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第1話『旅行計画』

 予定通り、校門で中野先輩と落ち合い、俺達は武蔵金井駅の方に向かって歩き始める。

 今も梅雨らしく雨がシトシトと降っている。空気がジメジメしているからまとわりつくような暑さだ。そのせいか、少し歩くだけで汗が出始める。

 駅の方へ歩きながら、これからどこのお店で昼食を食べようか話し合う。駅周辺には飲食店が多いので、みんな迷っている。俺も美味しいお店をいくつも知っているので、どこがいいか迷う。

 そんな中、俺の姉の芹花(せりか)姉さんが、今日は昼頃にファミリーレストラン・ドニーズでバイトのシフトが入っているのを思い出した。それを話すと、結衣達は「ドニーズいいね」と意見がまとまっていく。ドニーズなら様々なジャンルの料理を食べられるし、ウェイトレス姿の姉さんにも会えるからかな。俺が話してからすぐに、ドニーズで昼食を食べることに決まった。

 話しながら歩いていたので、行き先が決まったときには武蔵金井駅の北口が見えていた。

 今日は終業式で早く終わる学校が多いのだろうか。金井高校だけでなく、他の複数の高校の制服姿の人が多く見られる。天候は悪いけど、彼らの表情は明るく感じられて。きっと、夏休みが始まるのが嬉しいのだろう。

 武蔵金井駅の構内を通り、南口を出たところにあるドニーズへ。

 ドニーズの中に入ると、エアコンがよく効いていてとても涼しい。結衣達も「涼しい~」と声を漏らし、快適そうな表情を浮かべていた。


「いらっしゃいませ……あっ、ユウちゃん! それに結衣ちゃん達も!」


 ウェイトレス姿の芹花姉さんがやってくる。客が俺達だと分かって、姉さんはかなりご機嫌な様子。弟から見ても、姉さんの笑顔はとても可愛い。

 結衣達は芹花姉さんに向かって「こんにちは~」と挨拶する。


「みんなこんにちは。確か、今日が終業式だったっけ?」

「そうだよ。明日から夏休みだ」

「そっか。みんな1学期お疲れ様! ユウちゃんは成績どうだった?」

「結衣達のおかげでいい成績が取れたよ。クラス2位で、学年では8位だった」

「そうなんだ! よく頑張ったね! お姉ちゃんはそんなにいい順位を取れなかったよ!」


 我が事のように喜んでくれる芹花姉さん。褒めてくれるのは嬉しいけど、結衣達がいる前なのでちょっと恥ずかしい。結衣達をチラッと見ると、みんな俺の方を見て笑顔を向けている。中野先輩に至ってはニヤニヤしている。

 あと、芹花姉さんの高校時代の順位は知らないけど、両親が褒めるほどの好成績だったのは覚えている。分からないところを俺が質問すると、大抵のことはすぐに分かりやすく教えてくれた。姉さんもかなりの高順位だったんじゃないだろうか。


「頑張ったお礼に、ほっぺにキスしてあげようか?」

「……気持ちだけ受け取っておくよ。みんなの前だし。それ以前に姉さんはバイト中じゃないか」

「……そうだった。ユウちゃん達が来てくれたことと、ユウちゃんの成績が良かったのが嬉しすぎて、バイト中なのを忘れちゃった」


 苦笑いしながら可愛らしく舌を出す芹花姉さん。

 そういえば、先日、母親の代わりに三者面談に出席し、期末試験の成績がいいと福王寺先生から話されたときも、姉さんは俺の頬にキスしようとしていたな。あの日にも思ったけど、姉さんのブラコン度合いが昔のようになってきている。頬にキスされるのは時間の問題かもしれない。

 俺の頬にキスすることなく、芹花姉さんは俺達をテーブル席へ案内する。その際に店内を見ると……うちの高校の生徒のグループが数組ほどいるな。他にも中高生と思われるグループが何組も。

 テーブル席に案内され、俺は結衣と隣同士でソファーに座る。向かい合いのソファーには胡桃、伊集院さん、中野先輩の3人。そのため、俺のやや斜向かいに胡桃と伊集院さんがいる形に。

 数分ほどメニュー表を見た後、芹花姉さんに各々の食べたいメニューを注文した。ちなみに、俺が頼んだのは明太子スパゲティ。まだ11時半過ぎだけど、お腹が空いてきたので楽しみだ。


