第4話『放課後ランジェリータイム』
結衣と話しながら歩いていたのもあり、すぐに駅の近くにあるショッピングセンター・エオンに到着した。晴天の中歩いたから、エアコンのかかった涼しい店内が心地良く感じられる。1階は食料品のフロアで、フードコートもあるからか賑わっている。平日の夕方だから、うちの高校を含めて制服姿の人が結構いるな。
入口の近くにあるエスカレーターに乗って、衣料品の売り場や専門店がある2階へ向かう。
1階に比べると、2階は落ち着いた雰囲気だ。また、エスカレーターの近くに女性向けのアパレルショップがあるのもあり、近くにいる人は女性が多い。その中には制服姿の人もちらほらと。
女性向けの衣服売り場やアパレルショップの横を歩いて、目的地であるランジェリーショップの前に到着した。
「着いたよ」
「ああ。前に来たときは、ここで一旦別れて俺は近くのベンチで休んだんだよな」
「そうだったね。胡桃ちゃんと姫奈ちゃんと一緒に下着を見たなぁ。あのときは自分のだけじゃなくて、胡桃ちゃんの下着も選んだの」
「そうだったんだ」
そういえば、前回、結衣達がランジェリーショップに立ち寄ったきっかけは、胡桃がこのお店の前で立ち止まったことだったな。今回の結衣のように、持っている下着がキツくなったからと。
あと……あのときは伊集院さんが、結衣と胡桃の胸の大きさに愕然としていたっけ。俺が「大きくなる希望はある」と言って励ましたな。伊集院さんは胸が大きくなるようにたくさん寝ようと言っていたけど、その成果はあったのだろうか。まあ、恋人ではない女性の胸のことなので、これ以上は考えないでおこう。
「じゃあ、入ろうか。悠真君」
「あ、ああ」
ランジェリーショップは小学生のときに、芹花姉さんや母さんと一緒に入ったとき以来だから緊張する。
結衣は俺の腕を離し、再び左手を握る。結衣に手を引かれる形でランジェリーショップの中に入った。
女性向けのランジェリーショップなだけあって、ショップの中にいるお客さんはほぼ全てが女性だ。男性も1人だけいるけど、恋人らしき女性と手を繋いで歩いている。1人でも男性客がいると何だか心強い。
俺の周りにはブラジャーやパンツ、キャミソールといった下着がいっぱい陳列されている。色々な色やデザインのものがあって、意外とカラフルな空間だ。
「このあたりにあるものをよく買っているよ」
そう言って、結衣は歩みを止める。
目の前には、ハンガーラックに花柄の刺繍が施されたレース生地の下着がたくさんかかっている。これまで結衣が付けている下着のような雰囲気だ。赤系や青系、緑系、黄色、黒など様々な色がある。
「そうなんだ。よく買っているって言うだけあって、これまで結衣が付けている下着みたいな感じだな」
「ふふっ、よく覚えてるね」
「お泊まりのときを中心に何度も見たことがあるからな。よく似合っているし」
「似合っているって言ってくれて嬉しいな。ありがとう」
結衣はとても嬉しそうにお礼を言う。
「……確か、この前買ったときは黒がいいって言ったんだよな」
「そうだね。覚えてくれていたんだ」
「そりゃ初めて下着を選んだからな。写真で見る形だったけど」
「ふふっ。このハンガーラックにある下着のデザインってどう?」
「とてもいいと思う。結衣に似合いそうだ」
「嬉しいな。私のこのデザインいいなって思うし、この下着を買おうか」
「ああ。前回は1着だったけど、今回は何着買うんだ?」
「3着買おうと思ってる。お母さんから、そのくらい買えるお金をもらってきた」
「そっか」
サイズがキツくなっているものがいくつもあるって言っていたもんな。3着くらいは買いたいか。
「いくつか候補を選んで、試着して、悠真君に見てもらって3色選んでもらおうかな」
「ああ、分かった」
「悠真君はどの色がいい?」
