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第6話『かみなりこわい』

 10月21日、月曜日。

 週が明けて、今日から再び学校生活が始まった。

 また、中間試験が来週の月曜日から木曜日まで実施される。校則によって、中間試験1日目の1週間前である今日から部活動が原則禁止となる。このことで週が明けたと同時に学校全体が試験ムードになり始めた。

 部活動の禁止期間になったことや、結衣からの誘いもあり、放課後に結衣の家で、結衣と胡桃と伊集院さんと中野先輩の5人で試験対策の勉強会をすることになった。

 結衣の家にお邪魔して、結衣の部屋に到着すると、さっそく勉強会を始める。

 平日の放課後なので、今日の授業で出た課題から取り組み始める。課題はその日の授業の復習の内容であり、試験範囲でもあることが多い。分からないところがあればすぐに訊けるのもあり、放課後の勉強会では課題から始めることが多い。中野先輩だけは2年生だけど、


「早いうちに課題をやるのはいいことだし、分からないところは後でクラスの友達にメッセージで訊けばいいよ」


 という理由で先輩も課題を取り組んでいる。

 課題は特別難しくはないので、スラスラと解くことができている。結衣や中野先輩と一緒に、胡桃と伊集院さんの分からないところを教えることも。

 また、1問だけ、問題が解けたけど合っているかどうか不安だったので結衣に質問すると、


「一緒に確認しようか!」


 と、結衣は物凄く嬉しそうに質問に答えてくれた。可愛い。1学期の頃から、俺が質問すると結衣はとても嬉しそうになる。ちなみに、俺の導き出した答えは合っていた。


「合ってて安心した。結衣、ありがとう」


 お礼を言って結衣の頭を撫でると、結衣はもっと嬉しそうにしていた。そんな結衣の反応に癒やされ、今日の学校や課題の疲れが取れていく。

 順調に試験勉強をしていく中、

 ――サーッ。

 と、外から雨音らしきものが聞こえてきた。

 窓の方を見ると……外は分厚い雲に覆われてちょっと暗くなっていた。窓には水滴がいくつも付いていて。やっぱり雨が降っているんだ。

 そういえば、今朝見た天気予報で、関東地方は夕方に雨が降る地域があるって言っていたな。一部地域では雷が鳴るとも。

 ――ザーッ。

 雨脚が強くなってきたな。スクールバッグに折りたたみ傘が入っているけど、結衣の家から帰る頃には弱まっているといいな。そんなことを考えながら課題を続けると、


 ――ドーンッ!

『きゃあああっ!』


 大きな雷鳴がして、それと同時に結衣と胡桃と伊集院さんの悲鳴が部屋に響き渡った。その中で、俺の隣に座っている結衣は俺の腕にしがみついた。


「ううっ、雷怖いよ……」


 結衣は弱々しい声でそう言う。顔色も悪くなっている。これまで、メッセージや学校での話で結衣から雷が怖いと話されたことがあったけど、雷を怖がっている結衣を見るのは初めてだ。今の雷鳴が大きかったのもあるかもしれないけど、かなり怖がっているのだと分かる。


「今の雷の音は大きかったな、結衣」


 そう言い、結衣の頭を優しく撫でる。これで少しでも結衣の気持ちが和らぐといいな。

 どうやら、今朝見た天気予報での「一部地域」に当てはまってしまったようだ。

 胡桃と伊集院さんと中野先輩はどんな様子だろう。特に悲鳴を上げた胡桃と伊集院さんは。

 まずは俺と向かい合って座っている胡桃と伊集院さんの様子を見ると……2人は怖がった様子で抱きしめ合っている。……そういえば、2人も雷が苦手だと前に言っていたことがあったな。顔色も悪いし、結衣と同じくらいに怖がっていると窺える。

 中野先輩は……目を見開いているけど、怖がった様子は見られない。先輩は雷が苦手ではないのかな。


「悠真の言う通り、今の雷の音は大きかったねぇ」

「そうですね。……中野先輩は雷が怖くない感じですか?」

「そうだね。あんまり怖くないな。小さい頃は怖かったけどね。さすがに今くらいに大きく鳴るとビックリするけど」

「そうなんですね」


 だから、中野先輩は目を見開くだけで、特に怖がった様子ではなかったんだな。


「悠真は落ち着いているね。雷は怖くない?」

「はい、全然怖くないです。小さい頃は怖くて、雷を怖がる芹花(せりか)姉さんと一緒に、今の胡桃や伊集院さんのように抱きしめ合っていましたね。大きくなるにつれて段々怖くなくなって、今は雷が鳴ると結衣のように芹花姉さんに腕を抱きしめられます。胸に顔を埋められることもありますね」

