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第62話『お見舞い-高嶺さん編-』

『姫奈ちゃんから聞いているかもしれないけど、風邪引いちゃったので今日は欠席します』


 1年2組の教室に着いた直後、LIMEで高嶺さんからそんなメッセージが届いた。一昨日や昨日、俺が同じようなメッセージを送ったときのことを思い出し、俺は高嶺さんに『お大事に』とメッセージを送った。

 ゴールデンウィークの前までは、学校で高嶺さんと話さずに過ごすのが普通で。だから、当時はそのことに何とも思わなくて。

 ただ、今は高嶺さんがいない教室で過ごす時間がとても長く感じた。正直、寂しいと思うことが何度もあって。

 昼休みは、華頂さんと伊集院さんと3人でお昼ご飯を食べる。


「一昨日と昨日は高嶺さんと3人で食べたのか?」

「そうだよ。ここで食べたの」

「低田君を感じられるからここがいいと結衣が言ったので。一番後ろの窓側という位置もいいのです。普段と違って、結衣は低田君の席に座っていたのですよ」


 俺を感じるってどういうことだ? 残り香とか? 土日を挟んでいたのに。何にせよ、高嶺さんらしいと思う。


「そういえば、ゆう君と姫奈ちゃんはお見舞いに行くの? あたしは夜までバイトがあるから行けないけれど……」

「そうか、分かった。俺はお見舞いに行くよ。一昨日と昨日、高嶺さんは俺の家にお見舞いに来てくれたから、そのお礼も兼ねて」

「きっと、低田君が行けば結衣も元気になると思うのです。では、月曜日と同じように、あたし達の代表として、放課後は低田君に行ってもらうのです。あたしは今朝行きましたし。千佳先輩にもそう話すのです」


 伊集院さんはスマホを手に取った。

 女子の家だけど、高嶺さんの家だからな。初めて家に行ったとき、特に父親の卓哉さんからは高嶺さんと仲良くしてほしいと言われたくらいだし、俺一人で行ってもきっと大丈夫だろう。ただ、失礼なことや、高嶺さんの体調が悪くなってしまうことをしないように気を付けないと。


「千佳先輩も今日は低田君に任せ、結衣によろしくとのことなのです」

「……分かった。放課後は俺一人で高嶺さんのお見舞いに行くよ」

「よろしくね、ゆう君」


 俺が行って、高嶺さんが少しでも元気になればいいな。高嶺さんの場合、興奮して熱が朝よりも上がってしまう可能性も否めないけど。

 それからも、3人でお昼ご飯を食べていく。楽しかったけど、やっぱり高嶺さんがいた方がもっと楽しいと思えて。きっと、一昨日と昨日には、これに似た気持ちを高嶺さん達も感じていたのだろう。



 放課後。

 病み上がりだからなのか、それとも高嶺さんがいないからなのか、普段よりもやっと放課後になった感覚が強い。

 華頂さんと伊集院さんと一緒に学校を後にする。2人と一緒に帰るのは初めてなので新鮮だな。


「じゃあ、また明日ね。ゆう君、結衣ちゃんによろしくね!」


 バイトのある華頂さんはエオンの前で別れて、俺は伊集院さんと一緒に、高嶺さんの家がある駅の南側に向かって歩き始める。そういえば、伊集院さんと2人きりで歩くのはこれが初めてかな。


「低田君と2人きりで歩くのはこれが初めてなのですよね」

「そうだよな。俺も同じことを考えてた」

「ふふっ。結衣は風邪を引いていますし、何だか悪い気がするのです。愛しの低田君と2人きりですから。まあ、最近は胡桃ともいい感じですけど。今朝も手を繋いでいましたし……」


