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第33話 勇者は正義か、獣か


「――もし彼を抹殺するというのなら、わたしも一緒に殺してください」

 アルセリアは決然と、そう言い切った。

「あれ、これはあれか? 告白かな? ということはこれは心中? 心中なのか!」

「……」

 さも踊り出しそうな声色のロブであったが、アルセリアに茶化さないでくださいと言わんばかりにキッと睨まれ、少し残念そうに口を噤んだ。

「何を言っているのかわかっているのですか? あなたはもう調査員ではありません。一時の気の迷いですべてを投げ打つつもりですか?」

 アルセリアの無謀ともいえる反逆をたしなめるキューバス。

 だがアルセリアは退かない。

「たとえ短い間であったとしても、私を信じてついてきてくれた魔王殺しの勇者を、ロブさんを騙し討ちするような真似は調査員として、いえ、一人のリリーレスとして看過できません。恥ずべき行いです」

 ロブがルールを破ったのなら、罰せられるのも仕方ない。

 だがそうではないのなら、守らなくてはならない。

「……そうですか。その真っ直ぐな努力は買っていたのですがね」

 ただ、キューバスも退けない。

 暗闇の中、緊張感だけが張り詰めていく。

「――なら、勇者としては可愛いヒロイン諸共にってわけにはいかないか」

 ロブは異能を発動させた。

 本当に何気なく。それはまるで鼻でもほじるかのような、何気ない意思の動きであった。

 暗闇に紛れてロブを包囲していた者たちは、ロブが異能を発動する際のなんらかのおこり・・・を感じ取れずに後手を踏んだものの、その言葉にはしっかり反応し――。

「――動くなよ?」

 すでにロブは全身を銃纏し、いつ構えたのかもわからぬ一丁の回転式拳銃リボルバーでキューバスに狙いをつけ、そのまま反対の手で頭上を指差した。

 当然そこにあるのは天井だけ。

「もっと上。外だ」

 ロブの言葉に、キューバスが手元を操作すると、天井が一気に透明になる。

 それは、黒い砲口であった。

 濃紫の靄を纏った筒状の黒い砲身が空から突き出ている姿は、どこか現実感がない。

 だが、その砲口には底冷えするような不気味さがあった。

「見やすいように近づけてみた。わかっているだろうが、今の俺に使えるのはこれだけ。威力も効果もわからん。撃てるのは一発こっきりだ」

 キューバスの体内を、ひときわ大きな水泡が生まれては、消えていく。

 こうなるかもしれないという最悪の想定はしていた。

 当然、暗殺という手段が現実的な選択肢としてあった。

 だが、そもそも殺す隙がなかった。

 加えて、魔王砲の詳細がわからず、殺し損ねたときのリスクが大きすぎた。仮にも魔王殺しの勇者。し損じて逆襲される可能性は否定できない。

 調査員として取り込むという選択肢もないではなかったが、それはいつ爆発するともしれぬ不発弾を抱え込むということである。

 魔王砲という最悪の異能持ちにして、誰も制御できない正義感を持つ魔王殺しの勇者。

 連盟上層部は過剰反応を起こし、ロブへの対処は迷走した。

「俺が試されたように、あんたらも試されるべきなんじゃないか? それくらい子供じゃないんだからわかるよな?」

「……」

 場に張り詰めた緊張感に、僅かな怯えが混じり始めていた。

 魔王砲の威力と効果については、異能を読み取る異能持ちでもわからなかった。

 だが、この異能を無視することなどできない。

 魔王を見たことがある者は、魔王砲に魔王の気配をしっかりと感じてしまい、見たことがない者もその禍々しさを肌で感じて身震いする。

 撃てば大地は汚染され、魔王の因子をばらまく。

 その場にいた誰もがそれを感じていた。

「試されるとは……」

「俺が信じるに足る組織なのか、ということだ。こうでもしなければ、対等にならないだろ?」

 まずは力を示さないことには対等には扱われない。

「対等? これは破れかぶれの脅迫ですよ。反連盟のテロリストとなんらかわらない」

「安心しろ。お前らが今やってることと大差ない」

 その背に背負った人数こそ桁違いに違うものの、やっていることは同じである。

「貴方に撃てますか? あれを撃ってしまえば、貴方は無辜の民を巻き込んだ極悪人ですよ」

「撃つさ。この場が法に則った正式な場だというのなら、連盟員とやらが合意したプロセスを経ているというのなら、全員がその結末を受け入れなければならない」

「いえ、できませんね、貴方の正義はそれを許さないはずだ」

 それはキューバスの願いであったのかもしれない。

 話の通じない勇者ではない。自らの力を自覚し、更生施設行きを承知してくれ、そのあとはひっそりと生きてくれることをどこかで願っていた。

 そうして信用を積み上げ、ほとぼりが冷めた頃ならば、ある程度自由にさせることもできたかもしれない。

 そこしか落としどころはないと判断し、キューバスは自ら審問会に立ったのだ。 

「その評価は嬉しいが――」

 ロブは不敵に笑い、あっさり引き金を引いてしまった。

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