「そうなんだね。強いね、悠真は。あと、芹花さんとの光景が思い浮かぶよ。……高嶺ちゃんと華頂ちゃんと伊集院ちゃんは雷が結構怖いみたいだね」


 苦笑いをしながら中野先輩はそう言うと、結衣と胡桃と伊集院さんは何度も頷いた。


「遠くでゴロゴロ鳴るくらいならまだしも……さっきみたいに大きく鳴るのは凄く怖いです。あと、ピカッて光るのも怖いです」

「ピカッて光るの怖いよね、結衣ちゃん。私も……結衣ちゃんと同じ感じです。遠くならまだしも……さっきみたいな音は凄く怖いです」

「あたしはピカッて光るのはそこまで怖くないのです。もうすぐ鳴るサインだと思って、身構える準備ができるのですし。あたしは雷の音が物凄く怖いのです……」


 結衣と胡桃と伊集院さんは元気がなく、震えた声で雷が怖いことを説明した。


「なるほどね。さっきの雷の音はかなり大きかったし、3人が怖がっているのも納得だよ」

「そうですね」


 今も時折ゴロゴロと雷が鳴っているし、雷が収まるまでは勉強会は中断だな。結衣と胡桃と伊集院さんが怖がっていて試験勉強どころじゃないだろうから。


「ね、ねえ、悠真君」

「うん?」

「雷が収まるまで、悠真君の胸に顔を埋めていい?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとう……」


 その後、結衣が俺の右手を離したので、俺は結衣と向かい合う体勢に。

 結衣は俺のことをぎゅっと抱きしめて、俺の胸に顔を埋めてくる。

 俺は左手で結衣のことを抱いて、右手で結衣の頭を優しく撫でる。こうすることで結衣の不安な気持ちが少しでも晴れればいいな。


「結衣、俺が側にいるからな」

「……うん。ありがとう……」


 俺の胸に顔を埋めたまま結衣はお礼を言った。


「きっとすぐに収まるよ」


 中野先輩のそんな落ち着いた声が聞こえたので、先輩の声がした方に顔を向けると……先輩は胡桃と伊集院さんの側におり、優しい笑顔で2人の頭を撫でていた。そんな先輩の姿は1学年上とは思えないくらいにとても大人っぽく見える。きっと、先輩なりに雷を怖がる2人を少しでも安心させたいのだろう。

 中野先輩の言うように、すぐに雷が収まるといいな。

 それにしても、こうやって怖がっている結衣を抱きしめていると、芹花姉さんが雷を怖がっていたときのことを鮮明に思い出す。姉さんは今、大学だろうか。姉さんの通う大学のある地域では雷があまり鳴っていないといいけど。


「あっ、ピカッと光っ――」

 ――ドーン!!

『きゃあああっ!!』


 光ったことを中野先輩が言い終わる前に、先ほど以上に大きな雷鳴が鳴り響き、今度は地響きも感じられた。それに伴って結衣達3人の悲鳴のボリュームもさっきより大きい。

 今の雷の音は凄かったなぁ。かなり近い場所に落ちたんじゃないだろうか。


「ううっ、怖いよぉ……悠真君……」


 そう言う結衣の声はかなり弱々しい。ブルブルと体が震えていて。今の雷がとても怖かったのだと分かる。


「そうか……。さっきよりも大きい音だったもんな。地響きもしたし」


 そう言って、結衣の頭を撫でたり、背中をさすったりする。


「本当に怖いよ。こんなに大きな雷の音は久しぶりかも……」

「物凄く怖いのです。雷の音はいくつになっても怖いのです……」

「今の雷は凄かったもんね」


 よしよし、と中野先輩は雷を怖がっている胡桃と伊集院さんの頭を撫で続ける。

 さっきの雷がピークだと思いたいな。


「ねえ、悠真君。お願いがあるんだけど……いい?」


 結衣はそう言うと、俺の胸から顔を離して俺のことを見上げてくる。さっきの雷が凄く怖かったのか結衣の両目には涙が浮かんでいる。


「ああ。どんなことだ?」

「……悠真君の手で私の耳を塞いでほしいの。そうすれば雷の音はある程度は防げるし。まあ、自分でやれって話なんだけど、悠真君に塞いでもらったら安心感もありそうだなって思って。それに、悠真君は雷が怖くないし……」

