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第8話『プレゼント』

「あの、みなさん。そろそろ、姉さんに誕生日プレゼントを渡すのはどうでしょうか?」


 みんながチョコレートタルトを結構食べたところで、遥さんがそんな提案をしてきた。初対面の遥さんと話したり、結衣の手作りタルトを楽しんだりしていたので、正直、プレゼントを渡すことを忘れかけていた。

 プレゼントを受け取る福王寺先生はもちろんのこと、俺達も全員賛成したのでプレゼントタイムに突入する。


「じゃあ、さっきの自己紹介と同じ順番にしようか。その前に結衣ちゃん。美味しいチョコレートタルトをありがとう。冷蔵庫の中にあるタルトは、あとでゆっくりいただくわ」

「はいっ! 喜んでもらえて嬉しいです」


 柔和な笑顔になる結衣。

 自己紹介順ということは、遥さんの次にプレゼントを渡すのか。福王寺先生が喜んでくれるかどうか緊張してきたぞ。遥さんがどんなプレゼントを用意しているのか分からないし。


「自己紹介した順番ということは私が最初ですか。それでもよろしいですか? 悠真さん」

「はい。かまいません」

「では、私からプレゼントを渡しましょう」


 遥さんはクッションから立ち上がり、ベッドに置いてある黒いリュックを手に取る。どんなプレゼントを用意したんだろうな。リュックのサイズからして、俺が用意した大きな猫のぬいぐるみではなさそうだ。

 遥さんはリュックから、小さな白い紙袋を取り出す。


「姉さん。お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。見てもいい?」

「もちろんです。喜んでくれると嬉しいです」


 紙袋を受け取った福王寺先生は、中から長方形の黒い箱を取り出す。箱の雰囲気からして、中には高そうな代物が入っていそうな気がする。

 蓋を開けると、そこには銀色のリング付きネックレスが入っていた。その瞬間、遥さん以外の女性陣から「綺麗」とか「素敵」などといった感嘆の声が。


「仕事でもプライベートでも良さそうなネックレスにしました。バイト代を少しずつ貯めて、先日購入しました」

「そうなのね! 嬉しいわ。小さなリングがシンプルでいいわね。これなら確かにどんな場でも良さそう。ちょっと付けてみよう」

「是非、付けてみてください!」


 プレゼントした遥さんは興奮気味。

 福王寺先生は遥さんからプレゼントされたネックレスを付ける。その瞬間、今度は福王寺先生以外の女性陣から「おおっ」という声が。


「綺麗です、姉さん!」

「杏樹先生、似合っていますよ!」

「素敵だよね、結衣ちゃん」

「スーツ姿でも似合いそうなのです」

「綺麗ですよ、杏樹先生」

「似合ってますね、福王寺先生」

「ありがとう。嬉しいわ」


 ネックレスを身につけたことで、普段よりも優雅さが増したというか。スーツ姿でクールモードの顔つきになったら、よりクールビューティーさが際立つんじゃないだろうか。

 結衣はスマホで福王寺先生の写真を撮り、その写真を先生に見せる。


「こういう感じになるのね! いいわね。遥、ありがとう」

「いえいえ」


 と言いながらも、お礼を言われて福王寺先生に頭を撫でられているからか、遥さんはとっても嬉しそうな表情を見せている。小さい頃から、誕生日プレゼントを渡すとこんな感じだったのかもしれない。

 さて、遥さんがとてもいいプレゼントを渡したから凄く緊張してきたぞ。


「じゃあ、次は低田君ね。とても大きな紙袋を持ってきたけど」

「はい。俺だけじゃなくて、芹花姉さんからのプレゼントも持ってきました」

「えっ、芹花ちゃんからも!」


 予想外だったのか、福王寺先生はちょっと驚いた様子。

 俺は持参した紙袋を持って、福王寺先生のすぐ近くまで移動する。


「えっと、まずは俺からのプレゼントです。先日、福王寺先生が猫好きだと知ったので、エオンのゲームコーナーにあるクレーンゲームで、大きな猫のぬいぐるみを取ってきました。寝そべっている形から、抱き枕としても使えるみたいです」


 紙袋から黒白の猫のぬいぐるみを取り出し、福王寺先生に手渡すと、先生は「おおっ!」と甲高い声を上げた。


「嬉しい! 私、クレーンゲームは小さい頃からずっと苦手で。前にエオンに行ったとき、柄は違うけど、このシリーズのぬいぐるみが取れるクレーンゲームを見たの。可愛いなって思っていたから凄く嬉しい!」


 そう言うと、福王寺先生は俺がプレゼントしたぬいぐるみを嬉しそうにギュッと抱きしめる。その姿は26歳ではなく6歳くらいに見える。

 あと、福王寺先生ってクレーンゲームが苦手なのか。結構得意そうなイメージがあったので意外だ。何にせよ、こんなにも喜んでくれて嬉しい。


「あぁ、抱き心地いいなぁ。さっそく今日から一緒に寝るよ」

「そうしてくれると嬉しいです。あと、芹花姉さんからは、『鬼刈剣』の炭次郎君のミニフィギュアです。俺と同じくクレーンゲームで取ったそうです」

「おおっ! 炭次郎きゅん!」


 紙袋からミニフィギュアの箱を取り出すと、福王寺先生はさっきよりも大きな声を上げる。目を輝かせて箱をじっと見ているぞ。『鬼刈剣』が大好きだから、こういう反応にもなるか。あと、炭次郎「きゅん」って言ったぞ。


