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第52話『にゃんにゃん』

 高嶺さんと華頂さんが立てた予定によると、最後に行くお店は金井にあるとのこと。なので、俺達は電車に乗って武蔵金井駅に戻ることに。

 電車の中は朝よりも混んでおり、席に座れなかった。ただ、車窓からの景色を楽しみながら2人と話していたら、武蔵金井駅まであっという間で。そして、地元に戻ると安心する。

 南口を出て徒歩3分。俺達が立ち止まったところにあるのは、落ち着いた雰囲気が特徴的な2階建ての建物。入口の看板には『猫カフェ・かにゃい』と描かれている。


「おっ、猫カフェか」

「そうだよっ! ここが今日最後に行く予定のお店だよ」

「この前、ゆう君とLIMEで話したとき、ゆう君が猫のイラストスタンプを使っていたから。それで、猫カフェがいいんじゃないかって結衣ちゃんに提案したの」

「それで、これまで姫奈ちゃん達と来たことあるこのお店にしようって決めたんだ」

「そうなのか。猫は大好きだぞ。たまに家に来るノラ猫が凄く可愛いんだ。頭しか触らせてくれないけど」

「そうなんだ。いつか、その猫にも触ってみたいな!」

「運が良ければ会えると思う。高嶺さんと華頂さんなら触れそうだ。……それにしても、猫カフェは初めてだな。さっそく入るか」

「そうだね! 入ろう!」


 来店した経験のある高嶺さんがお店の扉を開け、俺達は猫カフェ・かにゃいの中に入る。すると、さっそく奥に何匹もの猫が見える。

 料金表を見ると……このお店は滞在時間の長さで料金を話す仕組みになっているのか。3人とも猫が好きなので、60分コースの料金を支払う。

 受付を済ませて奥へ進むと、そこにはたくさんの猫がいた。既に来店しているお客さん達はみんな、猫達と戯れて幸せそうだ。


「うわあっ、猫ちゃん達がたくさんいるね! アメリカンショートヘアの猫ちゃんがさっそくあたしに近づいてくれてる」

「胡桃ちゃんを気に入ったのかもね。ほら、悠真君の足元にも茶トラの猫が近づいてくれているよ」

「……おっ、本当だ」


 高嶺さんの言う通り、俺の足元には茶トラ猫が。


「にゃぉん」


 俺と目が合うと、茶トラ猫は俺に向かって鳴いてくれ、足元に頭をスリスリしてくる。家に来る歴代のノラ猫は、鳴くことはあってもスリスリしてくれた記憶がないぞ。


「……凄く可愛いな」

「可愛いね。この猫の性別は分からないけど、悠真君に近づくとはこの猫もお目が高い。2人とも、あそこの長いソファーが空いているから、とりあえずはあそこでくつろごうか」

「そうだな」

「分かった!」


 俺達は近くにあるソファーに腰を掛ける。そのときの並び順は行きの電車や映画館と同じように、俺が高嶺さんと華頂さんに挟まれる形だ。

 俺のことを気に入ってくれたのか、俺がソファーに腰を下ろすと、茶トラ猫が俺のところにやってきて、膝の上にジャンプして香箱座り。華頂さんについても同じく、さっきまで足元にいたアメリカンショートヘアがソファーの横から彼女の膝に乗る。


「あたしはこの猫ちゃんに気に入られたみたい」

「良かったな。膝の上に猫が乗るなんてことは初めてだから、夢なのかなって思うよ」

「悠真君ったら大げさだね。……おっ、私には君が来てくれたか」


 気付けば、高嶺さんの足元には黒白のハチ割れ猫が来ていた。高嶺さんが自分の太ももを軽く叩くと、ハチ割れ猫はぴょんと高嶺さんの膝の上に飛び乗った。そして、ゴロゴロとする。


