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第10話『いってらっしゃい』

 9月10日、火曜日。

 ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。もう朝になっているのか。時間によってはもう起きないとな。


「今、何時だろう……」

「6時45分だよ」


 時計を見ようとする前に、芹花姉さんが現在の時刻を教えてくれた。

 芹花姉さんの声がした方に体を向けると、姉さんは穏やかな笑顔で俺のことを見ていた。俺と目が合うと、姉さんはニコッとした笑顔を見せる。


「おはよう、ユウちゃん」

「おはよう、芹花姉さん。今の時間を教えてくれてありがとう。いつも平日は7時くらいに起きるから、もう起きようかな」

「そっか。じゃあ、私も起きるよ」

「俺の少し後に出発するって言っていたもんな」

「うん。……10分くらい前に起きてね。ユウちゃんの寝顔をずっと見てたんだ。可愛かった……」


 俺の寝顔を思い出しているのか、芹花姉さんはうっとりとした様子になる。今の言葉もうっとりするのも姉さんらしい。


「あと、キスマークは付いてないから安心してね」

「ああ」


 今回はキスマークを付けられなかったか。良かった。

 今は午前6時45分だから、俺は芹花姉さんと一緒に起床して、いつも通りの平日の朝の時間を過ごしていく。ただ、15分ほど早く起きられたから、いつもよりもちょっとゆったりとした気分で過ごせた。


「よし、これで大丈夫だな」


 髪の毛や制服も乱れていないし、教科書やノートなどの忘れ物もないな。あとはキッチンで弁当と水筒をバッグに入れれば大丈夫だ。


「ユウちゃん、いよいよ学校に行くんだね……」


 芹花姉さんはちょっと寂しそうな様子でそう言う。姉さんと次に会うのは、姉さんが旅行から帰ってくる明後日の夜だからな。昨日の夜から俺とずっと一緒にいて元気だったけど、さすがに寂しがるか。


「そうだな。遅刻はできないし」

「うん。……ユウちゃん、いってらっしゃい」

「ああ。いってきます。芹花姉さんも旅行いってらっしゃい」

「……うん、いってきます。その前に……ユウちゃんのことを抱きしめていい? ユウちゃん成分を摂取したいから……」

「いいぞ」

「ありがとうっ」


 ニコッと笑ってお礼を言うと、芹花姉さんは俺のことを抱きしめてきた。

 ユウちゃん成分摂取か。そういえば、2学期初日に学校へ行くときも、芹花姉さんは同じ理由で俺のことを抱きしめていたな。ただ、あのときと比べて俺を抱きしめる力が強い。俺が学校に行ったら、木曜日の夜まで会えないからかな。そんなことを思っていると、姉さんは俺の胸に頭を埋め、スリスリしてきて。まったく、可愛い姉だ。

 芹花姉さんの頭を優しく撫でると、姉さんは「ふふっ」と声に出して笑う。

 1分ほど抱きしめた後、芹花姉さんは俺への抱擁を説いた。姉さんの顔にはいつもの明るい笑みが浮かんでいる。


「うんっ。ユウちゃん成分摂取できた!」

「そうか。姉さんが元気になったみたいで良かった。じゃあ……学校に行ってくるよ」

「うん。気をつけてね」

「ああ。姉さんも気をつけて。友達やサークルの方と一緒だけど」

「うん。分かった」


 特にトラブルなく、芹花姉さんには旅行を楽しんできてほしい。

 その後、俺は芹花姉さんと一緒に1階のキッチンに行き、スクールバッグに弁当包みと冷たい麦茶の入った水筒を入れる。


「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい、ユウちゃん!」

「姉さんも旅行いってらっしゃい」


 芹花姉さんと手を振り合って、俺は学校へと向かう。

 昨日の夜から、いつもとは少し違った時間を過ごしていたけど、俺は再び日常生活を送り始める。学校では結衣や胡桃、伊集院さん達と一緒に。

 ただ、芹花姉さんが今日から北海道に旅行へ行くので、姉さんは今頃どうしているのだろうかとちょっと気になるのも事実。ただ、


『羽田空港だよ!』


『北海道に着いたよ! 東京より涼しいよ!』


『飛行機の中はこんな感じだったよ!』


『北海道最初のご飯は味噌ラーメンだよ! さすがは本場って感じで、凄く美味しいよ!』


 まるでリアルタイム実況かのように、こちらが授業中でも芹花姉さんから定期的にメッセージが送られてくる。時には写真が送られることも。旅行中はメッセージと電話をしてきていいと言っているので、さっそくメッセージしてきたか。

 送られてきた写真の中には笑顔の姉さんの自撮りや、月読さんなど友達と一緒に楽しそうに写っている写真もあって。どうやら、姉さんは旅行を楽しくスタートできたらしい。そのことに安心する。