 ふふっ、と楽しげに笑う伊集院さん。土曜日は高嶺さんと3人で遊んだし、今朝の様子を見たらいい感じに思えるのだろう。

 伊集院さん……ニヤニヤして俺を見てくる。あの高嶺さんといつも一緒にいるから、真面目で落ち着いたイメージが定着しているけれど、あの高嶺さんの親友だ。興味があることには凄く食いついてきそうな気がする。話題を変えよう。


「ところで、伊集院さん。途中のコンビニでプリンを買おうと思っているんだけど、高嶺さんって好きかな」

「ええ、好きなのですよ。夏中心によく食べるのです」

「そうなんだ。じゃあ、プリンにしよう。実は一昨日、福王寺先生がお見舞いにプリンを買ってきてくれて。それがとても美味しかったからさ」

「お腹を壊していないのであれば、プリンはとてもいいですよね。今朝、結衣はお腹が痛いとは言っていなかったので大丈夫かと思うのです」

「分かった。教えてくれてありがとう」


 近くにあったコンビニに入り、伊集院さんに教えてもらい、高嶺さんが大好きな特製プリンを購入した。

 コンビニを後にしてから程なくして、普段、登校するときの待ち合わせ場所にしている広場に着いたので、伊集院さんとはそこで別れた。

 高嶺さんの家に行くのは初めてじゃないけれど、1人で行くのは今回が初めて。だから、知っている道だけれど、見知らぬ場所に来た感じがした。

 高嶺さんに到着し、インターホンを鳴らすとすぐに裕子さんが姿を現した。


「こんにちは、低田君。風邪が治って良かったわね」

「ありがとうございます。友人代表で来ました。俺の風邪を結衣さんがもらった感じになってしまいましたね。一昨日も昨日もお見舞いに来てくれたので」

「まあ、それは否めないね。元気な低田君を見たらきっと喜ぶと思うわ」

「……だといいですが。結衣さんの体調はどうですか?」

「午前中に病院に行って、そこで処方された薬を飲んだから、今はぐっすりと寝ているわ。小さい頃から、あの子は薬を飲めば、その日のうちに結構治るから。昼にはお粥をちゃんと食べていたし」

「そうですか。ちょっと安心しました。伊集院さんから、結衣さんはお腹も壊していないことと、プリンが大好きだと聞いたので、コンビニで買ってきたんです」

「そうなの! 結衣は幸せ者ね。さあ、上がって」

「はい。お邪魔します」


 高嶺さんの家に上がり、俺は2階にある高嶺さんの部屋へ向かう。

 ――コンコン。

 部屋の扉を軽くノックするけど、中から高嶺さんの返事は聞こえなかった。


「失礼します」


 ゆっくりと扉を開けると、部屋の中は薄暗くなっていた。耳をすますと、高嶺さんの寝息が聞こえてくる。ぐっすりと眠っているようだな。

 静かに部屋の扉を閉め、プリンとスプーンが入ったコンビニの袋をテーブルの上に置く。バッグをテーブルの側に置いて、そっとベッドを覗き込んだ。仰向けで寝ている高嶺さんの寝顔が可愛らしい。ただ、そんな寝顔は薄暗い今でも分かるくらいに赤い。


「んっ……悠真君……」


 夢に俺が出ているのか、高嶺さんは寝言で俺の名前を言う。まったく、どんな夢を見ているんだか。

 勉強机の椅子をベッドの近くまで動かし、腰を下ろした。

 部屋の中を見渡してみると、本当に広い部屋だなと思う。ただ、薄暗くて静かなときにいるのは初めてだからか、何だか寂しさを覚えるな。


「クンクン……悠真君の匂いがする……あっ、悠真君だ」


 そんな声が聞こえたのでベッドの方を見てみると、そこには水色の寝間着を着た高嶺さんが、パッチリと目を開けて俺を見ていた。高嶺さんと目が合うと、高嶺さんは俺に微笑みかけてくれた。