「3人とも膝の上に猫が乗ったね。……そうだ、せっかくだから写真を撮ってもらおうよ。……すみません、このスマートフォンで写真を撮ってもらっていいですか?」

「はい、かしこまりました!」


 高嶺さんは近くにいた女性のスタッフさんにスマートフォンを渡す。


「では、撮りますよー」


 そう言うと、高嶺さんと華頂さんがすぐにピースサインをしたので、俺も2人の真似でピースサインをした。


「はい、撮れました。これでよろしいですか?」

「……はい! ありがとうございます! 2人に送るね」


 高嶺さんがそう言ってからすぐにスマホが鳴る。それでも、俺の膝の上に乗っている茶トラ猫はビクともしなかった。

 確認すると、高嶺さんからさっきスタッフさんに撮ってもらった写真が送られてきた。俺達の膝の上に乗っている猫も可愛いけれど、ピースサインしている高嶺さんと華頂さんも可愛らしいなと思った。

 その後すぐに、高嶺さんと華頂さんの膝の上に乗っていた猫がそれぞれ離れたので、2人は店内にいる猫を見るためにソファーを後にした。


「……君はずっとここでくつろいでくれるね」

「にゃん」


 茶トラ猫の頭から背中にかけて撫でる。毛が柔らかくて気持ちがいい。


「にゃー」


 そんな鳴き声が聞こえた次の瞬間、高嶺さんが座っていた場所に黒猫が飛び乗ってきて、その場でゴロンゴロンとする。高嶺さんの残り香に惹かれたのだろうか。

 黒猫の鼻に左手の人差し指を近づけると、黒猫は指をクンクンと嗅ぐ。俺の匂いが気に入ってくれたのか、左手に顔をすりすりしてくれる。そして、そんな光景を見てショックを受けたのか。それとも、単なる気まぐれなのか茶トラ猫は俺の膝から降り、別のお客さんのところへと歩いて行ってしまった。


「にゃおん」


 結果的に、茶トラ猫と入れ替わる形で黒猫が膝の上に乗ってきて、体をゴロンゴロンとしてきた。


「君も可愛いね」


 触らせてくれる猫や鳴いてくれる猫もいいけれど、膝の上で何度も寝返りしてくれる猫も可愛いな。


「にゃ~」


 おっ、高嶺さんの声に似た綺麗で可愛らしい鳴き声だな。どんな猫なんだろう。


「にゃおにゃお~ん」

「……人間そっくりな姿をした猫だね」


 鳴き声のする方に顔を向けると、そこには黒い猫耳カチューシャを付けた高嶺さんがいた。いつの間にカチューシャを買ったのだろうか。それともお店の貸し出しなのか。両手を猫の手の形にしている徹底ぶり。


「高嶺さん、カチューシャ似合ってるな」

「ありがとう、悠真君。悠真君に戯れている猫を見たら羨ましくなっちゃって。そうしたら、受付近くに置かれている猫耳カチューシャを見つけてね。300円で売っていたから、胡桃ちゃんと一緒に買ったの。これで猫ちゃん気分を堪能だにゃぁん」


 高嶺さんは俺の胸に頭をすりすりとしてきた。すりすりしてくる猫もいるけれど、この高嶺猫はあまりにもすりすりの仕方が激しい。

 あと、この角度から高嶺さんを見ると、ワンピースの隙間から胸の谷間と青系のブラがチラッと見えて。そのことにドキッとする。さっきのホッケーといい、こういうことを想定してワンピースを着ようと決めたのかな。

 あと、華頂さんと一緒に買ったってことは、彼女も高嶺さんのように――。


「にゃ、にゃあ」


 華頂さんの声に似た鳴き声が聞こえてくる。ジャケットの右袖を掴まれたのでそちらを向くと、そこには赤い猫耳カチューシャを付けた華頂さんの姿が。俺に見られるのが恥ずかしいのか頬をほんのりと赤くしている。


「ゆ、結衣ちゃんに誘われて買ってみました……にゃん」

「……とても可愛いよ、華頂さん」

「……ありがとう」


 えへっ、とはにかむ華頂さん。あまりにも可愛いので、思わず彼女の頭をポンポンしてしまった。そのことに驚いたのか、華頂さんは体をビクつかせて頬の赤みが強くなる。でも、笑みは絶やさなかった。


「胡桃ちゃん、とっても可愛いね!」

「ありがとう。結衣ちゃんも可愛いよ。似合ってる」

「ありがとう。ねえ、悠真君も猫耳カチューシャを一緒に付けようよ。黄色いカチューシャもあったにゃん」


 高嶺さんは猫なで声でそう言い、上目遣いで俺のことをじっと見つめてくる。


「あ、あたしも猫耳カチューシャを付けたゆう君を見てみたいな」


 優しい笑みを浮かべながらそう言う華頂さん。

 まあ、ここは猫カフェなので、プライベートな場を除けば、猫耳カチューシャを付けやすい環境だろう。2人も既に付けているし、周りのお客さんが見ても「一緒に付けているんだな」くらいに思ってくれるだろう。


