第9話『ハロウィンパーティー-中編-』
「よし、カボチャのドーナッツ完成!」
「完成したね!」
結衣と一緒に担当したカボチャのドーナッツが完成した。結衣のアドバイスもあって、美味しそうなきつね色に揚げることができた。
「美味しそうにできたね! 甘くて香ばしさもあるいい匂い」
「そうだね、華頂ちゃん。お腹空いてくるね~」
「美味しそうなのです。ケーキ作りも頑張るのですっ」
胡桃、中野先輩、伊集院さんはそう褒めてくれた。嬉しいな。
「ドーナッツ作り初めてだけど楽しかった。結衣と一緒だったし」
「嬉しい。私も悠真君と一緒に作れて楽しかったよ!」
結衣は満面の笑顔でそう言ってくれる。そのことにとても嬉しい気持ちになって。
また、ドーナッツができてから少しして、
「カボチャのカップケーキ完成なのです!」
「完成だね! 美味しそうにできたね!」
「美味しそうにできたよね! あと、チョコペンで可愛く絵を描けたね」
胡桃、伊集院さん、中野先輩が担当したカボチャのカップケーキも完成した。ふんわりと焼き上がっていて美味しそうだ。あと、チョコペンで描かれたカボチャのお化けやコウモリなどの絵も可愛らしい。
「わぁっ、ケーキ美味しそうです! チョコでのイラストも可愛いです」
「そうだな、結衣。ケーキも美味しそうです」
ドーナッツと一緒に食べるのが楽しみだ。
二班に分かれたことでスムーズに作れたからか、俺達が最初に2つとも作り終わったようだ。
俺達は完成したスイーツをスマホで撮影したり、スイーツ作りで使った調理器具を片付けたりしていく。そして、
「みなさんスイーツ作り終わりましたね! お疲れ様でした! では、コスプレ衣装を持ってきた人は着替えましょう! この家庭科室か更衣室で着替えてください」
全員がスイーツを作り終わったところで、部長さんがそうアナウンスした。
いよいよコスプレの時間か。結衣が選んでくれた吸血鬼の衣装を着たり、結衣達のコスプレ衣装をもうすぐ見られたりすると思うと楽しみだ。
俺が着る吸血鬼の衣装はマントとベストとジャボだけで、制服のスラックスやワイシャツまで脱ぐ必要はない。だから、ここで着替えても大丈夫だな。
「悠真君。私達は更衣室で着替えるけど、悠真君はどうする? 悠真君の衣装はスラックスとかワイシャツまで脱がなくても大丈夫なやつだけど」
「俺はここで衣装を着るよ。それで、コスプレした結衣達が戻ってくるのを楽しみに待ってる」
「了解。じゃあ、着替えてくるね!」
「いってくるね、ゆう君」
「いってくるのです」
「いってくるね、悠真」
「いってらっしゃい」
結衣、胡桃、伊集院さん、中野先輩は荷物を持って家庭科室を後にした。また、その直後に、
「先生も着替えに行ってくるね」
福王寺先生も家庭科室を後にした。
その後も、パーティーに参加している生徒達が続々と家庭科室を後にして、残っているのは俺を含めて6人だった。
「着替えるか」
俺は制服のジャケットを脱いで、ネクタイを外す。
持参した吸血鬼の衣装を着ていく。
この衣装を着ると、結衣と一緒に買いに行ったときのことを思い出すなぁ。吸血鬼を含め購入する候補となった衣装を試着したときに、衣装に合った言葉をえっちな感じの言葉を言ったっけ。結衣が喜んでくれたのもあって楽しかったな。
「よし、着られた」
ただ、ちゃんと着られているどうか、お手洗いの鏡で確認しよう。
家庭科室と同じフロアにあるお手洗いに行き、用を済ませた後に、洗面台の鏡に映る吸血鬼の衣装を着た自分の姿を見る。
「……大丈夫だな」
特に問題なく着られている。良かった。
家庭科室に戻ると……まだ結衣達は戻ってきていないか。
