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プロローグ『文化祭後初のバイト』

2学期編4




 10月16日、水曜日。

 今日は先週末に行なわれた高校の文化祭の代休だ。先週末は3連休で、土日が文化祭、祝日だった月曜日が後片付けだったため、昨日から明日までの3日間が代休となっている。

 今日は午前10時から午後6時まで、ムーンバックスというチェーンの喫茶店でバイトをする予定だ。ちなみに、明日も同じ時間でシフトに入っている。ここ1週間ほどは文化祭絡みでシフトに入れていなかったので、代休に長い時間シフトに入ることにしたのだ。


「悠真。今日と明日、一緒にバイト頑張ろうね」


 バイトの先輩であり、高校の1学年上の先輩でもある中野千佳(なかのちか)先輩が明るい笑顔でそう声を掛けてくれる。ちなみに、先輩も俺・低田悠真(ひくたゆうま)と同じ時間で今日と明日にシフトを入れている。


「はい。一緒に頑張りましょう、先輩」


 俺がそう返事をすると、中野先輩はニコッとした笑顔で「うんっ」と頷いた。

 今日は8時間という長めのシフトだけど頑張ろう。夕方頃に、恋人の高嶺結衣(たかねゆい)が、友人の華頂胡桃(かちょうくるみ)伊集院姫奈(いじゅういんひな)さん、担任の福王寺杏樹(ふくおうじあんじゅ)先生と一緒に来てくれる予定だからそれを糧にして。

 中野先輩と一緒にホールへ行き、カウンターに立つ。

 長期休暇中ではない平日の午前中だからなのか、いつもバイトしている平日の放課後や休日に比べるとお客様の数は少なめだ。それによって、いつも以上に店内がゆったりとした雰囲気になっていていいな。

 ただ、このくらいのお客様の数が普通なのだろうか。俺の担当するカウンターにも、中野先輩が担当する隣のカウンターにもお客様がいないので、先輩に訊いてみるか。


「あの、中野先輩。訊きたいことがありまして」

「うん? どんなこと?」

「今みたいな平日の午前中って、お客様の数ってこのくらいなんですか? 長期休暇以外では平日の午前中にバイトしたことが全然ないので気になりまして」

「なるほどね。あたしはこれまで、今日みたいな平日の午前中にシフトに入ったのは数えるほどしかないけど、今くらいのお客様の数だった記憶があるよ。たぶん、これが普通なんじゃないかな」

「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」


 お礼を言うと、中野先輩は微笑みながら頷いた。

 中野先輩の言う通りであれば、今の店内の雰囲気は、平日の午前中のいつも通りなんだな。この雰囲気を味わいながら、今日のバイトを頑張っていこう。

 女性のお客様が店内に入ってきて、俺が担当するカウンターに向かってきた。見た感じ若そうだし、カジュアルな服装をしているから大学生だろうか。それとも、代休である金井(かない)高校に通う生徒だろうか。

 女性が俺の担当するカウンターの前に立った。さあ、接客するぞ。


「おかえりなさいませ、お嬢様……あっ」


 しまった。クラスの出し物であるメイド&執事喫茶で執事として接客した影響だろうか。まさか、執事口調で言ってしまうとは。

 今の言葉が聞こえていたのか、中野先輩の「えっ」という声が聞こえた。

 お嬢様と言ってしまったからか、女性のお客様は目を見開く。ただ、それは一瞬のことで、「ふふっ」と小さく声に出しながら楽しそうに笑った。


「まさかお嬢様と呼ばれるなんて。もしかして、今日はそういったコンセプトで接客するんですか?」

「い、いえ……そういった企画はございません。私事なのですが、先週末に私が通う高校の文化祭があって、私がいるクラスの出し物でメイド&執事喫茶をやりまして。私は執事として接客したのです。お客様が来店されたときに、今のように出迎えたのです」

「彼……低田のクラスに行きましたが、彼は執事として接客の仕事を一生懸命していました。それもあって、執事の口調が残っており、先ほどのような言葉が出たのだと思います」


