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『コアマの打ち上げ』

『コアマの打ち上げ』



 8月10日、土曜日。

 今日はコアマと呼ばれている世界最大級の同人誌即売会にサークル参加した。サークル参加といっても、大学で同じ学部学科の同い年の友達・月読彩乃(つきよみあやの)ちゃんのサークル・よみつきの売り子としてだ。

 彩乃ちゃんはコアマのために『みやび様に告られたい。』というラブコメ漫画のガールズラブの同人誌を製作した。その同人誌にメインヒロインのメイド・宮坂(みやさか)が描かれている。なので、私は宮坂のコスプレをして売り子をした。クールな性格の宮坂になりきって。

 午後にはコアマに一般参加したユウちゃん、結衣ちゃん、胡桃ちゃん、杏樹先生がサークルまで来てくれた。もちろん、4人にも新刊を頒布した。

 4人は新刊について、キスシーンでドキドキしたとか絵柄が可愛いなどと好意的な感想を言っていて。そのことに彩乃ちゃんは嬉しそうにしていた。そんな彩乃ちゃんを見て私も嬉しくなった。

 新作の同人誌はもちろんのこと、これまでのイベントで制作した旧作の同人誌も見事に完売した。芹花ちゃん曰く、新作同人誌が一度のイベントで完売するのは初めてだという。私のコスプレ接客が少しでも力になれていたのなら嬉しい。

 彩乃ちゃんとユウちゃん達と会場内を廻り、ユウちゃん達は先に会場を後にした。

 午後4時にコアマが閉会し、片付けや着替えをしてから私達も帰ることに。

 会場の最寄り駅に着いたとき、


「ねえ、芹花ちゃん。この後、私の家で打ち上げしない? 初めて新刊が一度のイベントで完売した記念に。それに、芹花ちゃんと初めて一緒にコアマに参加したし。家の近くにあるスーパーかコンビニで食べ物や飲み物を買って、それを夕ご飯としてうちで食べたいなって」


 と、彩乃ちゃんが打ち上げの提案をしてくれた。そう言う彩乃ちゃんの頬はほんのりと赤くて、ちょっと緊張しい様子になってて。これまで、2人きりで食事をしたり、彩乃ちゃんの家に遊びに行ったりしたことは何度もある。ただ、打ち上げという名目で何かをするのは初めてだからかもしれない。


「うん、いいよ。彩乃ちゃん」

「ありがとう!」


 彩乃ちゃんはとても嬉しそうにお礼を言った。可愛いな。

 LIMEの家族のグループトークに、彩乃ちゃんの家で打ち上げをすることと、夕飯はいらない旨のメッセージを送る。すると、すぐに『既読3』とマークが付き、ユウちゃんと両親から打ち上げを楽しんできてという旨の返信が届いた。

 コアマの会場から、乗り継ぎを含めて1時間ほど電車に乗って、彩乃ちゃんの自宅の最寄り駅・四鷹(よたか)駅に到着した。また、四鷹駅は私達が通っている大学の最寄り駅でもある。

 アパート近くのコンビニに寄って、夕食と飲み物を買うことに。


「芹花ちゃん。売り子をしてくれたお礼に、夕食と飲み物代を出すよ」

「えっ、いいの?」

「もちろんだよっ」


 彩乃ちゃんは弾んだ声でそう言ってくれる。


「じゃあ、ご厚意に甘えようかな」

「うんっ」


 彩乃ちゃんはニコッと笑って頷いてくれた。

 私は明太子の冷製パスタとペットボトルのストレートティーを選び、彩乃ちゃんに奢ってもらう。

 ちなみに、彩乃ちゃんはナポリタンにペットボトルのレモンティー。あと、2人で一緒に食べようということで、いちごマシュマロも購入していた。

 コンビニを後にして、私達は彩乃ちゃんの住んでいるアパートに向かう。

 彩乃ちゃんは大学進学を機に実家を離れ、大学近くのアパートで一人暮らしをしている。私は実家暮らしだから、一人暮らしをしている彩乃ちゃんが偉いなぁって思う。

 私は一人暮らしをする予定は今のところない。できればしたくない。だって、ユウちゃんと離れるのは嫌だもん! まあ、進学とか就職とか結衣ちゃんとの同棲でユウちゃんが実家を離れることになったら、凄く寂しいけど受け入れるつもり。……いや、そのときは私が近くに引っ越せばいいのか。そうすれば、ユウちゃんに会いやすくなるもんね!