「まずは黒だな。この前も黒い下着を買ったし」
「黒ね。あとは何色がいい?」
「あとは……青がいいな。青は前回の下着を買ったときの選択肢だったし。夏休みに買ったときのビキニも青だったから。あと、ピンクやオレンジとかも可愛い感じで結衣に似合いそうな気がする」
「青とピンク、オレンジだね。どれも私も好きな色だよ。じゃあ、この4色を試着してみるね」
「ああ」
4色とも結衣の好きな色か。良かった。
その後、結衣は黒、青、ピンク、オレンジの下着をハンガーラックから手に取る。幸いにも、どの色も結衣のサイズに合うものがあった。
4つの下着を見つけた後、俺達は試着室に向かい始める。
4着あるし、結衣はスクールバッグを持っているので、黒と青の2着は俺が持っている。こうして下着を見てみると……Fカップって結構大きいんだな。そして、結衣の胸はこれがちょうど良さそうなサイズなんだな。
試着室の前まで到着する。試着室は全部で3つあり、向かって右側の扉だけ利用中のようだ。
「悠真君がいるし、向かって左側の試着室を使うよ」
「分かった」
「じゃあ、中でブラジャーを試着するね。試着したら見せるから、扉の近くに立ってて」
「了解だ」
俺から黒の下着と青の下着を受け取ると、結衣は向かって左側の試着室に入った。
扉が閉まり、鍵が施錠された瞬間……何だか不安になってきたな。これまで何分か結衣と一緒にいたから、お客さんや店員さんに不審者だとは思われない……と思いたい。
スマホを弄りながら、結衣の試着が終わるのを待つ。
試着室の中から、衣擦れの音や結衣の鼻歌が聞こえてくる。これまで結衣の脱ぎ着する姿は何度も見たことあるけど、それでもドキッとする。
待っている間、既に利用中である向かって右側の試着室の扉が開いた。中からは大学生と思われる茶髪の女性が出てきて。手には紫色の下着を持っていて。俺とチラッと目が合ったけど、特に嫌悪感や怯えた様子を見せることなくレジの方へ向かっていった。さっきの結衣との会話が聞こえて、男の俺が試着室の前にいると分かっていたのだろうか。とにかく、何事もなく済んで良かった。
「悠真君。1着目を着終わったよ」
「そうか。扉の前にいるから、ちょっと開けてくれ」
「分かった」
その直後、鍵が解錠され、向かって左側の試着室の扉がちょっと開かれる。
開かれた部分からは、制服のスカートに黒いブラジャー姿の結衣の姿が。上半身はブラジャーだけなので、扉が開いた瞬間に結衣の甘い匂いがふわりと香った。
「どうかな、悠真君」
結衣は微笑みながら問いかけてくる。
黒い下着だから大人っぽい雰囲気が感じられる。結衣の白くて綺麗な肌が際立って。あと、今までにブラジャーを付けた結衣を何度も見てきているけど、Fカップに成長したと分かったから、結衣の胸が今までよりも大きく見える。谷間も凄い。
あと、上はブラジャーだけど、下は制服のスカートだから、今の姿にそそられるものがある。
「下着の試着でも、胸をじっと見つめられると興奮しちゃう」
そう言う結衣の頬はほんのりと上気していて。それもあって艶やかな印象に。
「似合っているよ。黒だから大人っぽくていい感じだ」
「いいよね。前も黒い下着を買ったけど、やっぱりいいなって思うよ」
「そっか。サイズの方はどうだ? 付け心地って言うのかな」
「お母さんが測ってくれたおかげで、サイズはバッチリだよ。付け心地いいよ」
「それは良かった」
「じゃあ、後で比較するためにもスマホで写真を撮って」
「分かった」
俺は自分のスマホで、黒いブラジャーを試着した結衣を撮影する。絵的に犯罪の匂いがするけど、試着した下着の比較のためだ。特に何も悪くない。結衣の頼みだし、俺は恋人だし。
また、撮影するときには結衣はニコッと笑ったり、胸に被らないようにピースサインしたりして可愛い。
「じゃあ、2着目を試着するね。次がどの色なのかお楽しみに」
