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第34話 太陽か、獣か



 ――ぽんっ


 動き掛けた場は、銃口から飛び出した花によって、再び硬直する。

 ロブはわざとらしく花が飛びだした銃口をふっと吹く。当然存在していない火薬の煙が揺れるわけもなく、一輪の花がふるりと揺れるだけ。

「これはアレの引き金じゃない。これに合わせても無駄というわけだ。さて、それでもなお、撃つ瞬間に制圧できるか?」

 人は生きねばならない。

 大抵のことはこの一言で自己正当化できてしまうわけだが、ロブはそれで居直ってしまう気は毛頭なかった。

 ただ、これが大前提であることも間違いなく、殺されるくらいなら力の限り抗うのみである。

「や、やりすぎです」

 飄々と殺気を漂わせたロブに呑まれていたアルセリアが、ここでようやく我に返った。

「えー、こうしないとそもそも対等に交渉すらしてくれないじゃん」

「あなたは保護されたのではないのですか? 連盟に属する気でいたのではないのですか?」

「保護はされたが、すべてを剥奪された奴隷になる気はない。まあ、だからといってあれもこれも寄越せという気もない。それはアルセリアがよく知ってるだろ」

 そのアルセリアの報告書を読んでいる連盟も知っているはずである。

「……戦争が正義と正義の衝突だということはわかっています。だからロブさんが退けないのも。ですが、連盟としても魔王を持ち出されては退くに退けません。それほどまでに魔王は忌み嫌われているのです。それはロブさんにもわかるはずでは?」

 ロブと連盟の間をどうにか取り持とうとするアルセリアの気持ちに嬉しくなるも、ロブは一つ訂正した。


「――少し違う。正義と正義はぶつからない。どちらかが正義であるか、どちらも正義ではないかだけだ。まあ、魔王のことは理解できるが、これしか手段がない。勘弁してくれ」


「……ロブさんの正義が、よくわかりません」

「そう難しくない。太陽みたいなもんさ」

 正義は太陽のように、ただ一つ、空に在り続ける。

 社会の都合も、国の大義名分も、人の感情も加味されることはない。

 どこからどう見ても太陽が太陽であるように、どこからどう見ても正しいことだけが、正義である。

 だからといって誰を責めることなく、ただ在り続ける。

 それを直視できるか、できないか。見つけられるか、見失ってしまうか。それは人次第である。

「所詮、人は獣だ。生きるという業からは逃れられない。それは仕方ないし、それを悪だとは言えない。ただ、正義でもない。正義と言ってしまっては騙りになる」

 平和な日本から、魔王と戦うために突如として召喚されたロブ。当初は人など殺したことはなく、魔王を絶対悪とも見定めていない。

 どうやって殺せばいいのか。どうやって己を保てばいいのか。

 現実にぶち当たり、考えに考えて、周囲の人に諭されて、それでどうにか探り当てた。

 殺すのは、人が動物だから。そこに善悪はない。

 その理由にこそ、善悪がある。

「『正当な理由があれば殺してもいい』。言葉にするととんでもないが、だから俺は殺せたし、戦えた」

 人を殺した。

 その理由は正義であったか、それとも獣ゆえなのか。

 そのどちらでもかまわないが、決して悪にだけはならないようにした。

 幸いにも、魔王という悪の見本とも呼べるような存在がいて、それを反面教師にすることができた。

「俺は善良じゃない。ただ、そこにある太陽に背を向ける気もない」

 アルセリアが眉間に皺を寄せて、難しそうな顔でロブの言葉を吟味していた。

 いつのまにか、その場の空気は緩んでいた。

「……一見すると人に厳しく、己に甘いように見えますが、厳しいのは悪に対してだけということですか」

「ああ、うん、そうだな。自分には甘い。そのとおりだ」 

 デリカシーに欠けていて、鼻の下は伸びやすく、基本的にはぐーたらである。

 そもそも世の中には純然たる正義に該当するものは少ないのだから、動物として生きてしまうのも仕方ない、悪じゃないから問題ない、と自分を甘やかしてもいる。

 今も連盟と真剣に交渉しているが、その目的といえばろくでもない。

 ただ、それが悪かといえば、そう言い切れるものではない。

 危険性があるから早めに殺してしまえという連盟の行いを悪としつつも、もしかしたらお互いに獣として縄張り争いをしているだけかもしれないとも思っている。

 ただどちらにせよ、ロブには負い目などなかった。

 ロブは改めてキューバスを見据え、そして周囲を見渡した。


「――さあ、どうする? あんたらは俺をどうしてくれる?」


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