料で直接書くか、術式を利用して体のどこかに記憶させて使うことができる。

 術式で記憶させた場合、使用するとき以外は肌と同化して見えなくなるようにすることができる。出し入れの時だけ発光するため、見た目を重視する女性に人気だ。

 ウィンも間違いなく術式で記憶したのだろうが、その位置がわからない。意識を全身に集中してみればわかるかも。そう考えて目を閉じてみるが、特に変化はない。



「……あーもう! 出て来いってば!」



 若干イライラし始めて自棄になりながらも、拳銃を握っているイメージで手を目の前に突き出した。すると手元が輝き、そこには大型拳銃が握られていた。

 間髪入れず、すぐ近くで見守っていたリリィに問いかけた。



「リリィ、どこか俺の体光らなかった?」


「……うん。光った」



 少し驚いた様子のリリィは真っ直ぐウィンの顔を指さした。



「顔? ということは頬か額とかかな? 結構目立つところに――」


「違う。目。両目の眼球が光った」


「……え?」



 予想外過ぎる場所を指摘されて、ウィン自身も驚いてしまった。

 そんなところに記憶させて大丈夫ぶなのかと自分を心配しているウィンにウィルソンが言った。



「記憶するとは聞こえがいいですが、実際は術式で書き込んでいることと同義です。ウィン様の場合は眼球、主にその白目の部分に書き込んでありましたが、もしそれを少しでもミスしたら失明する危険性が高いですね」


「マジか……。前の俺はそんな危険なところに格納方陣を記憶させたのか」



 大胆過ぎる以前の自分のことを想像し、思わずウィンは身震いした。何故そんな危険なことをしようと考えたのか。


 

「しかし、目のように意識と強くつながりのある部分に書き込めば、より早く収納物を取り出すことができます。以前のレイン様もそれを考えてそこに格納方陣を記憶したと推測します」



 静かに淡々と自分の意見をしゃべったウィルソン。若干楽しそうにしているように見えるような、そうでないような。

 驚きもあったが、とりあえず位置の把握はできたのだからよしとする。これでもいつでも出し入れができるようになったのだから。

 リリィとウィルソンに少し離れるように伝え、ウィンは上空に浮かぶ球状の不明物体に狙いを定める。空中に浮かんでいるそれは、完全に一定の位置に制止している。一体何なのだろうか。



「あ、あの……、あまり大きな音は……」


「申し訳ありません。これについての謝罪と報告に関しては私が責任をもって行いますので、今は見守るだけでお願いします」



 心配そうに職員が話しかけてきたが、ウィルソンがそれを止めた。職員はおどおどしながらもそれに従って、見守ることにしてくれた。

 その後再度安全を確認し、ウィンは静かに引き金を引いた。役所の屋上で響いた発砲音は、街全体に広がっていく。



「……?」



 放たれた一撃は不明物体の直前で打ち消された。不思議に思って続けて放った2、3射目も同様に届くことはなかった。

 ミミズの化け物と怪物化した団員にも効いたはずのその攻撃が通らず、ウィンは舌を巻いた。それほど強力な障壁が張られているということなのだろう。

 現状では無理だと理解したウィンは、格納方陣から6発の弾丸を取り出し、大型拳銃のシリンダーを振り出して手早く装填した。シリンダーを戻し、再び不明物体へと銃口を向ける。

 


「……ウィン?」


「……ごめん。俺も今気づいた。何やってんだ俺」



 完全に無意識だった。リリィに呼びかけられてようやく一連の動作にウィンも気が付くことができた。

 記憶はなくても体は覚えているとでもいえばいいのだろうか。自分でさえ全く疑問を持たずに弾を装填していた。

 というか装填したということは、今まで弾は入っていなかったということになる。この拳銃が実弾だけでなく魔力のみでも使用できるものだと今になって理解した。

 だとしても自分の魔力が使われたという意識は今までない。この拳銃のどかかに動力源があるのだろう。これを作ったであろう人物に、ウィンはこんな状態の自分でも使えるようにしてくれたことを感謝した。