「そういえば、悠真は成績が良かったけど、高嶺ちゃん達は成績どうだった? 試験勉強の様子からして、みんな赤点は回避できていそうだけど」

「私はクラスと学年共に1位でした」

「みんなと勉強したので、あたしもいい成績でした。体育は苦手なので平均くらいでしたけど。赤点はありません」

「あたしも良かったのです。苦手な英語も平均の成績を取れたのです。赤点がなくて一安心なのです」

「そっか。みんないい成績を取れて何よりだ。教科によっては、赤点の課題や補習がキツいらしいからね。あたしも赤点回避できたから、今年も夏休みを謳歌できるよ」


 嬉しそうに語る中野先輩。

 あと、教科によっては赤点の課題や補習がキツいのか。その話を聞いたからか、苦手教科のある胡桃と伊集院さんはほっとしている様子だった。


「謳歌するっていっても、今のところは7月中のバイトのシフトと、来週に友達と琴宿の方へ遊びに行くことくらいしか予定が入っていないけどね。悠真達は夏休み中ってどう過ごすとか決めているの?」

「俺も今のところは決まっているのは、7月中のバイトのシフトくらいですね。ただ、結衣と一緒に過ごしたり、漫画やアニメを楽しんだり、あとは……あっちの活動もしたいですね」


 あっちの活動というのは、もちろん低変人としての音楽活動だ。このテーブルにいる4人はみんな俺が低変人だと知っているので、今の話し方でも分かってくれたと思う。

 楽しい夏休みを過ごすためにも、出された課題はさっさと片付けたいな。


「あたしも2人と同じで、具体的な予定はよつば書店でのバイトくらいです。受験生だった去年とは違って自由な時間は多いので、漫画やアニメを楽しみたいですね。あとはみんなで遊んだり、どこかへ行けたりしたらいいな」

「遊びたいね、胡桃ちゃん。私は……悠真君とたくさん思い出作りをしたいです」


 うっとりとした様子でそう話すと、結衣は俺に寄り掛かってきた。大好きな結衣と初めて迎える夏休みだ。結衣と一緒の時間をたくさん過ごして、たくさん思い出を作りたいな。


「ふふっ、結衣らしいのです。あたしも趣味とか、みんなで遊んだりして楽しい時間を過ごしたいのです。夏休み中はスイーツ部の活動がないので、お菓子作りもしたいのです。あとは、単発や短期のバイトも。実は掃除している低田君を待っている間に、結衣と一緒に先日応募したコンサートの物販スタッフの採用のメールが来たのですよ」

「来たね、姫奈ちゃん。悠真君に言うの忘れてた」


 と、結衣は苦笑い。

 実は期末試験が終わってから、結衣と伊集院さんは夏休み中にできる単発バイトや短期バイトを探していたのだ。趣味やデートのための資金を貯めたり、バイト経験を積んだりしたいのだという。そんな中で見つけたのが、来週末に開催される女性アイドルグループのコンサートの物販バイトだった。


「結衣と伊集院さん、あのバイトが決まったんだ。頑張ってね」

「悠真が前に話していたね。2人とも頑張って」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます。結衣と一緒に頑張るのです」


 物販バイトだから、きっと接客の仕事がメインになるだろう。2人とも落ち着いていて機転が利くのでやれそうかな。1人じゃなくて、2人一緒なのは心強いんじゃないだろうか。

 コンサートは2日間行われる。1日目の方は俺は何も予定が入っていないので、2人の様子を見に物販会場に行くつもりでいる。


「あとは……夏休みですから、ここにいるみんなと一緒に海やプールに遊びに行きたいです。泊まりの形で行けたら最高なのですが」

「旅行か。もし、どこかへ旅行に行けたら、凄くいい思い出が作れそうだ」

「素敵なアイデアだね、結衣ちゃん!」

「お姉ちゃんも行きたーい!」


 気づけば、俺達のテーブルの側に芹花姉さんが立っており、右手をピシッと挙げていた。


「どうしたんだよ、芹花姉さん」

「旅行っていう素敵なワードが聞こえたから。去年はあたしもユウちゃんも受験生だったから旅行に行かなくて。だから、2年ぶりに行きたいなぁって」


 そういうことか。低田家は夏休みになると家族で旅行に行く年が多かった。だけど、去年は芹花姉さんも俺も受験生だったから旅行はなしになったんだよな。


「一緒に行きましょう、お姉様!」

「芹花さんも一緒だとより楽しくなりそうです」

「ありがとう、結衣ちゃん、胡桃ちゃん! ……でも、これから今月末まで大学の期末試験があるから、8月に入ってからだけど」


 大学はこれから期末試験なのか。7月中はずっと大学があるのは大変そうだ。しかも、一番暑い時期に期末試験だなんて。でも、8月頭から9月の終わり頃まで夏休みだから頑張れるのかな。


