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第5話『3日ぶり』

 7月30日、火曜日。

 今日も朝からよく晴れており、気温がどんどん上がっている。数日前に梅雨が明けてから、ずっと晴天が続いている。明日以降も、晴れて気温が高い日が何日も続くらしい。梅雨明け十日とはよく言ったものだ。

 また、2、3日前からは旅先の伊豆地域の天気予報も見るようにしている。今のところ、旅行に行く8月2日と3日は両日とも晴れて暑くなる予報だ。暑さは収まってほしいけど、晴れの予報は当たってほしい。青空の下、青く広がる海で結衣達と一緒に海水浴を楽しみたい。

 午後1時45分。

 俺は武蔵金井駅に向かって家を出発する。

 これから、午後2時に駅の改札の近くで結衣と待ち合わせして、駅の北口にあるエオンというショッピングセンターでショッピングデートをする予定だ。旅行中の海水浴で着る水着を買ったり、アイスとか冷たいものを食べたりするのが主な目的。先週、一緒に課題をしているとき、結衣が「旅行のために新しい水着を買うつもり」と言ったので、俺が誘ったのだ。


「楽しみだな」


 結衣と会うのは、3日前にニジイロキラリのコンサートの物販ブースで接客してもらったとき以来だから。自然と足取りが軽くなる。

 一昨日は結衣も俺も一日中バイトがあった。

 昨日、俺は日中ずっとムーンバックスでバイトしており、結衣はフリーだった。こういう日は結衣がお店に来てくれることが多いけど、昨日は来なかった。土日はずっと屋外で物販バイトをしていたから、その疲れが残っていたのだそうだ。だから、家でゆっくり過ごしたとのこと。

 もちろん、この3日間も結衣とメッセージをやり取りしたり、電話したりした。それでも、実際に会うとなると胸が躍ってくる。

 家を出てから数分ほど。武蔵金井駅が見えてきた。

 駅周辺には俺と同年代の人や、小中学生の子供の姿がそれなりにいる。普段、学校のある時期がどんな様子なのかは知らないけど、きっと今とは違うんだろうな。

 やがて、北口も見えてきた。あの先にある改札の近くに、結衣はもういるのだろうか。これまで、待ち合わせすると結衣が既に待ってくれていることが多かったから。腕時計で時刻を確認すると……今は1時51分か。いる可能性は十分にある。

 北口から駅の構内に入る。

 改札口の方を見ると……いた。淡い桃色のノースリーブのワンピースを着た結衣が。今はスマホを手に取っている。そんな結衣は周りにいる女性よりも美しく、可愛らしさも感じられて。3日ぶりに結衣を生で見られて嬉しい。


「結衣」


 歩きながら、いつもよりも大きな声で結衣を呼ぶ。

 すると、結衣はすぐにこちらを向き、嬉しそうな笑みを浮かべて左手を大きく振ってくる。


「悠真君!」


 俺の名前を言うと、結衣は持っていたスマホをトートバッグにしまい、こちらに向かって歩いてくる。

 お互いがかなり近づいたとき、俺は結衣よりも先に立ち止まる。そして、こちらにやってくる結衣のことを抱き寄せた。その瞬間、結衣の体がピクッと震える。


「ど、どうしたの? いきなり抱きしめて」

「……結衣と会うのが3日ぶりだからさ。結衣の姿を見たら嬉しくなって。それに、笑顔で手を振ってくるのが可愛いから抱きしめたくなったんだ」

「そうだったんだ。嬉しいな。抱きしめられるとは思わなかったからピクッてなっちゃった。2人きりとか、周りに人があまりいない場所ならともかく」


 ふふっ、と結衣の上品な笑い声が聞こえた後、背中から優しい温もりが伝わってくる。きっと、結衣が両手を俺の背中の方に回したのだろう。

 炎天下の中歩いてきたけど、服越しに伝わる結衣の温もりは本当に心地いい。あと、香水を付けているのだろうか。結衣から、フルーツのような甘酸っぱさと、石鹸の爽やかな香りがほのかに香ってくる。

 少しだけ体を離して、結衣と至近距離で見つめ合う。すると、結衣の方からキスしてきた。ちょっと長めのキスを。


「私も3日ぶりに悠真君に会えて嬉しいよ。まあ、昨日は何も予定が入ってないから、行こうと思えば行けたんだけどね。土日のバイトの疲れが残ってて。起きたのはお昼近くだったし、大半はベッドで横になって過ごしてた」

