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『悠真の一人猫カフェ』

『悠真の一人猫カフェ』



「悠真。今日もバイトお疲れ様」

「お疲れ様でした、中野先輩」

「うん。あたし、この後用事があるからこれで。またね」

「はい」


 8月下旬のとある日のこと。

 今日は午前10時から午後4時まで、ムーンバックスというチェーンの喫茶店でのバイトがあった。シフト通りにバイトを上がることができて何よりだ。

 用事があるという中野先輩は駅の方へと向かっていった。

 さてと、これからどうしようか。

 今日はバイトがあるから、結衣と会ったり、デートしたりする予定は特にない。買う予定や気になっているラノベや漫画も特にないし。今日は真っ直ぐ家に――。


「あっ、猫ちゃんだ」

「本当だ、かわいい~。首輪付いていないし、ノラ猫かな」

「そうだろうね。あと、駅の近くにいるなんて。人が好きなのかな」

「そうかもね。……あっ、触れた!」

「触られるのが好きだから、こういう場所にいるのかもね」


 という女性達の会話が聞こえてきたので、俺はそちらに視線を向ける。

 近くで、高校生くらいと思われる2人の女性が三毛猫を撫でていた。猫に触れられているからか、女性達は幸せそう。また、撫でられるのが気持ちいいのか、三毛猫もリラックスしているようだ。微笑ましい光景だ。


「猫か……」


 三毛猫と戯れている女性達を見ていると、5月に結衣と胡桃と一緒に猫カフェへ行ったり、みんなが俺の家に来るノラ猫のモモちゃんと戯れたりしたときのことを思い出す。


「そういえば、猫カフェはあのときに3人で行ったのが最後か」


 俺の家でモモちゃんと戯れることが何度もあるからかな。モモちゃんは結衣達にも触らせてくれるし。

 猫カフェから帰るとき、一人で猫カフェに来て猫と戯れるのも良さそうだって考えたっけ。


「行ってみるか。一人猫カフェ」


 せっかく駅の近くにいるし、まだ4時過ぎだし。思い立ったが吉日という言葉もあるくらいだし。よし、行こう。

 俺は5月に結衣と胡桃と一緒に行った猫カフェ・かにゃいに向かって歩き始める。

 かにゃいは武蔵金井駅の南口にある。ムーンバックスは北口にあるので、駅の構内を通り過ぎて南口の方へ出る。

 今も晴れているけど、そこまで暑く感じない。あと10日もしないうちに季節が秋になるからだろうか。梅雨が明けた直後の時期は、夕方に差し掛かるこの時間でも結構暑かった。季節は確かに進んでいるのだと実感する。

 南口を出て、記憶を頼りに歩いて3分ほど。落ち着いた外観が特徴的な2階建ての建物の猫カフェ・かにゃいに到着した。スマホの地図アプリを見ずに辿り着けたことが何だか嬉しい。

 お店の中に入って受付に行く。

 このお店は滞在する時間の長さで料金が決まる。30分コース、60分コース、120分コースと3種類ある。

 結衣と胡桃と来たときは60分コースだったな。2人と一緒で楽しかったし、猫に癒やされたからあっという間だったっけ。今回は一人だけど、猫と触れ合いたいから60分コースにするか。


「午後5時10分までになります」

「はい」


 60分コースの料金を支払い、受付にいる女性のスタッフさんから退店時刻が記載された入店チケットを受け取った。

 奥へ進み、キャットルームに入ると、


「おおっ……」


 中にはたくさんの猫がいる。ここに来るのは2度目だけど、猫がたくさんいる光景に圧倒されて声が漏れてしまった。ただ、俺の声に驚く猫が特にいないようで良かった。

 キャットルームには何人もの人が猫と戯れている。ソファーに座って撫でていたり、床に寝転がって猫と隣同士で横になったりと、お客さんはそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。ただ、全員が共通して柔らかな笑顔になっていて。俺も猫に癒やされよう。

 以前、来店したときは、茶トラ猫と黒猫が俺のところに来てくれたっけ。あの2匹が来てくれると嬉しいけど……3ヶ月経っているし、俺のことを覚えている可能性は低そうかな。


「にゃ~」


 すぐ近くで猫の鳴き声が聞こえたので、足元を見てみると……そこには以前の来たときに戯れた黒猫が。


「来てくれたのか」


 俺がそう言うと、黒猫は俺の言葉に返事をするように「なーう」と鳴く。俺と目が合うと足元にスリスリしてきて。俺のことを覚えていてくれたのかな。もしそうだとしたら嬉しい。

