第5話『コスプレ衣装を買いに行こう!-後編-』
結衣のコスプレ衣装を無事に買うことができたので、次は俺のコスプレ衣装を選ぶことに。
女性向けの衣料品売り場を後にして、男性向けの衣料品売り場へと向かう。男性向けの衣料品も女性向けと同じ3階にある。
このディスカウントショップの衣料品売り場は全然来たことがない。結衣も男性向けの方はさすがに来たことがないという。なので、周りを見ながらゆっくりと売り場の中を歩いていく。
「……おっ、あった」
ゆっくりと歩いたのもあって、特に苦戦することなく男性向けのコスプレ衣装が陳列されている場所に辿り着いた。
執事服、吸血鬼、王子様、キョンシーなどといったコスプレの定番のものや、漫画やアニメや映画のキャラクター衣装、メイド服などといった女装ものといった様々なコスプレ衣装が陳列されている。女性向けと引けを取らない充実さだ。
「男性向けの衣装もいっぱいあるんだな」
「そうだね! 悠真君に似合いそうな衣装がいっぱいあるね!」
衣装を着た俺を想像しているのかワクワクとした様子になっている結衣。可愛い。
「結衣のときと同じで、いくつか候補を選んで、それらを試着した姿を見て一つに決める流れにしようか」
「うん、そうしよう! じゃあ、まずは候補をいくつか選ぶね」
「ああ、分かった」
結衣は陳列棚をじーっと見ていく。たまに、俺のことをチラッと見ながら。
さあ、結衣はどんなコスプレ衣装を候補に選ぶだろうか。結衣の挙げた衣装であればどんなものでも試着するつもりでいる。
「うん、3つに絞った!」
「3つか。どれだ?」
「王子様に吸血鬼、あとはパイロット!」
「王子様、吸血鬼、パイロットか。どれもコスプレの定番だ」
「うんっ。この3つの衣装を着た姿を特に見てみたいなって」
「なるほどな、了解だ。じゃあ、この3つを着てみよう」
陳列されている棚から、王子様、吸血鬼、パイロットの衣装を手に取る。どの衣装も俺の体に合いそうなサイズがあった。
パイロットはワイシャツとスラックスとネクタイがセットになっているけど、王子様はジャケットとベストとスラックス、吸血鬼はベストにマント、胸に付けるジャボというものだけだ。ワイシャツを着てきて正解だったな。文化祭で着た執事服もワイシャツはセットにはなっておらず、学校の制服のワイシャツを着た。その経験もあり、念のためにワイシャツを着てきたのだ。
候補の衣装を持って試着室へと向かう。
女性向けと同じく、男性向けの試着室も3つ並んで用意されている。3つどれも空室である。
「じゃあ、結衣。1着目を試着してみるよ」
「うんっ、楽しみにしてるね!」
結衣はワクワクとした様子でそう言ってくれる。試着した姿が結衣にとって喜んでくれる姿になっていたら何よりだ。
俺は試着室に入る。
3つ衣装があるのでどれから試着しようか迷ったけど、結衣がさっき言った「王子様」「吸血鬼」「パイロット」という順番で試着しようと決めた。なので、まずは王子様だ。
王子様の衣装はジャケットとベストとスラックスなので、俺はワイシャツ以外の服を脱ぎ、王子様の衣装を着ていく。
「おおっ」
青を基調としているけど、ゴージャスな雰囲気の装飾がなされていて、まさに王子様だ。ファンタジー系の作品の漫画やアニメで、こういう服を着た王子様キャラクターを見たことがある。
「結衣、1着目着終わったよ」
「分かった~」
結衣にかっこいいって思われたらいいなぁと思いながら、俺は試着室の扉を開けた。
「1着目は王子様の衣装を着てみたよ。どうだ?」
「すっごくいいよっ! 王子様姿の悠真君かっこいい! 本物の王子様に見えるよ!」