 それから程なくして、彩乃ちゃんの自宅に到着する。

 家の中に入ると、彩乃ちゃんの甘い匂いがほのかに感じられて。それだけでちょっと癒やされる。

 今は午後6時頃で、夕食を食べるにはちょっと早めの時間。ただ、今日は朝からずっとコアマに参加していてお腹も空いているので、さっそく打ち上げを始めることに。

 ローテーブルを挟んで、私は彩乃ちゃんと向かい合うようにして座る。


「彩乃ちゃん、今日はコアマお疲れ様」

「芹花ちゃんも売り子お疲れ様」

「あと、新刊が初めて完売しておめでとう! そのことも祝して乾杯!」

「ありがとう! 乾杯!」


 私達はコンビニで買ったペットボトルの飲み物を軽く当てた。

 ストレートティーを飲むと……甘さが程良くて、紅茶の茶葉の香りも感じられて美味しい。今日も暑かったのもあって、この冷たさがたまらない。ゴクゴクと飲んでしまう。


「あぁ、ストレートティー美味しい」

「レモンティーも美味しい。体が涼しくなっていくよ」

「そうだね。じゃあ、夕ご飯を食べようか」

「うん。いただきます」

「いただきまーす」


 さっき、コンビニで彩乃ちゃんに奢ってもらった明太子の冷製パスタを食べることに。和風だしや明太子ソースをかけて、パスタと具を混ぜていく。コンビニパスタを食べる前のこの作業が、個人的にはちょっと楽しかったりする。

 いい感じに混ぜられたので、明太子パスタを一口食べる。


「うぅんっ!」


 明太子の辛さとしょっぱさがいいなぁ。和風のだしが味わい深くて。凄く美味しい。だから、思わず声が漏れてしまった。今の私を見てか、彩乃ちゃんは「ふふっ」と笑った。


「モグモグ食べて、可愛い声を出して。芹花ちゃん、可愛い」

「冷製パスタが美味しくて。彩乃ちゃんに買ってもらったから本当に美味しいよ。このストレートティーもね」

「ふふっ、それは奢った甲斐がありました。ナポリタンも美味しい」

「良かったね」


 私がそう言うと、彩乃ちゃんは「うんっ」と首肯して、ナポリタンを食べる。とても美味しいのか、幸せそうな笑顔でモグモグしていて。


「彩乃ちゃんも食べている姿が可愛いよ。それは4月から思っていることだけど」

「あ、ありがとう」


 えへへっ、と彩乃ちゃんは照れくさそうに笑う。その姿もまた可愛らしかった。

 彩乃ちゃんの笑顔を見ながら、冷製パスタをもう一口食べると……さっきの一口目よりも味わい深く感じられた。


「芹花ちゃん。今日は宮坂のコスプレをして接客してくれてありがとう。それもあって、新刊が初めて完売したから。人気のみやび様の同人誌で、メインヒロインのみやびちゃんとメイドの宮坂のガールズラブの内容。悠真君達に4冊取り置きしたのもあるけど、一番はコスプレした芹花ちゃんが売り子をしてくれたおかげだよ。本当にありがとう」


 彩乃ちゃんは持ち前の優しい笑顔でそうお礼を言うと、私に向かって深めに頭を下げた。


「いえいえ。人気のみやび様の同人誌なのもあると思うけど、何よりも絵柄が可愛かったり、ストーリーの内容が良かったりしたのが一番の理由だと思うよ」

「芹花ちゃん……」

「ただ、私がコスプレ売り子したのが完売に一役買ったなら嬉しいよ」

「一役も二役も買ってるよ。今までのイベントよりも、サークルスペースの前で立ち止まってくれた人の数や時間が多かったし。初めての経験だったよ」


 と、彩乃ちゃんは笑顔でそう言う。

 思い返すと、よみつきのサークルスペースの前で立ち止まる人がいた時間は結構あった。あの感じが初めてだったのなら、私が宮坂にコスプレして売り子をした効果はあったのだなと実感できる。

 まあ、中には見本を見ずに、私に向かって『写真を撮ってもいいですか?』と尋ねてくるだけの人もいたけど。そういう人は気に食わなかったし、見ず知らずの人にコスプレした姿をネット上にアップされるのも嫌だった。だから、ユウちゃん達以外は全て断ったよ。


