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聳え立つ巨岩

 それは唐突だった。

「来るぜおめーら」

 これまでよりもいくらか真剣な声色で、カジン・ケラトスは俺たちに告げた。

 何が、などと聞き返す暇などない。

 ゴトス・ユエとその神憑き──岩の巨人が、今度こそ俺たちを仕留めるべくやってくるのだ。

「これまで通り、空からのお出ましだな」

 言われて俺は空を振り仰ぐ。傾き始めた太陽と晴れ渡った青い空。目を凝らせども、見えるのはのんきに飛んで行く鳥くらいなもので──

「カジナ様、こちらに!」

 と、革手袋をはめたイェーナの手に、ぐいっと引っ張られた。俺は手を引かれるままイェーナの後について走る。

「も、もう見つけたの?」

「ええ、目の良さには自信がありますので」

 イェーナは誇る素振りもなく、さも当然のように首肯する。その顔を何とはなしに眺めていると、すぐ後ろをラウレンスと気絶したままの炎使いの少女の二人を担いだトビアスが、颯爽と駆け抜けていった。

「んで、俺はどこまで運べばいいんだ?」

「ま、ほどほどでよかろう。どうせ援護できる距離まで近づくわけじゃしな。……ああ、ここらで」

 俺たちはラウレンスの周りを取り囲むように一塊になり、そしてラウレンスが思い出したように告げた。

「あ、でかいのは最大限防ぐが、ちっさいのは我慢──」

 その語尾を消し飛ばすかのように、岩石の球体──ゴトス・ユエの神憑きは着弾した。



 大地を揺らす超質量の砲弾。

 地面を割り砕いた一発は、砂や小石だけにとどまらず砕けた岩の破片をも勢いよく弾き飛ばしていく。

 ラウレンスの操る風の力のおかげで致命傷に至りそうな塊はこちらには飛んできてはいないようだったが、それでも数センチほどの石ころは少なからず飛んできていた。もちろんそれは俺の体にも命中して、

「──っ!」

 俺は思わず歯を食いしばっていた。

 腕に、足に、頭に、大小さまざまな塊は命中していく。痛みらしい痛みを感じていないのは、やはり右腕だけだった。

 まじで右腕だけじゃんと心の中でぼやきながら、瓦礫の嵐が止むのを俺は待つ。

 そして数秒後、薄れていく砂煙の向こうに、敵の輪郭を見た。


「あはは! 今度は逃げなかったんだねぇ、エライエライ」

 砂塵の幕の向こうから、耳に残るような甲高い声が飛んでくる。紛れもなくあの神憑きの声だ。

 そして声と同時に、ゴリゴリ、ミシミシという音も聞こえてくる。

「でも、コロスけどねぇ」

 硬いもの同士がぶつかり擦れる音と共に、砂煙の向こうに立つ巨体の姿が、見る見るうちに変化していく。

「わたしはコロス。みんなコロス。ぜったいに、ぜったいに、ぜえぇぇぇったいに、コロス」

 歌でも口ずさむような軽い口調の裏には、言葉が力を持って実体化しそうなほどの怨念。

 そんな奇怪な声と共に、せいぜい10メートルかそこらだった三頭身の体躯が、だんだんと縦長になっていく。何より目を引くのは、長く長く成長していく手足。それによって、ある種ぬいぐるみのようだったシルエットは、今や人間の大人に近いものと化していた。

「まずは! あなたたちから! コロスんだからぁ!!」

 キィンと響き渡る絶叫。砂煙は晴れ渡り、天を衝く巨人の姿があらわになった。

 その高さ、およそ50メートル。



 大きさとは、強さだ。

 大きければ体重は増え、リーチは伸びる。体重は体を使ったあらゆる攻撃に乗って威力を底上げし、相手よりリーチで勝れば一方的に攻撃を加え続けることができる。

 ただそれは、人間同士、素手同士の話だ。

 50メートルなんて巨体はそれこそビルが歩き出したかのような圧倒的な存在感があるが、得られるものはその程度だ。俺の頭で考えた限りでは、前までの身長10メートルの形態より有利になっている点などほぼない。なぜなら、10メートル形態でさえ当たれば一撃で人間を仕留められる威力があったから。つまり、体を大きくして威力を増す必要なんてないはずで、何なら機敏に動けなくなった分だけ弱体化しているとも言える。

 声の通り中の神憑き本人も子供なのかもしれないと考えを打ち切り、俺は一度だけ後ろを振り返った。

「それじゃ、援護は任せましたよ」

 背中越しに三人に声をかけ、正面に向き直る。狙うは巨人の足元。どんなにデカかろうが、授かったこの右腕の力なら打ち倒せる。そんな予感があった。


 俺は息を大きく吸い込んで、叫ぶ。

「大地の神ゴトス・ユエとその神憑きよ! 俺が相手だ!!」

 そして固く拳を握り込み、俺は走り出した。



 長さ20メートル、幅3メートルはあろうかという巨大な脚の片方が地面から浮き上がる。大きさとしては電車一両分が縦に付いているようなものだろうか。

 そんな巨大な脚は、折れ曲がりながら大きく振りかぶられていく。まるで足元の小石を蹴飛ばすかのように。

 直撃すれば死ぬどころでは済まないだろう大質量の蹴りを、しかし俺は真正面から迎え撃つと決めていた。

 予感はもはや、確信だった。

 振り下ろされる巨岩の脚に合わせ、俺は左足を大きく踏み出して、走ることで生じた勢いの全てを拳へと乗せていく。

「うぉおおおおおお!!」

 唸りを上げて目前へと迫る、壁のような岩の塊。それが目と鼻の先まで迫り、あとわずかでも遅れれば俺の五体が砕け散るであろう瞬間、拳は激突した。


 引き起こされた現象は、半分予想通りで、半分予想外だった。

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