「ああ。楽しみにしているよ」
今は放課後デート中だからか、結衣はエンタメ要素を出してきたな。
次は何色の下着を着るだろう。青とピンク、オレンジの3つだけど。どの色なのか楽しみにしながら結衣のことを待つ。
「着たよー」
「ああ。開けていいぞ」
俺がそう言うと、先ほどと同じくらいに結衣は試着室の扉を開ける。
扉の隙間からは……青いブラジャーを身に付けた結衣が立っていた。
「今度は青でーす。どうかな?」
結衣は楽しげな様子で問いかけてくる。
青色といっても結構濃いので、落ち着いた雰囲気が感じられる。黒のときと同様で結衣の白い肌が映えるなぁ。夏休みに買ったビキニが青く、色の濃さも似ているので、夏休み中に海やプールで遊んだときのことを思い出した。
「青も似合っているよ。落ち着いた雰囲気もあって。夏休み中に買った青いビキニも似合っていたし、青も結衣にいいなって思ったよ」
「嬉しいな。このブラを付けたとき、ビキニを買ったり、海やプールで遊んだりしたときのことを思い出したよ」
「俺もだ」
「ふふっ、そうなんだ。じゃあ、この下着姿も撮ってくれるかな」
「了解」
さっきと同様に、青いブラジャーを付けた結衣を自分のスマホで撮影した。
その後もオレンジ、ピンクの順番で結衣は試着していき、その姿をスマホで撮影した。どの色の下着もよく似合っているなぁ。それも、スタイルが良くて美人で可愛い結衣が付けているからだろう。
「悠真君、どう? 3つに絞れた?」
制服に着替え終わった結衣が試着室から出てくると、俺にそう問いかけた。
「黒と青は決まった。黒は前回から続いてよく似合っていたし。ビキニの色に似ている青もよく似合っていたから。あと1つは……ピンクもオレンジも両方似合っていたから迷ってる。個人的にはピンクの方がより可愛い感じがする」
「色的にピンクは可愛いもんね。私もピンクとオレンジなら、ピンクの方が可愛いなって思うよ」
「そっか。……一応、参考に」
俺はピンクのブラジャーを身に付けた結衣の写真を表示させ、結衣に見せる。画面をスライドして、オレンジ色のブラを付けた結衣の写真も。
「……うん。ピンクの方が可愛いな」
「そうか。俺も写真を見て改めてそう思ったよ」
「そっか。じゃあ、3つ目はピンクにするね」
「分かった」
こうして、結衣の購入する下着は黒、青、ピンクに決まった。
試着室を後にして、オレンジ色の下着は陳列されていたハンガーラックに戻し、黒、青、ピンクの下着を持ってレジへ向かった。
レジの出口の近くで結衣の会計が終わるのを待っていたけど、その間に何度かレジを担当する若い女性の店員さんに視線を向けられた。ちょっとニヤニヤしていて。このお店での俺達の様子を見ていたのかもしれない。
結衣は女性の店員さんから白い紙の手提げを受け取り、俺のところにやってきた。
「お待たせ、悠真君」
「いえいえ。無事に買えて良かったよ」
「うんっ! サイズも合ってて、悠真君がいいと思った下着を買えて良かったよ! 悠真君、選んでくれてありがとう! 試着した姿を悠真君に見せるのも楽しかったし」
とってもご機嫌な様子でそう言う結衣。そんな結衣を見ていると、今の言葉に嘘偽りがないことがよく分かる。
「俺も……結衣の魅力的な下着姿をいっぱい見られて楽しかったよ」
「そう言ってもらえて良かった。これからも、下着を買うときは悠真君に選んでもらおうかな?」
「選んでほしいときはいつでも言ってくれ」
「うんっ!」
結衣はニッコリとした笑顔で首肯する。可愛いな。
結衣も楽しかったと言っていたし、これからは俺とのデート中に下着を買うのがスタンダードになりそうだ。
その後は音楽ショップや胡桃がバイトしている書店に行ったり、フードコートでアイスを食べたりして、2学期最初の放課後デートを楽しんだ。