第32話 審問会のなりゆき②
「――危険? 俺の異能は弾切れで、今はほとんど役に立たないぞ?」
ロブはあっさりと暴露してしまった。
ただ、ハノーヴァス王国にいる現地調査員からその報告を受けていたキューバスは驚くことなく、ロブの言葉を否定する。
「……力を失った、とはそこまでのことでしたか……しかし、そのことではありません。弱い分にはなんら問題ないのです。『異能を読み取る異能』というものがあります」
キューバスがそう言うと、ロブはあちゃーと額に手を当てた。
「基本的にスキルや魔法では異能を知ることはできませんが、異能を読み取る異能ならばそれがわかるのです。貴方の異能は言語的に極めて難解で、昨夜の内から分析を始めていましたが、ついさきほどようやくその詳細を把握するに至りました。――『魔王砲』。この名に覚えがありますね?」
バレタか、とロブは苦笑する。
「それな。魔王のやつとやり合ったとき、魔王が俺の衛星砲をコピーしやがった。発射直前で魔王は倒したんだが、俺のほうでも魔王砲は取り込んでてな、異能が残弾制になっても一発だけ残ったというわけだ。ああ、だからここには物騒な連中が隠れてんのか」
あっけらかんとそんなことをのたまうロブに、アルセリアは言葉もない。
調査員最終試験、異能の劣化、魔王砲と寝耳に水の情報ばかりで、どうしていいかわからない。
だから、まったく気づかなかったのかもしれない。
「……やる気か?」
そんな挑発的なロブの物言いに、囲んでいた無数の気配たちの存在感が膨れあがっていた。
「貴方次第です。魔王という存在がどういうものか、貴方なら痛いほどわかっているかと思います。そんな魔王の名を冠する異能を看過できるはずがないことも。ちなみに、ここにいるのは一人一人がニール・フラッグス調査員を凌駕する執行調査員たちです。突破できるとは思わないように」
「あのおっさんを……」
死んだ魚のような目をした死神を思い出し、ロブの眉間に皺が寄る。
「で、俺を殺して、それで終わりにすると?」
「その社会性の欠如した正義感で魔王を撒き散らされては困ります。我々の庇護下のもとで、更生施設に入り、そのあとは一定範囲内での自由は認めることができます。ただ、監視と他世界への渡航禁止、異能の使用制限など制限は受けてもらいます」
「更生って、俺は犯罪者か。まあ、綺麗なお姉さんの監視ならいつでも受けるが、渡航禁止は困る。三郎さんにもまた会いたいしな。で、それを断ったら?」
「それは言わなくても理解できることかと思います」
「そっちも勘弁願いたいね」
「あれもやだ、これもやだでは子供と同じですよ」
キューバスが窘めるようにいうが、ロブはしれっと返す。
「あれもやだ、これもやだを押し通す力があれば、子供とはいえない気がするがね。まあ、いいさ……これは連盟の総意、この世界の全住民の意思と考えて問題ないか?」
「当然です。このことはすべて各世界政府を通じて報告されます。ここまでの手続きにおいてもなんら不備はありません。『首輪のない勇者はテロリストと同じ』とも言われるように、強力な異能というものはそれほどまでに管理されなくてはならないものです」
強力な洗脳や煽動の異能などがあれば、放置してなどおけない。ましてそれを持つ人間の人格が連盟の作ったルールを躊躇無く踏み越えてしまうようなら、存在するだけで危険であるといえた。
「わかった、わかった。それな――」
「――もし彼を抹殺するというのなら、わたしも一緒に殺してください」
アルセリアは決然と、そう言い切った。




