忘れ物はなんですか
「うるさいぞ!所持者深夜は静かにな!」
「はい、すいません……じゃねーよ!なんでメガネが喋るんだよ!意味わかんねーよ!」
「おいらには分かんな~い。hahaha」
なんだこいつ!俺はメガネを隈無く調べてみる。フレームの色は銀、形はアンダーリム。見れば見るほど俺のメガネだ。
「どうした所持者?そんなにみつめられると俺様照れちゃう」
「ウザイ!」
「シュンジ!すごいね!喋るメガネなんて初めて見た!」
リーフがキラキラした目でメガネを見ている。
「何を言っているか分からんが褒められたみたいだな!hahaha」
(ぶん投げてぇ……!)
「なぁ、このメガネ捨てたらダメかな?」
「ナガイ様、落ち着いて下さい。大変、貴重な物だと思います。城に戻り鑑定してみてはいかがですか?」
「そうだぜ、所持者俺様を捨てたら後悔するぞ」
フィンの言うとおりだ、仮にも望先生に買ってもらったものだ。とりあえずこいつは無視しよう。うん、それが良い。
「では、目的も達成しましたので城に戻りましょう。あ、ナガイ様。先程の角は持ち帰りましょう。良い武器の素材になりますので」
俺たちは帰路に着くのだった。
「しかし、日本語を話すメガネとは驚きました」
「そんなに珍しいのか?」
「はい、少なくとも私は話す道具等は聞いたことはありませんね」
「ねぇねぇ、名前は何て言うの?」
「ふ~む…所持者よ、一回おいらをかけてみてくれ。さっきから所持者たちが使っている言語は分からん」
はぁ?喋るメガネをかける?呪いのアイテムだったらどうすんだよ?
「残念だが俺の視界は良好だからメガネはもういらん」
「Hahaha、浅はかだな。俺様が喋るだけの無能だとでも?」
「は?なんでそんなに偉そうなんだよ?」
「まぁまぁ、そう言わずにいってみよう!」
(ウザイなんだこれ)
「はぁーホントに大丈夫なんだな?」
「もっちろんさ!」
俺は意を決してメガネをかけた。
「おい!やっぱりぼやけるぞ!」
「ちょっとまってなー」
メガネがそう言うと段々と視界がクリアーになっていった。
「!?」
それと同時に俺の中に見たことのない映像が流れ込んでくる。これはリーフが俺に使った術に似ている。
「てめぇ!糞メガネなにした!」
「うん、これでよし!なるほど、そっちの可愛い子はリーフちゃんでカッコいい方がフィン君っていうのか」
そしてメガネはシルジレリア語で話し出す。
「……驚きました!まさかシルジレリア語も話せるとは」
「すごーい!」
「……お前一体なんなんだ?」
「当然さぁ!俺様と所持者は一心同体だからね、所持者が俺様をかければ俺様が見たものも所持者が見たものもお互いに伝わるわけさ」
「あーつまり同期するってことか?」
「そう言うことだな」
「ん?まてまて、お前が喋ってるのは俺の力ってこと?」
「そうだぜ!所持者の固有能力だ」
土屋未来、空間転移。永井舜司、喋るメガネ。嘘だろ?ギャグじゃねぇか!
「マジかよ……こんなしょーもないのが俺の力かよ……」
「おいおい、俺様の力はそれだけじゃ…」
「止まって下さい!」
フィンが叫ぶと同時に獣の咆哮が響き渡る。ドスンドスンと音を立てながら、何かが前方からやってくる。そして俺たちの目の前に巨大な猪のような獣が立ち塞がった。俺は咄嗟にリーフを庇うように前に立つ。
「フィン!あいつ何なんだ!?」
フィンは俺を優しい目で見ている。なんだ?
「ふふ、アレはイェーンです。さて、ナガイ様。先程、お受けいたしました大任ここで実演にご覧いれます」
「実演って武器も何も無いのに…!?」
「武器ならあるよ、それにフィンなら大丈夫!」
そしてフィンは左腕を前に付きだす、嵌めてある腕輪が光るとフィンの左手に杖が握られていた。
「すげー!なんだあれ」
「アレはねリングウェポン!昔のスプラウール様が作ったんだよ!」
アレを作った!スゲーな、それに比べて俺のはメガネが喋るとかギャグかな?
「はぁ……」
「どうした?所持者ため息なんかついて?もっとテンションあげていこうぜ!」
お前のせいだよ!こいつは無視、今はフィンの一挙一投足に集中!