「そっか。今日のコアマで、彩乃ちゃんにとっての初めてがいくつも経験できて良かったよ」

「うんっ。本当にありがとう、芹花ちゃん」

「いえいえ。……彩乃ちゃん。冷製パスタ一口いる?」

「うんっ。一口ほしいな」


 彩乃ちゃんは可愛らしい笑顔でそう言う。

 プラスチックのフォークで明太子の冷製パスタを一口分巻き取り、彩乃ちゃんの口元まで持っていく。そして、


「はい、彩乃様。あ~ん」


 と、コスプレした宮坂の口調と声色に似せてそう言った。それが予想外だったのか、彩乃ちゃんは目を見開き「あうっ」と甘い声を漏らす。可愛い。


「ど、どうしたの。急に宮坂の口調になって」

「コスプレで売り子したことを、彩乃様がいっぱいお礼を言ってくれたからですよ」

「ふふっ、そういうこと。じゃあ……宮坂。あ~ん」

「あ~ん」


 私は彩乃ちゃんに冷製パスタを食べさせる。

 これまで、大学の学食とかでこうして一口食べさせることが多い。いつも可愛いなって思っているけど、今日の彩乃ちゃんはいつも以上に可愛いなって思う。


「冷製パスタも美味しいね」

「美味しいよね」

「じゃあ、お礼に私のナポリタンを一口あげるよ」

「……ありがとうございます、彩乃様」

「ふふっ、口調はもちろん、宮坂らしい声色も板に付いたね」

「今日はこの話し方でいっぱい接客しましたから」


 だからか、普段よりも低い声色もすんなりと出せるようになった。

 彩乃ちゃんは「ふふっ」と笑いながら、プラスチックのフォークでナポリタンを一口分巻いていく。


「はい、芹花ちゃん。あ~ん」

「あ~ん」


 彩乃ちゃんからナポリタンを食べさせてもらう。

 トマトケチャップの甘酸っぱさがいいな。パスタはもちろん、具材のピーマン、たまねぎ、ベーコンとも合っているし。


「とても美味しいです。ありがとうございます、彩乃様」

「それは良かった。コンビニで買ったものだけど嬉しいよ」


 甘い声でそう言うと、彩乃ちゃんは嬉しそうな笑顔になる。その顔は頬を中心にほんのりと赤みを帯びていた。


「一口交換が終わったから、宮坂モードはこれで終わりね」

「うん。宮坂モードになった芹花ちゃん、良かったよ」

「ありがとう」


 彩乃ちゃんに喜んでもらえて嬉しいよ。

 それからも、今日のコアマでのことを話しながら、芹花ちゃんと一緒に夕食を食べた。コンビニパスタだけど、本当に美味しかった。

 夕食を食べ終わった後は『みやび様は告られたい。』のアニメを観ることに。彩乃ちゃんと隣同士に座って、コンビニで彩乃ちゃんが買ったいちごマシュマロを食べながら。コアマでみやび様の同人誌を売ったから、彩乃ちゃんと話がとても盛り上がった。


「みやび様本当に面白いね、彩乃ちゃん」

「本当に面白いよね。同人誌を売って、芹花ちゃんには宮坂のコスプレをしてもらったから、またみやび様の同人誌を描きたくなったよ」

「ふふっ、そっか」


 創作意欲が湧き上がってくるとは。さすがは彩乃ちゃんだ。


「できたら読ませてね。彩乃ちゃんの掻く漫画、好きだから」

「……うんっ!」


 彩乃ちゃんは少し大きめの声で肯定の返事をしてくれた。次に描く同人誌がどんな内容になるのか今から楽しみだ。


「あ、あのね。芹花ちゃん」


 そう言うと、彩乃ちゃんは頬を中心に顔を赤らめて私のことをチラチラと見てくる。ちょっと緊張している感じがして。どうしたんだろう?

 彩乃ちゃんはどちらかというと大人しい性格の子だ。私からは何も言わず、彩乃ちゃんのことを見つめながら彩乃ちゃんからの言葉を待つ。


「……こ、これからも、同人イベントでは芹花ちゃんにコスプレして売り子するのを頼むかもしれない」

「もちろんいいよ。私に売り子をしてほしいときにはいつでも言って」

「ありがとう。あと……この夏休みは芹花ちゃんと楽しく過ごしたいな。今日のコアマも一緒に参加してとても楽しかったから」


 可愛い笑顔で彩乃ちゃんはそう言ってくる。顔を赤くしてちょっと緊張したように見えたからどんな内容なのかなって思っていたけど。売り子のお願いと夏休みを一緒に楽しみたいって言うなんて。彩乃ちゃんは本当に可愛いよ。


「もちろんだよ! 一緒に買い物したり、遊んだり、サークルに行ったりしようね! それに、9月にはサークルでの旅行もあるし」

「……うんっ!」


 彩乃ちゃんはニッコリと笑って頷いた。

 大学の夏休みはまだ始まったばかりで、9月の終わり頃まで続く。だから、サークルの旅行が9月に予定されている。ユウちゃんと何日も離れるのは寂しいけど、彩乃ちゃんと一緒なら楽しめそうだ。

 バイトとかサークルとか、夏休み中に予定は色々と入っている。ただ、彩乃ちゃんと2人でも一緒に楽しい時間を過ごしたいなって思う。

 それからも、私は彩乃ちゃんと一緒にみやび様のアニメを楽しむ。

 彩乃ちゃんのおかげで、今日はとても楽しい一日になった。今後も彩乃ちゃんと一緒に、今日のような日を何度も過ごせたらいいな。



 ちなみに、家に帰ると、ユウちゃんに「コスプレをして売り子してお疲れ様」と労ってくれた。頭を撫でてほしいって言ったら優しく撫でてくれて。だから、とっても幸せな気持ちになりました!




『コアマの打ち上げ』 おわり

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