自分達の調理台に戻って、スマホで撮影した結衣達のエプロン姿や、コスプレ衣装を買いに行ったときに撮影した結衣のコスプレ姿の写真を見ながら待つ。……結衣のコスプレ姿はもちろん、結衣や胡桃達のエプロン姿も可愛いなぁ。写真を見たら、みんながコスプレしてここに戻ってくるのがより待ち遠しくなったぞ。
「お待たせ、悠真君」
結衣のそんな声が聞こえたので、声がした方に顔を向けると……着替えてきた結衣達が戻ってきていた。
結衣のコスプレはもちろん、俺が選んだナース服だ。試着したときも可愛いと思ったし、今も写真を見て可愛いと思ったけど、こうして改めて見ると本当に可愛いな。
胡桃のコスプレは……メイドだな。黒を基調とした半袖のメイド服だ。よく似合っていて可愛らしい。メイドさんは優しい胡桃によく合っている。ただ、このメイド服は文化祭で結衣や伊集院さんを含めた喫茶店の接客係の女子と福王寺先生が着たもののような気がする。
伊集院さんのコスプレは……アイドルかな。赤を基調としており、半袖でスカート丈も膝よりも少し短い程度。フリルがついていてとても可愛らしい雰囲気だ。以前、音楽番組でこういう服装をした女性アイドルを観たことがある。伊集院さんはニジイロキラリという女性アイドルグループが大好きだし、アイドルの衣装を着たいと思ったのかも。本物のアイドルのようで可愛い。
中野先輩のコスプレは……ゴスロリだな。長袖で膝丈の黒いフリルワンピースを着ている。似合っているなぁ。いつもとは違ったミステリアスさもある大人な雰囲気が感じられる。
福王寺先生のコスプレは……う、うちの女子生徒だな。金井高校の女子の制服を着ている。先生は今年26歳になったけど結構似合っている。先生のことを知らなかったら、やけに大人な雰囲気を持つ女子高生にしか見えないんじゃないだろうか。
「結衣はもちろん、みなさんもよく似合っていますね。可愛いですし、素敵ですよ」
俺は結衣達のことを見ながら、正直に感想を伝えた。
結衣達のコスプレは本当によく似合っている。他にもコスプレして似合っている人達はいっぱいいるけど、この5人は特に似合っていると思う。
「ありがとう、悠真君。悠真君の吸血鬼姿はとても素敵でかっこいいよ! この衣装にして良かったよ!」
「ありがとう、ゆう君。ゆう君は吸血鬼なんだね。似合っているし、かっこいいよ」
「ありがとうなのです、低田君。低田君の吸血鬼のコスプレも似合っているのです」
「ありがとう、悠真。悠真の吸血鬼姿もいいじゃない。似合ってる」
「ありがとう、低田君。低田君の吸血鬼姿も似合っているし素敵だよ!」
結衣達はみんな嬉しそうな笑顔でお礼と、俺の吸血鬼のコスプレ姿が似合っていると言ってくれた。結衣から似合っていると改めて言ってもらえるのはもちろん、初めて見せた胡桃達からも言ってもらえて凄く嬉しい。
「みなさん、ありがとうございます。結衣が選んでくれた衣装ですし、本当に嬉しいです」
結衣達のことを見ながらお礼を伝えた。
「結衣と俺の衣装は買ったものですが、胡桃達は? 胡桃と福王寺先生は自分で買ったものではなさそうですが」
「その通りだよ、ゆう君。このメイド服は結衣ちゃんから借りたんだ。文化祭でメイド服姿になった結衣ちゃんや姫奈ちゃんや杏樹先生がとても素敵で、メイド服が可愛かったから、このハロウィンパーティーで着てみたいなって。結衣ちゃんのメイド服を着られるかなと思ってお願いしたの」
「そうだったのか」
思い返すと、文化祭で、胡桃は結衣や伊集院さんや福王寺先生のメイド服姿が可愛いと言っていた。だから、結衣達が着たメイド服を着たいと考えるのも納得だ。