「こんにちは、高嶺さん。学校が終わったから、代表でお見舞いに来た。伊集院さんも華頂さんも中野先輩も高嶺さんによろしくって」

「ありがとう。凄く嬉しいよ。昨日、お見舞いに行ったときに悠真君の体調が良くなっていたから、今日、学校で会うのを楽しみにしていたんだ」

「……ごめん。俺が風邪をうつしてしまったかもしれない」


 そう言って俺が高嶺さんの頭を撫でると、高嶺さんは可愛らしい笑みを見せる。


「もしそうなら、私がもらったから悠真君が元気になったってことにしよう。悠真君がまた学校に行けるようになったのが嬉しいの。それに、今朝に比べたら調子も良くなってきているし、気にしないでいいよ」

「……ああ」

「でも、悠真君からなら、他のものももらいたかったな。例えば……温かいミルクとか……えへへっ」

「……気持ちの方は絶好調みたいだな。安心したよ」


 厭らしい笑い声を聞いてほっとできるなんて。まあ、この様子なら、少なくとも明後日には学校で会えそうかな。


「高嶺さん。俺、途中のコンビニでプリンを買ってきたんだ。伊集院さんに教えてもらって、そのコンビニの特製プリンをさ」

「そうなんだ! 嬉しいなぁ」

「テーブルに置いてあるけど、今すぐに食べるか? それとも、後にするか? もしそうなら、キッチンに行って冷蔵庫に入れさせてもらうけど」

「今すぐに食べたいな。大好きだし、お腹の調子も悪くないから。できれば、悠真君に食べさせてもらえると嬉しいです。その方がより美味しく感じられそうし、元気が出そうだから」

「……もちろんいいよ」


 今は病人だ。高嶺さんが今すぐに食べたいと言ったら、俺が食べさせるつもりでいた。

 俺はテーブルに置いてあるビニール袋を手にとって、中からプリンとスプーンを取り出す。それが見えたのか、「やったぁ」と高嶺さんが言う。可愛いな。

 食べやすくするためなのか、それとも俺の近くにいたいのか、高嶺さんは横になったままの状態でベッドの端の方まで近づく。

 プリンをスプーンで掬って、


「はい、高嶺さん」

「あ~ん」


 高嶺さんの口の中にゆっくりと入れる。

 大好きな特製プリンだからか、口の中にプリンが入った瞬間から高嶺さんは嬉しそうな笑みを浮かべて、


「とても美味しい。甘いのはもちろんだけど、冷たいのがいいね。買ってきてくれてありがとう、悠真君。元気出てくる」

「それは良かった。……はい、高嶺さん」

「あ~ん。……う~ん、美味しい。大好きなプリンを大好きな悠真君に食べさせてもらえるなんて幸せだな。風邪引いて良かったかも」

「……そうか」


 元気なときでも食べさせてもらいそうな気がするけど。ただ、体調を崩して、学校で俺や伊集院さんに会えない時間を過ごしたからこそ、俺に大好物を食べさせてもらえるのがとても幸せに思えるのかもしれない。


「ねえ、悠真君。今度は口移しで食べさせてくれない? きっと、甘さや旨みが倍増すると思うの。私、病人」


 右手の人差し指で自分のことを指す高嶺さん。元気になってきて、調子も乗ってきたな。


「いくら病人の頼みだからってできないことはあるよ」

「……さすがにダメか」


 と、高嶺さんは微笑む。

 前に、唇にキスするのは恋人になるまでとっておくって、高嶺さん自身が言っていたと思うんだけど。口移しはノーカンか?


「じゃあ、今回はスプーンで食べさせてもらおう。あ~ん」


 高嶺さんは少し大きめに口を開ける。なので、これまでよりも多めに掬って、高嶺さんに食べさせる。毎回いい笑顔を見せてくれるなぁ。

 あと、さりげなく「今回は」って言ったな。どうやら、口移しでプリンを食べさせてもらう野望は消えていないようだ。

 その後も、俺は高嶺さんにプリンを食べさせた。もちろん、スプーンでね。

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