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第1話『バイト先にやってきた。』

 それからも、カウンターでの接客を中心に仕事をしていく。

 初っ端から口調のミスをして、中野先輩にそのことで注意してもらったのもあり、それ以降は執事の口調を出ずに接客することができている。

 また、中野先輩は最初こそ、


「いらっしゃいませ!」


 と、いつもよりもやや大きめの声で接客していたけど、俺が「ちょっと声大きいです」と指摘すると、すぐにいつも通りの声のボリュームで接客するようになった。そして、指摘したことを先輩から感謝された。

 お昼時になるとお客様の数が多くなるけど、長期休暇ではない平日の日中だからか、お昼時以外はお客様の数はそこまで多くはない。普段バイトをする平日の放課後や休日とは違った雰囲気で新鮮だ。

 ただ、普段はシフトに入らない時間で働いているからだろうか。お客様から「見かけない店員さんだ」などといった言葉を掛けられることも何度かあって。ただ、高校の文化祭による代休だと説明すると、どのお客様も納得していた。中野先輩もお客様とそういったやり取りをしていることがあった。

 あと、通っている金井高校の女子生徒が来店し、その生徒に接客した際に「ライブ良かったよ」と言われる一幕もあった。文化祭の弾き語りライブを褒められて嬉しくなった。

 何度か休憩を挟んで、夕方になった午後4時半頃、


「悠真君、千佳先輩、バイトお疲れ様です!」

「ゆう君、千佳先輩、バイトお疲れ様です」

「バイトお疲れ様なのです、低田君、千佳先輩」

「2人ともバイトお疲れ様」


 結衣、胡桃、伊集院さん、福王寺先生が来店してくれた。

 結衣はスラックスに長袖の縦ニット、胡桃はロングスカートにウール生地と思われる長袖のブラウス、伊集院さんは長袖の襟付きのワンピース、福王寺先生はジーンズパンツを穿き、上はVネックシャツを着てカーディガンを羽織っている。みんな、昼間でも涼しく感じられるようになってきた今の時期らしい装いだ。よく似合っていて可愛らしい。


「みんなありがとうございます。結衣はもちろん、みんなも服が似合っていて可愛いですね」

「そうだね、悠真。みなさん似合っていますよ」


 俺と中野先輩がそう言う。


「えへへっ、ありがとうございます! 嬉しいです!」

「ありがとうございます。気に入っている服なので嬉しいです」

「嬉しいのです。ありがとうございます」

「ふふっ、ありがとう、低田君、千佳ちゃん」


 結衣達は嬉しそうな様子でお礼を言った。みんな笑顔なので、今着ている服がより似合う印象に。


「胡桃ちゃんと姫奈ちゃんと杏樹先生と一緒に、ショッピングセンターで服や本とかを見たり、猫カフェに行ったりしたんだ」

「そうだね、結衣ちゃん。どこも楽しかったよね」

「楽しかったのです。あたしは特に猫カフェが楽しかったのです」

「猫カフェ最高だったね! 猫ちゃんはもちろん、猫耳カチューシャを付けた結衣ちゃんや胡桃ちゃんや姫奈ちゃんが凄く可愛かったし!」


 結衣達は服や本とかを見たり、猫カフェに行ったりしたのか。みんなの笑顔や言葉から楽しく過ごせたのが伝わってくる。

 あと、福王寺先生……猫カフェでのことを思い出しているのか、ちょっと興奮しているな。きっと、猫耳カチューシャを付けた結衣達を見たときは、今みたいに興奮していたんだろうなぁ。