キラキラとした目で俺を見つめながら、とても弾んだ声で結衣はそう言ってくれる。結衣にかっこいいと思ってもらえて嬉しいな。最高の褒め言葉だ。
「ありがとう、結衣。凄く嬉しいよ」
「うんっ。キラキラした王子様って感じで素敵だよ。キュンとなったよ……」
そう言う結衣は、頬をほんのりと赤くしながら俺のことを見つめている。
「……ねえ、悠真君。王子様らしい言葉を言ってほしいな。えっちな感じの言葉も言ってくれるとより嬉しいです」
「王子様らしい言葉と、えっちな感じの言葉か」
言われるような気がしていたよ。結衣がナース服の試着をしたとき、看護師さんらしい言葉を言ってほしいとお願いしたし。あと、結衣は3着とも試着したときにえっちな感じの言葉を言っていたから。
恋人の結衣からのお願いはできるだけ叶えたい。
「分かった。言ってみるよ」
「うんっ、ありがとう!」
ニコッとした笑顔でお礼を言う結衣。この笑顔を見ると、結衣を喜ばせたい気持ちが膨らむ。
王子様らしい言葉と、それに絡めたえっちな感じの言葉……よし、決めた。
「じゃあ、言うぞ。……待たせたな、結衣。今日からは王子である私とずっと一緒だ。私の屋敷で一緒に住もう」
まずは王子様らしい言葉を言った。
続いて、えっちな感じの言葉だ。……すぐ近くに店員さんやお客さんはいないけど、少しの遠くの方に普通にいる状況だ。なので、普段の声のボリュームで言うのは躊躇いがある。
俺は結衣に顔を近づけて、
「一緒にいる中で、私と気持ちいいことをたくさんしよう。まずは今夜にでも……いいかな?」
結衣にしか聞こえないようなボリュームでえっちな感じの言葉を言った。
俺なりに考えてみた言葉だけど、結衣は満足してくれただろうか。
「……いい! 凄くいいよ! キュンとなったし、ドキドキしたよっ!」
結衣は頬を中心に赤くなった顔に嬉しそうな笑みを浮かべながらそう言った。その声はとても弾んでいて。俺の考えた言葉にキュンとなってドキドキしたか。凄く嬉しいな。
「それは良かった。嬉しいよ」
「うんっ。王子様と結婚する妃の気分になったよ。あと、えっちな感じの言葉を言うときに顔を近づけたのも良かったよ」
「そうか。他の人に聞こえたら恥ずかしいから、小さい声でも聞こえるように顔を近づけたんだ」
「なるほどね、そういうことか。でも、顔を近づけられてドキッとしたよ」
「そっか。じゃあ、この後もそういう言葉を言うときは顔を近づけるか」
「それでお願いしますっ」
結衣はニコッとした笑顔でお願いした。俺が恥ずかしいという理由で顔を近づけたけど、結果的にそのことで結衣により喜んでもらえて良かったよ。
「悠真君、決めるときの参考に写真を撮らせて」
「いいぞ」
その後、結衣はスマホで王子様の衣装を着た俺を撮影した。ピースサインをしたり、結衣の希望で右手を差し出すポーズを取ったりして。それもあってか、結衣はとても楽しそうに撮影していた。
「いい写真をたくさん撮れたよ。ありがとう、悠真君」
「いえいえ。じゃあ、2着目の衣装を試着するよ」
「うんっ」
俺は試着室の扉を閉める。
王子様の衣装を脱いで、吸血鬼の衣装を着ていく。吸血鬼の衣装はベスト、マント、ジャボの3つなので、私服のスラックスを穿いた後に着ていくことに。
「おおっ」
ベストとマントとジャボだけだけど、結構吸血鬼らしい雰囲気だ。個人的には外側が黒で、内側が赤、長い襟が立っているデザインのマントが特に吸血鬼らしさを出していると思う。もし、これを選んだら、制服のスラックスとワイシャツと合わせることになるけど、スラックスの色は黒いので吸血鬼のこの衣装に合うと思う。
また、吸血鬼は生き血を吸う存在なので、吸血鬼らしい言葉とえっちな感じの言葉はすぐに思いついた。