「その大きさ、体に刻まれた傷を見るにこの辺りの主ですね。殺しはしませんが少しばかり付き合って頂きましょう」
そう言うとフィンは杖をイェーンに向け、心なしかフィンの体を緑色のオーラのようなものと文字が覆っている。
(ん?あれって魔術式か?)
そしてフィンは呪文を唱える。
「裂けろ」
そう聞こえた瞬間、イェーンの巨体を複数の緑色の刃が襲う、血しぶきが舞い痛みに吠える。そして、雄たけびを上げこちらに突っ込んできた。
「グルルっ!」
「フィン!」
「大丈夫です!吹き飛べ!」
そして二つ目の術を唱える、凄まじい突風が吹き巨体を吹き飛ばした。イェーンは何とか起き上がる。
「手荒なまねをしていまい申し訳ありません。我々はあなたの縄張りを荒らすつもりはありません。リーフ様、お手数ですがお願いします」
リーフはイェーンの前まで行く。
「危ないぞ!」
「大丈夫だよ!……ごめんね、痛かったね。癒えろ」
リーフの手が青く輝きだす、そしてリーフはイェーンにおそらく回復魔術だろうをかける。暫く、イェーンは俺たちを見ていたがドスンドスンと音を立て来た道を帰っていった。
「何だったんだ」
「我々が縄張りを荒らす密猟者だと思ったのでしょう。イェーンの牙は高値で取引されていますので」
「なるほどな、にしてもフィンお前スゲーな!」
フィンは照れながら答える。
「ありがとうございます。しかし私などはまだまだです」
「そんな事ないよ!フィンは国でも上から数えたほうが早い位すごい魔術師なんだから!」
「そうなのか!?いやぁ、フィンの体が緑に光って魔術式がでたと思ったら刃が出たり、吹き飛んだり。ホントにすごかったぜ!俺にもあれ教えてくれよな!」
フィンとリーフが怪訝な顔で俺を見る。
「シュンジ、フィンの体が緑に光って魔術式が見えたの?リーフはどうだった?」
「え、えぇっと、リーフは青だったよ。なんかおかしいのか?」
「ナガイ様、その見えた魔術式とはこういうものですか?」
フィンが杖を使って地面に文字のような記号をを書いた
「そうそう!これだよ!」
「ちなみにリーフ様のはどのように見えましたか?」
俺は持っていた角で地面に書いた。確かこんなのだったはずだ。
「合っていますね。魔術式が見えている……ありえない……そんなの聞いたこともない……」
「えっと、見えてたら不味いのか?」
「いえ!不味い所か大変に素晴らしいことです!」
かなり食い気味にこちらに詰め寄ってくるのでのけぞる。
「申し訳ありません!興奮してしまいました!本来ならばありえないことなのです」
今まで黙っていたメガネが喋りだす。
「どーよどーよ!俺様の力は!?」
「メガネの力なのか?」
「おうとも!まぁ、俺様って言うか所持者の力なんだけどな!ただ、俺様をかけているときしか発動しない、そこは注意してくれ。」
これが俺の力?魔術看破とでも呼ぶべきか。
「さて、これ以上遅くなっては女王様も心配してしまいますのでなるべく早く戻りましょう」
俺たちは少し早足で帰路に着いた。
色々あった俺たちの夜の散歩は終わりを告げた。城に戻った俺は自身の部屋の前にいた。
「2人とも今日は俺の我侭聞いてくれてありがとう」
そういって頭を下げた。
「おやめください!永井様」
「シュンジのじゃなくてリーフのだよ」
「それでも、ありがとう。おかげであいつをあいつらを埋葬できたよ」
イカン、ちょっと泣きそうだ。
「ナガイ様……」
「シュンジ……」
俺は話を変える。
「あーフィン、魔術よろしくな。俺も日本語教えるから」
「はい!あっ、ナガイ様。角をよろしいですか?武器をナガイ様用に武器を仕立てますので」
「分かった。じゃあ、武器も頼む。もう遅いから寝るわ」
「ねぇ、シュンジ。耳貸して」
リーフに言えわれ耳を近づける。
「何だよ?」
頬に柔らかな感触が当たる。そしてリーフが耳元でささやく。
「守ろうとしてくれてありがとう、かっこよかった」
リーフを見ると真っ赤な顔をしている。フィンはというとニコニコと微笑ましい物を見ているようだ。
「あぁ……」
「じゃあ!おやすみ」
フィンとリーフは自身の部屋へ帰っていった。
「所持者モテ期きたんじゃないの?」
「そうかもな……」