「みなさん、楽しく過ごせたみたいで何よりです」

「良かったです」


 俺と中野先輩がそう言うと、結衣達は楽しそうな笑顔で頷いた。


「そろそろドリンクやスイーツを注文しましょうか」


 結衣がそう言うと、胡桃と伊集院さんと福王寺先生は賛成した。結衣と胡桃は俺、伊集院さんと福王寺先生は中野先輩のカウンターで注文することに。


「胡桃ちゃん、私は注文したいものが決まったけど、胡桃ちゃんはどう?」

「あたしはまだ。何のスイーツを食べようか迷ってる」

「そっか。じゃあ、私から注文していい?」

「うん、いいよ」

「ありがとう」


 胡桃にお礼を言うと、俺の担当するカウンターの前に立つ。


「いらっしゃいませ。店内でのご利用ですか?」

「はい、店内です」

「店内ですね。かしこまりました。ご注文をお伺いします」

「アイスコーヒーのSサイズ1つと、ストロベリータルトを1つお願いします」

「アイスコーヒーのSサイズをお一つと、ストロベリータルトをお一つですね。アイスコーヒーにガムシロップやミルクはお付けしますか?」

「どちらもいりません」

「どちらもなしですね。かしこまりました」


 ブラックでコーヒーを飲むのか。結衣は、以前はコーヒーが苦手な方で、ガムシロップやミルクを多めに入れたり、カフェオレにしたりしないと飲めなかった。ただ、段々とコーヒーを飲めるようになり、最近はスイーツを食べるときにはブラックでも飲めるようになった。


「他にご注文はありますか?」

「いえ。以上で」

「かしこまりました。600円になります」


 その後、結衣から1000円札を受け取ったので、おつりの400円とレシートを渡した。その際に結衣に手が触れて。一瞬だけど、結衣の手の温もりや柔らかさが心地良くて。そのことで、バイトの疲れがちょっと抜けた気がした。

 結衣から注文を受けたSサイズのアイスコーヒーと、ストロベリータルトを用意する。その2つとストロー、フォークをトレーに乗せる。


「お待たせしました。アイスコーヒーのSサイズと、ストロベリータルトになります」


 そう言って、結衣にトレーを手渡した。


「ありがとう、悠真君! 文化祭でのメイド&執事喫茶で執事らしく接客されるのも良かったけど、いつも通りに接客されるのもいいねっ」


 結衣は持ち前の明るい笑顔でそう言ってくれる。

 これまで、このムーンバックスで結衣に何度も接客してきたから、今の言葉にとても嬉しい気持ちになった。


「ありがとう、結衣。嬉しいよ」

「いえいえ」

「……ただ、文化祭での接客が抜けていなかったから、今日は最初に接客した女性のお客様に『おかえりなさいませ、お嬢様』って言っちゃったよ。そのお客様が嬉しそうにしていたからまだ良かったけど」

「ふふっ、そうだったんだ。悠真君は文化祭では執事さんとして頑張って接客していたもんね。執事口調の接客も様になっていたし。きっと、それで執事さんの口調が抜けきれてなかったかもね」