「なるほどな」


 両手で耳を塞ぐのは原始的な方法だけど、ある程度は雷の音が防げるので音の怖さは軽減する。俺も雷が怖かった頃は両手で耳を塞いだな。

 あと、結衣が俺に塞いでもらう方が安心感がありそうだと言うのは分かるような気がする。俺に触れられることとか、俺の温もりを感じられることとかで安心できそうだと思っているんじゃないだろうか。


「分かった、いいぞ。両手で結衣の耳を塞ぐよ」

「ありがとう、悠真君」


 俺は両手で結衣の両耳をそっと塞ぐ。これで少しでも結衣の怖さが和らぐといいな。


「どうだ、結衣」


 両耳を塞いでいるので、大きな声で結衣に問いかける。


「うん、いい感じだよ。ゴロゴロっていう雷の音もあまり聞こえなくなった。あと、悠真君の温もりが気持ちいい」


 と、結衣は微笑みながら言った。雷が鳴り始めてから初めて結衣の顔に笑みが浮かんだなぁ。それがとても嬉しい。

 あと、両耳を塞いでいるのもあって、結衣が幼子のような感じがして可愛らしく思える。


「それは良かった。雷が収まるまで耳を塞いでるから」


 大きな声でそう言うと、結衣は微笑みながら頷いた。

 それから雷が収まるまでの間、結衣の両耳を塞ぎ続けた。それもあって結衣があまり怖がらなくなった。ただ、たまに大きな雷がしたときは音が届くようで怖がっていた。結衣には悪いけど、怖がっている姿も可愛い。

 15分ほどして、雷の音はほとんど聞こえなくなった。なので、


「雷ほとんど収まったぞ」


 と言って、結衣の両耳から手を離した。

 雷の音が全然聞こえなくなったのが分かったからか、結衣はほっとした様子に。


「雷収まったぁ。耳を塞いでくれてありがとう、悠真君。悠真君のおかげでいつもよりも雷を怖がらずにいられたし」


 ニッコリとした笑顔で結衣はお礼を言ってくれる。いつもの結衣の笑顔だ。それを見ることができて嬉しいしほっとする。


「いえいえ。結衣の役に立てて良かったよ」

「これからも悠真君がいるときに雷が鳴ったときには耳を塞いでもらおうかな」

「ああ、いいぞ。そのときは遠慮なく言ってくれ」

「うんっ。ありがとう、悠真君」


 再びお礼を言うと、結衣は俺にキスをしてきた。

 まさか、雷きっかけでキスをすることになるとは思わなかったな。ただ、キスをしたくなるほどに、俺に両耳を塞いでもらったのが嬉しかったのだろう。

 数秒ほどして結衣の方から唇を離した。すると、目の前には結衣のニコニコとした笑顔があった。


「雷が収まって、悠真とキスしたからか高嶺ちゃんは完全復活だね」


 中野先輩がそう言うので先輩の方を向くと、先輩はニコッと笑いながら俺達の方を見ていた。また、胡桃と伊集院さんも微笑みながら見ている。雷が収まったから、どうやら2人の気持ちも落ち着いたようだ。


「はいっ! 悠真君のおかげで復活です!」

「あははっ、そっか。高嶺ちゃんらしい」

「胡桃と伊集院さんは気分はどうだ? 落ち着いたように見えるけど」

「雷が収まったし気分が落ち着いたよ」

「あたしもなのです」

「それは良かった」

「胡桃と抱きしめ合って、千佳先輩が側にいてくれたので乗り切れたのです」

「あたしもだよ。ありがとうございます、千佳先輩」

「千佳先輩、ありがとうございます」

「いえいえ。2人の役に立てて良かったよ」


 中野先輩はそう言い、優しい笑顔で胡桃と伊集院さんの頭を撫でた。

 結衣と胡桃と伊集院さんの気持ちが落ち着いたので、俺達は試験勉強を再開するのであった。

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