「まあ、こうしたってことは、やれるってことなんだよな」



 ウィンはそうつぶやきつつ、引き金を引いた。先ほどとは違う衝撃が腕に伝わり、乾いた音が周囲にこだました。その大きな音に驚き、リリィが両手で大きな耳を塞いだ。

 放たれた弾丸は特殊な魔力を纏っていた。不明物体の障壁にぶつかると纏っていた魔力が障壁を侵食し、弾丸をその内部へと導く。不明物体を貫くと同時に、ガラスが割れたような音が響いた。

 手ごたえあり。ウィンは続けざまにまだ落ちることのない不明物体に向けて、残りの弾を連射した。その全てが撃ち貫いたところで、力を失ったように不明物体は落下してくる。

 ウィンたちから離れた役所の屋上にそれなりの勢いで落下したそれは、ばらばらに砕けた。



「……なんだ、これ」



 砕けたとともに周囲に飛び出した真っ赤な液体と物体に、ウィンは驚愕した。

 半透明のガラスのような球状の物体の中には、脳漿や目玉、臓物などが詰まっていたのだ。屋上に散っているそれは、よく見るとまるで生きているように小刻みに震えていた。

 遅れてやってきた生臭い香りとその惨状に耐えきれず、職員がその場で吐き始めた。ウィンとウィルソンは大丈夫そうだったが、リリィはその場で青ざめていた。



「大丈夫かリリィ? 無理なら少し離れててもいいぞ?」


「……大丈夫。学校で先生の手術を見学とかしてたから、まだ……耐えられる」



 その様子を心配したウィンの問いかけに、リリィは弱弱しく答えた。



「無理は禁物ですよリリィさん。だめだと思ったらすぐ離れてください」


「……わかりました」



 ウィルソンの忠告を聞きながらもリリィは付いてくるが、その足取りはおぼつかないものだった。

 近くづくにつれてそれが人間のものだったのがはっきりとわかった。皮を剥いで骨以外のものを詰め込んだようだ。

 しかし、異様と言っていいほどに保存状態がいいことに3人は気づいた。まるで球状の物体の中でこのままの状態で生かされていたと思えるほどに、綺麗且つすべての人間部分が揃っている。

 確認していく中で、ウィンは割れた半透明のガラスの内側に術式が彫り込まれているのを発見した。



「ウィルソンさん、これを」


「何かしらの術式の一部ですね。回収もしますが、撮っておきましょう」



 するとウィルソンは懐からカメラを取り出し、何枚か写真を撮った。その他にも散らばる臓物などの写真も撮っていく。こんな状況でも一切変化することなないウィルソンの無表情を見ると少し安心できた。

 他にも何かないかウィンが探していると、リリィが声をかけてきた。



「ねえ、これって何だろう?」



 弱々しい声と同時に指さした先には、臓物でもガラス片でもない真っ赤な小さな球状の物体があった。

 ウィンがそばに近づき、ウィルソンが横から写真を撮ったところで、それを拾い上げた。



「……?」



 拾い上げた次の瞬間、周囲に広がっていた人間だった物が静まり返る。まるで息絶えたように。

 この球体がどうやらその生命活動を維持し続けていたらしい。真っ赤な球体の内部にはよくは見えないがびっしりと術式が書き込まれ、中央の部分で何か小さなものが薄く光り輝いていた。

 それを不思議に思い、ウィンはそれを透かして見てみようと太陽の方へと掲げようとした。



「あびゃ」



 ふと聞こえてきたのは、離れていた所で吐いていた職員の変な声だった。吐しゃ物が気管にでも入ってしまったのだろうか。

 そして気づいた時にはウィンの体が宙を舞っていた。というよりか、思いっきり吹き飛ばされたような感覚があった。訳が分からない状況の中で、こちらに向かって叫ぶリリィの声が聞こえた気がしたが、それに答えようとしても声が出なかった。