「胡桃ちゃんは私よりも胸が大きいけど、私の方が胡桃ちゃんより背が10センチくらい高いし体も大きいからね。だから、メイド服のサイズも大きめで。胡桃ちゃんは私のメイド服を難なく着られたの。だから、胡桃ちゃんに貸したんだ」
「なるほどな」
「貸してくれてありがとう、結衣ちゃん。このメイド服を着てパーティーに出られて嬉しいよ!」
胡桃はとっても嬉しそうな笑顔でそう言った。胡桃の嬉しい気持ちがひしひしと伝わってくるよ。
「いえいえ。このメイド服姿の胡桃ちゃんを見られて嬉しいよ。可愛いよっ。優しい雰囲気の胡桃ちゃんにピッタリだよ!」
結衣は言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言った。俺もさっき、メイド服は優しい雰囲気の胡桃に合っていると思っていたので頷いた。
「あと、杏樹先生の着ている制服も私が貸したものなの」
「そうなのか」
「ハロウィンパーティーをやるって伝えた前回の部活が終わったときに、結衣ちゃんにお願いしたの。教師にとって一番のコスプレは勤めている学校の生徒が着る制服かなと思って。それに私、金井高校出身じゃないし。あと、うちの高校の制服は可愛いから着てみたいのもあってね。それで、プロポーションが私と似ている結衣ちゃんの制服なら着られるかなと思って、結衣ちゃんに貸してほしいってお願いしたんだ」
「そうだったんですね」
確かに、金井高校の教師ということを考えると、生徒の制服を着るというのは一番のコスプレかもしれないな。教師が着るからインパクトがあるし。あと、福王寺先生が美人で可愛らしいのもあってよく似合っているし。
あと、結衣と福王寺先生は……確かにプロポーションが似ているな。結衣の制服なら着られると思ったのも納得だ。夏休みに旅行へ行ったときの海水浴で見た2人の水着姿を思い出しながらそう思った。
「制服を着られて嬉しいよ。結衣ちゃん、ありがとう!」
胡桃と同じように、福王寺先生は嬉しそうな様子で結衣にお礼を言った。笑顔が可愛いのもあって、段々とうちの高校に通っている生徒に見えてきたぞ。
「いえいえ。制服姿の先生を見られて嬉しいです。可愛いですよっ。知らない人が見たらうちの生徒だと思いますよ!」
胡桃のときと同じように、結衣は嬉しそうに言った。俺もさっき、知らない人が見たら生徒に見えるだろうと思ったので頷いた。
「結衣、大活躍だな」
「ふふっ。メイド服も制服もサイズが合って良かったよ」
「そうだな。……伊集院さんと中野先輩は、結衣と俺のようにお店で購入したんですか?」
「はい、そうなのです。ニジイロキラリが好きなので、あたしもアイドルの衣装を着たいと思ってこれを買ったのです」
「私も買ったものだよ。こういう感じの服は普段は着ないから、このパーティーのコスプレをいい機会に思い切って着てみようと思って買ったんだ」
「そうだったんですね」
衣装を手に入れた手段は同じだけど、購入しようと決めた理由は全然違うんだな。ただ、伊集院さんも中野先輩も理由が素敵でいいなって思った。
「ねえねえ、みんな。先生……みんなにお願いしたいことがあって」
福王寺先生は俺達5人のことを見ながらそう言ってくる。
「どんなことですか?」
結衣がそう聞き返す。
「結衣ちゃんの制服を着たから、みんなに『杏樹先輩』って呼んでほしいなって。結衣ちゃんに制服を貸してもらえることが決まったときから、制服を着たら呼んでほしいって思っていたの」
楽しげな様子でそう言ってくる福王寺先生。
結衣に制服を貸してもらえることが決まったときから、先輩呼びをしてほしいと思っていたのか。気持ちの強さが窺える。福王寺先生は教師で、いつも「先生」って呼ばれているからかもしれない。
「ハロウィンっぽくお願いしてみようかな。トリックオアトリート! 先輩呼びしてくれないといたずらしちゃうよ!」
