怖い話してもいい?
「……なぁ戸田、怖い話してもいい?」
友達と遊んでいる最中、あまりに暑くてちょっと涼もうとコーヒーショップのチェーン店に入って一息ついた時、友達ことマサル君がちょっとこわばった顔で言い出した。
「おお?夏っぽい感じ?いいね。でも幽霊が突然バーン!とかの、あんまりガチな奴は夜トイレ行けなくなるからやめてね」
マサル君と俺、戸田ユウキは大学に入ってから友達になった。
マサル君は結構真面目なタイプの、なんていうか正統派なイケメンで、純粋そうな女の子達からよく声をかけられている。羨ましい。
出身が東京らしく、派手じゃないのになんとなく垢抜けた印象があって、この地方の大学ではちょっとした人気者だ。本人は気づいていない様子だが。
で、普段を考えると自分から怖い話しをフってくる感じじゃないから、俺としては変にテンションがあがった。
「昔さ、付き合ってた彼女とTV見てたらさ……」
マサル君が言うにはこうだ。
特番の、リバイバル感あふれる洞窟探検モノをTVで見ていた。
『こんな所に穴が!!』
『行ってみましょう』
『今!!人が立ち入った事のない、未開の地へ、隊長が入っていきます!!』
「こんなの、おかしいわ……」
一緒に見ていた当時の彼女が言った。
「え?何が?」
「だって、まだ誰も入った事のない穴なんでしょう?
だったら、さっきの隊長が入っていくシーンを、下から撮っているのは誰なの?怖いじゃない……」
よくあるTVの手法だ。怖いも何もないと思うのだが。
「まあ、カメラマンの人が先に入って撮ってるんだろうね」
「そうよ、そこなのよ。
先に入っている人間がいるのに、何故わざわざ『人が立ち入った事のない』とか『隊長が人類としてはじめての一歩を』とか、嘘をつくの?TVが嘘ついていいの?いい大人が番組作ってるんでしょ?
こんなに堂々と嘘をつくなんて怖いわ!」
「……って真面目に元カノが言い出してさ」
「ワァ。確かに怖いな……」
その、元カノが。
そこそんなに掘り下げる?
いや確かに過剰演出と言うか、嘘っちゃあ嘘って部分あるけど、あの手の番組はその辺込みで楽しんでもいい気がするんだけど。
「まあ、その後色々あって別れたんだけどその元カノ、ストーカーになっちゃってさ」
「ワァ……。怖い」
そういや昔ストーカーされたどうのこうのって話しを聞いた事あったな。マサル君イケメンだしストーカーされるのもなんとなく納得して、怖いねー大丈夫だった?って話した記憶がある。
さっきのエピソードひとつでも、その元カノがヤバい感じなのは伝わってきた。
「ちょっと予想外の怖い話だったわ。でも涼しくなったな……」
「待って待って、まだ続きあるんだよ」
「う、うん」
その後、別れてない、別れるなんて認めない、と周囲を巻き込んでの騒動になり、
電話は何度替えてもかかってくるし、メールもいくら拒否しても送られてくる。
自宅に帰ればテーブルの上に手紙と食事が置いてあり、『死んでも別れない』の文字が。
「……ワァ……」
「俺と喋ったってだけの別な女の子突き飛ばして怪我させたり、俺の家族や友達にまで無言電話かけたり、結局他にも色々あって警察から接近禁止命令出して貰ってさ」
他にも色々、の内容が気になるけど怖すぎて聞けない。
ストーカー規制法だっけ?ガチ過ぎる。なんてマサル君に声かければいいのかわからない。
「でさ、そういうのもあって大学はこっちにしたんだよ」
俺達の通っている大学は試される大地、北海道にある。
そんな理由があるなら、わざわざこっちに来たのもわかるな。
「なるほどなー。マサル君大変だったんだね。さっきから背中ゾワゾワしてるもん。そのストーカーヤバ過ぎる」
「でな」
何。まだ何かあるの。
「そのストーカーが、レジにいる」
「はっ!?」
「いるんだよ、この店に」
マサル君はレジから背を向けて座っている為、レジ側からはマサル君が見えていない……、とは思う。
「え、は?どれ?ヤバくね?」
「レジうってる店員」
「はあっ!?」
恐る恐るレジを見ると、綺麗な女性店員さんがレジ対応していた。
あれが元カノか……。めっちゃ可愛いけど、こんな話し聞いたあとだと恐怖しか抱かないな。
なんで東京にいるはずのストーカー元カノが、遠く離れた北海道のコーヒーショップで働いているのか。
わざわざマサル君の行動範囲内、と言うか生活圏で。
「~~~~~っ」
さっきから鳥肌が止まらない。
無理。これは無理だわ。
「マ、マサル君、鳥肌、超鳥肌立った」
「俺もさっき気づいた瞬間心臓止まるかと思った……」
「あっち、気づいてる?」
「わかんないけど、俺ら入店したのって15時前だったんだよ。
で、レジには絶対いなかった。
もしかしたら、あっちのシフト15時からだったって可能性は?ってさっきから考えてる。そうであってくれ頼む」
マサル君がめっちゃ早口になって、顔色まで悪くなってきている。
「と、とりあえず、なんとかここ出よう」
「出たい。逃げたい。怖い」
「……今日は俺んちに泊まりにきな。そんで警察に行こう。
どう考えてもヤバい」
「うんっ、うん……!」
その後小声で作戦を練った。
会計は俺がする、そんでレジの内側に小銭をわざとまき散らして、ストーカー元カノがしゃがんで拾っている間にマサル君が店を出る。
「大丈夫、いける。俺達ならやれる」
「うんっ、うん……!」
果たして彼らは無事に見つからず生還出来るのか。
ミッションインポッシブル!
(命がけの任務、手に負えない任務、やってられない任務)
……ホラー分類で大丈夫だったろうか。
お読みいただきありがとうございました。