 気付けば、中野先輩が俺のすぐ側までやってきてそう説明してくれる。自分の担当するカウンターにお客様がいないので、俺のフォローに来てくれたのだろう。


「先輩……中野の言う通りです。文化祭の影響と、文化祭が終わってから初めてこのカウンターに立ったので、執事の口調になってしまいました。誠に申し訳ございません」

「申し訳ございません」


 謝罪の言葉を言って、中野先輩と一緒に女性のお客様に向けて深めに挨拶をした。先輩に頭を下げさせてしまったのもあり、申し訳ない気持ちが膨らむ。


「いえいえ、いいんですよ。気にしないでください。年下の男の子にお嬢様って言われて嬉しくなりましたし。ちょっとキュンともなりました」


 その言葉が本心であると示すかのように、女性のお客様は嬉しそうな笑顔でそう言ってくれる。頬がほんのりと赤くなっていて。気分を害していないようなのがせめてもの救いだ。


「そうですか。ありがとうございます」

「ありがとうございます。……悠真、接客よろしくね」

「はい。……では、改めまして。いらっしゃいませ。店内でのご利用ですか?」

「はい、店内で」

「店内ですね。ご注文をお伺いします」

「アイスティーの……今日はMサイズにしようかな。いつもはSサイズを注文するんですけど、お嬢様って言われて嬉しくなったので。今日はいつもより大きいMサイズで」

「ありがとうございます。アイスティーのMサイズですね。ミルクやガムシロップはお付けしますか?」

「ガムシロップを一つお願いします」

「ガムシロップをお一つですね。他にご注文はありますか?」

「以上で」

「かしこまりました。350円になります」


 その後、女性のお客様にバーコード決済の形で代金を支払ってもらい、俺は注文されたMサイズのアイスティーを用意する。

 アイスティーのMサイズとガムシロップ、ストローをトレーに乗せ、


「お待たせしました。アイスティーのMサイズになります」


 と言って、女性のお客様に手渡した。


「ありがとうございます。この後も頑張ってくださいね」

「ありがとうございます。ごゆっくり」


 女性のお客様はカウンター席に行き、アイスティーを飲む。美味しいのか笑顔になっているのが見えた。自分の提供したもので笑顔になってもらえると嬉しい気持ちになる。

 中野先輩が担当するカウンターの前には……誰もいないな。


「先輩。先ほどはすみませんでした。あと、フォローしてくださりありがとうございます」

「ううん、気にしないで。こっちは接客していなかったし、先輩として悠真をフォローできればと思ったから。それに、お客様に言ったように、悠真は執事として一生懸命に接客している姿を見ていたからね。まあ、文化祭後初めてのバイトだし仕方ないよ。ただ、今後は口調に気をつけていこうね、悠真」


 落ち着いた笑顔でそう言ってくれる中野先輩。

 先ほどのお客様にはお嬢様って呼ばれて嬉しく思ってもらえたからまだ良かったけど……口調には気をつけないとな。


「はい、気をつけます」


 中野先輩の目を見つめながらそう言うと、先輩は笑顔のまま頷いてくれた。そして、俺の背中をポンポンと優しく叩いてくれた。とても優しい先輩だ。この職場で先輩と出会えて、一緒に仕事ができて良かったなって思う。


「あたしも気をつけないとな。クラスの焼きそばの屋台で接客したときは、ここで接客するときよりも大きな声で接客していたし」

「確かに……声を張り上げてましたね」


 結衣との文化祭デートで焼きそばの屋台に行ったとき、中野先輩がここでのバイト中よりも声を張り上げて接客していたのを思い出す。


「あの声量で接客したら、接客するお客様がビックリして、カウンター席やテーブル席でゆっくりしているお客様の迷惑になるかもしれないし」

「その可能性は……あるかもしれませんね」

「だよね。……お互いに気をつけながら仕事をしていこう」

「はい」


 その後、俺は口調に気をつけながら、中野先輩と一緒に仕事をしていくのであった。

2学期編シリーズの新章がスタートしました! 全10話ちょっとになる予定です。

1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。

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