福王寺先生は弾んだ声でそう言ってきた。トリックオアトリートか。先生の服装が制服姿なのもあり、とてもハロウィンらしい。
「ふふっ、ハロウィンっぽいですね。いいですよ、杏樹先生!」
「いいですよ、福王寺先生」
「あたしもいいのですよ」
「あたしも。先輩呼びしたら生徒の気分になれそうですもんね」
「そうだね、華頂ちゃん、私もいいですよ」
「ありがとう、みんな!」
先輩呼びされることになったからか、福王寺先生はとても嬉しそう。
「じゃあ、みんなで呼びましょう。せーの!」
『杏樹先輩!』
結衣の掛け声で、みんなで福王寺先生のことを先輩呼びした。
福王寺先生は先ほどよりももっと嬉しそうな笑顔になって、
「はーい! 杏樹先輩だよ!」
右手を挙げてそう言った。滅茶苦茶可愛いな、杏樹先輩。
「みんなのおかげで、今、凄く学生気分になれてる! 何だか懐かしい感じ! みんな先輩呼びしてくれてありがとう!」
ニッコニコとした笑顔で福王寺先生……いや、杏樹先輩は俺達に向かってお礼を言った。念願が叶ってとても嬉しいのだろう。
「いえいえ、喜んでくれて嬉しいです。あと、杏樹先生、可愛かったですよ!」
「そうだな、結衣。喜んでもらえて良かったです」
「喜んでくれて嬉しいです。制服姿が似合っていますし、先輩呼びしたので、杏樹先生が本当の生徒のように思えました」
「そうなのですね、胡桃。杏樹先生可愛かったのです」
「可愛くて大人っぽい雰囲気のある3年の先輩って感じがしましたよ、杏樹先輩」
「ふふっ、ありがとう」
福王寺先生は再びお礼を言った。
「……あの。コスプレしたので写真を撮りましょう!」
結衣が明るくそう言ってきた。
せっかくコスプレして、いつもと違う服装になっているんだ。ハロウィンパーティーの記念としても写真に収めたい。
「そうだな。記念に撮ろう」
俺はすぐに賛成した。それもあってか、結衣はとても嬉しそうだ。
「いいね、結衣ちゃん、撮ろう!」
「一緒に撮るのです!」
「せっかくコスプレしたんだもんね。撮ろう撮ろう」
「是非撮りましょう!」
胡桃達も笑顔で快諾。なので、写真を撮ることになった。
その後はみんなのスマホでコスプレした姿を撮影する。それぞれのコスプレはもちろん、結衣と俺、結衣達女性陣、部長さんに頼んで6人みんなでの写真などいっぱい。
あと、みんなコスプレをしているので、コスプレした衣装に合った言葉を言う動画を撮ろうということになり、
「今宵も君の血を吸わせてもらおうか」
「は~い、お薬とお注射の時間ですよ。その後にカボチャを使ったおやつを食べましょうね~」
「おかえりなさいませ、お嬢様、ご主人様。カボチャを使ったスイーツをご用意していますよ」
「みんなのアイドル・伊集院姫奈なのです! 今日もみんなのために歌を歌うのです!」
「ゴスロリの服を着るキャラは……マイペースで落ち着いた喋り方をするキャラが多いイメージがあるわ……うふふっ」
「金井高校に通う福王寺杏樹だよ! 今はスイーツ部のハロウィンパーティー中だよ!」
と、みんなの動画をスマホで撮影した。試着したときに結衣に吸血鬼っぽい言葉を言っていたので、スマホを向けられても緊張せずに言えた。あと、結衣達は結構ノリノリで言っていた。
撮影した写真や動画はLIMEの俺達6人のグループトークにアップした。写真や動画で見ても結衣達のコスプレは可愛いな。そう思いながらスマホに保存した。
また、俺達6人がコスプレした姿の写真を撮った後、部長さんの提案もあって、参加者全員での写真を撮ることに。ホワイトボードの前で全員が集まり、三脚に設置した部長さんのスマホを使って撮影するのであった。