「結衣。2着目を着たよ」
「分かった」
結衣の返事を聞いた後、俺は試着室の扉を開ける。
「結衣、吸血鬼の衣装を着たよ。ベストとマントとジャボだけだから、俺が着てきたスラックスとワイシャツの上に着た形だ」
「なるほどね。ベストとマントとジャボだけでも、吸血鬼の雰囲気がよく出てるね! マントの外側とベストが黒いからクールな雰囲気が凄く出ててかっこいいよ! よく似合ってるよ!」
結衣はちょっと興奮した感じでそう言ってくれる。
吸血鬼の衣装も気に入ってくれたか。かっこいいと言ってもらえて嬉しい。
「ありがとう、嬉しいよ」
「うんっ。じゃあ……さっきみたいに吸血鬼らしい言葉とえっちな感じの言葉をお願いします」
「ああ、分かった。……結衣の血がほしい。血を吸わせてもらおうか」
吸血鬼らしい言葉を言い、先ほどと同じく結衣に顔を近づけて、
「その後に……結衣の色々なものも吸わせてもらおうか」
と、小さな声で言った。
吸血鬼は人の生き血を吸う存在だから、「結衣の色々なものも吸わせてもらおうか」という言葉がすぐに思い浮かんだのだ。そういった言葉だけど、結衣は満足してくれるだろうか。
「凄くいいよ! 吸血鬼らしい言葉だね! えっちな感じの言葉にドキッとしたよ。私の血はもちろん、色々なものを吸わせたくなっちゃったよ」
えへへっ、と結衣は声に出して笑う。パッと思い浮かんだ言葉だけど、お気に召したようで何よりだ。
「気に入ってもらえて良かったよ」
「うんっ。じゃあ、吸血鬼の姿も写真を撮らせてもらうね」
「ああ」
結衣は吸血鬼の衣装を着た俺を撮影する。ピースサインをしたり、結衣の希望でマントを広げたり、歯がよく見えるように笑ったりもした。それもあってか、先ほどと同じく結衣は楽しそうに撮影していた。
「よし、これでOK」
「じゃあ、最後にパイロットの制服の衣装を着るよ」
「うんっ」
俺は試着室の扉を閉める。
俺は吸血鬼の衣装一式と、ワイシャツとスラックスを脱いで、パイロットの制服の衣装を着ていく。
「パイロットも本格的だな」
姿見に映るパイロットの衣装を着た自分を見ながらそう呟く。あと、この姿を見て、小さい頃、夏休みに家族旅行で沖縄へ行ったとき、空港で制服姿のパイロットさんを見たことを思い出した。その姿はもちろん、父さんから「飛行機を操縦するんだよ」と教えられたのもあって凄くかっこいいと思ったっけ。
あとは……パイロットらしい言葉と、えっちな感じの言葉か。なかなか思いつかないな。腕を組みながら考えて、
「……よし、これでいくか」
これで結衣が喜んでくれたら嬉しいな。
「結衣。着替え終わったよ」
「うんっ、分かった」
結衣の返事が聞こえたので、俺は試着室の扉を開けた。
「最後はパイロットの制服だよ。どうかな、結衣」
「凄く似合ってるよ! 衣装の作りがいいのもあって、本物のパイロットさんみたい! かっこいいよ! 昔、家族旅行で空港に行ったときにパイロットさんを見たことがあるけど、その人よりもかっこいいよ!」
結衣はワクワクとした様子でそう言ってくれた。
パイロットの衣装も似合っていてかっこいいか。結衣の見たパイロットさんがどんな人なのかは知らないけど、本物のパイロットさんよりもかっこいいと言ってもらえるのは嬉しいものがある。
「そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとう」
「いえいえ。……じゃあ、お言葉をお願いします」
「ああ。なかなか思いつかなくて、仕事中じゃなくて、仕事帰りっていう設定になるんだけどいいか?」
「うん、いいよ」
「ありがとう。……ただいま、結衣。今日の行き先は沖縄への往復だったよ。天候に恵まれて快適なフライトだった」