「それ……最近リリースされたクレーンゲーム限定デザインよ!」


 興奮した様子でそう言う福王寺先生。どうやら、限定品に弱いようだ。

 福王寺先生にフィギュアの箱を渡すと、さっきと同様に嬉しそうにして箱をぎゅっと抱きしめる。


「さっきも言ったけど、クレーンゲームは苦手だからね。オークションで買おうかなぁって考えていたの!」

「そうだったんですか。購入される前で良かったです」

「ええ! あとで、芹花さんにお礼の連絡しておこう! 一応、低田君からも言っておいて!」

「分かりました」


 今の反応を芹花姉さんに伝えたら、きっと姉さんはとても喜ぶだろうな。

 結衣の隣に戻ると、結衣は俺にしか聞こえないような声で「喜んでくれて良かったね」と言ってくれる。そんな結衣の目を見ながら、俺はしっかり首肯した。


「次はあたしなのですね。あたしもスイーツ作りが好きですから、先生に抹茶マカロンを作ってきたのです」


 伊集院さんはそう言うと、数個のマカロンの入った透明なラッピング袋を先生に手渡す。抹茶マカロンらしく、マカロンの色が濃い緑色。


「可愛くできているね。さっそく一つ食べてみていい?」

「もちろんなのです!」


 福王寺先生は黄緑色のリボンを丁寧に解き、ラッピング袋を開ける。それから程なくして抹茶の匂いが香ってくる。

 先生は袋から抹茶マカロンを一つ取り、口の中に入れた。


「……うん! 美味しい! 甘味と抹茶の渋みのバランスがいいよ。抹茶は大好きだから嬉しいわ」

「姉さん、昔から期間限定の抹茶味のスイーツやお菓子が出ると、一度は必ず買いますもんね」

「そうだったのですか。先生好みのスイーツをプレゼントできて良かったのです」

「ありがとう、姫奈ちゃん。これもあとでゆっくりいただくわ」


 伊集院さん、とても嬉しそうだ。手作りしたものを美味しいと言ってもらえると嬉しい気持ちになるよな。

 あと、福王寺先生は抹茶好きなのか。これは覚えておこう。

 自己紹介順だけど、結衣のプレゼントはチョコレートタルトなので、次は胡桃か。


「次はあたしですね。あたしはBL小説をプレゼントします。既に読んだことがあるかもしれませんが。結構面白いですし、先生の好みにも合うかなと思いまして。ただ、少し昔の作品でお店に在庫なかったので、取り寄せました」


 胡桃は本の入っているよつば書店の袋を福王寺先生に渡す。先生の好みに合いそうな作品を取り寄せたというのが胡桃らしいと思う。

 3年以上前から胡桃とはネット上でたくさん話してきたけど、俺がBL作品を読まないからか、BLについて語り合ったことは全然ないな。

 袋からプレゼントされた本を取り出すと、福王寺先生は「あぁ」と声を漏らす。


「この本の作家さんは一作だけ読んだことある。教師同士の恋愛小説。それが有名だけど、BL小説も書いていたんだ」

「ブレイクしたのが去年発売されたその小説ですからね。男女の恋愛ものが得意なイメージを持たれる作家さんですよね。ちなみに、この作品は2年前の作品です」

「そうなのね。教師の恋愛小説も面白かったし、期待して読んでみるわ」

「はい。読み終わったら感想聞かせてくださいね」


 もし、福王寺先生が面白いと思ったら、相当熱い語らいになりそうだ。


「トリはあたしですね。あたしはムーンバックスのブレンドのドリップコーヒーです。先生は来店するとコーヒーを注文する率が高いので」

「ムーンバックスのコーヒーが好きだからね。それを家で飲めるのは嬉しいわ」


 福王寺先生は中野先輩からドリップコーヒーセットの箱を受け取る。家でもムーンバックスのコーヒーを楽しんでくれると嬉しいな。バイトをしている身としては、このドリップコーヒーを飲んだことで、これまで以上に来店してくれるようになるとより嬉しい。


「みんな素敵なプレゼントをありがとう。こんなにもらえて幸せだわ。あと、今日は仕事があって来られなかった弟の雄大が、えっちな要素が多いBL漫画の薄い本を通販で数冊買ってくれたの! 先日、雄大から『当日は仕事で来られないけど、何かほしいものはあるか』って訊かれたから、これがいいって注文したんだけどね!」


 心なしか、今が一番嬉しそうに見えるんだけど。

 福王寺先生は弟さんがプレゼントしてくれた薄い本の表紙を見せてくれる。BLと言っていただけあって、全ての本に男性のイラストが描かれている。中には上半身裸の男性が描かれているのもあって。えっちな要素が多いそうだけど、成人向けの表記はないので、俺達高校生が読んでも大丈夫な代物のようだ。


「朝届いたから午前中に堪能したの! いい本達だった……」

「私も読ませてもらいましたが、どの作品も良かったですよね」

「良かったよね!」


 うんうん、と姉妹で頷き合っている。BLに関して本当に気が合うな、この姉妹は。あと、福王寺先生がリクエストしたものだけど、今のことを弟さんが知ったらとても喜ぶんじゃないかと思う。

 結衣達女子高生4人が、弟さんのプレゼントした漫画に興味を示したので、それから少しの間、BL漫画鑑賞会に。俺はチョコレートタルトを食べたり、アイスティーを飲んだりしながらその様子を眺めるのであった。

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