 授業間の10分休みに芹花姉さんに『いいな』とか『美味しそう』などと返信を送ると、ほぼ全てですぐに『既読』マークが付き、姉さんから返信が届いた。こういうところも姉さんらしいなと思う。


「お姉様のお昼ご飯は味噌ラーメンなんだ」

「味噌ラーメンは北海道の名物なのですからね」

「味噌ラーメン美味しいよね。北海道は美味しいものがいっぱいあるから、芹花さんはグルメも楽しむんだろうね」

「きっとそうだと思う、胡桃」


 結衣と胡桃と伊集院さんは芹花姉さんが北海道へ旅行に行くことを知っているので、昼休みにお昼ご飯を食べるときの話題はそのことになっていた。


「北海道のグルメっていうと、ラーメン以外だとお寿司とかジンギスカンかな」

「そうですね、結衣。あと、スープカレーも有名だと聞いたことがあるのです」

「あとは、ミルクを使ったスイーツも良さそう。北海道にはソフトクリームとかアイスクリームの美味しいお店がたくさんあるって聞いたことがあるよ」

「旅行中は札幌とか小樽に行くみたいから、色々なグルメを楽しむんじゃないかな。あと、姉さんはホテルの温泉も楽しみだって言ってた」

「そうなんだ! 北海道は涼しいそうだし、きっと温泉は気持ちいいんだろうなぁ」


 温泉に入っているのを想像しているのか、結衣はまったりとした笑顔になっている。結衣につられてか、胡桃と伊集院さんも柔らかい笑顔になっていて。夏の伊豆旅行では結衣達は一緒に温泉を楽しんだから、その影響もあるのかもしれない。


「こうして話していると、北海道に旅行に行きたくなるね」

「そうだな。グルメはもちろん、観光名所もいっぱいあるし。夏休みとか今ぐらいの時期だと避暑地に行く感覚にもなれそうだし」

「そうだね。悠真君と2人きりなのはもちろん、姫奈ちゃんや胡桃ちゃん達とみんな一緒にも行きたいな。夏の伊豆旅行も楽しかったし」

「ふふっ、そう言ってくれて嬉しいのです」

「嬉しいよね、姫奈ちゃん」

「みんなで行った伊豆旅行は楽しかったもんな。また、あのメンバーで一緒に行きたいな」


 結衣、胡桃、伊集院さん、中野先輩、芹花姉さん、柚月ちゃん、福王寺先生、俺の8人で。

 俺の言葉に結衣達は笑顔で「そうだね」と首肯してくれた。そのことに嬉しくなる。北海道でも、それ以外の場所でも、また8人で旅行ができたらいいな。

 あと、結衣が言ったように、結衣と2人きりでも旅行に行きたいな。2人きりの旅行はまだ一度も行ったことがないから。


「あと、定期的にメッセージと写真をゆう君に送るのが芹花さんらしいね。ゆう君のことが本当に好きなんだって分かるよ」

「だよね。授業中に何度か悠真君の席からスマホの鳴る音が聞こえてた。途中からは、お姉様から来たかなって思ってた」

「そっか。バッグに入れてあまり音が響かないようにはしていたけど。うるさかったか?」

「ううん、そんなことないよ」

「なら良かった」


 それなら、メッセージを送る頻度を抑えたり、別の時間帯に送ったりしてほしいと芹花姉さんに言う必要はないかな。


「悠真君はちゃんと返信してる?」

「ああ、してるよ。『いいなぁ』とか『ラーメン美味しそう』とか。すぐ既読になるんだ」

「ふふっ、お姉様らしい。……そうだ、お姉様がラーメンの写真を送ってきたから、悠真君もお弁当の画像を送ってみるのはどう?」

「おっ、それは面白そうだな。一緒に食べているし、結衣達も写ってくれないか?」

「もちろんいいよ!」

「いいのですよ!」

「いいよ、ゆう君!」

「ありがとう」


 その後、結衣の友達に頼んで、俺達4人はお弁当を持った姿を俺のスマホで撮影してもらう。お弁当はちょっと食べているけど、結衣達はみんな笑顔になっていてとてもいい写真だ。


『昼休みになって、結衣達と一緒にお弁当を食べてるよ』


 というメッセージと一緒に俺達の写真を芹花姉さんに送る。

 すると、今回もすぐに既読になり、


『すっごくいいね! いつもこういう感じでお昼を食べているんだね。写真でも今のユウちゃんの姿を見られて嬉しいよ! ありがとう!』


 という返信が芹花姉さんから届いた。姉さんの嬉しそうな笑顔が頭に思い浮かぶよ。これで、姉さんがより旅行を楽しめたら何よりである。

 芹花姉さんからの返信を見せると、結衣達はみんな楽しそうな笑顔になっていた。

 芹花姉さんのおかげで、いつもよりも楽しくお昼ご飯を食べられたのであった。

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