パイロットらしい言葉を言い、俺は結衣に顔を近づけて、
「俺、今夜は行きたいところがあるんだ。その行き先は……結衣だ」
えっちな感じの言葉を小さな声で言った。なかなか思いつかなくて、ようやく思いついた言葉だけど、結衣は満足してくれただろうか。ちょっと緊張する。
「いいね! なかなか思いつかないって言っていたけど、パイロットさんらしい感じが出て良かったよ! えっちな感じの言葉もキュンときちゃった! 今夜はいつでも私に来てくださいって思ったよ」
結衣はいつもの可愛らしい笑顔でそう言ってくれた。結衣に喜んでもらえて良かった。それと同時にちょっとほっとした。
「そう言ってくれて良かったよ。ほっともしてる」
「ふふっ。仕事帰りっていう設定も良かったよ。一緒に住んでいるってことだし」
「そっか。良かったよ」
「うんっ。……じゃあ、パイロットの制服姿も撮らせてね」
結衣はパイロットの制服姿の俺を撮影する。恒例のピースサインはもちろん、結衣の希望で敬礼のポーズもした。これまでと同じように、結衣は楽しそうに撮影していた。
「いい写真撮れたよ。ありがとう、悠真君」
「いえいえ。……3着全て着終わったけど、この中から決めるか? それとも他の衣装も試着してほしいか?」
「3着の中から決めるよ。どれも良かったから」
「了解だ。じゃあ、元の服に着替えるよ」
「うんっ。その間に写真を見て決めるね」
「ああ、分かった」
俺は試着室の扉を閉めた。
パイロットの制服の衣装を脱いで、元の服を着ていく。1着目の衣装を試着してからそこまで時間は経っていないけど、3着試着したし、それぞれの衣装を着たときに衣装に合った言葉とえっちな感じの言葉を言ったから、元の服装に戻るのは久しぶりに感じた。
元の服に着替え終わり、俺は試着室の扉を開けた。
「着替え終わったよ。……結衣、どれにするか決まったか?」
「うん、決まったよ!」
結衣は持ち前の明るい笑顔で答える。
「決まったのか。どれにした?」
「吸血鬼! どれもかっこよくて素敵だったけど、吸血鬼が一番クールな感じがして良かったから吸血鬼に決めたよ」
「なるほどな。分かった。よし、吸血鬼の衣装を買おう。選んでくれてありがとう」
「いえいえ! 試着した姿を見られたし、衣装に合った言葉やえっちな感じの言葉も聞けて楽しかったよ!」
結衣は楽しそうな笑顔で言ってくれた。結衣は試着した姿を見たときや、言葉を言ったときはとても楽しそうにしていたもんな。今の言葉が本心であるとすぐに分かった。
「俺も楽しかったよ」
「ふふっ、良かった」
その後、王子様の衣装とパイロットの衣装を陳列棚に戻して、俺達はレジに行って吸血鬼の衣装を購入した。
「これで俺の方も無事に買えた」
「そうだね! 悠真君に衣装を選んでもらって、悠真君の衣装を選んだからハロウィンパーティーがもっと楽しみになったよ!」
「そっか。俺ももっと楽しみになった」
こうして当日の準備をすると楽しみな気持ちが膨らむなぁ。文化祭の準備をしたときにもこういった気持ちになったっけ。
「ねえ、悠真君。どこか飲食店かエオンのフードコートに行かない? お腹空いてきて」
「おっ、いいな。俺も小腹が空いてきたし。おやつにスイーツを食べに行こうか」
「うんっ!」
その後、俺達は駅の近くにある評判のスイーツ店に行き、ケーキやコーヒーを楽しんだ。俺の頼んだホットコーヒーやガトーショコラはもちろん、結衣と一口交換してもらったモンブランも美味しかった。
ケーキやコーヒーを楽しんだ後はエオンというショッピングセンターに行って、結衣とのショッピングデートを楽しむのであった。