「ただ、8月に行くとしても、今から泊まるところは確保できるかなぁ。この6人で行くとなると、2部屋は必要になると思うし。特に海から近いところだと、結構厳しそうな気がするな」


 中野先輩は冷静な口調でそう言う。

 先輩が2部屋は必要だと言ったのは、男の俺がいるからだろう。あと、海で遊ぶのを考えたら、海から近いところで泊まれることに越したことはない。明日から7月も下旬になるこの時期から確保できるかどうか。


「ねえ、姫奈ちゃん。3年前に行った姫奈ちゃんの親戚の方が経営している旅館ってどう? あの旅館も海の側で素敵なところだから、予約が埋まっているかもしれないけど」

「なるほど。8月の平日のどこかなら空いているかもしれないのです。親戚のおばさんに電話して確認してくるのですよ」


 そう言うと、伊集院さんはスマホを持ってテーブルを後にした。


「電話の結果は俺達がメッセージとかで伝えるから、姉さんは仕事に戻って」

「はーい」


 と言って、芹花姉さんは俺達のテーブルから離れていった。


「ところで、結衣。さっきの話からして、例の旅館に伊集院さんと一緒に泊まったことがあるのかな」

「うん。中1の夏休みに家族ぐるみで。潮風見(しおかざみ)っていう旅館。静岡県の西伊豆の方にあるの。とてもいい旅館だったよ。お部屋も、お料理も、温泉も良かった」

「そうなんだ」


 それで、結衣は伊集院さんにその潮風見という旅館について訊き、伊集院さんは空き状況を確かめに電話してくれたのか。8月中のどこかで、2部屋空きがある日があればいいな。

 数分ほどして伊集院さんが戻ってきた。伊集院さんの表情は明るい。


「8月2日の金曜日に2部屋空きがあったのです。2人までの和室と、6人までの大部屋の和室です。なので、最大8人まで泊まれるとのことです。一応、その2部屋を確保してもらったのですよ」


 おぉ、2部屋空いている日があったか。しかも、8月2日という近い日に。これはかなり運がいいんじゃないだろうか。

 この朗報に結衣や胡桃はもちろんのこと、中野先輩も嬉しそうな表情を見せる。


「そうなんだ! ありがとう、姫奈ちゃん!」

「みんなと一緒に旅行行けるんだ! 8月のバイトのシフトはまだ決めてないから、調整できると思う!」

「空いている日があったとは。しかも2日なんて。運が良かった。8月のシフトなら、あたし達の方も調整できると思うよ、悠真」

「そうですか。良かったです」


 今年の夏休みに結衣達と海水浴と旅行に行けるんだ。2週間後の話だけど、今からワクワクとした気分になる。


「泊まる人数については、また後であたしから連絡するのです。あたし達5人と芹花さんは確定ですから、あと2人まで一緒に泊まれるのです」

「……行くのが確定な面子からして、1人は決まっているよね。七夕祭りにも一緒に行ったし」

「福王寺先生だね、結衣」


 俺がそう言うと、結衣は俺の目を見てしっかりと首肯した。

 俺達が旅行に行くと知ったら、福王寺先生はとても行きたがるだろう。6人までしか泊まれないならともかく、8人までOKだし。

 結衣は七夕祭りへ一緒に行ったメンバーのグループトークに、


『杏樹先生。8月2日と3日に、静岡の伊豆へ一緒に旅行へ行きませんか? 旅館近くのビーチで海水浴もする予定です。先生以外のグループメンバーは行くのが確定です』


 というメッセージを送った。さて、福王寺先生はどんな返信をくれるかな?

 結衣がメッセージを送ってから1分も経たないうちに、


『行く! レンタカー借りて、みんなを伊豆に連れて行ってあげるよ! あと、その日程なら、8/2だけ有休を申請すれば大丈夫ね。今ならきっと通ると思う』


 福王寺先生がそんなメッセージを送ってくれた。教員らしくとても頼もしい内容だ。交通手段を確保できるのは大きい。これで先生はほぼ確定だろう。

 泊まる人数を伝える猶予はあるとのこと。なので、残りの1人の枠についてはまた後で考えることにした。

 それから程なくして、芹花姉さんによって俺達の注文した料理が運ばれる。そのときに、旅館に泊まれることになったのを伝えると、姉さんはとても喜んでいた。

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