『誕生日の夜』
『誕生日の夜』は、夏休み編4のエピローグ『たくさんのプレゼント』の胡桃視点の話になります。
『誕生日の夜』
8月20日、火曜日。
今日はあたし・華頂胡桃の誕生日。あたしは16歳になった。
誕生日になった瞬間から、ゆう君や結衣ちゃん達から『誕生日おめでとう!』ってお祝いのメッセージをもらって。ゆう君が低変人として『優しい果実』というピアノ曲をプレゼントしてくれて。誕生日が始まった直後から嬉しい気持ちになった。
午後には家族全員とゆう君、結衣ちゃん、姫奈ちゃん、千佳先輩が誕生日パーティーを開いてくれた。家族で作ったケーキやスイーツをみんなで食べたり、みんなから誕生日プレゼントをもらったりして。去年までも、うちで誕生日パーティーを開いてくれたけど、今年が一番楽しいパーティーだったな。
夕ご飯はあたしの大好きなオムライス。お母さんとお姉ちゃんが作ってくれて。とても美味しかった。
夕ご飯の後はお姉ちゃんと一緒にお風呂に入ることに。誕生日パーティーで姫奈ちゃんから入浴剤をプレゼントされたとき、お姉ちゃんからお風呂に入ろうって誘われたからね。
お姉ちゃんの横で服を脱ぎ始める。その際にお姉ちゃんのことを見るけど……お姉ちゃんは背が高くてスタイルがいいなぁ。大学2年生なだけあって大人っぽさも感じられて。姫奈ちゃんがお姉ちゃんに憧れているのも納得かな。
「姫奈ちゃんがプレゼントしてくれた入浴剤、楽しみね」
「あたしも楽しみだよ。ミルク系でハーブの香りがするみたいだから。凄く楽しみ」
「胡桃の好みにピッタリだもんね」
「うんっ」
うちではたまに入浴剤を入れることがある。その中でもミルク系で、ほんのりと匂いが香ってくるのが好き。きっと、姫奈ちゃんがプレゼントしてくれた入浴剤も気に入ると思う。
服と下着を全て脱ぎ、入浴剤を一つ持って、お姉ちゃんと一緒に浴室の中に入る。
「さっそく入浴剤を入れようか」
「そうだね」
湯船の蓋を開けて、入浴剤を入れる。
右手で湯船に張ったお湯をかき混ぜていく。そのことで、入浴剤の成分が広がり、透明だったお湯が白く濁っていく。それと同時に、ミルクの甘い匂いとハーブの落ち着いた匂いがほんのりと香ってくる。
「あぁ……いい香り」
「ミルクとハーブの匂いのバランスがいいわね。まだ入っていないけど、気持ちが落ち着いてくる」
「そうだね」
さっそく、入浴剤の効果を実感しているよ。
「姫奈ちゃん、いいものをプレゼントしてくれたなぁ」
「そうね。早く洗って、湯船にゆっくりと浸かろうか」
「うんっ」
「今日も髪と背中はお姉ちゃんが洗ってあげるよ」
「ありがとう。お姉ちゃんの髪と背中はあたしが洗うね」
「うんっ、ありがとう」
お姉ちゃんは嬉しそうな笑顔でそう言った。
その後、あたし、お姉ちゃんの順番で髪と体、顔を洗っていく。
約束通り、髪と背中は洗いっこして。ただ、どちらもお姉ちゃんの洗い方がいつも以上に丁寧な気がした。ただ、とても気持ち良くて。これもお姉ちゃんからの誕生日プレゼントのように思えた。
2人とも洗い終わったので、お姉ちゃんと一緒に湯船に入り、向かい合う形で浸かる。
デコルテのあたりまで温かいお湯に浸かっているけど気持ちいい。洗い場にいるときよりも、入浴剤の匂いも濃く香ってくるし。姫奈ちゃんの言う通りリラックスできるなぁ。あと、湯船に浸かると胸が浮くからいつもより体が楽だし。
「気持ちいい……」
「そうだねぇ……」
お姉ちゃんはまったりとした表情になる。お姉ちゃんとはたまにお風呂に入るけど、ここまでまったりとしている姿はなかなか見ない。これも入浴剤の効果だと思う。