 俺の立っている周辺にお客さんや猫はあまりいないし、ここに座るか。結衣と胡桃と一緒に来たときはソファーに座っていることが多かったので、新鮮な感覚で猫カフェを楽しめるかもしれない。

 俺はその場であぐらの形で座る。

 座った直後、黒猫は俺の左脚に前足を乗せ、あぐらの形になっている俺の脚を見る。

 俺の脚の間が良さそうな空間に思えたのだろうか。黒猫は俺の脚を跨いで、両脚の間に入って横座りの体勢になる。足を投げ出しているので、かなりリラックスしているように思える。


「俺の脚に入ってきてくれて嬉しいぞ。いい子だな」


 そう語りかけ、頭から背中に掛けてそっと撫でる。

 俺に撫でられるのが気持ちいいようで、黒猫は「にゃ~ん」と可愛らしく鳴いてくれる。凄く可愛いな。


「癒やされる……」


 黒猫が可愛いし、触り心地もいいのでバイトの疲れが段々と取れていく。

 そういえば、猫社員がオフィスにいる会社があるって、前にニュースで話題になっていたな。社員の方々が猫に癒やされていたな。それがよく理解できる。

 バイト先でのムーンバックスでも、従業員用の休憩室に猫スタッフがいてくれるようにならないものか。きっと、俺や中野先輩を含め、休憩中に猫に癒やされるスタッフはいっぱいいて、仕事の効率が上がると思う。……でも、飲食店だし、衛生的な意味でそれはダメそうかな。

 休憩中に猫と戯れて癒やされるのは無理でも、せめて写真を見て癒やされたい。そう思い、俺はスマホで黒猫の写真や黒猫と俺の自撮りのツーショット写真を撮った。


「写真撮らせてくれてありがとね」

「にゃんっ」


 お礼に両手で黒猫の頭や背中を中心に撫でる。気持ちいいと思ってくれているのか、俺の右手に頭をスリスリさせてきて。本当に可愛い。

 黒猫を見ていると、以前来たときに結衣と胡桃がネコ耳カチューシャを付けたことを思い出す。


『猫ちゃん気分を堪能だにゃぁん』

『ゆ、結衣ちゃんに誘われて買ってみました……にゃん』


 結衣はノリノリで。胡桃はちょっと恥ずかしそうにしていて。2人とも凄く似合っていて可愛かったな。

 あと、結衣は俺の家で、俺の部屋にある黄色いネコ耳カチューシャを付けて、俺の腕や脚に頭をスリスリしたこともあったっけ。そのときは結衣を猫に見立てて、今の黒猫にやっているように頭や背中を撫でたな。


「一人で猫カフェに来ても、結衣や胡桃のおかげで癒やされるな」


 それだけ、2人と一緒にここに来たことが楽しかったり、ネコ耳カチューシャ姿の2人が可愛いと思っていたりするからだろう。


「にゃぉ~ん」


 黒猫とはまた違った可愛い鳴き声が聞こえた瞬間、左の脇腹にスリスリされる感覚が。そちらに視線を向けると、そこには茶トラ猫がいた。その茶トラ猫は結衣と胡桃と一緒に来たとき、最初に俺に近づいてきてくれた猫だ。


「おぉ、君も来てくれたか。君とも再会できて嬉しいぞ」

「な~う」


 左手で茶トラ猫の頭を優しく撫でる。3ヶ月前に行ったときに特に戯れた2匹と再会できてとても嬉しいな。


「にゃんっ」


 茶トラ猫は可愛く鳴くと、左手に頭をスリスリする。

 何度かスリスリすると、茶トラ猫はその場に座り込んでゴロンゴロンし始めた。俺の側にいるのが心地良く思ってくれたのかな。そうだとしたら嬉しい。

 黒猫のときと同じく、スマホで茶トラ猫の写真やツーショット写真などを撮った。黒猫と茶トラ猫とのスリーショット写真も。


「撮らせてくれてありがとな」


 右手で黒猫、左手で茶トラ猫の頭を優しく撫でる。


『にゃ~』


 ほぼ同時に撫でたからか、黒猫と茶トラ猫との鳴き声が見事にシンクロ。それが面白くて、頬が緩んでいくのが分かった。

 その後は白猫やアメリカンショートヘアの猫なども来てくれ、猫達に癒やされていく。

 一人で来た猫カフェだけど、たくさんの猫達と、これまでの思い出のおかげであっという間に60分が過ぎていった。とても癒やされて、幸せな時間になった。




『悠真の一人猫カフェ』 おわり

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