「接客のバイトは初めてだったもんね。家にいて、涼しい部屋の中にいたのは正解だったと思うよ。昨日も晴れて結構暑かったし。それに、疲れているときは、涼しい場所でゆっくりするのが一番だから」


 疲れが残っている中で外にいたら、熱中症にかかる確率は上がるし。

 結衣は顔をほんのりと赤くして、やんわりとした笑顔を見せる。


「そう言ってくれて嬉しい。今はもう疲れも取れたから安心してね。あと、毎日会えるのに越したことはないけど、今回のように少し期間を空けてから会ったときの感覚も……結構いいね」

「……そうだね」


 俺は深く首肯した。結衣と同じ考えなのは、結衣のことが大好きで、毎日かそれに準ずる頻度で結衣と会うことが当たり前になっているからだろう。

 3日会わないだけで、待ち合わせ場所に行くのがこんなに楽しくて、結衣の姿を見ると嬉しい気持ちになるなんて。本当に結衣のことが好きなのだと実感する。


「どうしたの? 悠真君、優しい笑顔になって」

「結衣のことが好きだなって思っただけさ」

「ふふっ、そっか。私も悠真君のことが大好きだよ!」

「ありがとな。……あと、そのワンピース、よく似合ってるよ。可愛いね」

「ありがとう。お礼に写真撮ってもいいよ」

「是非撮らせてくれ」


 スマートフォンを取り出して、桃色のワンピース姿の結衣の写真を何枚か撮った。スマホのアルバムを見ると、結衣の写真をたくさん撮ったり、LIMEで送ってくれたりしたなぁ。きっと、金曜と土曜の旅行で、アルバムに結衣達の楽しげな写真がたくさん追加されるのだろう。


「さてと、そろそろエオンに行くか」

「そうだね! まずは水着を買いに行こうよ」

「ああ、そうしよう」


 恋人繋ぎで結衣の左手を掴んで、結衣と一緒にエオンに向かって歩き始める。


「メッセージや電話では言ったけど、結衣と会うのはあの物販ブースのとき以来だから、改めて言わせてくれ。土日の物販バイト、お疲れ様」

「ありがとう。姫奈ちゃんとずっと一緒だったからね。周りの人が仕事を優しく教えてくれて。何よりも悠真君が土曜日に来てくれたから、2日間こなせました。それに、バイト代はたっぷりもらったし、悠真君の汗と塩タブレットで塩分補給できたし」


 結衣はニヤリと笑顔を見せる。おそらく、俺にキスしたときのことを思い出しているのだろう。

 不意打ちだったから、結衣にキスされたときは結構ドキッとしたな。あと、頬を舐めたのは塩分補給のためだったのか。結衣らしい。


「バイトをしていると、色々な人に接客して、変な客に絡まれることもある。結衣と伊集院さんはどうだった? 物販ブースに行ったとき、大半のお客さんは楽しそうだって言っていたけど」

「うーん……注文を受けたグッズが売り切れていたのが分かって、がっかりしていたお客さんは何人かいたかな。キレられることがなくて良かったって思ってる」

「そうだな」


 買いたいものが買えなかったらショックだよなぁ。並んでいる間ならともかく、注文してから売り切れだと分かったらより一層に。しかも、あの炎天下の中で並んだ後に。結衣が言うように、キレられることがなかったのは幸運だったと思う。


「あとは……何度か握手を求められたよ。2日間で10回はあったかな。姫奈ちゃんも2、3回くらい握手を求められていたのを覚えてる」

「ニジイロキラリと同じ事務所に所属するタレントだと思われたのかな」

「きっとそうだと思う。『テレビやネットで見たことはないですけど、可愛いので応援します!』みたいな言葉を何度か言われたから。『私は普通の高校生で、アルバイトをしているだけなんです』って言って、握手には一度も応じなかったよ。姫奈ちゃんも多分、握手していないと思う」

「そうだったんだ。あと、接客する前に、待機列の近くに立っている俺を見つけたでしょ」

「うん」

「やっぱり。あの直後、近くにいた男の人達が、結衣と伊集院さんが可愛いってことと、ニジイロキラリの事務所のタレントかスタッフじゃないかって話していたよ。結衣については、ニジイロキラリのメンバーと同じくらい可愛いって」

「へえ、そうだったんだね。口に出さないだけで、私達が事務所の関係者だと思ったお客さんは結構いたのかもね」


 微笑みながら、平然とした口調で言う結衣。

 握手を求められたり、タレントと間違えられたりした話を聞いたから、今まで以上に結衣が魅力的に見えて。手を繋いで一緒に歩くことには慣れたけど、この状況にちょっとドキドキするのであった。

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