「まったりしているね、お姉ちゃん。可愛い」
「いい香りだし、お湯がちょっとトロッとしているからね。それが凄く気持ち良くて。私もプレゼントをもらった気分だよ」
「ふふっ。良かったね、お姉ちゃん」
そのことを含めて、後で姫奈ちゃんにお礼のメッセージを送ろうっと。きっと、姫奈ちゃんはとても喜ぶと思う。
まったりとしているお姉ちゃんを見たら、より気持ち良く感じてきた。体がとても癒やされているのが分かる。
「凄くいい笑顔をしているね、胡桃」
「とても気持ちがいいからね。癒やされてる」
「良かったね。……今みたいな笑顔を今日はたくさん見せてくれたね。これまでの誕生日で一番笑顔を見せてくれた気がするよ」
「お姉ちゃんやお母さんやお父さんはもちろんだけど、今年はとても仲のいいお友達も一緒に祝ってくれたからね。今までで一番の誕生日になったよ」
それに、仲のいいお友達で、好きな人でもあるゆう君にリアルでも祝ってもらえたから。桐花としてゆう君とネット上で繋がりを持った年から去年までは、正体を隠していたのもあって、ネット上だけで祝ってもらったから。
今日になってからのことを思い出すと、とても温かい気持ちになって。気付けば頬が緩んでいるのが分かった。
「胡桃がそう思える誕生日になって良かった。パーティーでの胡桃を見ていたら、高校でいい出会いがあったんだって改めて思ったよ。低田君とも繋がりを持てたし」
「うん。それに、嫌な人達の縁も切ることができたからね。高校生になって、いい方に変わったなって実感してる。ゆう君や結衣ちゃん達のおかげで、16歳はとてもいいスタートを切ることができたよ」
「良かったね、胡桃。お姉ちゃん嬉しいよ」
「うんっ」
高校に入学したり、本屋さんでバイトを始めたりしたのもあって、15歳としての一年間は人との縁に恵まれたことを実感した日々だった。16歳としての一年間ではまず、今ある縁を大切にしていきたい。
その後も、姫奈ちゃんがプレゼントしてくれた入浴剤入りのお風呂をお姉ちゃんと楽しむ。たまに、お姉ちゃんと抱きしめ合ったり、お姉ちゃんを背もたれにしたりして。とても気持ち良くて、幸せな時間になった。
お風呂を出てから、この夏休みに一緒に旅行へ行った人がメンバーのグループトークに、姫奈ちゃんがプレゼントしてくれた入浴剤を使ったお風呂にお姉ちゃんと一緒に入ったことや、お姉ちゃんとのツーショット写真、結衣ちゃんのプレゼントしてくれたマグカップと胡桃入りのクッキーの写真、そして、
『今年の誕生日は最高の誕生日になりました! 今日のことは忘れません。この思い出も誕生日プレゼントだと思っています。みんな、ありがとうございました!』
という感謝のメッセージを送った。ゆう君が低変人としてプレゼントしてくれた『優しい果実』というピアノ曲を聴きながら。優しい雰囲気の曲だから、聴いていると気持ちが落ち着いて癒やされる。3年前に低変人さんを初めて知ったときから思っているけど、彼は曲作りの天才だと思う。若い世代を中心に大人気の低変人さんから、私のために曲を作ってくれて、ネットに公開せずに私にプレゼントしてくれる。本当に贅沢なプレゼントだと思う。
メッセージや写真を送るとすぐに、ゆう君や結衣ちゃん達から『誕生日おめでとう!』という旨のメッセージやスタンプが続々と送られてきて。それがとても嬉しくて、幸せな気持ちになれて。
みんなのおかげで、16歳の誕生日はいつも以上に忘れることのない最高の誕生日になった。みんな、本当にありがとう。
『誕生日の夜』 おわり