「分かった。猫耳カチューシャを買ってくるよ」


 俺は受付に行き、黄色い猫耳カチューシャを購入する。300円にしてはクオリティが高いんじゃないだろうか。両耳を触ってみるとふわふわして気持ちいい。

 頭に付けてみると……うん、カチューシャをするのは初めてだから、頭に何かが乗っているのは変な感じがするけど、不快感はないな。クラスにカチューシャを付けている女子生徒がいるけど、こういう感覚なのか。

 周りに鏡はなかったので、スマホのインカメラ機能を使って自分の姿を見てみる。金髪だから黄色いカチューシャで正解だったな。似合っているかどうかはともかく、自然な感じはする。

 高嶺さんと華頂さんのいるソファーに戻ると、2人は隣同士に座って楽しげに喋っていた。


「高嶺さん、華頂さん、猫耳カチューシャを付けてみたぞ」

「おっ、悠真君似合ってるよ!」

「可愛いよ! ゆう君!」


 高嶺さんと華頂さんも好印象で一安心。高嶺さんに至っては右手でサムズアップするほど。あと、大きな声を出して猫は大丈夫なのかと思ったけど、近くにいる猫が2人の方を向いただけで、その他の猫は無反応だった。

 高嶺さんの隣に座ると、さっきまで膝の上に乗ってきた黒猫が再び俺のところにやってきた。


「にゃぉん」

「何度も来てくれて可愛いな、君は」


 頭を撫でると、黒猫は俺の膝の上に乗ってくつろぐ。すっかりとここが気に入ってくれたようだ。


「気に入られているね、悠真君」

「ああ。ここまで猫に触れられたのは初めてだよ。2人とも、猫カフェに連れてきてくれてありがとう」

「私は胡桃ちゃんの提案に賛同しただけだから、感謝されるのは胡桃ちゃんだよ」

「ふふっ、猫カフェが良さそうだって提案して良かったよ。ゆう君と結衣ちゃんのネコ耳姿を見ることができたし」

「こちらこそありがとね! 悠真君の可愛いネコ耳姿を見ることができたし。……あっ、そうだ。せっかくだから、猫耳姿のスリーショット写真を撮ろうよ!」

「いいね! 後でLIMEで送ってくれる?」

「もちろん! 悠真君もそれでいいかな?」


 猫耳姿で写真を撮られることの恥ずかしさはあるけど、初めての猫カフェの思い出として形に残したい気持ちの方が強い。


「……分かった。でも、恥ずかしいから、あまり見せびらかしたり、送りまくったりしないでくれよ。伊集院さんや中野先輩、あとは映画館で会った福王寺先生くらいで」

「うん、約束する。じゃあ、さっそく撮るよ~」


 撮りやすくするために、華頂さんと俺は高嶺さんに顔を近づける。こういう形で顔を近づけるのは初めてだから緊張するし、ドキドキするな。高嶺さんの髪からほんのりとシャンプーの甘い匂いがしてくる。

 高嶺さんのスマホで俺達の猫耳スリーショット写真を撮る。


「……うんっ! いい写真が撮れた! さっそく送るね~」


 満足げな様子で言う高嶺さん。

 それから程なくして俺のスマホが鳴る。確認すると、LIMEで高嶺さんがさっきの猫耳スリーショット写真を送ってくれた。

 写真を撮った際に顔をかなり近づけた自覚はあったけど、写真で見ると高嶺さんにかなり顔を近づけていたのだと分かる。頬がほんのりと赤いくらいで良かった。あと、高嶺さんと華頂さんはとてもいい笑顔になっている。もちろん、この写真はスマホに保存した。


「結衣ちゃん、ありがとう」

「ありがとな、高嶺さん」

「いえいえ」


 それからも、俺達は入店してから60分経つまでの間、猫に触ったり、お店の餌を手で食べさせたりするなどして、猫達に囲まれる癒やしの時間を堪能するのであった。

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