俺は暫く廊下で呆然としているのだった。
リーフ様とナガイ様と行った夜の散歩は楽しかった。永井様は非常にお優しい方だ。言葉使いこそ乱暴だが謝罪や御礼をどんな人にもしっかりと言う。更にあの夜の真実も教えていただいた。何も言わずに利用すればいいものなのに、おそらくは嘘を嫌う御方なのだろう。そのような所も非常に好感が持てる。そんな事を考えながら、私は女王陛下のお部屋を目指す。理由は先ほどの散歩の報告だ。
実を言うと外出の許可は頂いている。時刻を深夜に指定したのは隠密に護衛をつける準備を整える為だ。姫様とスプラウール様を伴って外出するのだから当然である。
陛下のお部屋に着くと扉の前に2人の衛兵が立っていた。
「「お疲れ様です」」
「えぇ、ご苦労様です。女王陛下にお目通りしたいのですが」
「少々、お待ちください」
そういって一人の兵が部屋に入る。もう一人が話しかけてきた。
「お疲れさん、フィン副団長殿」
彼の名はゼルビン。私とは家も近く良く一緒に酒場に行く仲である。
「ゼルビン、仕事中ですよ」
「まぁまぁ、いいじゃねーの。俺とお前さんの仲だろ?で、どしたなんか嬉しそうな顔してるぜ?後なんだそれオーガの角か?」
「えぇ、武器を作っていただこうかと思いまして。……そんなに嬉しそうでしたか?」
「おうよ、いつも真面目顔のお前さんにしては珍しいなって思ってな」
「ふふ、今度お話しますよ」
「お、じゃあいつものところで飲みながらな!」
そんな話をしていると部屋入った兵が戻ってきた。
「フィン副団長、女王陛下のご許可を頂けました。入室ください」
「ありがとう、お入りいたします」
そして私は真紅の扉を潜り部屋入るのだった。部屋の中には陛下を含め3人の人物がいた。
私は陛下の眼前で跪く。
「フィン、戻りました」
「ご苦労様でした。フィンこちらに掛けなさい」
「いえ、お歴々と席を共にするなど出来ません」
「フィン、陛下が言ってるんだから掛けろよ」
そう発言した男のほうを見る。この方は騎士団の団長を務める。カイゼル・スピリラール。私が目標としている方だ。
「わかりました。失礼いたします」
私は席に着き、テーブルの上に角を置く。そして先ほどの出来事の全てを余すことなく伝えた。伝え終わると少しばかりの沈黙が場を支配した。それを破ったのは老妖精だった。
「喋るメガネに魔術式が見えるですと……長生きはするものですなぁ」
しみじみと語るこの方こそ、この国最大の魔術師ヒローノ・ソンだ。
「陛下、他国にそのようなものはあるのでしょうか?」
「いえ、聞いた事はありません。そして、これがグァーヴァチの角ですか?」
「はい、ナガイ様のお話を聞くに。それにこれだけ立派な角はなかなか無いかと」
「確かにな、それにしてもあのグァーヴァチとねぇ、へぇー今回のスプラウール様は中々に好戦的なのか?そして魔術式が見えるねぇ……とんでもねぇな。使い方によっちゃ簡単に対処方法を用意して相手を圧倒できる」
「それで、フィン。永井様はこの国に残ってくださりそうですか?」
「条件次第では残って頂けるかと思います。女王陛下、この角を用いてナガイ様の武器を仕立てたいのですが?」
「それは良かった!では、武器の製作と魔術を教える者を決めなければなりませんね」
「陛下、ここはワシに任せてくれんかのぅ、ぜひスプラウール様に教えたい」
「ヒロじぃがやる気じゃねーか」
「当然じゃろう!魔術式を見、喋るメガネを持ち更にはスプラウール様の強大な魔力、魔術を生業にしておるものなら誰でもお近づきになりたいと思うものじゃ」
この役だけは譲れない!私は声を上げる。
「ヒローノ様。残念ですがその役は私がナガイ様より直接賜りました。陛下、わたしにお任せください」
陛下は私をじっと見つめる。まるで全てを見通すように。
「そう、任せます。しっかりとお教えするのですよ」
「は!全身全霊で当たります!」
「ずるいですぞ!陛下、ワシにもやらせて欲しいのぅ」
「永井様に聞いて見るので爺は少し我慢していてね」
「頼みましたぞ陛下!」
「フィンが入れ込むのも珍しいな、俺も会ってみてーな」
そして、我々は今後の事を話し夜は更けていくのだった。