「君のことを思いだす」
今でも君の顔は思い出せる。
十数時間しか生きなかった君は、
子に先立たれる親の悲しみとか、
他の子では決して出来ないことを、
そのたった数時間で僕に教えてくれた。
パパは毎年この週になると、
君の死を無駄にはしない、
って決意するんだけど、
結局なにもしてないんだよな。
ごめんね。
そうだ。
パパはね、
最近物語を書くことが趣味なんだ。
だからね、君との再会を書こう。
いいかい?
想像してみるよ。
君は......きっと、こう言うだろうね。
......。
「パパ、なんで小説投稿サイトで文章を書いてるの?」
いい質問だね。それは来年教えよう。
「ぼく、小説投稿サイトで物語デビューするとは思ってなかったな。せめて、誰に送るでもない手書きの手紙とかよかったよ」
そういうもんなんだ、人生は。
誰の身にいつ何が起きるかわからない、
君が教えてくれたことさ。
「それ、ぜんぜんうまくないよ。もう少しひねりとか言葉えらびを大事にしたほうが良いと思うよ、ぼくは」
そうだったな。じゃあまた来年会おう。
「はやいよ、パパ。それに今週末、来るんでしょ?」
ああ、そうだったな。
「ねぇ、パパ。あの日も暑かった?」
忘れられない暑さだよ。
「......そう」
そうだ。パパ、君に謝らないといけないんだった。
「......そう?」
君が十数時間しか生きられないあの日、うっかりうたた寝しちゃったんだよ病室で。ICUにずっといてやれなくてごめんね」
「ほんとにひどいやつじゃん。生死の瀬戸際だったんだから3日連続の徹夜くらいできたんじゃない?」
そうだったね、ごめんよ。でもさ、ああいう状態でも人は腹は減るし、眠くなる。それも君が教えてくれたことだよ。
「ふーん。ぼくのおかげで良いこと知れたね」
......。
「ねぇ。ぼくにつけられているキカイの電源をオフにしていいって言ったのパパだろう?つらかった?」
忘れたな。先生はそういう判断はできないから仕方ないんだ。パパかママが決めなきゃいけなかったんだ。だからパパが決めた。イヤだったかい?
「ううん。いいんだ。その時にはもうぼくは死んでいたわけだし」
......。
「......」
......。
「......」
......涙。
「......なみだ」
涙涙涙。
「なみだなみだなみだなみだ」
涙涙涙。
「......ぼくのこと、思いだすのってつらくない?」
大丈夫。思いだしたいんだ。それにこの季節だからって思いだすわけじゃない。早朝の東名高速、誰もいない静かな駐車場、世界は君で溢れてるよ。
「こうして話せるのっていいもんだね」
そうだろ?
それがパパが文章を書く理由さ。
「パパ、その返しは悪くないと思うよ。むしろすごくいいんじゃないかな」
ありがとう。
「じゃあ、ぼくは行くよ」
ああ、またね。