 やがて屋上の周囲に張られていたフェンスに叩き付けられ、重力に任せてその場に転がり落ちた。遅れてやってきた激痛が腹を襲う。

 呼吸をする前に喉の奥からこみあげてきたものを吐き出す。屋上を汚したそれは吐しゃ物と血液が入り混じった気色悪い物だった。

 一通り吐き出し、激痛の中でウィンが顔を上げた。



「あーあー。本当に壊れてら。これ作るの面倒だったらしいのに」



 ひとりの男がいた。銀色の短髪に190を超えるであろう身長と鍛え上げられている大きな体。その大きな手がリリィの首を掴み、持ち上げている。

 必死にもがくリリィの足が何度も男に当たるが、全く気にすることなく男は周囲を分析し始めた。



「んだよ見えてるやつがいたのか。話が違うじゃねーか自称『天才』さんよぉ……」



 そういって気だるそうに空いている左手で男は頭をかいた。不満げな男はその視線をリリィに移す。


 

「ま、見ちゃったからにはしょうがない。割と好みの顔だけど、死んでくれお嬢ちゃん」



 すると男は右手の力を強めたようで、リリィが一層激しくもがき始めた。

 悲鳴を上げたくても苦しくて上げることができないその様子を見て、ウィンは今出せる声を捻りあげた。



「やめ……、……糞野郎!」


「ああ?」



 煩わしそうに男がこちらを振り向いた。黒い瞳がこちらを凝視する。殺意に満ちたその眼光は、人を殺めることに全く迷いがないように感じられた。

 少しでも煽って先にこちらに来るように仕向けることしか今のウィンには考えることができず、それをそのまま実行した。思惑通りにいったが、ここから先はどうするか。ウィンは激痛に耐えながらも、次に打つべき手を必死に模索する。

 だが、こちらを見た男の反応は予想外のものだった。



「……生きてたのかよ、レイン隊長殿」


「?」



 男はリリィをあっさりと離し、こちらに近づいてきた。ようやく呼吸ができたリリィはその後ろで倒れて咳き込んでいる。

 ウィンまで一瞬で距離を詰めた男は、髪の毛を無造作に掴んで無理矢理顔を上げさせた。苦痛に耐えながらも睨み付けるウィンヲまじまじと見つめながら男は笑った。



「瞳の色が違うけど、それ以外は顔もそのままだし、何よりもこの魔力が感じられない。間違いなくレイン隊長殿じゃないでありますか! ははっ、生きてたのかよお前」


「一体何を――」



 その言葉にウィンが反応したところで、男は掴んだその手を振り上げた。

 何本も髪の毛が抜け落ちたとともにウィンの体が宙を舞った。すさまじい腕力に驚いていたのもつかの間、屋上に落下する直前の無防備な浮いている状態の腹に、男の右足がめりこんだ。

 防御も何もすることができずに、強烈なその一撃をくらったウィンは別方向のフェンスにたたきつけられた。



「どうしたよ。この顔忘れちゃったってか?」



 けたけたと笑う男の声を聴きながら、ウィンは再びこみあげてきたものを吐き出す。全身が限界に近いようで、各部が痙攣を始めていた。

 正直に言って意識を繋ぐだけでもやっとの状態だった。それでも、リリィが逃げるための時間を稼がなければならない。寝ころびながらも、こちらを見ている男を睨み付ける。その様子を見て、男は何かを思い出したようだった。



「ああそうか。お前襲ったときは毎回あの姿だったもんな。悪い悪い、最近なまけた生活送ってたからボケちまったみたいでさ」



 すると、男の全身を赤い稲光が男の周囲を覆う。眩いそれにウィンは目がくらんでしまう。

 稲光が消えた後、そこには全身が黒い獣のような見た目に変化した男が立っていた。



「こっちの方がお前は覚えてるよな? レイン隊長殿?」

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