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1章 禿げる前に頭くらい冷やしたい。

 玄関に体当たりし戸をぶち抜いて中に入る。

多少焼けてもろくなっていた様だ。すんなりと壊れてくれた。

「さて…」

 改めて見るとかなりやばい。

一面の炎とむせかえるほどの熱気が喉を焼くようだ。

「おーい!誰かいるかー?」

 出来る限りの大声で叫んでみたが返事は聞こえない。

数歩歩く。床は多少ギシギシと軋むが問題は無さそうだ。

口元にハンカチで押さえ先へ進む。


暫く進むと様子がおかしいことに気が付いた。

外観からはこじんまりとした平屋でそう広くはない印象だった。

なのに、この廊下には後にも先にも戸が一つもついていない。

それどころか炎で先が見えないにしても廊下が長すぎるんじゃないか…?

振り返ろうかと歩みを止めようとした瞬間、

「…」

 前方から声が聞こえた。

誰かがいる。例の子か?

「そこにいるのか!?」

 声を掛けるとまたかすかに声が聞こえた。

聞き間違いじゃない。

俺は駆け出した。


 突如壁から噴出する炎が行く手を遮る。

怯まず突き抜けたが、一瞬とはいえめちゃくちゃ熱い。

乾燥した肌がひりひりする。


 再び炎が噴出する。

尚早く、殆ど飛び込むような形で駆け抜ける。

それでも肌がジリジリと焼けた気がする。

水の効果も無くなってきたか。

まだ先は見えない...余裕もない。


 3度目の噴出。

それはまるで壁のような炎だった。

全く先が見えない。

行けるのか?

この先へ?

中の子はもう...


「助け...」


声がする。

俺のじゃない。

誰かが助けを求める声だ。

()()()()()()()()()


「おおおおおお!」


声を上げ豪炎へと突き進む。

口内が急速に乾燥していく。

目が開けられない。

完全に炎の中にいるのだから当然か。

髪が、皮膚が焼けてる気がする。

それでも進まなくては。駆け抜けなくては。

理由は俺にも分からない。

それでも、今はただ進むことしか考えられなかった。


 数秒とも数分とも思える炎の中の短距離走は

突然終わった。身体にまとわりついた炎がすっと引いた気がした。

「よし抜け...っうぇ!?」

 直後、妙な浮遊感に襲われる。

バランスを崩した俺は上手く止まることも出来ず

前転するように派手に転がった

「うぉぁぁ?!」

素っ頓狂な悲鳴と共に転がる俺は、勢いに乗ってどこかの扉をぶち抜いた。



 木片が舞い咳がでる。

「ケホッ...クソっ...背中が痛い...折れてないよな?」

 よろよろと立ち上がった俺は自分の目を疑った。

「...は?」

 先程の家屋とは全く違うと分かる小屋にいたのだ。

共通点としてはその小屋も絶賛炎上中というとこだけだろう。

そして驚く点がもう1つ。

黒いローブのような物をまとった変な奴が女の子を連れ去ろうとしていた。


 思考停止していると黒ローブが話しかけてきた。

「...なんだお前は。どこから来た?」

 中身はおっさんか。いやそれは置いといて。

俺は後ろを振り返った。

突っ込んできたはずの扉が無くなっている...?

また思考停止しているとおっさんがやれやれと首を振り呆れたような声で

「なるほど?こいつを助けに来たわけか。いやはや、あの中を生身でか...。」

 そういうと女の子の手を強く引っ張り前に出した。

「助けたいか?」

 おっさんが問いかけてくる。

言いたい事聞きたい事は山ほどあったはずだが

その問いかけに対してはなぜか即答できた。

「そのために来た。」

 女の子に視線を移す。かなり怯えてる様子だ。

俺の方を見て手を伸ばしてくる。

「ふ、ふふ、ふはははは!何もわからぬこの状況で!よくもそのような世迷言を吹けるものだ!」

 おっさんは膝を叩き大笑いした。

まぁ俺が逆の立場でも同じように笑っただろうな。

「くくっ...良いだろう。試練の褒美だ。受け取れ。」

 何事もないように手を離すと女の子は俺の方に駆け寄り抱きついてきた。

声は上げないがボロボロと泣いている。

頭をそっと撫でるとくしゃくしゃの顔を上げ、

頬笑もうとしたのか余計くしゃくしゃになった。

「頑張ったな...強い子だ。さぁ帰...?」


 やっと現状に脳が追いついてきた。

帰る?方法は?ていうかなんで燃えてるのに熱くない?息苦しくない?

挙動不審になり辺りを見回してみるが

現代の家というより、ゲームでみた村人の家のような...。

「やっと気づいたか。さぁどうやってそれを救う?足掻き所だぞ如月英雄。」

 おっさんが愉快そうに俺の名前を呼ぶ。

...ん?自己紹介なんてしてないはずだが。

いやそれよりも今は脱出方か。

「あんたなら知ってるのか?」

「あぁ。知っているとも。教えてもいい。が、そろそろ時間だな。」

 おっさんがにこやかにそう告げるとその姿が薄く、

まるで煙のように揺らぎ始めた。

「まっ...!」

「救うと言ったのだ。やってみせろ。そしていつかもう一度我の前にこい。」

 ローブに手を伸ばすが空を切る。

「我が名は『アスタリスク』。この名、忘れてくれるなよ?」

 そう言い残し、おっさんは消えた。



 しばしの静寂。

正直全然理解出来ない。

今までの状況を理解しようと脳が必死になっているのがわかる。

同時に室内の温度が急激に上がっていくのも分かった。

やばい。直感なんてなくてもこの場にいたら間違いなく死ぬとわかるレベル。

出口はどこだ?焦る俺の手を不意に引っぱり女の子が壁を指さす。

なるほど、見慣れないせいで扉だと分からなかったようだ。

 扉を開き女の子に連れられ小屋を走る。

出口はすぐそこだった。

 俺たちは最後の扉を蹴破り外に出た。

やっと一息付ける...整理よりも何よりも休みたい...。

そう思った俺の目の前には


 新しい地獄が拡がっていた。

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