 決して馬鹿した笑顔になったり、ニヤニヤしたりすることなく、明るい笑顔のままで結衣は言ってくれる。そのことで、初っ端のミスについて気持ちが軽くなった。

 また、俺達の会話が聞こえていて、結衣の言葉に同意したのか、結衣の後ろに並ぶ胡桃や、中野先輩の担当するカウンターに並ぶ福王寺先生は笑顔で俺の方を見て頷いていた。


「そうだと思う。まあ、それ以降は執事口調が出ずに仕事できてる」

「そうなんだね。さすがは悠真君。……バイトが終わるのは6時だよね。それまで待ってる」

「ああ、分かった。終わったらメッセージ送るよ」

「うんっ。じゃあ、残りのバイトを頑張ってね」

「ああ。ありがとう。……ごゆっくり」


 結衣はそう言うと、俺にニコッと笑いかけてテーブル席のある方に向かっていく。

 その直後、伊集院さんもトレーを持って結衣のところへ。程なくして結衣と合流し、2人で4人用のテーブル席を確保した。

 胡桃は俺が担当するカウンターの前に立つ。


「いらっしゃいませ。店内でのご利用ですか?」

「はい、店内で」

「店内ですね。かしこまりました。ご注文をお伺いします」

「ホットティーのSサイズを1つと、モンブランを1つお願いします」

「ホットティーのSサイズをお一つと、モンブランをお一つですね」


 胡桃は温かい飲み物を注文したか。

 今日は胡桃のように温かい飲み物を注文するお客様はそれなりにいる。こういうところからも、季節が進み、秋が深まってきているのだと実感する。


「ホットティーにガムシロップやミルクはお付けしますか?」

「ガムシロップを一つお願いします」

「ガムシロップをお一つですね。……650円になります」


 その後、胡桃から650円ちょうどを受け取ったので、胡桃にレシートを手渡した。

 胡桃が注文したSサイズのホットティーとモンブランを用意する。その2つと、ガムシロップ、ティースプーン、フォークをトレーに乗せる。


「お待たせしました。ホットティーのSサイズとモンブランになります」

「ありがとう、ゆう君」


 胡桃は持ち前の柔らかい笑顔で俺からトレーを受け取った。


「結衣ちゃんの言う通り、執事さんとして接客するゆう君もいいけど、今みたいにいつも通りに接客するゆう君もいいね」

「胡桃にも褒められて嬉しいよ。ありがとう」

「いえいえ。じゃあ、この後もバイト頑張ってね」

「ああ。ありがとな。……ごゆっくり」


 俺がそう言うと、胡桃はニッコリと笑いかけて、結衣、伊集院さん、福王寺先生がいるテーブル席へと向かっていった。

 胡桃が福王寺先生の隣の席に座ると、4人は自分が注文したドリンクやスイーツを楽しみ始めた。美味しいのかみんないい笑顔になっている。

 その後は、結衣達が談笑している様子をたまに見て癒やされながら、残りのバイトを中野先輩と一緒に頑張った。

 シフト通り、午後6時にバイトが終わって、中野先輩と俺はカウンターを後にした。

 男性用の更衣室で私服に着替える前に、結衣にバイトが終わったとメッセージを送る。するとすぐに、結衣からお店の出入口の前で待っていると返信が届いた。

 私服に着替え終わって、中野先輩と一緒に退勤する。

 従業員用の出入口からお店を出る。

 今の時刻だと、陽はすっかりと沈んで空が暗くなっている。それもあり、ちょっと肌寒くも感じる。

 お客様用の出入口の方に向かうと……出入口の近くで待っている結衣達を見つけた。


「みなさん、お待たせしました」

「お待たせしました~」


 俺と中野先輩がそう言って結衣達のところに行くと、結衣達は「お疲れ様」と労いの言葉を掛けてくれた。


「ねえ、悠真君」

「うん?」

「キスしていい? 今日はまだキスしていないし。キスしたいのもあって、悠真君のバイトが終わるまで待っていたんだ」


 結衣は俺のことを見つめながらそう言ってくれる。空は暗いけど、店内からの明かりや街灯の明るさもあって、結衣の頬がほんのりと赤くなっているのが分かった。

 俺とキスしたいからバイト上がりまで待ってくれたのか。本当に結衣は可愛い恋人だ。


「もちろんいいぞ、結衣」

「ありがとう!」


 結衣は嬉しそうにお礼を言うと、俺のことをぎゅっと抱きしめてキスをしてきた。

 あぁ……結衣の唇の温もりや柔らかさがとてもいい。それに、甘い匂いが感じられるし、抱きしめられてもいるから心地良さも感じられて。バイトの疲れが取れていくなぁ。そんなことを思いながら、俺は両手を結衣の背中へと回した。

 少しして、結衣の方から唇を離す。すると、目の前には凄く嬉しそうで、幸せそうにも感じられる結衣の笑顔があって。本当に幸せだ。


「キス……凄く良かったよ。ありがとう、悠真君」

「いえいえ、こちらこそありがとう。結衣とのキスは本当にいいな。バイトの疲れが取れたよ。あと、明日のバイトも8時間あるけど頑張れそうだ」

「そっか。良かった」


 ふふっ、と結衣は声に出して笑う。キスをした直後だし、今も抱きしめ合っているから、笑っている結衣が大人っぽくて艶っぽさも感じられた。


「ふふっ、2人とも良かったね」

「2人とも幸せそうでいい光景なのです」

「長いシフトだったけど、高嶺ちゃんとのキスで疲れが取れるなんて。明日のバイトも頑張れそうなのも含めて悠真らしいね」

「結衣ちゃんへの好きな気持ちの強さを感じられるよね、千佳ちゃん。あと、低田君と結衣ちゃんがキスする姿はいいねっ」


 胡桃達は笑顔でそんなことを言ってくる。みんな明るい笑顔だし、4人の前でキスしたことはこれまでにたくさんあるので、特に恥ずかしい思いはない。

 結衣も俺と同じ気持ちなのか笑顔で「えへへっ」と笑っていた。その姿はとても可愛かった。




 結衣とキスしたおかげもあって、代休の最終日である翌日の8時間のバイトも頑張ることができた。

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